お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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26話

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 ブルクハルト家は王城近くの、価値の高い土地に大きな屋敷を持っている。建国から続く由緒正しい貴族であり、その権力は大きなものだった。そして、ブルクハルト公爵家は、皇后ではなく王を支持していた。

 しかし、一人娘のレティシアが病に倒れてからは、ほとんど表舞台から姿を消してしまった。ブルクハルト公爵は貴族にしては珍しいほどの愛妻家で、一人娘を溺愛していたからだ。

 そんなブルクハルト家に、ビオラはアルゼリアと共に到着した。屋敷に着くとすぐに落ち着いた執事が出迎え、玄関へと案内される。

 庭には美しい花々が咲き誇り、アルゼリアとビオラを見ると庭師は帽子を脱いで頭を下げた。

 手入れの行き届いた屋敷に、丁寧に礼を尽くす使用人たち。それらを見るだけで、ビオラはブルクハルト公爵が優れた人であるとすぐに分かった。

「お連れいたしました」

 執事が扉を叩きそう言うと、部屋の中にアルゼリアとビオラを通してくれる。中にはこちらに歩いてくるブルクハルト公爵、ベッドサイドの椅子から立ち上がった公爵夫人、そしてベッドで座っているレティシアの姿があった。

「さあ。中へ。ティティ。こちらが眠り病の薬を言い当てた女性だ」

 ティティ、と呼ばれたレティシアは10歳ほどの幼い少女だ。しかし、顔や首、腕など見える範囲が全て赤く腫れ上がっている。痒みも伴うのだろう、首には小さな引っかき傷も見える。瞼も腫れており、目は半分ほどしか開いていなかった。

「初めまして。レティシア様。私、アルゼリア様付きの侍女ビオラと申します。よければ、レティシア様を診察させていただいてもよろしいですか?」

 レティシアに話しかけるビオラを、じっと公爵夫人が睨むように見つめる。そんな公爵夫人に、レティシアを診てもいいか尋ねると、無言のまま頷いた。

「お前。せっかく来てくれたのに失礼じゃないか」

 ブルクハルト公爵に注意をされた公爵夫人は、それでも顔色を変えずにじっとビオラを見つめる。

 (――娘さんが心配なんだ。痒みもあるし、きっと寝ている間にかいて悪化しないように、日常的に見てるのかも。目の下にクマもあるから)

 平民ではあるが、同様に皮膚の病気にかかった子どもを子爵領で診たことがあった。その時、同じように子供の母親は看病で疲れ切った顔をしていた。

「それでは、直接触りながら診ていきます。痛かったら言ってくださいね」

 そう言ってビオラは、レティシアの手を優しく撫でるように触る。

 (――二つの病気を併発しちゃったんだ。……ん?でもこれはおかしいぞ)

 赤く腫れている腕に触れると、情報が頭に流れ込む。どうやら、レティシアは王都でもよくある皮膚の病気と、もう一つ知名度の低い皮膚の病気にかかっているようだった。

 しかし、二つの病気を発症したくらいなら、王都で名がある医師ならすぐに分かるはず。ビオラは二つの病名と並ぶ文字に、内心驚いた。

 (――なんで、こんな中毒症状が?)

