【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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「あーっ。もう、暇!」

 ベットの上でバタバタと暴れる花梨に、ミケが呆れたように鳴いた。

 戦いが終わり、城へ戻ってから十日目。ミケの声は聞こえなくなってしまったが、変わらずミケは花梨に寄り添うように生活していた。

 花梨の不満のもとは、ヴィラと会えない事だった。あれからヴィラは休む暇なく、両国の親交改善に務めている。

 朝は早くに行き、夜は真夜中に帰ってくる。そんな生活をヴィラがしているために、話す時間どころか、顔を合わせる事も余りなかった。

「龍巫女様、入っても良いですか?」

 ノック音と聞こえてきたのは、チュイの声。

「あ、いいよ」

 ベットの上にきちんと座りなおして、チュイへ返事を返した。

「失礼します。今日の夕方頃、龍巫女様も出席して頂く集まりがあります」

「集まり?」

 入ってくるなり言われた言葉に、花梨は首を傾げた。

「はい、イガーとツザカの両領主もいらっしゃる、大切な集まりです」

 にこにこと上機嫌でチュイが言った。

「えぇと、何でそんなに嬉しそうなの?」

「えっ? 分かります?」

 顔をばっと抑えて、チュイが少し恥ずかしそうに笑った。

「実は僕。リルさんとお付き合いしてるんです~っ」

「え! リルってあのリル?」

 城へ始めて来た頃、花梨の世話をしてくれた侍女。

「はい~。龍巫女様の様子はどうか、など聞かれてるうちに」

 えへへ、と嬉しそうに笑うチュイに、花梨はただ驚くのみ。落ち着いたあの少女と、この子供っぽい少年だったら、意外と良い恋人になるかも、と思い、うんうんと納得するように頷いた。

「あ、嬉しいのはそれだけじゃないですよ。両領主が訪れる、と言うことは。両国の関係が良好と言うことですから」

「それと同じくらい、リルと恋人になれたのが嬉しいんだ?」

 からかうように言うと、チュイの頬が真っ赤に染まった。

「か、からかわないでください!」

「ごめんね、つい」

 あはは、と笑うと「ついって何ですかぁ」とチュイが情けない声を出した。













 銀色のドレスに身を包んで、花梨はきょろきょろと辺りを見渡した。

 穏やかな音楽が部屋には流れ、集まった人は料理や会話を楽しんでいる。

 誰か知っている人物はいないか、と視線で探せば、それらしい人を見つけて表情明るく歩き出した。

「ゼフィ……ルド?」

 違和感を感じて、首をかしげながら足を止める。談笑するゼフィルドらしき人物は、ゼフィルドにしてみると妙に表情が豊かだ。

 う~んと腕を組んで、そのまま考える。

「何してるの?」

「わっ」

 背後から突然現れたのは、ルーファだった。ルーファに会うのは十日ぶりだ。

「その反応は酷いよね」

 くすくすと笑うルーファに、花梨は一つ息をついた。

「ねぇねぇ。ゼフィルドって頭でも打った?」

 表情豊かなゼフィルドらしき人物を見て、花梨が真剣な表情で訊ねた。その様子に、ルーファは楽しそうに笑い声を上げた。

「あれはツザカ領主オールド殿、ゼフィルドの父上だよ」

「えっ? そ、そっくりだ。」

 ついこの間、似てない父子代表のようなルーファとマイヤを見ただけにそっくりすぎる父子に、驚いてしまう。

「なんの話だ」

 顔を覗き込まれて、花梨は驚き仰け反った。

「ゼ、ゼフィルド。脅かさないでよ」

 心臓を押さえる花梨に、ゼフィルドは相変わらずの無表情。

(――あぁ、これこそゼフィルド! 表情がコロコロ変わったら怖いよ)

「オールド殿とゼフィルドがそっくりだ、と話してたんだよ」

 微笑して言うルーファに、ゼフィルドの眉間の皺が増える。

「あ、あんまり好きじゃなかったり?」

「あぁ。だから俺は主を変えた」

「どういう意味?」

 ゼフィルドの言う意味が分からずにそう言えば、珍しくゼフィルドが目を細めた。

「王族も好きではないが、アレよりはましだ。だから俺は王を主として、花梨の護衛任務を受けた」

「えぇっ! ちょ、聞いてないよ」

 衝撃的な事に、花梨は面白いほどに慌てた。

「護衛任務に就こうが、今までと変わらんだろうが」

 冷えた目から、感情を読み取ろうと花梨はじっと見つめた。

 その目から感情を読み取れた途端、花梨は少し頬を膨らます。呆れだった。何故ゼフィルドに呆れられるのか、と花梨は不思議に思った。

「ととっ、オールドさんが来るんだけど」

 にこやかに笑うオールドが近づいてくると、どう見ても笑うゼフィルドにしか見えない花梨にとっては、とてつもなく不気味な光景だ。

「あぁ、僕が今はイガーの領主だからね」

 挨拶しないのは不味いでしょ? と軽く目配せをして、ルーファはオールドの方へ近づいていった。

「うわぁ~、それにしても皆明るいね」

 表情が活き活きしてるのを見て、花梨は頬を緩めた。

「花梨」

 名を呼ばれて振り向けば、そこには会いたかった人物が立っていた。

「ヴィラ!」

 嬉しそうに花梨が走り寄れば、ヴィラは笑みを増す。花梨の後ろでは転びそうな足取りの花梨を、心配そうな目で見つめるゼフィルド。

「久しぶりだね」

「えぇ。花梨、少し話しがあるんですが」

「話?」

 テーブルの上から、果汁ジュースを取ると花梨はぐいっと飲み干す。

「花梨がイガーへ行く際に言った、あの話です」

 少し緊張した面持ちのヴィラに気がつかず、花梨は軽い調子で了承した。
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