5 / 8
当日
しおりを挟む
デート当日。
本日を迎えるまで「婚約者がいる身でデート」は常識の範囲内であるか否か? という議題について熱い議論を交わした護衛トリオとヴァレンティーナ。
結局は、父親の「私が許可しているのだから問題ない」という一言で納得することとなった。
ヴァレンティーナは初のデートだったため、それはもう勉強した。常識の範囲内で。
――準備は万端。どこからでもかかってきやがれですわ。
迎えた当日。
ヴァレンティーナは高位貴族の令嬢らしく、美しい外出用のデイドレスを身に纏い、レオの迎えを待っていた。
そわそわする気持ちを持て余しながら自室で紅茶を飲んでいると、護衛からレオの到着を告げられた。
「いざ、出陣ですわ!」
そんな言葉を残して邸を出たヴァレンティーナ。
見送る護衛トリオは全員涙を流していたとかいなかったとか――。護衛のために隠れてついていくのにも関わらず。
辻馬車でデクスター侯爵家まで迎えに来たレオは、邸から現れたヴァレンティーナを見て心からの笑みを浮かべた。
――可愛い。可愛いが過ぎる。ほんと、高位貴族の令嬢でこんな子がいるなんて聞いてない……!
レオはヴァレンティーナを丁寧にエスコートし、一緒に馬車へと乗り込んだ。
「ヴァレンティーナ嬢、とお呼びしてもいいですか?」
「……ティーナ、で構いませんわ」
「……! ありがとうございます! ではティーナ、今日はいろいろお店をまわりながら会話の練習をしましょう。行き先は私にお任せください。そのほうがきっと楽しいので」
「ええ。わかりましたわ。よろしくお願いしますね、レオ」
「かしこまりました。では、最初は……」
✳︎✳︎✳︎
二人が最初に向かったのはドレスショップ。……といっても、平民にとっては憧れだけれど、貴族にとっては安価すぎる、そんな店だった。
お家柄、裏社会に精通しているヴァレンティーナはこういう店に全く忌避感はない。しかし、貴族の「常識」的には、訪れるべき場所ではないとヴァレンティーナは認識している。
いかにも貴族らしい貴族であるレオに連れて来られるのは想定外の店だった。
「あの、レオ……」
どうしてここへ来たのか、その意図を確認しようとしたところ、店のマダムに声をかけられた。
「あらー! ヴァレンティーナお嬢様! お久しぶりですねぇ」
マダムはにこにこと相好を崩してヴァレンティーナたちに歩み寄った。
「こんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは。マダム。ティーナとお知り合いですか?」
「あらあら! レオ様もご一緒でしたか」
マダムは一瞬心配そうな顔を見せるも、慌てて営業スマイルで気持ちを覆い隠して説明した。
「ヴァレンティーナ様は私どもの味方ですもの。恩恵を受けていない店はこの辺りにはありませんし。お貴族様たちには『悪女』などと言われているようですが、私たちには可愛いお嬢様でしかありません。幼い頃から成長を見守ってきましたからね。みんなヴァレンティーナお嬢様には幸せになってほしいと思ってるんですよ」
最後のほうは心なしか自分に非難の目が向けられ、釘を刺された気がしたレオである。
レオは平民や中間層が集まるこの界隈でイケメン貴族として名を馳せており、知らない者はいないほど有名だった。
特に、短期間で恋人を作って捨てたチャラい男として――。
――大丈夫。彼女のことは本気も本気。いや、今までも本気じゃなかったわけじゃないんだけどな……。
心の中で誰に対してなのかわからない言い訳をするレオである。
――それより、やはりヴァレンティーナは「貴族の常識」をよく知らないんだな。
ヴァレンティーナの常識は貴族の常識からちょっとズレていた。
それは、幼い頃から親について平民たちと関わることが多かったことに起因するのかもしれない。
――貴族が違法に搾取するとしたら、それは弱い立場の人間から……。だから、ここいるマダムたちみたいに助けた人たちからは慕われるが、取り締まる対象である貴族とは敵対してしまうわけだ。
「悪女……」
悪女とは誰に対してなのか? そう考えてレオは沈黙した。
――ティーナが今日着ているドレス。可愛いけど、ティーナが好きで着ている様子じゃないし、何より……。
ヴァレンティーナは知らなかったのだ。貴族が貴族らしい豪奢なドレスを着て外出するのは、お茶会や舞踏会を始めとする社交の場のみだということを。
カジュアルな外出の場合は貴族であっても社交用の豪華なドレスではなく、一人でも着られるようなワンピースを身につけることが主流なのだと。
――なら俺が、教えてあげる。
レオははりきってマダムに目配せした。
本日を迎えるまで「婚約者がいる身でデート」は常識の範囲内であるか否か? という議題について熱い議論を交わした護衛トリオとヴァレンティーナ。
結局は、父親の「私が許可しているのだから問題ない」という一言で納得することとなった。
ヴァレンティーナは初のデートだったため、それはもう勉強した。常識の範囲内で。
――準備は万端。どこからでもかかってきやがれですわ。
迎えた当日。
ヴァレンティーナは高位貴族の令嬢らしく、美しい外出用のデイドレスを身に纏い、レオの迎えを待っていた。
そわそわする気持ちを持て余しながら自室で紅茶を飲んでいると、護衛からレオの到着を告げられた。
「いざ、出陣ですわ!」
そんな言葉を残して邸を出たヴァレンティーナ。
見送る護衛トリオは全員涙を流していたとかいなかったとか――。護衛のために隠れてついていくのにも関わらず。
辻馬車でデクスター侯爵家まで迎えに来たレオは、邸から現れたヴァレンティーナを見て心からの笑みを浮かべた。
――可愛い。可愛いが過ぎる。ほんと、高位貴族の令嬢でこんな子がいるなんて聞いてない……!
