【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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 神殿にて、比較的すっきりとしたデザインの法衣を纏った花梨が小さく息をついた。その肩にはちょこん、とミケが乗っている。

「き、緊張してきます」

 声を震わせて、チェイが目じりを下げた。花梨も緊張していたが、その様子に少し笑ってしまう。

「何でチュイが緊張するの」

「だって」

 あわあわと目線を動かすチュイ。

 ふと、肩の上で小刻みに体を揺らすミケに気がついた。

『緊張します~』

 あぁ、こっちもだ。と思いながらミケの頭を撫でた。

 全く緊張していたのが、花梨の隣に立つライヤ。全く感情の読めない、どこか穏やかな表情でその場に立っていた。今回の役目は、宰相としてではなく大神官としての表情。

 初めての治癒。怪我人を治せるといったので、外傷を受けた人が来るのだろうと想像は出来るが一体どの程度なのか、少し花梨は不安だった。

 確実に死んでしまうような傷だった場合、治したら世界が崩れてしまわないかも心配だ。

「大神官様、そろそろ」

 チュイと同じような法衣を身にまとった男性の言葉に、ライヤが軽く頷いてみせた。

「龍巫女様、お願いしますね」

 ライヤが大神官の顔でいったのだから、花梨もぴしっと表情を固めて頷いて見せた。なるべく平凡に見えないように、昨夜こっそり練習した真顔。

 扉から一体どんな怪我の人がくるのだろう、とじっと扉を見つめる。

「へ?」

 口から出た声に、慌てて口を閉じた。
幸いその声を聞いたのはライヤだけのようで、花梨はほっと息をつく。

 拍子抜けするほど皆が普通だった。骨折くらいだろうか。血だらけで入ってくるのを想像していた花梨にしてみれば少し良い意味で拍子抜け。

「ライヤさん、これ以上の怪我人は?」

 そっと声を潜めて訊ねる。

「一応、自分の足で来れる者に限られますので彼らは来れません」

「そ、そう」

 治すべきはその人たちじゃないのかな? と疑問を抱いてしまう。

 花梨の前に一人の女性が跪いた。今日の最初の治癒対象だ。

「どこを?」

 自分よりも年上の女性に、なるべく敬語を使わないように、イメージを崩さないにと考えて言えば、非常に淡白な言葉になってしまい少し後悔する。

「う、腕を」

 女性は泣いているようだった、俯いているので顔は見えないが。差し出した腕は、青紫色に腫れていて折れているのが分かる。

 花梨はそっとその箇所に、自分の手のひらを重ねると集中する。ゼフィルドにやったときと同じく、何かが女性に流れていくのを感じた。

 ほんの数秒で、すっかり女性の怪我は消え去ったように治った。それを確認すると、一つ息をついて安堵の表情を浮かべる。

(――やっぱり結構疲れるなぁ)

「終わりましたよ」

 敬語を使ってしまい、しまった! と顔を微かに青ざめライヤを見るが、ライヤは顔色変えずに立っていた。

「ありがとうございました」

 感動したのか、畏怖の念を抱いたのか。花梨には分からなかったが女性は再び涙を溢れさせて下がった。

(――普通、お医者さんって敬語だもんね。多分患者さんには敬語使っても良いんだ!)

 一人納得すると、どっと疲れがやってくる。

「後三十人ほど居ますが、大丈夫でしょうか?」

 ライヤの言葉に、少し強張った笑みを浮かべながら頷いた。






 治療による花梨への疲労感は、じわじわと広がっていくもので。三十人終わった直後は……






「ありがとうございました!」

 男性がきらきらとした瞳で花梨へ礼を述べると、出て行った。

「これで終わりです。お疲れ様でした、花梨」

 厳しい表情を捨てて、にっこりとライヤが笑顔で花梨に言った。花梨も笑みを返そうとしたが、顔の筋肉が動かない。

「あ、れ?」

 視界が暗転。花梨はその場に倒れこんだ。

「花梨?」

『ご主人様!』

 さっとミケが元のサイズに戻り、花梨の体を地面と激突させるのは防いだ。

「ちょっと、寝るね」

「え?」

 体力の極限までやったため、酷い疲労感と眠気が襲ってきたのだ。そのままミケのふかふかの毛に顔をうずめると、ゆっくりと目を閉じた。








「ん……って。何?!」

 目を覚ました場所が、ベットだったことに驚いて花梨は飛び起きた。

『良かったですー。無理は禁物ですよ、ライヤさんが十五人って上限決めておくって言ってたです~』

「え? あ、そっか。私って倒れたんだ」

 ん~と体を伸ばし、あははと誤魔化すように笑った。

「ねぇ。龍さんに会いたいんだけど会えるかな?」

『突然ですねー。ん~ ちょっと待っててください』

 そう言うと花梨が止める間も無く窓から出て行った。

 花梨が龍へ聞きたいことは、病人を治しても良いかという事とその人たちを治すことによって、世界の秩序が崩れてしまわないかという事だ。

『聞いてきました~』

「え? 早いっ!」

 ミケが出て行って5分ほど、一体龍は何処に住んでいるのやら。

『自分が行くのはめんど、ではなく、混乱が起きるから夢で会いましょ~って』

(――絶対混乱ってのは口実で、面倒ってのが本当だ!)

 会うたびマイペースな龍に、花梨はそっとため息をついた。

「眠れば会えるんだよね?」

『はいー。それよりもお腹すきましたー!』

「最近そればっかりじゃない?」

 そういって鼻を人差し指で押したら、かぷかぷと甘噛みされた。
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