 そこには、アギバガナ草による中毒を発症していることが分かった。アギバガナ草による中毒症状は、身体中に痒みをもたらし皮膚を荒れさせるものだ。

 病気については分かったものの、すぐに手を離してしまうと怪しいため、診察のふりを続けていく。

「お口を開けて、あーんとしてください。舌も見せてください」

 痛みが出ないように、優しく丁寧に診察を進めていく。そんなビオラの姿に、公爵夫人は目線をそらすと椅子に座った。

「あなたは。この子のことを気持ち悪がらないのですね」

 ぽつり、と公爵夫人が声を漏らすと、無言で診察を受けていたレティシアの身体がびくりと震えた。

「おい!」

「この前あなたが連れてきたヤブ医者は、気持ち悪い悪魔つきだと言ったじゃないですか。それで、この子がどれほど傷ついたか」

 真っ赤に充血した目で夫人から睨みつけられ、ブルクハルト公爵は黙り込む。

 重たい雰囲気の中、ビオラが口を開く。

「レティシア様の病気についてご説明します」

 そう言うとビオラは二つの皮膚炎を併発してしまっていること、薬の成分に反応してしまって悪い影響が出ていることを話した。

「そう、なの?それじゃあ、原因が分かるなら治すこともできるの?」

 説明を聞いていた公爵夫人が、椅子から立ち上がるとビオラに詰め寄る。

「はい。もちろん適切な薬を使っていけば、治すことはできます」

「お姉さん。私の病気は本当に治るの?もう、お母様が悲しまなくてすむ?お父様にご迷惑かけないですむの?」

 ずっと黙っていたレティシアは小さな声でそう言って、ビオラの方を見た。ビオラはレティシアの両手を優しく握ると、しっかりと目を合わせて頷いた。

「大丈夫。毎日決まった時間にお薬を飲んで、塗っていけば。すぐに良くなるからね」

「やったぁ!お姉さん。ありがとう」

 貴族の10歳としては幼い話し方をするレティシアに、ビオラは思わず涙が出そうになった。用意された椅子に座って待っているアルゼリアも同様に、込み上げてきた涙をぐっとこらえているようだった。

「それでは、詳しいお話を公爵様としてきてもよろしいでしょうか?」

 悪意を持って誰かが中毒症状を起こさせていることは、レティシア本人の前で話すことはできない。ビオラは公爵にそう言うと、部屋の外へ出るように誘導した。

「分かった。我が家の薬師と医師を呼べばいいのだな」

「いえ。それは説明するまで待ってください。アルゼリア様は」

「私はこちらの部屋に居させていただくわ。ビオラ、私を気にせず行っておいで」

 ひらひらと椅子に座り手を振るアルゼリアに頭を下げ、ブルクハルト公爵と部屋を出る。扉の前には案内をしてくれた執事が立っていたため、公爵にしか聞こえない声で話しかける。

「レティシア様に処方されている薬がおかしいです。皮膚の病気だけではなく、とある薬の中毒症状がみられました」

「なんだと?」

 ブルクハルト公爵は辺りをきょろきょろと見渡し、早歩きで移動を始めた。ビオラもその後ろをピッタリとついていくと、すぐに公爵の執務室へと到着した。

「ここで話そう。ところで中毒症状とは?」

「レティシア様は二つの皮膚の病気を併発していますが、おそらく有名な医師であればすぐ見抜いて治すことができます。しかし、それ以外にアギバガナ草という薬草の中毒症状が出ています」

「それは、治療のための薬が悪影響を及ぼした、ということか?」

 険しい顔のブルクハルト公爵に、ビオラは困惑した表情を浮かべる。

「いえ。この薬草は、薬として使われることはありません。命に関わるほどではありませんが、人体には悪影響しかありません」

 ビオラの言葉にブルクハルト公爵が、だん!と握った拳を机に叩きつける。

「つまり。誰かが意図的にティティにその薬を使ったと?」

「おそらく。痒みが酷くなった時期はありませんか?」

「……礼を言おう。ビオラ嬢。それで、その中毒も薬で良くなるのか?」

 思い当たる人物が居たのか、ブルクハルトは眉間をぐっと寄せて黙る。そして、少ししてから、ビオラにそう言った。

「はい。正しい薬に変えれば、そちらは自然と治ります」

「そうか」

 ビオラの言葉にほっとしたようにブルクハルト公爵は言うと、立ち上がる。

「薬についてだが、医師も薬師も逃げられる前に尋問する必要がある。すまないが、誰か信用できる人はいないだろうか?」

 (――王都で医師と医師の知り合いは……あ!ライ様の家にいたあの二人ならどうかな?)

 ピュリテを診ていたヴォルカーとマイノを思い出したビオラは、分かりましたと頷いた。
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