お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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45話

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 控え室で髪型やドレスを整え、ビオラはジェレマイアとメインホールに向かった。ジェレマイアの腕をぎゅっと握ると、何でもできそうな気がして心強かった。

 メインホールには先程はいなかった王やタキアナ皇后、サレオス第一王子も貴賓席に座っていた。 

「殿下」

「王からの許可をもらったことを、広める必要があるからな。事前に呼ぶことを言ったら緊張するだろう?」

 (――確かにそうだけど。前もって言って欲しかった。心の準備する時間が必要だよ)

 ドキドキしながら王家が座る席を見ると、タキアナ皇后とサレオスは上機嫌で談笑をしている。タキアナ皇后はワイン片手に、ほんのりと頬も赤くなり嬉しそうだ。

「皇后としては聖女をサレオスに嫁がせたいらしい。ビオラと俺が結婚するのは賛成なんだろう」

「王は大丈夫なのですか?」

 タキアナたちと全く話をしていない王は、ぼうっと前を向いている。顔色も青白く、あまり体調が良くない様子だった。

「ああ。心配するな」

「皆さん。我が娘のために今日はありがとうございます。さぁ、ビオラ。おいで」

 公爵が部屋の中心でそう言うと、ビオラを手招きする。ジェレマイアの腕から手を外し、ビオラは公爵の隣に立つ。

 (――アルゼリア様のように優雅に)

 ビオラのお手本はアルゼリアだ。脳内に可憐で完璧なアルゼリアの礼を思い出しながら、ドレスの裾をつまんでカーテシーを披露する。

 生まれながらの貴族のような、文句の付け所がないカーテシーに感嘆の声があがる。

「そして。ジェレマイア殿下から皆さんへ重要なお知らせがあります」

 ブルクハルト公爵の声に、周りがざわめく。ジェレマイアはビオラのそばに立つと、そっと肩を抱いた。

「今日よりビオラ嬢は、俺の妻となる。既に王からも許可をもらっている」

 ジェレマイアの発言に、会場中がざわめきだす。

「眠り病を治した子よね」

「でもただの平民だろう?」

「隣国の没落貴族らしいじゃないか」

 ヒソヒソと話し出す貴族たち。居心地が悪そうにビオラがジェレマイアの方を見ると、部屋の奥から拍手の音が聞こえた。

 にこにこ、と微笑みながら拍手をしているのは公爵夫人とレティシア。その音につられるように、貴族たちも拍手をし始めた。

「ジェレマイア。それが神の思し召しなら、良き家庭を作れ。私はこれで失礼する。皆は楽しむと良い」

 王はそう言うと杖を持って立ち上がり、侍従と共に会場から出て行った。

「おめでとう。ジェレマイア」

 王が立ち去るのを見届けたタキアナとサレオスが、ビオラたちに近づいた。タキアナはビオラを全く見ず、ジェレマイアににこやかに笑顔で話しかける。

「ありがとうございます。母上」

「なんだ。こんなに可愛らしいお嫁さんをもらったんだから、もっと嬉しそうな顔をしたらどうだ?」

 からかうように笑うサレオスは、ビオラから見ても気さくで良い人だった。ジェレマイアと比較すると見劣りはしてしまうが、サレオスも端正な顔立ちをしていた。

「初めまして。ジェレマイアの奥さんになるなら、私の妹も同然だ。気軽に兄上と呼んでくれ」

 (――何だか穏やかで優しそうな人)

 サレオスの優しい言葉にほっとしたビオラが、笑顔を浮かべる。挨拶を返そうと口を開くと、2人の間にジェレマイアが割り込んだ。

「失礼。兄上。俺は嫉妬深い方でね。これ以上みんなに見せたくないんだ」

 そう言うとビオラの手を取り、会場から立ち去ろうとする。

「そうかい?それは残念。ビオラ。また今度私と話そう」

 肩をすくめたサレオスはそう言うと、彼を囲むように集まってきた人たちと話し始めた。サレオスの人気は高く、誰もが彼と話したいと思っているようだった。

 (――殿下は。何だか寂しいな)

 母であるタキアナ皇后がそばで微笑み、たくさんの人に囲まれたサレオス。一方のジェレマイアに話しかける人は少なく、こんなに人がたくさんいるのにビオラと2人だけで歩いている。

「?何だ?」

 ビオラの肩を抱く手に、そっと自分の手を添える。そんなビオラにジェレマイアは不思議そうだ。

 (――この状態に何の違和感も感じてないんだ。周りに人が来ないのが当たり前だったんだね)

「何でもないです。この後はすぐに帰られるんですか?」

「ああ。すまないな」

 会場から出て控え室に入ると、ジェレマイアはそっとビオラを抱きしめた。

「これでお前は俺の妻だ。なんだか、変な感じだな」

「私は急展開すぎてまだ信じられません」

 そう言うと2人で顔を見合わせ、笑った。

「城にある俺の執務室の隣に、お前の部屋を用意している。今日はここで過ごしてくれ」

 そう言ってビオラの手を取ると、手の甲にキスを落とした。

「本当は今日が初夜なんだがな。やらないことがあるというのに、この部屋から動きたくない」

 控え室のソファに座り込み、ジェレマイアが深くため息をつく。その隣にビオラが座ると、膝の上に頭をのせた。

 (――初夜!そっか。結婚したってことはそういうこともするよね)

 ジェレマイアへの恋心を認めてから、結婚までの展開が早すぎてビオラは結婚のその後がイメージできていなかった。そのため、初夜という言葉にドキドキして、今日はまだしないということに少し安堵した。

「初夜も我慢して働く夫に、ご褒美をくれないか?」

 ちょんちょん、と自分の唇を指さすジェレマイアに、少し頬を赤くしたビオラがくすくすと笑いながら唇をよせた。
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