【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス

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 城の裏庭へと着くと、花梨はミケから飛び降りた。

「あら、龍巫女様?」

「リル! 久しぶり」

 声をかけてきた女性が、リルだと分かると花梨は顔を綻ばせた。

「お久しぶりです。まさか、花梨様が龍巫女様だとは思いもしませんでした」

「あはは、言ってなかったからね」

 ミケの額を撫でながら、花梨が笑い声をあげる。

「あ、龍巫女様。ヴィラーネルト様が探していらっしゃいましたよ?」

「えっ」

 その言葉に、花梨は不安そうに眉をよせる。

「怒ってたり?」

「いえ、どちらかといえば。心配そうな表情をなさっていました」

 花梨の心配そうな表情に、リルが少しだけ笑みを浮かべる。

「リ、リル。話はまた今度で、それじゃあ!」

 花梨は走りながらそう叫ぶと、ヴィラの私室に急いだ。

「あ、後ミケ。龍さんに伝えておいて。私は帰らないって!」

『了解です! 転ばないように気をつけるですー』

 ミケに言葉に振り向かずに、手をひらひらとさせた。











 息を切らして走る花梨へ、訝しげな視線が突き刺さる。

「つ、着いた」

 ヴィラの私室の前で、ドアに手を突いて花梨は一息つく。

(――ヴィラに会ったら、まずは順を追って話をして、それから告白しよう)

 何度か深呼吸をしてから、意を決したようにドアを開けた。

「花梨! 心配したんですよ」

 花梨の顔を見るなり、開口一番ヴィラが安堵の表情でそう言った。

 ヴィラの顔を見た途端、色々と考えていた事が花梨の頭の中から吹き飛ぶ。そして、そのままの勢いで、ヴィラに抱きついた。

「っと」

 がっちりと腰へ花梨の腕を回しつけられ、ヴィラはそのままベットの上に倒れこんだ。そのまま、花梨が押し倒しているような光景だ。

「花梨?」

 一体どうしたのか? とヴィラが花梨の名を優しく呼んだ。

 その声を聞いた途端に、かーっと頬に熱が集まり、全身の血液が沸騰しそうなほどに熱くなる。

「け、結婚して!」

「は?」

 一体何を言っているのか、ヴィラには理解できないらしく戸惑いを隠せない。

(――あぁ、違うでしょ。自分!)

 花梨は花梨で、予想外の行動をとってしまった自分を心の中で叱咤している。

 少しの沈黙の後、ヴィラが軽く身じろぎしたのに花梨はハッと我に返った。

「私ね、元の世界に帰れるみたいなんだよ」

「元の世界へ……帰るつもりですか?」

 険しい表情になり、ヴィラはぎゅっと唇を結んだ。

「帰れないよ。だって、あっちにはヴィラ居ないし」

「花梨……」

「だからね。その事はもういいんだ。そうじゃなくて、私ヴィラの事が――」

 もう、自分で何を言っているのか花梨には分からなかった。気がつけば、くるっとヴィラと花梨の位置が入れ替わっていた。

「この前の返事だと、受け取っても良いんですね?」

「う、うん」

 何時の間にこんな状態になったのか、だとか。ちゃんと告白出来たのだろうか、だとか。疑問や不安が頭の中を支配する。唯一花梨が分かるのはヴィラがとても嬉しそうだということだけ。

「花梨、愛しています」

 ゆっくりと近づくヴィラの顔に、花梨はぎこちない動作で目を閉じた……











 外のざわめきが、花梨の緊張をさらに高める。

「あ、あはははは」

 壊れたように乾いた笑い声を漏らす花梨に、リルは呆れ顔。

「龍巫女様。折角お綺麗ですのに」

 花梨の今の姿は、薄い青色のドレスに淡い桃色の髪飾り。すっと口元に引いた紅の艶やかさが、普段の花梨とは別の印象を見る者に持たせる。

「き、緊張しない?」

 同意を求める声は、喉がカラカラになっており、上手く出ない。

「僕も、もう駄目です」

 リルの後ろで顔を青ざめているのは、チュイだ。緊張の余り、花梨と同じかそれ以上にふらふらとしている。

「きちんと予定したとおりにやれば、大丈夫ですよ」

 リルの声に、花梨は手に持っている紙を、ぎゅっと握りしめた。この紙には、花梨の演説内容が入っている。殆ど頭には入っているものの、これがないと、花梨は不安でしょうがない。

