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悪女とは
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ヴァレンティーナは過去を思い出していた。
貴族たちから「悪女」と呼ばれ始めた頃のこと。ヴァレンティーナだけではない。父も母も、一家に属する人間はみんな悪人と呼ばれてしまう。
悲しかった。どうしてそう呼ばれるのか。考えて、勉強して、わかった。デクスター侯爵家は「貴族を取り締まる貴族」だからだと。
父は誰もやりたがらないことを国王陛下から請負い、正しく仕事をまっとうしている。だから、貴族から不当に搾取されていた人たちからは英雄扱いだ。ヴァレンティーナも可愛がってもらっていて、貴族の世界よりもそちらのほうが居心地がいいくらいだった。
けれど、ヴァレンティーナは貴族だった。同じ貴族たちからいくら罵られようと、彼らには絶対的に必要な貴族だ。なんて素晴らしい仕事なのだろうと思った。父を、デクスター侯爵家を誇りに思った。
だから、精一杯貴族をすることにした。貴族は「貴族らしさ」を重要視するから、貴族の「常識」に敏感になった。嫌われていたから、あまり効率よく学べなかったけれど、周りに言われた言葉によく耳を傾けて、貴族の自分を作っていった。
本当のヴァレンティーナは、可愛いものが大好きだった。
けれど、ヴァレンティーナが選ぶドレスは「悪女には似合わない」と言われた。仕方なく可愛いドレスは諦め、悪女らしいドレスを選ぶようになった。
でも、悪女と呼ばれるからといって、本当の悪女になってしまうのはだめだ。常識を守れる悪女になろう。弱い立場の人にいつでも手を差し伸べられるように――。
レオに連れられてきたドレスショップにて、ヴァレンティーナは着替えを要求された。女性にドレスを購入することがデートの鉄板であると学んで知っていたので、ヴァレンティーナは素直に頷いたのだけれど。
レオが「悪女……」と呟いていたので、てっきりまた悪女らしいドレスを着せられるのだろうかとしょんぼりしていたところ――。
着替えを終え、鏡に映った自分を見たヴァレンティーナは、ぎこちない笑みを浮かべた。
身に纏っているのは可愛いワンピース。
ヴァレンティーナには似合わないと言われた、ピンク色で、レースが付いていて、ふんわりしている女の子らしいワンピースだ。
――これは、常識はずれなのでは……?
「あらぁ。ヴァレンティーナお嬢様にぴったりですねぇ。お優しくて可愛らしいお嬢様らしさがワンピースの雰囲気と合っていてとても素敵です」
マダムにべた褒めされて気恥ずかしい。
――似合ってるって……。本当に?
ヴァレンティーナは恥ずかしくも、嬉しかった。自分が着たかったのはこんなワンピースだったと思い出したのだ。
「本当によく似合っている。可愛いよ。いつものドレスもいいけど、こっちのほうがもっといい」
「ええ、ええ。私もそう思いますよ、ヴァレンティーナお嬢様にはこういう雰囲気がぴったりです。あなた、意外とわかってるわね」
「私の目に狂いはないですよ。特にティーナのことに関してはね」
マダムとレオの会話から、このワンピースはレオが選んでくれたものだと知れて、驚いた。
同時に、レオから見たヴァレンティーナはこの可愛いワンピースが似合う女の子なのだと思うと、胸のあたりがくすぐったくなった。
「レオ……。ありがとう……」
――常識はずれって、幸せね。
感謝の気持ちを伝えなければと思えば思うほど、シンプルな言葉しか出てこなかった。
照れながらも喜んでいるヴァレンティーナは女性から見ても大変可愛い生き物だった。
マダムは不安になって横にいるチャラ男を見ると、予想以上に顔が溶けていた。
大切なヴァレンティーナお嬢様に変な男を近付けるわけにはいかないという一心で、マダムはチャラ男にこっそりと声をかけた。
「あなた、お嬢様に本気なんです?」
チャラ男もといレオは、溶けた顔を元に戻し、真剣な表情で宣言した。
「もちろん本気です。ティーナの気持ちさえこちらに向いてくれれば、結婚を申し込む準備はできています」
「無理矢理は絶対に許しませんよ」
「誓って無理強いはしません」
「悲しませたら許しませんよ」
「肝に銘じます」
「よし」
二人の間でそんな会話がなされていることなどつゆ知らず、ヴァレンティーナは鏡を覗き込み、そこに映った理想通りのワンピースを着る自分の姿を嬉しそうに眺めていたのだった。
