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澄み切った空気、今日は晴天。賑やかな街中を、花梨は顔をヴェールで覆う姿で歩いていた。
戦争を止めた英雄、と民衆の中で噂が立っているので、こんなところに居るところが見つかれば、混乱が起こってしまうのは、容易に考え付いた。
「ヴィラ、心配してるかも」
小さく呟いて、花梨は一つため息を落とした。
今回の外出の件は、ヴィラに一言も言っていないのだ。ミケと話が出来る、という事を利用して、ここまでミケに乗って来た。
ちなみにミケは、ここへ来る際に通った森でゆっくりと休んでいる。
花梨は何かを探すように、キョロキョロと辺りを窺う(うかがう)。一つの露店を見ると、花梨はぱぁっと表情を明るくして走りよった。
「パンください」
「おぉっ! っと、んん?」
パン屋のオヤジは花梨の姿に、腕を組んで何かを思い出すように唸った。
「お前確か。そうだ、タグミの娘だな!」
ばしっと花梨の背中を叩くと、豪快に笑い声をあげた。
(――私が龍の娘だって、知らないんだ。良かったぁ)
ほっと安堵し、花梨は微笑を浮かべた。
「タグミの好きなパンって分かる? 今からタグミの家に行く予定だから」
「タグミの家ったぁ、また変な言い方しやがる。お前の家でもあるんだろう?」
「え、と。タグミと私は」
「親子じゃないって? それを聞いたらタグミは泣くぞ?」
厳つい表情を少し緩めて、そりゃいかん。と首を横に振る。花梨は思わず笑ってしまって、それを見たオヤジも楽しそうに笑った。
「おぉっと、パンだったな。タグミはなぁ、これだろう、後あれとこれと……」
小さな紙袋に、ぎゅっぎゅと押し込めるようにパンが入っている。
「ほら、代金はいらん」
「え? でも」
渋る花梨に紙袋を差し出す、花梨は躊躇した後にそれを受け取った。
刹那、突然突風が吹いて、ヴェールが風にふわりと揺れる。両手がパンの紙袋でふさがっており、花梨はヴェールを押さえる事も出来ない。
「おっと、危ねぇな」
それをオヤジがさっと押さえてくれ、花梨は胸を撫で下ろす。
「花梨ちゃん、気をつけなよ。随分と顔を知られちまってるからな」
「え?」
顔を上げると、オヤジはにかっと笑った。
「なぁに、気にすんな。花梨ちゃんはタグミの娘だ。それ以外の何者でもねぇよ」
そう言ってオヤジが豪快に笑い声をあげた。
「あ、ありがとう」
花梨は嬉しそうに笑みを浮かべると、ぺこり、とオヤジに向かって頭を下げた。
森の中は、数週間前に戦争が起こった事実を、その身で表していた。花梨は一瞬悲しそうな表情を浮かべたが、パンを胸に抱いたまま小屋に向かって走る。
小屋が見えると懐かしい思いがし、花梨は自然と口元が緩み、足取りも軽くなる。
「タグミー!」
ばんっとドアを勢いよく開けると、椅子に座っていたタグミが倒れた。
「わぁ、タグミ。大丈夫?」
心配そうに駆け寄る花梨に向かい、タグミはにっこりと笑ってその頭に拳をぶつけた。
「い、痛いよ」
結構容赦のない攻撃に、花梨はうぅっと小さく唸った。
「アンタは突然すぎるんだよ」
そう言いながらもタグミの表情は緩み、目元は細めており、嬉しさが滲み出ている。
「で、なんのようだい?」
「何のって。怪我はもう大丈夫なの?」
ペタペタ、とタグミの体を触りながら、花梨は心配そうに訊ねる。
「どう見える?」
「……大丈夫そう」
嬉しそうに笑って花梨がそう言った。
「あ、これパンね」
「あぁ。で、本当にそれだけの用事で来たのかい?」
花梨から紙袋を受け取り、椅子に座る。
「それと。相談に乗って欲しいなぁ、なんて思って」
タグミの隣の椅子に腰を下ろして、あははと花梨が笑う。
「言ってみな」
「ん、ありがとう。実は私元の世界に帰れるみたいなんだ」
