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9話
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「ジェレマイア殿下からの使いで来たんだけど、第三妃のところまで案内してくれる?」
「はい!」
まさに第三者の助けが来た!とビオラは思い、すぐにアルゼリアの場所までライを案内する。
応接間の扉を開けると、先ほどと同様の光景が広がっている。ミレイユが神経質そうに眼鏡を触り、部屋に入ってこようとするビオラを睨みつける。
「主人に似て礼儀がなっていない侍女ですね」
「それは自己紹介かな?」
ひょこっとビオラの後ろからライが顔を出し、面白そうに言った。
ライはジェレマイアの影だか、表向きは側近として仕えている。しかし、平民出身のため面白く思っていない人も多かった。貴族の出であるミレイユもその一人だ。
「ええと。君がアルゼリア様ね」
ライはミレイユを無視し、ずかずかと部屋の中に入るとアルゼリアの前に立った。両手を床に付けているアルゼリアを立ち上がらせると、濡れた髪を触って笑う。
「酷い姿だね。殿下がどう判断するか分からないけど、伝えておくよ」
その言葉にミレイユは憎々し気な表情を浮かべる。
「あの。殿下から何か?」
「あ、そうそう。殿下が今晩この屋敷に来るって知らせに来たんだ。準備するものもあったから」
「殿下がクレア様じゃなくて、この屋敷に来るって言うんですか?」
アルゼリアが何かを言う前に、ミレイユが割り込むように言う。
「そうだけど?何か問題でも?」
「いえ。私はこれで失礼させていただきます!」
ミレイユは吐き捨てるように言うと、立ち上がりすぐに部屋から出て行った。
「アルゼリア様!」
「ビオラ!良かったわ。よく耐えてくれたわね。素直に部屋から出なかったらどうしようかと思ったわ」
ふふ、と笑うアルゼリアの両手をビオラが握る。その冷たさにぎょっとし、すぐにアイリーンに湯あみの準備をお願いする。
「こんなに体が冷えているじゃないですか!」
「ビオラ。それよりも、殿下の用事の方が先でしょう」
アルゼリアはビオラをたしなめると、ライの方を向きなおして一礼する。その手は軽く震え、唇も紫色に染まっている。
「殿下のご意思、承りましたわ」
「それじゃあ。殿下から頼まれたものを応接間に運んでもいい?中に新しい家具を入れるように言われててね」
「ええ。このお屋敷は殿下の所有物ですから、もちろんですわ」
アルゼリアの許可をもらったライは、屋敷の外に向かっていった。
「アルゼリア様。湯あみの用意ができました」
「お嬢様!ひとまず体を温めましょう」
ビオラは寒さに震える細い肩をしっかりと抱き、アルゼリアをお風呂場へと連れていく。
(――お身体がこんなにも冷えて。運よくライ様が来たからよかったけど、来なかったらどうなっていたんだろう)
アルゼリアは田舎の子爵令嬢であるため、貴族としての立場は弱い。その上、入れ替わりの激しい第三妃なので、王都での立場は全く良くない。
(――ジェレマイア殿下からお嬢様を守ればいいって思ってたけど、それだけじゃ駄目なんだ)
ビオラは考えの甘かった自分を恥じると同時に、これからどうすればいいのかと絶望的な気持ちになった。
「クレア様!」
「あらミレイユ。遅かったわね。第三妃はしっかりと反省したのかしら?」
クレアは鏡の前に座り、髪の毛の手入れ中だった。最高級の香油を丁寧に三人の侍女が塗り込み、ブラシをかけたその髪は艶やかで美しい。
うふふと笑うクレアの前に、急いで帰ったため髪の乱れたミレイユが近づく。
「ジェレマイア殿下が、本日第三妃の屋敷に行くと」
「何ですって!」
ミレイユの言葉にクレアが叫び、持っていた髪飾りを床にたたきつけた。ころん、と髪飾りについていた宝石が床を転がる。
「いったいどうして。ついこの前行ったばかりじゃないの!」
イライラとしたクレアが叫ぶと、部屋の中にいたミレイユ以外の侍女が怯えたように身を縮める。
ジェレマイアはクレアの元に来てはいるが、月に1回ほどしか訪れていなかった。嫁いでから一度も、連続して来たことなどなかったのだ。それが、クレアの逆鱗に触れた。
「あんた」
クレアは先ほどびくりと体を震わせた若い侍女を、睨みつけて指さす。クレアの髪を整えていた女性の一人だ。
「こっちに連れてきなさい」
「も、申し訳ございません!」
クレアの機嫌を損ねたことに気が付いた若い侍女が慌てて床にひれ伏すが、その腕を無理やり掴んでミレイユがクレアのもとへ引きずっていく。
「あんた。私を見て震えたわね。無礼な子ね!」
赤いネイルを付けたクレアの手が、容赦なく若い侍女の髪を掴んで引っ張った。
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
謝罪を繰り返す侍女の髪を離すと、ミレイユへと手を差し出す。ミレイユは心得たとばかりに細い木製の棒を手渡す。
「罰を与えるわ。自分で足を出しなさい」
震えながら自身のスカートをまくり上げる侍女。他の侍女や使用人はクレアの機嫌を損ねぬように、まるで人形のように部屋に立っていた。