貴族たちから「悪女」と呼ばれ始めた頃のこと。ヴァレンティーナだけではない。父も母も、一家に属する人間はみんな悪人と呼ばれてしまう。
悲しかった。どうしてそう呼ばれるのか。考えて、勉強して、わかった。デクスター侯爵家は「貴族を取り締まる貴族」だからだと。
父は誰もやりたがらないことを国王陛下から請負い、正しく仕事をまっとうしている。だから、貴族から不当に搾取されていた人たちからは英雄扱いだ。ヴァレンティーナも可愛がってもらっていて、貴族の世界よりもそちらのほうが居心地がいいくらいだった。
けれど、ヴァレンティーナは貴族だった。同じ貴族たちからいくら罵られようと、彼らには絶対的に必要な貴族だ。なんて素晴らしい仕事なのだろうと思った。父を、デクスター侯爵家を誇りに思った。
だから、精一杯貴族をすることにした。貴族は「貴族らしさ」を重要視するから、貴族の「常識」に敏感になった。嫌われていたから、あまり効率よく学べなかったけれど、周りに言われた言葉によく耳を傾けて、貴族の自分を作っていった。
本当のヴァレンティーナは、可愛いものが大好きだった。
けれど、ヴァレンティーナが選ぶドレスは「悪女には似合わない」と言われた。仕方なく可愛いドレスは諦め、悪女らしいドレスを選ぶようになった。
でも、悪女と呼ばれるからといって、本当の悪女になってしまうのはだめだ。常識を守れる悪女になろう。弱い立場の人にいつでも手を差し伸べられるように――。
レオに連れられてきたドレスショップにて、ヴァレンティーナは着替えを要求された。女性にドレスを購入することがデートの鉄板であると学んで知っていたので、ヴァレンティーナは素直に頷いたのだけれど。
レオが「悪女……」と呟いていたので、てっきりまた悪女らしいドレスを着せられるのだろうかとしょんぼりしていたところ――。
着替えを終え、鏡に映った自分を見たヴァレンティーナは、ぎこちない笑みを浮かべた。
身に纏っているのは可愛いワンピース。
ヴァレンティーナには似合わないと言われた、ピンク色で、レースが付いていて、ふんわりしている女の子らしいワンピースだ。
――これは、常識はずれなのでは……?
「あらぁ。ヴァレンティーナお嬢様にぴったりですねぇ。お優しくて可愛らしいお嬢様らしさがワンピースの雰囲気と合っていてとても素敵です」
マダムにべた褒めされて気恥ずかしい。
――似合ってるって……。本当に?
ヴァレンティーナは恥ずかしくも、嬉しかった。自分が着たかったのはこんなワンピースだったと思い出したのだ。
「本当によく似合っている。可愛いよ。いつものドレスもいいけど、こっちのほうがもっといい」
「ええ、ええ。私もそう思いますよ、ヴァレンティーナお嬢様にはこういう雰囲気がぴったりです。あなた、意外とわかってるわね」
「私の目に狂いはないですよ。特にティーナのことに関してはね」
マダムとレオの会話から、このワンピースはレオが選んでくれたものだと知れて、驚いた。
同時に、レオから見たヴァレンティーナはこの可愛いワンピースが似合う女の子なのだと思うと、胸のあたりがくすぐったくなった。
「レオ……。ありがとう……」
――常識はずれって、幸せね。
感謝の気持ちを伝えなければと思えば思うほど、シンプルな言葉しか出てこなかった。
照れながらも喜んでいるヴァレンティーナは女性から見ても大変可愛い生き物だった。
マダムは不安になって横にいるチャラ男を見ると、予想以上に顔が溶けていた。
大切なヴァレンティーナお嬢様に変な男を近付けるわけにはいかないという一心で、マダムはチャラ男にこっそりと声をかけた。
「あなた、お嬢様に本気なんです?」
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「もちろん本気です。ティーナの気持ちさえこちらに向いてくれれば、結婚を申し込む準備はできています」
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「肝に銘じます」
「よし」
二人の間でそんな会話がなされていることなどつゆ知らず、ヴァレンティーナは鏡を覗き込み、そこに映った理想通りのワンピースを着る自分の姿を嬉しそうに眺めていたのだった。
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