お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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27話

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 ブルクハルト公爵はすぐに屋敷で雇われていた医師と薬師を尋問し、調べ上げた。

 (――まさかサレオス殿下が、こんなことをするとは)

 強欲なタキアナ皇后から生まれ、後継者の座を奪われた悲劇の王子だと思っていた。実際にサレオス王子を悪く言う者はおらず、ブルクハルト自身も次の王にならないことを残念に思っていたのだ。

 (――だからこそ!信頼をしていた!)

 ブルクハルト公爵が足早に向かっているのは、城内にあるサレオスの執務室だ。

「おお!公爵。よく参った。今日はどうしたのだ?」

 突然現れた無礼を叱責することもなく、部屋の中にいたサレオスは温和そうな笑みを浮かべている。

「この前の話をお断りに参りました」

「この前の話といえば、私の後援をして欲しいと母が頼んだ件か?まあ、とりあえず座りなさい」

 突然の申し出にも顔色を変えず、サレオスはにこやかに言って椅子をすすめる。

「殿下。貴方が紹介してくれた医師と薬師が、我が娘に毒をもっておりました。ご存知でしょう?」

「なんだと!それは誠か?」

 驚いた表情で立ち上がるサレオスを、憎々しげにブルクハルト公爵が睨みつける。

「ご存知ないと?でしたら、その二人が殿下にしている法外な借金についてはご存知でしょうか。二人とも全部話しましたぞ!」

 ビオラが帰った後に医師と薬師を問い詰めると、借金を帳消しにするためにしたと話した。調査すると二人はサレオスが所有する賭博場で、多額の借金をしていたことも分かった。

「ふむ。それで、手ぶらできたと言うことは、証拠はないんだろう?」

 困った顔で笑うサレオスに、ブルクハルト公爵は拳を握りしめて怒りで震える。評判の良い第一王子に責任を取らせるためには、証拠が不十分だった。

「ええ。二人の証言と、借金の事実しかございません。しかし、この前の話を断るには十分でしょう」

 そう言うとこれ以上話すことはない、とブルクハルト公爵は部屋を出ていった。

 にこにこと微笑んでいたサレオスは、ブルクハルト公爵が出て行くと机の上のグラスを壁に叩きつけた。

「誰かが余計なことをしているな」

 そう悪態をつくと、散らばるガラスを片付けるために、机の上のベルを手に取り鳴らした。





 

「ティティちゃん」

「あ!お姉ちゃん!来てくれたんだ!」

 ビオラがひょこっと顔を出して言うと、部屋の中で遊んでいたレティシアがにぱっと笑った。

 薬の指示を出した後も、ブルクハルト公爵に頼まれてビオラは毎日のように顔を出していた。レティシアに頼まれてお互いの呼び名も変わるほど仲も良くなり、公爵家の人からの信頼も得ていた。

「もうここも痒くなくなってきたよ!」

 ほら、と来ていた薄桃色のドレスをまくりあげ、ぽよんとしたお腹をビオラに見せる。

「こら、ティティ。はしたないですよ」

 すぐに困った顔で公爵夫人が注意をすると、レティシアは頬をぷくっと膨らませた。

「はぁい。ねえ、お姉ちゃん。今日は何して遊ぶ?」

「今日も1刻ほど時間をいただいたので、ティティちゃんの好きな遊びをしよう」

 ビオラがこの屋敷に来る時は、だいたい1刻ほど滞在していた。ブルクハルト公爵は今までできなかった分を取り返すように、毎日城へ出掛けて仕事を行なっているためビオラは会うことがない。

「ビオラちゃん。本当にありがとうね。貴方のおかげでティティもこんなに元気になって」

 最初に会った鋭さが消えた公爵夫人が、ビオラの手を取り話しかけた。ぐっすりと睡眠をとり、心労がなくなった公爵夫人は玉のような美貌を取り戻していた。

「もー。私が今遊んでるの」

 遊び相手を取られたと感じたティティが拗ねた声をあげて、ビオラに飛びつく。体勢を崩しながらも、ビオラが飛びついたレティシアを抱きしめる。

「わわ。公爵夫人様。私は薬をお願いしただけで、実際に診てくれてるのは別の方です。だから、大丈夫ですよ」

 会うたびに感謝を告げられ、ビオラはあははと笑う。

「そういえば、ビオラちゃんはジェレマイア殿下に会ったことはあるかしら?」

「はい。毎日アルゼリア様の屋敷にいらっしゃるので」

「そうよね。夫がどうやら本腰入れて、ジェレマイア殿下を後援する気になったみたいで。彼って本当に悪い人じゃないのかしらね。確かに、貴方の主人と結婚してから、かなり評判はいいけれど」

 ふう、とため息をつく公爵夫人に、ビオラはにこっと笑みを浮かべる。

「私は殿下が素晴らしい方だと思ってます」

「ビオラちゃんもそう言うなら安心ね。そうそう、ティティだけじゃなくて、私にも健康のためにお茶を入れてくれない?」

「もちろんです!」

 2回目に訪れた際に、お茶を入れてから来るたびに公爵夫人にお茶を入れていた。

「こんなに効果があるお茶を毎日飲めるなら、あなたも殿下の第三妃様も病気にならないんじゃない?」

 うふふ、と笑う公爵夫人に、ビオラは褒められて嬉しくなる。

「そうですね。アルゼリア様の病気はすぐに治せるので、こじらせることはありません。私に関しては、なぜか一度も病気になったことがないんですよね」

 ポットにお湯を入れて、一度捨てる。そした温まったポットに、茶葉を丁寧に入れていく。

「あら?一度も?風邪ですらないの?」

「はい。怪我の治りも早いですし、生まれつき頑丈なんだと思います」

 赤黒く腫れていた頬も、3日後には綺麗に治っていた。そして、公爵夫人に話した通り、ビオラはアルゼリアに拾われてから一度も病気にかかったことがなかった。

 (――高貴な方々よりも、身体が丈夫なんだろうな)

 ビオラはそう思うと、公爵夫人のためにお茶を入れた。
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