お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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11話

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 ちゅんちゅんと小鳥の鳴き声が響き、窓からは柔らかな光が差し込む。

「ね、眠たい」

 ビオラはすやすやと眠るアルゼリアのそばで、椅子に座ったまま朝を迎えた。

 昨夜、ジェレマイアが寝たことを確認したビオラは、アルゼリアの部屋に行った。万が一、夜中に起きてきて約束を破り、アルゼリアの部屋に行ってしまったら?そう考えると自室に帰るのは恐ろしく、アルゼリアの許可をもらって一晩寝ずに座っていたのだ。

「あら。ビオラ!本当にここで座っていたのね。身体は大丈夫?」

 アルゼリアは起きると、自身のそばにいたビオラに驚いて声をかけた。まさか本当に寝ずの番をしていたとは、思っていなかったのだ。

「全然平気です。お嬢様。お湯をもらってきますね」

 ふらふらと立ち上がったビオラが部屋から出て応接間の前を通ると、すでにジェレマイアの姿はなかった。

「すみませーん。お嬢様のお湯をください」

「はいよ!」

 厨房へ行き、アルゼリアの顔を洗うためにお湯を沸かしてもらう。厨房では屋敷の侍女をまとめ上げる侍女長のリヨッタがいた。王城から派遣されたリヨッタも、貴族の出であるとビオラは聞いていた。

「侍女長様。おはようございます!殿下はいつこのお屋敷を出ていかれたのですか?」

「おはようビオラ。日が昇ってすぐくらいだったかね。お一人で静かに屋敷を出られたよ」

 リヨッテはそう言うと、近くにいた数人の使用人に指示を飛ばす。朝から大忙しの様子だった。使用人や侍女には早番がいるが、リヨッタと料理長の二人は、日が昇る前から屋敷へ来て仕事をしている。

「ビオラ!お湯だぞ」

「ありがとう!ヨハムさん!」

 アルゼリアの屋敷で料理長を務めるヨハムは、人の良い中年男性だ。ぽよんとしたお腹に、優しそうな口の上にはちょこんと髭が生えている。

「ビオラー!殿下が来てたこと教えてよー!」

「アイリーン!どうかしたの?」

 厨房から出ていくと、アイリーンがそう言いながらビオラに抱き着く。思わずお湯の入った器を傾けそうになり、慌てて体勢を整える。

「まさかお泊りされているなんて思ってなくて、殿下とばったり会っちゃったの!」

 興奮したように話すアイリーンに、ごめんごめんとビオラが謝る。

「でも、今まで見た中で一番穏やかな顔をされていて。挨拶をしたら何も言わずに屋敷から出ていかれたわ」

 そこまで言うとぐっとアイリーンはビオラに顔を近づけて、声をひそめた。

「アルゼリア様にジェレマイア殿下のご寵愛があるのは、間違いないわね」

 ふふっと笑うアイリーンに、ビオラは苦笑いするだけだ。どうやら屋敷中の人間は、ジェレマイアが食事をとった後、応接間で寝たのではなく、アルゼリアの部屋を訪れたと思っているようだった。

 アルゼリアの屋敷で働く者は、エドガーとビオラを除いて全てが王城からの派遣されたものたちだ。そのため、彼らは家や王城近くの使用人の寮へと帰る。屋敷を守る兵など外には多くの者がいるが、深夜の屋敷の中にはアルゼリアとビオラしか普段はいない。

 使用人が帰る前にジェレマイアが応接間におり、朝になって屋敷から出て行った。この事実だけを見れば、まさか応接間で寝ただけとは考えにくかった。

「昨日の第二妃様の行動にはびっくりしちゃったけど、殿下に守ってもらえるといいわね。私、アルゼリア様みたいに優しくて穏やかな方が大好きだから」

 にこっと笑顔で言うアイリーン。アルゼリアはその性格の良さから、屋敷内の使用人たちから非常に好かれていた。侍女の中にはリヨッタのように貴族出身のものもいるが、知性もあるアルゼリアのことを屋敷の主人として認めていた。

「ありがとうアイリーン。私、お嬢様のこと褒められるのが本当に嬉しいの」

 ビオラは笑顔でアイリーンにそう答えると、お湯の入った器を持ってアルゼリアの寝室へと向かった。

 アルゼリアの身支度は、ビオラにとって大切な仕事だった。温かなお湯に布を浸し、そっとアルゼリアの真っ白な肌を撫でる。朝の冷たさに白くなった頬が、お湯の温かさで少しだけ赤く染まる。

 アルゼリアの髪型や洋服など、身だしなみについても小さい頃からビオラが行ってきた。

「お嬢様。今日はどちらの香油を使いますか?」

「そうね。華やかな気持ちになれる薔薇のものがいいわね」

 ねっとりと粘度の高い香油を、たっぷりと輝く銀髪に塗り込んでいく。くすくすと笑い、たわいない話をしながらビオラはアルゼリアの髪にブラシを通した。その様子を通りがかった侍女が見かけ、思わず微笑む。

 過激なタキアナ皇后の部屋でも、高飛車な第二妃の部屋でも見ることはできない、とても温かな光景だった。

「それにしても。殿下が泊っていくとは思っていなかったわ」

「そうですよね。でも、殿下が妃の部屋に朝まで居たのは初めてだと聞きました。きっとアルゼリア様の立場も良くなりますよ」

「そうね。そうだといいわね」

 二人が目を鏡越しに見合わせて笑ったとき、アイリーンが現れた。

「アルゼリア様失礼いたします。ビオラに会いたいとお客様が来ていますが、どうしましょうか?」

「ビオラに?」

「私に?」

 いったい誰が来たんだろう?とビオラはブラシを持ったまま、首をかしげた。
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