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第三章 偽装婚約?
婚約パーティー②
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――ん? なんか、私注目浴びてる?
会場の人たちの表情を確認していくと、みんな私の姿を視界に収めたあと、その目が驚きに見開かれる。
ルイ様の麗しさに驚いているのかと思ったが、どうやら多くの人が驚いているのは私の姿を捉えたあとなので、やはり私が原因のようだ。
――まあそうよね。まだ王太子妃になったわけでもないのにこんなマントを羽織っているのだもの。私でもびっくりするわ。
そんなことを思っていた私だったけれど……。
会場の奥まで歩みを進め、国王陛下と王妃陛下が待機している場所にたどり着いて王妃陛下のお姿を拝見したとき、私の目も多くの人と同様に見開かれた。
ちなみに、本来ならば両陛下は最後に入場するのだけれど「最後に入場するのは主役じゃなくちゃ!」という王妃陛下の鶴の一声で、今日に限ってはその順番が逆転していた。
そういった事情で一足先に会場入りしていた王妃陛下は、今日のために張り切って準備したと嬉しそうに語っていたドレス姿をみんなに存分に披露していたに違いなくて……。
――同じだわ……!
みんなが驚いているのも無理はない。
多分この会場にいる誰よりも驚愕に心の目を限界まで見開いたのは私だと断言できる。社交用の鉄壁の仮面を装着しているので、表情には出なかったと思うけれど。
私が一欠片も想像していなかった光景がそこにはあった。
――私のドレスと全く同じデザイン……。しかも色は……。
おそらくルイ様が着ているものと同じサファイアブルーの生地を使ったドレスだった。
私と王妃陛下は色違いのお揃いドレスを身に纏っていたのだ。
――嬉しいけど、でも、なんで……?
謎すぎて思考の海に溺れそうになっていると、ルイ様の手に現実へと引っ張り上げられた。
「リリー、ほら。いくよ」
どうやら考え込んでいる間に両陛下への挨拶は終わったらしい。まさかの出来事にいきなり失敗してしまった。無意識にも身体は動いていたように思うけれど、私の対応は大丈夫だっただろうか? 「私、ヘマしていませんよね?」という確認の気持ちを込めて隣のルイ様の瞳をじっと見つめると、ルイ様はそんな私の視線に気づき、愛おしくて仕方がないというような微笑みで応じてくれた。
――ルイ様は基本私に甘いけれど、本当にだめなときは叱ってくれると思うから、大丈夫なはず。たぶん……。それにしても。
ルイ様の婚約者の演技が堂に入りすぎていて私の心臓は先ほどから非常に忙しくしている。
このままでは道半ばで息切れしてしまうのではないかと心配になるほどの働きようだ。
でも、こればかりは私が制御することは不可能だからどうか力の限り頑張ってほしい――と自分の心臓ながら切に願う。
私はまだ状況を把握しきれていなくて内心冷や汗をかいていたが、ルイ様の隣に立つためには今日、ここで役に立てることをアピールする必要があることは冷静に理解できていた。
――これはそもそも私の悪評を覆すために結ばれたいわば偽の婚約。この場を設けるのにかかった多大なる労力と費用に対して最大限のリターンを生み出さなければ役に立つことをアピールできないわ。
きっと王妃陛下と私のドレスがお揃いのデザインになっているのも、私の立場を守ろうとして考え出された策なのだろうと私は考えた。
いくら国のためと言っても、婚約破棄したばかりの令嬢を王太子の婚約者として据えるなど前代未聞だ。私が周りから大きな反感を買うことを懸念して、王室が心から私を歓迎して大切にしていることを明確に示す必要があったのだろう。
ルイ様がこうして私を誰よりも大切で愛おしい存在のように扱ってくれるのもその一環。
ただ、王室としてのメリットは……大いにあると言われたけれど、本当にあるのだろうかと疑問が残る。
確実にわかっているのは、このような対応は本当に私のことを思ってくれていないとできることではないということ。
現に、元婚約者は私がいくら『悪女』と呼ばれて蔑まれようと、私を守ろうとはしてくれなかった。むしろそれをも利用して自分の望む展開へ導こうとしていたように思う。だから彼の「リリアーヌを愛している」という言葉を信じられなかったのだ。
けれど、ルイ様や、王室に関わる人たちは違う。こんなにも心血を注いで私を守ろうとしてくれている。たとえ国を導いていくために必要なことで、それがたまたま私に関わることだっただけなのだとしても、彼らが私に向けてくれる好意や思いやりには血が通っていると感じられるのだ。
「申し訳ない」と恐縮する私に、彼らは笑顔を浮かべて言うのだ。「気にしなくていい。何も考えずに好意だけ受け取ってくれればいい」と。
だから私は、必ず彼らの想いに報いようと心に決めている。
――優しさは優しさで。思いやりは思いやりで。もらったものをもらいっぱなしになんてしてあげないんだから。
たとえもらったものが大きすぎて同水準のものをお返しできなかったとしても、その思いを相手に伝える努力はするべきだと思うのだ。
とにかく、クラウスのためにと必死に生きてきた中で得た社交界のノウハウをここで活かすことができそうだ。
――ルイ様。私、ルイ様のために頑張ります。
私が決意の気持ちを込めた瞳をルイ様に向けると、見つめられた彼は眩しそうに目を細めて私の額にキスをした。
これも私を大切にしているアピールの一環なのだろうか……と若干寂しく思いつつも、照れながら素直に喜ぶ単純な私がそこにはいて――。
傍から見たらお互いを愛おしく想い合っている恋人同士にしか見えない二人の背中を、国王陛下と王妃陛下が優しい笑みで見送っていた。
会場の人たちの表情を確認していくと、みんな私の姿を視界に収めたあと、その目が驚きに見開かれる。
ルイ様の麗しさに驚いているのかと思ったが、どうやら多くの人が驚いているのは私の姿を捉えたあとなので、やはり私が原因のようだ。
――まあそうよね。まだ王太子妃になったわけでもないのにこんなマントを羽織っているのだもの。私でもびっくりするわ。
そんなことを思っていた私だったけれど……。
会場の奥まで歩みを進め、国王陛下と王妃陛下が待機している場所にたどり着いて王妃陛下のお姿を拝見したとき、私の目も多くの人と同様に見開かれた。
ちなみに、本来ならば両陛下は最後に入場するのだけれど「最後に入場するのは主役じゃなくちゃ!」という王妃陛下の鶴の一声で、今日に限ってはその順番が逆転していた。
そういった事情で一足先に会場入りしていた王妃陛下は、今日のために張り切って準備したと嬉しそうに語っていたドレス姿をみんなに存分に披露していたに違いなくて……。
――同じだわ……!