「アルゼリア。絶対に許さない」
そうクレアは呟くと、その燃え上がるような怒りを目の前の侍女へと向けた。
「はい!」
まさに第三者の助けが来た!とビオラは思い、すぐにアルゼリアの場所までライを案内する。
応接間の扉を開けると、先ほどと同様の光景が広がっている。ミレイユが神経質そうに眼鏡を触り、部屋に入ってこようとするビオラを睨みつける。
「主人に似て礼儀がなっていない侍女ですね」
「それは自己紹介かな?」
ひょこっとビオラの後ろからライが顔を出し、面白そうに言った。
ライはジェレマイアの影だか、表向きは側近として仕えている。しかし、平民出身のため面白く思っていない人も多かった。貴族の出であるミレイユもその一人だ。
「ええと。君がアルゼリア様ね」
ライはミレイユを無視し、ずかずかと部屋の中に入るとアルゼリアの前に立った。両手を床に付けているアルゼリアを立ち上がらせると、濡れた髪を触って笑う。
「酷い姿だね。殿下がどう判断するか分からないけど、伝えておくよ」
その言葉にミレイユは憎々し気な表情を浮かべる。
「あの。殿下から何か?」
「あ、そうそう。殿下が今晩この屋敷に来るって知らせに来たんだ。準備するものもあったから」
「殿下がクレア様じゃなくて、この屋敷に来るって言うんですか?」
アルゼリアが何かを言う前に、ミレイユが割り込むように言う。
「そうだけど?何か問題でも?」
「いえ。私はこれで失礼させていただきます!」
ミレイユは吐き捨てるように言うと、立ち上がりすぐに部屋から出て行った。
「アルゼリア様!」
「ビオラ!良かったわ。よく耐えてくれたわね。素直に部屋から出なかったらどうしようかと思ったわ」
ふふ、と笑うアルゼリアの両手をビオラが握る。その冷たさにぎょっとし、すぐにアイリーンに湯あみの準備をお願いする。
「こんなに体が冷えているじゃないですか!」
「ビオラ。それよりも、殿下の用事の方が先でしょう」
アルゼリアはビオラをたしなめると、ライの方を向きなおして一礼する。その手は軽く震え、唇も紫色に染まっている。
「殿下のご意思、承りましたわ」
「それじゃあ。殿下から頼まれたものを応接間に運んでもいい?中に新しい家具を入れるように言われててね」
「ええ。このお屋敷は殿下の所有物ですから、もちろんですわ」
アルゼリアの許可をもらったライは、屋敷の外に向かっていった。
「アルゼリア様。湯あみの用意ができました」
「お嬢様!ひとまず体を温めましょう」
ビオラは寒さに震える細い肩をしっかりと抱き、アルゼリアをお風呂場へと連れていく。
(――お身体がこんなにも冷えて。運よくライ様が来たからよかったけど、来なかったらどうなっていたんだろう)
アルゼリアは田舎の子爵令嬢であるため、貴族としての立場は弱い。その上、入れ替わりの激しい第三妃なので、王都での立場は全く良くない。
(――ジェレマイア殿下からお嬢様を守ればいいって思ってたけど、それだけじゃ駄目なんだ)
ビオラは考えの甘かった自分を恥じると同時に、これからどうすればいいのかと絶望的な気持ちになった。
「クレア様!」
「あらミレイユ。遅かったわね。第三妃はしっかりと反省したのかしら?」
クレアは鏡の前に座り、髪の毛の手入れ中だった。最高級の香油を丁寧に三人の侍女が塗り込み、ブラシをかけたその髪は艶やかで美しい。
うふふと笑うクレアの前に、急いで帰ったため髪の乱れたミレイユが近づく。
「ジェレマイア殿下が、本日第三妃の屋敷に行くと」
「何ですって!」
ミレイユの言葉にクレアが叫び、持っていた髪飾りを床にたたきつけた。ころん、と髪飾りについていた宝石が床を転がる。
「いったいどうして。ついこの前行ったばかりじゃないの!」
イライラとしたクレアが叫ぶと、部屋の中にいたミレイユ以外の侍女が怯えたように身を縮める。
ジェレマイアはクレアの元に来てはいるが、月に1回ほどしか訪れていなかった。嫁いでから一度も、連続して来たことなどなかったのだ。それが、クレアの逆鱗に触れた。
「あんた」
クレアは先ほどびくりと体を震わせた若い侍女を、睨みつけて指さす。クレアの髪を整えていた女性の一人だ。
「こっちに連れてきなさい」
「も、申し訳ございません!」
クレアの機嫌を損ねたことに気が付いた若い侍女が慌てて床にひれ伏すが、その腕を無理やり掴んでミレイユがクレアのもとへ引きずっていく。
「あんた。私を見て震えたわね。無礼な子ね!」
赤いネイルを付けたクレアの手が、容赦なく若い侍女の髪を掴んで引っ張った。
「申し訳ございません!申し訳ございません!」
謝罪を繰り返す侍女の髪を離すと、ミレイユへと手を差し出す。ミレイユは心得たとばかりに細い木製の棒を手渡す。
「罰を与えるわ。自分で足を出しなさい」
震えながら自身のスカートをまくり上げる侍女。他の侍女や使用人はクレアの機嫌を損ねぬように、まるで人形のように部屋に立っていた。
「アルゼリア。絶対に許さない」
そうクレアは呟くと、その燃え上がるような怒りを目の前の侍女へと向けた。
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