【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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「おやすみ~」

 リルが出て行ったドアにそう言って、花梨は一つため息を吐いた。

(――やっと落ち着いたよ)

 沢山の男性から、あんな訝しげな視線を受けたとこもなかった花梨にとっては
かなりのストレスになっていた。

「うう~」

 疲れた、疲れた。と呟きながらベットに顔面からダイブ。

 バタバタと足を動かして、ぐりぐりと顔をシーツに押し付けていたが急にピタっと動きが止まる。

「や、や、柔らかい!」

 感触を確かめるように、手で数度撫で上げる。

「ミケ、こんな所で寝てたの?」

『はい~。ご主人様も今日はぐっすり眠れますね』

 そう言って花梨の腕に、頭をすり寄せた。

「そうだね」

 疲労がぐっとかかり、花梨はそのまま目を閉じた。

『ご、ご。ご主人様!ご主人様!』

 何だか焦ったミケの声。ミケはそのまま目を閉じたままの花梨の顔面に、猫パンチをくらわせる。

「ん~。何?」

 薄っすら目を開けて、ミケを睨み付ける。そのまま視線を、窓へと向けて……

「いっ!」

 大声を出しそうになるのを、両手でぐっと押さえ込んだ。花梨の視界には、下からにょきりと伸びた腕。それが窓からのぞいていた。

(――鍵、閉めなきゃ)

 そう思い、すぐさま走り寄る。

「……花梨さん」

 微かに聞こえたのは、どこかで聞いた事がある声。

恐る恐る窓を開ければ、屋根に乗る形で上を見上げているヴィラの姿。伸びていた腕も、彼のものだった。

「ヴィラ!」

 慌ててドアを開ければ、ひょいっと軽い身のこなしで部屋に入ってきた。

「わ、凄い」

 思わず言った言葉に、薄っすらとヴィラが目を細めた。

(――あれ? いつもならにっこり笑うのに?)

 違和感を感じて、首を傾げる。

「さて。花梨さん。こうして会うのは初めてですよね」

「うん!何か不思議な感じがするよね」

 にこにこと嬉しそうに言えば、ヴィラはそれを一瞥するだけで目を逸らした。

「ヴィラ?」

「花梨・ツザカ。どういう事ですか?」

「えっと」

 意地悪だけど、一度も怒ったこと無い穏やかなヴィラ。怒っていると思ったけれど、花梨は身動きが出来なかった。

「いつの間に、そんな相手になった?」

「ヴィラ、言葉使いが」

「そんなことはどうでもいい!」

 怒鳴り声に、びくっと花梨が体を震わせる。その様子に、はっと我に返ったように居心地悪げにヴィラが視線を逸らした。

「すみません、少し動揺してしまっていて」

 しゅんっとするヴィラに、花梨は思わずヴィラの服の袖を掴んだ。

「花梨さん?」

「え、と。別に本当に結婚してるわけじゃないよ?」

 何となく、今言わないといけないような気がして、花梨は慌てて言った。

「え?」

 きょとん、として。ヴィラは数度瞬きをする。

「だって、ああやらないとヴィラに会えなかったし」

 花梨の言葉に、ヴィラはふわっと嬉しそうに微笑んだ。

「そうですか……なら皆に訂正しとかないとならないな」

「今何て?」

 後半の言葉が小さすぎて、花梨には聞き取れなかった。

「いえ、なんでもないですよ。そんなことよりも」

 真剣な表情のまま、ヴィラに抱きしめられた。

「実は……」

「痛いっ!」

 胸に感じた痛みに、思わずヴィラを突き飛ばした。実際には痛みは対したものではなく、驚いたため、と言ったほうが正しい。

 突き飛ばされたヴィラは、拒絶されたと思っているのか固まっている。

「あ、わわわ。ごめん。何かちょっと痛くて」

 そう言って胸元を押さえる花梨に、ヴィラは納得したように花梨に近づいた。

「あぁ、ちょっと見せてください」

 そう言ってぐいっと、胸元を開けられる。

「わぁ! ちょ」

 花梨が慌てた声を出して、暴れだすとヴィラは苦笑した。

「今回は下心があるわけじゃないですよ。これ、龍の娘の証ですね……凄くはっきりしている」

「え?」

 花梨のちょうど心臓の位置には、黒い龍の姿。それを見て、花梨は素っ頓狂な声を上げた。

「これ、でも今までなかったよ?」

 困惑したように呟いて、顔を上げれば、安心させるように笑みを浮かべているヴィラの顔。

「王家の者と触れると、現れるようになっているんですよ。なので私が離れていればまた自然と消えます」

 その言葉に、龍と始めて会ったときに胸に感じた痛みを思い出した。

(――龍さんも説明してくれれば良いのに)

「そっか、さっきはごめんね、突然突き飛ばしちゃって。何だったの?」

 首を傾げて聞けば、ヴィラが乾いた笑いを漏らして、ガックリと項垂れた。

 しかし、すぐにその表情を笑みへと変えると、項垂れたのを一連の動作だったように、首を横に振る。その苦労もあり、花梨には情けない様子は見えなかった。

「何でもないんですよ。それよりも、何故王都へ?」

「あ、その事なんだけど」

 何て切り出せばいいのかなぁ、と助けを求めるようにミケを見ると、ミケが立ち上がった。

『――誰か近づいてます!』

「えぇ? ヴィラ、誰か来てるみたい」

 ヴィラは顔を顰めると、再び窓へと向かう。

「え、何でまた窓から?」

「王様が、他人の奥方に悪さをしたと噂が広まったら困るから、ですよ」

 からかうような言葉に、何も返せずに花梨は言葉に詰まる。

「詳しい話はまた明日」

 そう言って来たとき同様に、軽い身のこなしで窓から出て行った。

「何で、王様なのにあんなに動けるんだろ」

 すぐに視界から消えていったヴィラを見て、花梨は首をかしげた。

 そのすぐ後控えめなノックが聞こえ、慌てて窓を閉める。

「はい?」

「リルです。何か物音がしたようですが」

 その言葉に花梨は苦笑を浮かべた。

「何でもないですよ」

「そうですか……では、失礼しました」

 遠ざかっていく足音。

「もしかして、近づいてきてたのってもしかして?」

『みたいです~』

「だったら、ヴィラが居ても対処出来たよね?」

『みたいですー。それよりも、眠いので先に寝ますね!』

 花梨にとっては、残念だったね。と言う意味で言ったのだが、ミケは怒られると思ったようで頭からベットに突っ込んでいった。

 その様子に思わず笑ってしまい、きょとんとしたミケをそのまま抱きしめてベットに入った。
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