みんなが驚いているのも無理はない。
多分この会場にいる誰よりも驚愕に心の目を限界まで見開いたのは私だと断言できる。社交用の鉄壁の仮面を装着しているので、表情には出なかったと思うけれど。
私が一欠片も想像していなかった光景がそこにはあった。
――私のドレスと全く同じデザイン……。しかも色は……。
おそらくルイ様が着ているものと同じサファイアブルーの生地を使ったドレスだった。
私と王妃陛下は色違いのお揃いドレスを身に纏っていたのだ。
――嬉しいけど、でも、なんで……?
謎すぎて思考の海に溺れそうになっていると、ルイ様の手に現実へと引っ張り上げられた。
「リリー、ほら。いくよ」
どうやら考え込んでいる間に両陛下への挨拶は終わったらしい。まさかの出来事にいきなり失敗してしまった。無意識にも身体は動いていたように思うけれど、私の対応は大丈夫だっただろうか? 「私、ヘマしていませんよね?」という確認の気持ちを込めて隣のルイ様の瞳をじっと見つめると、ルイ様はそんな私の視線に気づき、愛おしくて仕方がないというような微笑みで応じてくれた。
――ルイ様は基本私に甘いけれど、本当にだめなときは叱ってくれると思うから、大丈夫なはず。たぶん……。それにしても。
ルイ様の婚約者の演技が堂に入りすぎていて私の心臓は先ほどから非常に忙しくしている。
このままでは道半ばで息切れしてしまうのではないかと心配になるほどの働きようだ。
でも、こればかりは私が制御することは不可能だからどうか力の限り頑張ってほしい――と自分の心臓ながら切に願う。
私はまだ状況を把握しきれていなくて内心冷や汗をかいていたが、ルイ様の隣に立つためには今日、ここで役に立てることをアピールする必要があることは冷静に理解できていた。
――これはそもそも私の悪評を覆すために結ばれたいわば偽の婚約。この場を設けるのにかかった多大なる労力と費用に対して最大限のリターンを生み出さなければ役に立つことをアピールできないわ。
きっと王妃陛下と私のドレスがお揃いのデザインになっているのも、私の立場を守ろうとして考え出された策なのだろうと私は考えた。
いくら国のためと言っても、婚約破棄したばかりの令嬢を王太子の婚約者として据えるなど前代未聞だ。私が周りから大きな反感を買うことを懸念して、王室が心から私を歓迎して大切にしていることを明確に示す必要があったのだろう。
ルイ様がこうして私を誰よりも大切で愛おしい存在のように扱ってくれるのもその一環。
ただ、王室としてのメリットは……大いにあると言われたけれど、本当にあるのだろうかと疑問が残る。
確実にわかっているのは、このような対応は本当に私のことを思ってくれていないとできることではないということ。
現に、元婚約者は私がいくら『悪女』と呼ばれて蔑まれようと、私を守ろうとはしてくれなかった。むしろそれをも利用して自分の望む展開へ導こうとしていたように思う。だから彼の「リリアーヌを愛している」という言葉を信じられなかったのだ。
けれど、ルイ様や、王室に関わる人たちは違う。こんなにも心血を注いで私を守ろうとしてくれている。たとえ国を導いていくために必要なことで、それがたまたま私に関わることだっただけなのだとしても、彼らが私に向けてくれる好意や思いやりには血が通っていると感じられるのだ。
「申し訳ない」と恐縮する私に、彼らは笑顔を浮かべて言うのだ。「気にしなくていい。何も考えずに好意だけ受け取ってくれればいい」と。
だから私は、必ず彼らの想いに報いようと心に決めている。
――優しさは優しさで。思いやりは思いやりで。もらったものをもらいっぱなしになんてしてあげないんだから。
たとえもらったものが大きすぎて同水準のものをお返しできなかったとしても、その思いを相手に伝える努力はするべきだと思うのだ。
とにかく、クラウスのためにと必死に生きてきた中で得た社交界のノウハウをここで活かすことができそうだ。
――ルイ様。私、ルイ様のために頑張ります。
私が決意の気持ちを込めた瞳をルイ様に向けると、見つめられた彼は眩しそうに目を細めて私の額にキスをした。
これも私を大切にしているアピールの一環なのだろうか……と若干寂しく思いつつも、照れながら素直に喜ぶ単純な私がそこにはいて――。
傍から見たらお互いを愛おしく想い合っている恋人同士にしか見えない二人の背中を、国王陛下と王妃陛下が優しい笑みで見送っていた。
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