 今日は民衆へ花梨の存在を正しく発表する日だった。その中には、龍の娘としてだけではなく、ヴィラの隣に立つ者として。二つの重圧が花梨に圧し掛かっている。

 民衆には、すでに花梨とヴィラの仲は広まっていた。

「もう出来たかい?」

 そう言って入ってきたのは、タグミとゼフィルド。

「おぉ、綺麗じゃないか。なぁ、ゼフィルド?」

 ほら、褒めろ。といわんばかりに、ゼフィルドを肘でつつく。タグミの言葉にゼフィルドは返さず、ただ無言で花梨を見た後に一つ頷いた。

「な、何の頷き?」

 花梨が一歩引いて訊ねるが、ゼフィルドは答えない。

「一丁前にも照れてるんさね」

 からかうようなタグミの声に、ゼフィルドはふっと小さく笑った。

「二人には本当にお世話になりました」

 何となく、両親に言っているようで、言った後で花梨は小さく笑った。

「……これからもお世話をかけます、だろうが」

「へ?」

 ぶっきらぼうに言ったゼフィルドの言葉に、花梨は首を傾げる。

「そうだね。それが一番正しい。ゼフィルドもたまには良い事言うね」

 突然話に入ってきたルーファに、花梨はぎょっとする。

「何時から居たの?」

「ん? さっきだよ。それにしても結婚ねぇ」

 まだ結婚じゃない、と言おうとした口を、ゼフィルドが人差し指でそっと押さえる。

「どうせ、まだ結婚じゃないとでも言いたいんだろうけれど、実質結婚と変わりないからね」

 クスクスと笑いながら言われ、花梨はうーと小さく唸った。

「それにしても残念だ。ま、僕には全然問題ないけどね」

 花梨の顎をつかんで、蕩けるような微笑を浮かべてそう言ったルーファ。その使っていない腕を、タグミが強めに掴んだ。

「人の恋路の邪魔は、駄目なんじゃない?」

 面白そうにルーファが言えば、タグミが口元だけで笑う。

「引っ掻き回そうとしているだけに、私には見えるけれどねぇ」

 二人とも口元だけ笑い、目では互いを睨みつける。その恐ろしい光景に、花梨は心の中でひぃっと悲鳴を上げた。

 ゼフィルドは面倒、と表情に出して、腕を組んだまま止めようとはしない。

「そろそろ時間ですよ!」

 傍観していたチュイが、時間に気がつき、慌ててそう言った。

「ヴィラーネルト様は、廊下でお待ちしております」

 リルがそう言って、花梨へ微笑みかけた。

「それじゃあ、よし!」

 気合を入れて、花梨はドアを開ける。廊下に立っていたヴィラは、花梨の顔を見るなり苦笑した。

「随分と緊張してますね」

「そりゃあ、緊張するよ!」

 そんな花梨に微笑みかけて、ヴィラが手を差し出した。それを花梨が掴めば、心地よい暖かさが手から伝わる。

「この扉を開ければ、もう後戻りは出来ませんよ?」

「分かってるよ」

 念を押すように言われた言葉に、しっかりと頷けば、ヴィラがその手で扉を開けた。
 
 開ける視界。わーっと盛り上がる声。花梨はそれらに圧倒されながらも、落ち着くために深呼吸をした。

「龍巫女様ー!」

「おめでとうございますー!」

 歓声にぎこちなく笑みを浮かべる花梨を、ヴィラが心配そうに花梨を見る。

「大丈夫だよ」

 そう言って自分を落ち着かせるために、大好きなヴィラの瞳を見つめた。

「花梨は、私の目を良く見ますよね」

「え、分かる? だって私空が大好きだから」

 キラキラと目を輝かせて、すっと両手を空に伸ばしてみせる。右手に持っている紙がひらひらと揺れた。その行動に、わーとさらに歓声が大きくなるが、花梨の耳には入らない。

「小さい時に、ほら。星が欲しい! って言う子いるよね? 私の場合違うんだよ。この空が欲しい! って言ったんだ。すっごい我がままだよねぇ。空を欲しい、って」

 花梨の両手をつかんで、ヴィラは穏やかに笑みを浮かべる。

「私のでは足りませんか?」

「え?」

「私の目を空だと思ってくれるなら、全てを貴方へあげます」

 じっと花梨はヴィラの瞳を見つめた。優しげに細められた、その青色を。

「良いの? じゃあ、絶対に離さないね!」

 嬉しそうにそう言ったとき、花梨の手から紙が風に乗って飛んでいった。

 ふわりふわりと浮かぶその紙は、空へと飛んでいくようで……

「私は花梨が頼んでも、二度と離しはしませんけれど」

 ふっと笑って言われた言葉に、花梨は頬を染めて幸せそうに笑った。





――私が見る、その澄んだ青は

心配そうに見つめてくれたり、優しく見守ってくれたり。

その瞳が曇らぬように。

ずっとずっと傍で見ていきたい。

暖かくて、大好きな私だけの空の色。
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