【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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 タグミの家に来てからというもの、花梨の朝は静かなものだった。小鳥の囀り(さえずり)風に葉を擦らす木々の音。

「ん~?」

 しかし、何時もとは様子が違うようで、ドスドスと音がする。

 花梨は重い瞼を眠そうに指で擦ると、そのまま立ち上がった。

「タグミ?」

 音と共にタグミの声まで、聞こえてきていた。

「何で先に言わなかったんだい!」

 怒鳴っているのはタグミだった。花梨は何となく会話に入れずに、そのまま立っている。

「聞かれなかったからだ。言う必要もなかった」

「必要はあるだろう!ただの騎士だと思っていれば」

 その言葉に、ゼフィルドの雰囲気がさっと変わった。

「あぁ。俺はただの騎士だ。ただあの二人を親に持っただけだ」

 そう言って腰元の剣に、そっと手を添えた。

(――あぁ、殺気ってこんなのなんだ)

 少しだけ、花梨の足が震えた。

「花梨は、ちゃんと王都へ連れて行くんだね?」

「あぁ」

 ゼフィルドの声にタグミは、一つため息を吐いた。

「なら、良いよ。利用する気がないのならね。ただ、それならなんで花梨を連れて行いくんだい? ただの足手まといになるだけだろうに」

 ゼフィルドはくっと眉を寄せる。

「わからん。分からないから困っている」

 その言葉に、タグミがきょとんとした後、笑い声を立てた。

「何だ」

 低い声でゼフィルドが言えば、タグミは笑いながら言った。

「まるで、アンタは小さな子供だよ」

 そう言うと、タグミは花梨の方を見た。

「花梨、早く出ておいで」

 覗き見がバレていた事に驚いて、思わず声を上げる。その後で、おずおずと顔を見せた。

「何で、分かった?」

「あのねぇ。最初に私の名前を呼んでたじゃないか」

「あっ」

(――そういえば、そりゃ分かるよね)

 あはは、と誤魔化すように笑った。

「準備は済んだか?」

 そう聞かれ、花梨は困ったように笑った。

「準備、無い」

 結局のところ、服と下着をつめただけの鞄を持ち上げて見せた。

「行くぞ」

 そう言って、スタスタと歩き出したゼフィルドを慌てて追う。

「待ちな。本当に3ヶ月もかけて行く気かい?」

 外に出たとき、苦笑しながらタグミが言って、花梨の手を掴んだ。

「この世にはね、聖獣が存在するんだよ。呼んでみな。龍の娘なら呼べるはずさ」

(――聖獣? それこそ龍なんじゃ……)

 困ったようにタグミを見つめる。タグミの目は真剣だった。

【分かった……呼ぶって、何て言ったらいいのかなぁ。えっと、聖獣さん!居るなら来て下さい!】

 大声で叫んでみた。

 うぅん。やっぱり来ない、と花梨がため息をついたとき。花梨の体がふわりと浮いた。

「うひゃあっ」

 慌てて何かを掴む。それは柔らかな毛。

「え、と。猫?」

『初めまして!』

 にゃん、にゃん。と鳴き声をあげるのは白い毛並みの猫。その大きさはかなりでかいのだが……

【初めまして、えっと、名前は?】

『僕には名前が無いんだよ、人間の前に姿を現せた事もないし。龍様には獣と呼ばれてます!』

 パタパタと尻尾を動かして答える。

【じゃあ、ミケでどう?】

 どうみても真っ白。しかし、花梨は名前を考えるのが昔から苦手だった。

 猫といえば、ミケ。そう頭で決まっていたのでそう言ったのだ。

【気に入らない?】

『うぅん!嬉しいですっ。今日から僕の名前はミケ~』

 かなりのハイテンション。

「さすがに、気品を感じるね」

 ミケを見て、そう感動するように言ったタグミの言葉に、花梨はただただ苦笑。

「王都までは、何日かかりそうだ?」

 そうゼフィルドは、ミケに言わずに花梨に聞いた。

【あ、ミケ。いつまでかかるの?】

『10日もあれば十分!頑張ればもっと早くいけるけど、きっと落ちちゃいますよ』

【と、十日コースで】

『OKですー』


【え、と。10日で良いって】

 そういえば、ゼフィルドに頭を叩かれる。

「人間の言葉を話せ」

「え。あ。10日」

 今更ながら、日本語で話していたことに気が付く。

【あれ? ミケは日本語分かるの?】

『はいー。僕はどの言語でも理解出来ます!』

「本当に!?」

 この言葉に花梨は小躍りしたくなる。
日本語が通じれば、こちらの言葉を覚えるのも早くなるはず。

 これで、ヴィラとも普通に話せる。と思わず頬が緩んだ。

「それじゃあ。タグミ、行って来ます」

 振り返ってそういえば、少し眉を寄せてタグミが笑った。

「行ってらっしゃい」

「うん。おみやげ、待ってて」

 そう言って笑えば、タグミが拍子抜けしたように目を丸くした。

「タグミ?」

「……しょうがないね。それじゃあまた」

 そう言ってタグミは家の中へ戻っていった。

「ゼフィルド、乗る」

 そう言えば、ゼフィルドは何の抵抗もなくミケに乗った。その乗り込む様子が、様になっていて思わず花梨は頬を赤らめた。

(――今の写真に収めれたら、きっと高値で売れただろうなぁ)

 その頬の赤らみは、どうやら純粋な気持ちから生まれたものではなく、興奮のためだったようだ。

【さて、と。ミケお願いね】

『任せてください!』

 走るのかと思ったミケは、そのまま後ろ足で地面を蹴ると空に浮いた。

「えぇ?!」

 そのままミケが走り出すと、まるで空の上の道を走っているようだ。

「舌噛むぞ」

「むがぁ」

 ぐいっと花梨の口を、後ろから押さえられる。

(――この押さえ方って、普通しないよね?)

 暴れて落ちたら怖いので、今はむがむがと声を立てる。

「噛むなよ」

 その声が耳元から聞こえ、思わず鳥肌を立てた。

「むがっひまで!(ちょっと待って!)」

 今更ながらにこの密着状態に気が付き、花梨は思わず声をあげる。

「煩い……落とすか?」

 ひぃっと内心悲鳴を上げながら、花梨は体の力を抜く。

 この場合『落とす』とは、気絶のことを言っているのだが、花梨はそのまま受けとっている。

(――落とされてたまるかー!)

 この花梨にとっての地獄は、昼になりミケが近くの町で降ろしてくれるまで続いた。
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