「それの何処が悩みなんだい? 帰りたいなら帰ればいいじゃないか」
すっぱりと何処が悩みなんだ? と言うようにタグミが訝しげな視線を向ける。
「それだけじゃなくて、ヴィラに、ね。その……」
顔を真っ赤にさせて、口ごもる姿にタグミは人が悪そうな笑みを浮かべた。
「何だ、告白でもされたのか? そして、自分の気持ちが分からないって所かね」
「うっ。まぁ、その通りです」
「どちらにしよ、私から見れば答えは決まってる風に見えるけれどね」
はぁ、と呆れたように見られて、花梨は首を傾げる。
「決まってる?」
「そうさ。アンタは何で元の世界に帰ることを躊躇してるんだい?」
「何でって……」
ヴィラと会えなくなる、と言おうとして慌てて両手で口を塞ぐ。その様子を見て、タグミがにやっと笑った。
「わかったかい?」
「……うん」
元の世界に帰りたくないのは、ヴィラと会えなくなるから。全てを天秤にかけた上で、もっとも一番上の存在。それが花梨にとってはヴィラ。
(――私ってヴィラの事、そういう意味で好きだったんだ)
理解した途端に、何故か想いがさらに増す。
「タグミ、私ヴィラと結婚する!」
「そりゃまた、随分と突拍子の無いことを……」
タグミは呆れと驚きが混じったような表情で、花梨にそう言った。
はっきりと宣言すると急に恥ずかしくなり、花梨は思わず両手で顔を覆う。
「全く、アンタも主人がこれだと苦労するだろ?」
『それは言わないでください~』
にゃん、と情けなく鳴いて、ミケが姿を現した。
「ミケ?」
「心配でついてきたんだろうさ。さぁ、さっさと帰りな」
「うん! ありがとう、タグミ。それじゃあまた、此処に帰ってくるからね」
花梨の『来る』ではなく『帰る』という表現に、タグミは少し驚いたような表情で花梨を見つめたが、すぐに頬を緩めて、優しげな微笑を浮かべた。
「それじゃあ、ミケ早く帰ろう。ヴィラが怒るから」
『了解です~』
ミケの背に乗ると、すぐにミケは空の上を走り出した。
戦争を止めた英雄、と民衆の中で噂が立っているので、こんなところに居るところが見つかれば、混乱が起こってしまうのは、容易に考え付いた。
「ヴィラ、心配してるかも」
小さく呟いて、花梨は一つため息を落とした。
今回の外出の件は、ヴィラに一言も言っていないのだ。ミケと話が出来る、という事を利用して、ここまでミケに乗って来た。
ちなみにミケは、ここへ来る際に通った森でゆっくりと休んでいる。
花梨は何かを探すように、キョロキョロと辺りを窺う(うかがう)。一つの露店を見ると、花梨はぱぁっと表情を明るくして走りよった。
「パンください」
「おぉっ! っと、んん?」
パン屋のオヤジは花梨の姿に、腕を組んで何かを思い出すように唸った。
「お前確か。そうだ、タグミの娘だな!」
ばしっと花梨の背中を叩くと、豪快に笑い声をあげた。
(――私が龍の娘だって、知らないんだ。良かったぁ)
ほっと安堵し、花梨は微笑を浮かべた。
「タグミの好きなパンって分かる? 今からタグミの家に行く予定だから」
「タグミの家ったぁ、また変な言い方しやがる。お前の家でもあるんだろう?」
「え、と。タグミと私は」
「親子じゃないって? それを聞いたらタグミは泣くぞ?」
厳つい表情を少し緩めて、そりゃいかん。と首を横に振る。花梨は思わず笑ってしまって、それを見たオヤジも楽しそうに笑った。
「おぉっと、パンだったな。タグミはなぁ、これだろう、後あれとこれと……」
小さな紙袋に、ぎゅっぎゅと押し込めるようにパンが入っている。
「ほら、代金はいらん」
「え? でも」
渋る花梨に紙袋を差し出す、花梨は躊躇した後にそれを受け取った。
刹那、突然突風が吹いて、ヴェールが風にふわりと揺れる。両手がパンの紙袋でふさがっており、花梨はヴェールを押さえる事も出来ない。