レオはヴァレンティーナを丁寧にエスコートし、一緒に馬車へと乗り込んだ。
「ヴァレンティーナ嬢、とお呼びしてもいいですか?」
「……ティーナ、で構いませんわ」
「……! ありがとうございます! ではティーナ、今日はいろいろお店をまわりながら会話の練習をしましょう。行き先は私にお任せください。そのほうがきっと楽しいので」
「ええ。わかりましたわ。よろしくお願いしますね、レオ」
「かしこまりました。では、最初は……」
✳︎✳︎✳︎
二人が最初に向かったのはドレスショップ。……といっても、平民にとっては憧れだけれど、貴族にとっては安価すぎる、そんな店だった。
お家柄、裏社会に精通しているヴァレンティーナはこういう店に全く忌避感はない。しかし、貴族の「常識」的には、訪れるべき場所ではないとヴァレンティーナは認識している。
いかにも貴族らしい貴族であるレオに連れて来られるのは想定外の店だった。
「あの、レオ……」
どうしてここへ来たのか、その意図を確認しようとしたところ、店のマダムに声をかけられた。
「あらー! ヴァレンティーナお嬢様! お久しぶりですねぇ」
マダムはにこにこと相好を崩してヴァレンティーナたちに歩み寄った。
「こんにちは。お久しぶりです」
「こんにちは。マダム。ティーナとお知り合いですか?」
「あらあら! レオ様もご一緒でしたか」
マダムは一瞬心配そうな顔を見せるも、慌てて営業スマイルで気持ちを覆い隠して説明した。
「ヴァレンティーナ様は私どもの味方ですもの。恩恵を受けていない店はこの辺りにはありませんし。お貴族様たちには『悪女』などと言われているようですが、私たちには可愛いお嬢様でしかありません。幼い頃から成長を見守ってきましたからね。みんなヴァレンティーナお嬢様には幸せになってほしいと思ってるんですよ」
最後のほうは心なしか自分に非難の目が向けられ、釘を刺された気がしたレオである。
レオは平民や中間層が集まるこの界隈でイケメン貴族として名を馳せており、知らない者はいないほど有名だった。
特に、短期間で恋人を作って捨てたチャラい男として――。
――大丈夫。彼女のことは本気も本気。いや、今までも本気じゃなかったわけじゃないんだけどな……。
心の中で誰に対してなのかわからない言い訳をするレオである。
――それより、やはりヴァレンティーナは「貴族の常識」をよく知らないんだな。
ヴァレンティーナの常識は貴族の常識からちょっとズレていた。
それは、幼い頃から親について平民たちと関わることが多かったことに起因するのかもしれない。
――貴族が違法に搾取するとしたら、それは弱い立場の人間から……。だから、ここいるマダムたちみたいに助けた人たちからは慕われるが、取り締まる対象である貴族とは敵対してしまうわけだ。
「悪女……」
悪女とは誰に対してなのか? そう考えてレオは沈黙した。
――ティーナが今日着ているドレス。可愛いけど、ティーナが好きで着ている様子じゃないし、何より……。
ヴァレンティーナは知らなかったのだ。貴族が貴族らしい豪奢なドレスを着て外出するのは、お茶会や舞踏会を始めとする社交の場のみだということを。
カジュアルな外出の場合は貴族であっても社交用の豪華なドレスではなく、一人でも着られるようなワンピースを身につけることが主流なのだと。
――なら俺が、教えてあげる。
レオははりきってマダムに目配せした。
10
あなたにおすすめの小説
物置部屋に追いやられた伯爵令嬢ですが、公爵様に見初められて人生逆転しました〜妹の引き立て役だったのに、今では社交界の花と呼ばれています〜
丸顔ちゃん。
恋愛
伯爵家の令嬢セレナは、実母の死後、継母と義妹に虐げられて育った。
与えられた部屋は使用人以下の物置、食事は残飯、服はボロ。
専属侍女も与えられず、家の運営や帳簿管理まで押し付けられ、
失敗すれば鞭打ち――それが彼女の日常だった。
そんなある日、世間体のためだけに同行させられた夜会で、
セレナは公爵家の跡取りレオンと出会う。
「あなたの瞳は、こんな場所に閉じ込めていいものではない」
彼はセレナの知性と静かな強さに一瞬で心を奪われ、
彼女の境遇を知ると激怒し、家族の前で堂々と求婚する。
嫁ぎ先の公爵家で、セレナは初めて“人として扱われ”、
広い部屋、美味しい食事、優しい侍女たちに囲まれ、
独学で身につけた知識を活かして家の運営でも大活躍。
栄養と愛情を取り戻したセレナは、
誰もが振り返るほどの美しさを開花させ、
社交界で注目される存在となる。
一方、セレナを失った伯爵家は、
彼女の能力なしでは立ち行かず、
ゆっくりと没落していくのだった――。
