【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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 ふわふわとした独特な浮遊感。久しぶりに感じるその感覚に花梨は身を任せていた。

『花梨。久しいな』

「龍さん? って、何処に居るの?」

 声に気がつき、きょろきょろと周りを見るがただ霧が広がるのみ。

『今日は龍の娘と我が会うのが目的ではないからな』

「え?じゃあ」

 きょとんとしたように言う。

『世界の王と会わせる。花梨も良く知っているだろうがヴィラだ』

「う、嬉しいけど。何故急に?」

 花梨の問いかけに、少しの沈黙。

『では、な』

「え?ちょ、ちょっと!また無視!?」

 花梨がとっさにそう叫んだが、空間から何も返事は返ってこない。

(――忘れてた、そういえば龍さんってすっごいマイペースだったよね)

 呆れるように一つため息を付いたとき、微かに空気が揺れた。

「花梨さんー!」

 霧の中から嬉しそうに笑みを浮かべて、ヴィラが走ってくるのが見える。

「ヴィラ! 久しぶりだね」

 なんだかんだ言っても、再会はやっぱり嬉しいもの。花梨はにこっと笑顔を浮かべた。

「はい!……?花梨さんも今回は、間が開いてたんですか?」

「あ、うん」

 そう言って、曖昧な笑みを浮かべた。
正直、ヴィラに龍の娘だと明かして良いのか、花梨には分からなかった。花梨のその表情に、ヴィラが訝しげに眉を顰める。

「何かあったんですか?」

 その言葉に思わず花梨は俯く。ますます意味が分からない、とばかりにヴィラは首をかしげてから、花梨の顔を覗き込んだ。

「花梨さん?」

「あ~、んっとね。実は……」

 居心地悪げに視線をそらした後、決意したように花梨はヴィラと目線をあわせた。

「私、龍の娘になっちゃったみたい」

「あ、え?龍の娘……え!」

 ぱっと目を見開いた後で、パチパチと数度瞬き。お~、まつげ長いな! といらないことまで花梨の頭によぎってしまう。

「花梨さんが……って言う事は今こちらの世界に?」

 その言葉には無言で頷いた。ヴィラは暫く考えるように黙り込んだ。

「でも、私は普通に生きたいと思うんだよ。龍の娘って言っても。怪我が治せたり天候を変えることが出来たり。それくらいしか出来ないから」

「違う!」

 突然大声を出したヴィラに、花梨は驚いたように見つめる。大声を出した本人も、自分の声に少しだけ驚いたようだ。

「ごめん、大きな声を出してしまって。けれど、違うんですよ。龍の娘の最大の力は。そんな事ではないんです」

 首を振りながら言われた言葉に、花梨は何も言えずに黙っている。

「龍の娘の最大の力は……?……力は……」

「ヴィラ?」

「声が、出なくなります」

 喉を痛そうに抑えて、喘ぐようにそう言った。

「声が?」

「はい。多分龍が止めているのだと思います。花梨さんが自分で気づくようにじゃないでしょうか?」

(――自分で気がつくためって、でも他に力なんて……)

「一番簡単です。龍の娘だからこそ出来ることがあるんです」

 そう真剣な表情で言った後、ふっとヴィラは表情を緩めた。

「でも、今は久しぶりの会話を楽しみませんか?龍の娘の事は実際に会ってから話しましょう」

 そう言ったヴィラの顔が少しやつれているのを、花梨は今頃になって気がついた。

「ヴィラ、最近忙しいの?」

 労わるようにそっと頬を撫でれば、弱弱しい笑みが返ってきた。

「はい。王宮が今真っ二つになっているんです。私達は最初戦争をやめさせるべきだと行動をしてきましたが、どうにも収集がつかなくなっている事に気がつきました。

 それで今ではどちらかへ王家が付き、早々に戦を終わらせるように考えが変わったんです」

「勝者を作るんだね?」

 その言葉に、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

「はい。何よりも戦争を終わらせなければいけないのですから」

「それで、イガーに付くかツザカに付くか、真っ二つに意見が割れているんだね」

「はい。今のところ実はイガーの方が優勢なんですよ。王族の住む場所がイガーの土地なんです」

 その言葉に花梨はんーと首をかしげた。

「イガーの下みたいだね」

 その花梨のストレートな言葉に、ヴィラは苦笑した。

「まぁ、イガーとツザカで大陸分けしたのなら私達はイガーの土地。しかし根本的な考え方では、イガーもツガサも私達の土地と言う事になってるんですよ」

「ややこしいね」

 ふぅっとため息をついた花梨に、ヴィラは目を細めた。

「今では一部国境にて戦争が起きているだけですが、今後戦地は広がります。だからこそ龍の娘の力は欲しいと思うんですよ」

(――あー。重いなぁ。一般人には重過ぎるよ)