「おっと、危ねぇな」
それをオヤジがさっと押さえてくれ、花梨は胸を撫で下ろす。
「花梨ちゃん、気をつけなよ。随分と顔を知られちまってるからな」
「え?」
顔を上げると、オヤジはにかっと笑った。
「なぁに、気にすんな。花梨ちゃんはタグミの娘だ。それ以外の何者でもねぇよ」
そう言ってオヤジが豪快に笑い声をあげた。
「あ、ありがとう」
花梨は嬉しそうに笑みを浮かべると、ぺこり、とオヤジに向かって頭を下げた。
森の中は、数週間前に戦争が起こった事実を、その身で表していた。花梨は一瞬悲しそうな表情を浮かべたが、パンを胸に抱いたまま小屋に向かって走る。
小屋が見えると懐かしい思いがし、花梨は自然と口元が緩み、足取りも軽くなる。
「タグミー!」
ばんっとドアを勢いよく開けると、椅子に座っていたタグミが倒れた。
「わぁ、タグミ。大丈夫?」
心配そうに駆け寄る花梨に向かい、タグミはにっこりと笑ってその頭に拳をぶつけた。
「い、痛いよ」
結構容赦のない攻撃に、花梨はうぅっと小さく唸った。
「アンタは突然すぎるんだよ」
そう言いながらもタグミの表情は緩み、目元は細めており、嬉しさが滲み出ている。
「で、なんのようだい?」
「何のって。怪我はもう大丈夫なの?」
ペタペタ、とタグミの体を触りながら、花梨は心配そうに訊ねる。
「どう見える?」
「……大丈夫そう」
嬉しそうに笑って花梨がそう言った。
「あ、これパンね」
「あぁ。で、本当にそれだけの用事で来たのかい?」
花梨から紙袋を受け取り、椅子に座る。
「それと。相談に乗って欲しいなぁ、なんて思って」
タグミの隣の椅子に腰を下ろして、あははと花梨が笑う。
「言ってみな」
「ん、ありがとう。実は私元の世界に帰れるみたいなんだ」
「それの何処が悩みなんだい? 帰りたいなら帰ればいいじゃないか」
すっぱりと何処が悩みなんだ? と言うようにタグミが訝しげな視線を向ける。
「それだけじゃなくて、ヴィラに、ね。その……」
顔を真っ赤にさせて、口ごもる姿にタグミは人が悪そうな笑みを浮かべた。
「何だ、告白でもされたのか? そして、自分の気持ちが分からないって所かね」
「うっ。まぁ、その通りです」
「どちらにしよ、私から見れば答えは決まってる風に見えるけれどね」
はぁ、と呆れたように見られて、花梨は首を傾げる。
「決まってる?」
「そうさ。アンタは何で元の世界に帰ることを躊躇してるんだい?」
「何でって……」
ヴィラと会えなくなる、と言おうとして慌てて両手で口を塞ぐ。その様子を見て、タグミがにやっと笑った。
「わかったかい?」
「……うん」
元の世界に帰りたくないのは、ヴィラと会えなくなるから。全てを天秤にかけた上で、もっとも一番上の存在。それが花梨にとってはヴィラ。
(――私ってヴィラの事、そういう意味で好きだったんだ)
理解した途端に、何故か想いがさらに増す。
「タグミ、私ヴィラと結婚する!」
「そりゃまた、随分と突拍子の無いことを……」
タグミは呆れと驚きが混じったような表情で、花梨にそう言った。
はっきりと宣言すると急に恥ずかしくなり、花梨は思わず両手で顔を覆う。
「全く、アンタも主人がこれだと苦労するだろ?」
『それは言わないでください~』
にゃん、と情けなく鳴いて、ミケが姿を現した。
「ミケ?」
「心配でついてきたんだろうさ。さぁ、さっさと帰りな」
「うん! ありがとう、タグミ。それじゃあまた、此処に帰ってくるからね」
花梨の『来る』ではなく『帰る』という表現に、タグミは少し驚いたような表情で花梨を見つめたが、すぐに頬を緩めて、優しげな微笑を浮かべた。
「それじゃあ、ミケ早く帰ろう。ヴィラが怒るから」
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