お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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53話

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 ジェレマイアがライと共に、王都に戻ってきたのはビオラが捕まった次の日の夕方頃だった。真っ直ぐ城へと向かう彼を止めたライは、情報を集めてきますと一人で酒場に入って行った。

 (――ここは、前にもビオラと訪れた場所だな。くそ。人の心の声が多過ぎで、集中できない)

 興奮した王都の人々の心の声が聞こえてくるが、数が多すぎて正確な情報が分からない。

 サレオスが王になる、ビオラが捕まった。この2点だけは聞き取れたが、ビオラの処刑の日にちなど重要なことが、人によって考えていることが違うため特定できなかった。

 (――サレオスが王になれば、ビオラが殺されないと思っている者が多いな。誰もビオラが死んだと、思っている者はいない。それに、ここにこれだけ人がいるということは、処刑は今日ではないはずだ)

 落ち着け、と自身の心を鎮めるように深呼吸をする。フードをすっぽりと被ったジェレマイアは、軽く右手を挙げて影に合図を送った。が、誰も降りてこない。

 王都に戻ってもライ以外の影は、ジェレマイアのところには来ていない。おそらく、殺されたか捕まっているのだろう。

「ただいま戻りました」

「どうだった?」

「どうやら、ビオラちゃんの処刑は本当は今日行われる予定だったようです。が、戴冠式と同日に行われることになったそうです。それによって、王都の人々はサレオス殿下なら、ビオラちゃんを殺すことはないだろうと考えている人も多いですね」

「あいつは殺すさ。もしくは、殺したフリをして自分の部屋に囲うだろうな」

 ビオラを見た後の下卑たサレオスの妄想を思い出し、ぎりっとジェレマイアは奥歯を噛んだ。評判を気にするサレオスのことだ。この世から消えたと思われている女性を、周りの目を気にせず好きにできるなら喜んで囲うだろう。

「行くぞ」

「今は無理です。気持ちは分かりますが、このまま行っても殿下が捕まるだけです。不甲斐ないことに、僕以外の影も連絡が取れません」

「だったらどうするんだ!ビオラは、無実の罪で牢屋に入れられているんだぞ。そこで、何をされているかも分からないのに」

「公爵家に行きましょう。ビオラちゃんが捕まった時に、すぐに抗議に行ったようです。彼らなら、信頼できます」

ジェレマイアは自身の気持ちを落ち着かせるため、フードの裾を持ち、ぐっと被り直す。

 自分が牢にたくさんの人を投獄してきたため、中の環境が良くないことを知っていた。特に最下層は、ビオラのような若い女性には耐えられない場所だ。

 (――こんなに俺は無力だったのか。愛する女性一人も助けることができないなんて)

 遠くに見える王城を睨み、ジェレマイアは自身の不甲斐なさに悔しくて仕方がなかった。

「行きましょう」

「ああ」

 フードを被った男二人組は、悪い意味でよく目立つ。皇后やサレオスの配下に見つからないように、二人は急いでブルクハルト公爵家に向かった。









 公爵家に着くと、二人は門の裏側から侵入する。本来なら門を開けて貰えばいいが、門で身分を明かすわけにはいかなかった。

 屋敷の外壁を登り、バルコニーへ二人はたどり着く。ちょうど応接間が外から見え、中には公爵の後ろ姿があった。

「失礼するぞ」

 ノックもせずに窓を開けて入ると、ぎょっとしたように公爵が振り返る。そして、ジェレマイアの顔を見ると、立ち上がった。

「殿下。やはり、生きてらっしゃったか」

「ああ。こんなことじゃ死なない。サレオスや皇后も、俺が死んだとは思っていないだろう。俺がいない間に王位が手に入れば、あいつらの目的は達成されるからな」

「既にご存知かと思いますが、王が崩御され、サレオス殿下が次の王になると。私がいくら反対しても、他の貴族の同意や大神官による遺書の認定があって、覆せませんでした」

 謝罪のために頭を下げた公爵に、首を振ってジェレマイアが答える。

「王位はもういい。それよりも、ビオラと連絡を取る手段はないか?ビオラを連れて国から出ていく」

「会うことはできませんが、侍女を使えば連絡は取れます。唯一出入りしているのが、アルゼリア嬢の屋敷で働いていた、アイリーンという侍女でして。文でしたら届けることができます」

「アイリーンか」

 ジェレマイアが会ったアイリーンは、タキアナやサレオスと通ずることは考えておらず、信用できる人物だった。

「殿下。ビオラを救うつもりなら、チャンスは処刑の日だけでしょう」

「そうだな」

 それはジェレマイアも考えていたことだった。影もいないジェレマイアが、直接城に行っても皇后たちに捕まるだけだ。

 牢屋にたどり着くまでもなく、捕まるだけだろう。たどり着いたとしても、ビオラを連れて城から逃げるのは不可能だ。

 処刑の日。王都の広場で行われる処刑場にビオラが現れた時、チャンスは1回きりだ。

 公爵に渡された紙とペンを持ち、さらさらと文字を書いて折りたたむと公爵に渡した。

「これを頼む」

「承りました。それでは、どうやってビオラを救い出すのか。当日の計画を立てましょう」

 ジェレマイアは頷くと、公爵の前のソファーに腰を下ろした。
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