 ヴィラの言葉に「無理」とも「分かった」とも返せずに、花梨は視線を落とした。

 たとえ龍の娘として表舞台に立ったとしても、どちらかに付くことが出来るだろうか?いやきっと出来ない。だからこそ、花梨は悩んでいる。

「ねぇ。事の発端は何だったの?」

「くだらない事ですよ。それでいて大きい。文化の違いが発端です」

 厳しい表情のままそう言い放った。

「文化の違い。それって、ご飯とかの」

 ふと花梨の頭の中に、タグミと米屋のやり取りが浮かんだ。

「えぇ。二つは全く異なる文化のために、相成れない。それでも今までは均衡を保ってきていたんです。

 ある日、イガーの国を収めるマイヤ殿の次男パック殿が、ツザカ国の長女であるサラ殿に暴言を吐いてしまったんです。

 本来ならば、友好を深めようとして両者を呼んで食事会を開いたのですが、それが裏目に出てしまったようです」

「二人の喧嘩で、戦争が始まったの?」

 信じられない、とばかりに言う。

「きっかけ、ですね。その後すぐにパック殿が謝罪をすれば良かったのですが、二ヶ月ほど謝罪の言葉を一切口にしませんでした。

 それどころか、女官にツザカ国の暴言を吐き、女官の口からその暴言が漏れました。激怒したマイヤ殿が直接乗り込もうというときに、パック殿は狩り中、事故で亡くなりました」

「死んだから、そこで終わりっていう風には」

「なりませんでした」

 だろうなぁ。という風に数度頷いた。

(――それにしても、凄い勢いで大人びてる。やっぱり戦争がヴィラを無理やり成長させたのかな)

 花梨は言いようの無い感情に、ぐっと唇をかんだ。

「……ヴィラ。私少し考えてみるよ」

「花梨」

 ぎゅっと抱きしめられて、花梨は目を閉じた。異性に抱かれればドキドキするものだが、今の状況のせいか。穏やかなものを感じる抱擁だった。

「……ねぇ。今って私何語喋ってる?」

 唐突に場の雰囲気を崩すような言葉に、ヴィラの反応は一呼吸遅れる。

「何語って、いつも通り共通語ですよ?」

 何を今更、とばかりに言われ、花梨は意識して喋ってみた。

「あ~。三振、本塁打、完封試合……日本語じゃない!」

 自分の口から流れるのは、今必死で覚えている言葉だった。

(――このまま、目が覚めても喋れれば良いのに。でもきっとあの龍さんのことだから無理だね)

 諦めるようにため息をついて、ふっと目線をあげると真っ赤な肌。

(――んん?)

 じーと見てみれば、ヴィラは首筋から耳まで真っ赤に染め上げていた。肌が白いのでよけに目立つ

 自分から抱きしめたのにこの反応、花梨は思わず噴出してた。

「なっ?! どうかしましたか?」

「ヴィラこそ。熱でもあるの?」

 そう言ってちょいちょいっと耳を触れば、バッと体を離される。

(――ヴィラが照れ屋で純情なのは、今までのでお見通し!)

 にたぁっと少女にあるまじき笑顔を浮かべた後、花梨はヴィラに抱きついた。

「わぁ!?」

 暴れるヴィラだが、花梨がさらにぎゅうと抱きつくと段々抵抗が弱っていった。

「痛い……」

 ヴィラの腕が掠ったときに、わざとらしくそう言えばピタっとヴィラの動きは止まった。うふふ、と怪しげな笑みを浮かべる花梨は心底楽しそうだ。

『楽しんでるところを悪いが、時間だ』

 突然響いた声に、驚いて花梨は腕を離した。

「うわ、初めてちゃんとしたお別れ出来るね」

 そう言って笑えば、ヴィラも真っ赤な顔のままくすりと笑みを浮かべた。

「確かに。今までずっと中途半端でしたから」

「じゃあ。また、ね?」

「はい」

 視線を合わせて笑うと、花梨の意識は遠ざかっていった。
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