お嬢様のために暴君に媚びを売ったら愛されました!

近藤アリス

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54話

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 ビオラが閉じ込められた部屋には、日に3回だけ食事のトレイを持った者が出入りする。その役を買って出たのがアイリーンだった。

「ビオラ。ご飯持ってきたよ。あと、夜だから体を拭く布も持ってきた」

「アイリーン。ありがとう」

 ビオラのために用意されたご飯は、けして囚人に出すようなものではない。使用人の時に食べていたものと同等か、それよりも良いものに思えた。

 トレイには食器の隣に、清潔な濡れた布も置かれている。

「なんだか、王を殺した容疑者とは思えないね」

「え?ああ。ご飯ね。ここの料理を担当している料理人が、妹をクレアに殺された人なの。だから、ジェレマイア殿下に感謝していて、その妻であるビオラにも恩返しをしたいみたい」

「そうだったんだね」

 突然監禁され全く食欲がなかったが、アイリーンの話を聞いてスプーンを手に持った。

「ビオラ。袖に何かついてるよ」

「え?」

 アイリーンはそう言ってビオラの裾を触るフリをして、袖の中に紙を入れた。ビオラがスプーンを置いて顔を見ると、アイリーンがにこりと笑う。

「気のせいだったみたい。それじゃあ、また明日の朝に来るね」

 そう言うとビオラからの返事を待たずに、アイリーンが部屋から出て行った。

 ビオラは扉が閉まったのを確認すると、裾からそっとアイリーンが入れた紙を取り出す。

「ジェレマイア様からだ」

 そこには、ビオラの処刑の日が迫っていることと。その日に必ず助け出すから信じて欲しい、ということが書かれていた。

「よかった。無事だったんだ」

 ぎゅっと大切にその手紙を抱きしめ、ビオラは涙を流した。そして、小さく折りたたむと、枕の下にそっと隠す。

「よし。ジェレマイア様が信じろと言うなら、信じないとね!そのためにもご飯を食べて、備えよう」

 ビオラはぱしん、と頬叩くと、再びスプーンを手に取り、食事を口の中に押し込んだ。

 何とか完食すると、身体を拭いてベッドの中にもぐり込む。

 (――食べて。寝て。ジェレマイア様が助けてくれる日に備えよう)

 全く眠くなかったが、じっと目を閉じたままでいると、自然と眠りに落ちていった。








「あなた!見て。可愛い子。唇の形が私に似ているわ」

 笑顔で自分へと手を伸ばす女性に、ビオラは驚いて身体を動かそうとする。

 (――あれ。身体が自由に動かない)

「あうー」

「うふふ。ママって分かるのかしら?」

 木でできた家には隙間風が入り、決して裕福な家庭ではなさそうだった。それでも、赤ちゃんを見つめる女性は幸せいっぱいで、隣でそれを見る男性も微笑んでいる。

 どんどんどん!

 扉が何度も乱暴に叩かれ、驚き赤子を抱きしめる女性。父親の男性が立ち上がり、ドアの方へ向かう。

「ここか?おい。そいつをよこせ」

 中に入ってきたのは、どこかの貴族の兵士のようだった。ずかずかと土足で家の中に入ると、乱暴に女性から赤子を奪う。

「あう!」

 (――何この人!乱暴すぎる)

「何をするの!返してよ」

 女性が奪われた我が子を取り戻そうと男性に向かうと、容赦なく剣で切り付けられる。

「そんな!マリア!」

 妻を切られた男性が叫び、女性の元へ急ぐがその背中を別の兵士が切りつけた。

「ああ。私の可愛い子。どこに連れて行くの」

 床に倒れたままの女性が、赤子へ手を伸ばす。赤ちゃんの中に入ったビオラは、身体を動かそうとするがやはり動かない。

 すがるように手を伸ばす女性の方を見ず、赤ん坊を奪った男性は急いだように家を出た。

「早くカルカロフ伯爵様のところに連れて行こう」

 (――カルカロフ伯爵って聖女様のお父様だよね?あ!場面が変わった)

 カルカロフ伯爵の名前にビオラが反応すると、目の前の光景が急に変わった。今度は森の奥の小さな家が見える。目の前には中年の女性がベッドの上に座っており、ビオラに優しく微笑みかけている。

 (――そうだ。何で忘れていたんだろう。この人は私のお母さんだ)

「お母さん!大丈夫?おじさんに薬頼もうか?」

 ビオラは急に記憶を取り戻し、涙が出るような思いだった。そう、アルゼリアに拾ってもらう前は、ここでこの女性と住んでいたのだ。

 女性はビオラの言葉に首を振るだけ。彼女は舌を切られており、喋ることができなかった。玄関の近くにいつも立っている男性を除き、この家に近づく人はいない。

 その男性のことをおじさん、とビオラと呼んでおり、本当の名前は知らない。そして、ビオラ自身も話せない女性とおじさんとしか関わっていないため、名前で呼ばれたことがなかった。

 咳き込んだ女性が苦しそうに咳をすると、ビオラは背中をさする。そっと背中に手を当てて、女性を横にするとタライの方へ向かった。

 ベッドに横たわる女性は、祈るように手を組んで声の出ない口をもごもごと動かし、必死に何かを頼むように祈り出した。

 布をタライの水に突っ込んでしぼるとき、水に反射されて映った幼いビオラを見て驚いた。

 (――うそ。髪の色が違う)

 水面に映る一生懸命水を絞るビオラの髪は、見慣れた亜麻色ではなく漆黒だった。この色を見た後では、ロザリーンの髪色は濃い紫にしか思えないほど黒かった。

 もう繋がる。もう少しだ。

「どういうこと?」

 はっと目を開けると、ビオラは身体を起こして痛む頭を押さえた。さっきの夢は何だったのか。起きる直前に聞こえた声は?

「分からない。分からないけど」

 何となく。最後に聞こえた男性の声は、神の声ではないか。そうビオラは感じていた。
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