虐げられた令嬢が、公爵の愛と自分の才能で幸せを掴む逆転物語。
『無能な聖女』と婚約破棄された私、実は伝説の竜を唯一従える『真の守護者』でした。~今さら国に戻れと言われても、もう遅いです~
スカッと文庫
ファンタジー
「魔力値たったの5だと? 貴様のような偽聖女、この国には不要だ!」
聖女として国を支えてきたエルナは、第一王子カイルから非情な婚約破棄を言い渡される。隣には、魔力値を偽装して聖女の座を奪った男爵令嬢の姿が。
実家からも見捨てられ、生きては戻れぬ『死の森』へ追放されたエルナ。しかし、絶望の中で彼女が目覚めさせたのは、人間には測定不能な【神聖魔力】だった。
森の奥で封印されていた伝説の銀竜を解き放ち、隣国の冷徹皇帝にその才能を見出された時、エルナを捨てた王国は滅びの危機に直面する――。
「今さら謝っても、私の結界はもうあなたたちのために張ることはありません」
捨てられた聖女が真の幸せを掴む、逆転劇がいま幕を開ける!
「地味ブス」と捨てられた私、文化祭の大型スクリーンで王子様の裏の顔を全校生に配信します
スカッと文庫
恋愛
「お前みたいな地味女、引き立て役にもならないんだよ」
眼鏡にボサボサ頭の特待生・澪(みお)は、全校生徒が見守る中、恋人だった学園の王子・ハルトから冷酷に捨てられた。
隣には、可憐な微笑みを浮かべる転校生・エマ。
エマの自作自演により「いじめの犯人」という濡れ衣まで着せられ、学園中から蔑まれる澪。
しかし、彼女を嘲笑う者たちはまだ知らない。
彼女が眼鏡の奥に、誰もが平伏す「真実の美貌」と、学園さえも支配できる「最強の背景」を隠していることを――。
「……ねぇ、文化祭、最高のステージにしてあげる」
裏切りへのカウントダウンが今、始まる。
スクリーンの裏側を暴き、傲慢な王子と偽りのヒロインを奈落へ突き落とす、痛快・学園下剋上ファンタジー!
薫る袖の追憶を捨て、月光の君に溺愛される
あとりえむ
恋愛
名門の姫君・茜は、夫の高彬に蔑まれ、寂れた離れで孤独な死を迎えた……
けれど意識が途切れた瞬間、視界を埋め尽くしたのは命を削って輝く緋色の夕映え。
目が覚めると、そこは高彬との婚約が決まったばかりの十五歳の春に戻っていた。
「二度目の人生では、誰のことも愛さず、ただあの方の幸せだけを願おう」
茜は、かつて自身の孤独を救ってくれた「最推し」の東宮・暁を、未来の知識で密かに支えることを決意する。
執着を捨て、元夫に無関心を貫く茜。
一方、高彬は自分に興味を失った茜の価値に気づき、今更遅い後悔に狂い始めるが……。
「見つけた。お前は俺の、運命の番だ」
正体を隠して東宮を支えていたはずが、冷徹な暁に見出され、逃げ場のないほどの執着と溺愛を注がれることに。
平安の雅な風情の中で描かれる、逆転と救済の物語。
最後は、二人が永遠の契りを交わす和歌で幕を閉じます。
身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)
柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!)
辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。
結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。
正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。
さくっと読んでいただけるかと思います。
【完結】魔力ゼロと捨てられた私を、王子がなぜか離してくれません ――無自覚聖女の王宮生活――
ムラサメ
恋愛
伯爵家で使用人同然に扱われてきた少女、エリナ。
魔力も才能もないとされ、義妹アリシアの影で静かに生きていた。
ある日、王国第一王子カイルの視察で運命が動き出す。
誰も気づかなかった“違和感”に、彼だけが目を留めて――。
冷遇妃ライフを満喫するはずが、皇帝陛下の溺愛ルートに捕まりました!?
由香
恋愛
冷遇妃として後宮の片隅で静かに暮らすはずだった翠鈴。
皇帝に呼ばれない日々は、むしろ自由で快適——そう思っていたのに。
ある夜、突然現れた皇帝に顎を掴まれ、深く口づけられる。
「誰が、お前を愛していないと言った」
守るための“冷遇”だったと明かされ、逃げ道を塞がれ、甘く囲われ、何度も唇を奪われて——。
これは冷遇妃のはずだった少女が、気づけば皇帝の唯一へと捕獲されてしまう甘く濃密な溺愛物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる