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序章
第6話:旅立ち
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朝の日差しが清廉に泉を照らす。泉には二人の男女の姿。
一人は泉から少し離れたところで呆然と泉の中にいる一人を見つめ、もう一人は泉の中で呆然と自分を見つめる相手を見つめている。泉の中にいる少女は全裸だった。
朝日と水しぶきを受けて煌めく肢体が見つめる少年の視線を捉えて離さない。
二人はしばし呆然と見つめ合ったが、ややあって少女――ドラセナがハッと我を取り戻し「きゃああああああああ!」と叫んだ。
叫び声と共に両腕で胸と股間を覆い隠す。同じ時期に我を取り戻した少年――ナハトも慌てて顔を横に向けて視線をそらす。
「ナ、ナ、ナ、ナハト……! どうして……?」
羞恥に顔を真っ赤に染めたドラセナが訊ねる。
ナハトは顔をそらしたまま、「い、いや……ちょっと散歩に……」と答える。
覗きの言い訳の一つでもしようと、チラ、と再び視線をドラセナの方に向けかけ、「こっち見ないで!」との叫び声に慌てて顔をそらす。ドラセナは裸身を縮こめて、身を隠そうとしているようだった。
「な、な、なんでナハトがここにいるの……っ!?」
「い、いや、だから、散歩だって……イヴから散歩ならここに綺麗な泉があるからそこで顔でも洗ったらどうかって……」
「え……?」
ドラセナの声に驚愕と困惑の色が混ざる。
「そんな……わたし、イヴに水浴びしたい、って言ってこの泉を教えられたのに……」
「なんだって……?」
その言葉にナハトも困惑する。
イヴはドラセナはまだ部屋で寝ていると言った。
そのイヴがドラセナに水浴びのためにこの泉を勧めて、ナハトにもまた同じ泉に行くように勧めた、ということか。
「ひょっとして俺たちイヴにはめられた……?」
ナハトは呟く。
そうとしか考えられなかった。
ドラセナに水浴びの場所を勧めつつ、ナハトがその場を覗いてしまうように仕向ける。 真面目そうな彼女に意外と悪戯好きな一面があるのだな、と意外に思いつつもなんてことをさせてくれたんだ、という怒りが込み上げてくる。
「と、とにかく、わざとじゃない。俺は覗こうと思ってドラセナの裸を見た訳じゃ……」
「ッ! その話題はもう出さないで!」
「は……はい……」
裸、という単語についさっきのことを思い出したのだろう。ドラセナは彼女らしからぬ強い口調でナハトの言葉を遮る。
「と、とにかく……服を着るからナハトはあっち、行ってて。イヴには後で文句を言う」
出会って間もないとはいえ、あまり自分の意見を口に出すことが少ないと思う彼女にしては珍しく有無を言わせぬ口調だった。
その言葉に逆らえるはずもなく、ナハトはドラセナの方を見ないように注意しながらその場を離れた。
「あはは……ナハト様、ドラセナさん。すみません。ちょっとした悪戯心だったんです」
そして、服を着たドラセナと二人で気まずい思いをしながら泉からイヴの家に戻り、彼女を問い詰めると、イヴは笑みを浮かべながらそんなことを言った。
「お二人が仲良くなれるお力添えができればいいかな~、と思いまして」
「あれで仲が悪くなることはあっても、仲良くなることは絶対ないと思うぞ」
必死で取り繕っている様子のイヴの言葉をナハトが一刀両断するとイヴの笑顔が凍り付く。その果てに「すみません」と言った。今度は心からの謝罪のようだった。
「ナハト様、ドラセナさん。本当にすみませんでした……」
シュンと小さくなって謝罪するイヴに「もういい」とドラセナは声をかけた。
「もう気にしていない。イヴも悪いけど、もっと悪いのは覗いたナハトの方だから」
「俺の方が悪いの!?」
それは少し納得しかねる。ナハトが声を上げるとドラセナはジト目でナハトを見上げた。
「ナハト。ジロジロ見てた。すぐ目をそらせばいいのに、チラチラ見てた。……エッチ」
「そ、そんなにジロジロ見てたか……」
頬を膨らませて不機嫌アピールをするドラセナを前に何も言えなくなってしまう。気まずい沈黙が続き、「……悪かったよ」とナハトは呟いた。
「ホントに悪いと思ってる?」
「ああ、心から」
「ん……分かった」
ドラセナは不機嫌そうな表情を崩し、無表情に戻る。
「それじゃあ今回は特別に許してあげる。でも、次に同じことしたら、もう許さない」
「流石に次はないと思うが……まぁ、許してくれてありがとう……」
しどろもどろのナハトとツンとしたドラセナ。そんな二人を見ながら、イヴはクスリ、と笑った。
「よかったですね、ナハト様」
「よかった、って……元はあんたのせいだろ?」
「いえ、そういうことじゃありませんよ」
何故かイヴは嬉しそうだ。ナハトの元に近付いてくるとドラセナに聞こえないように小声で耳打ちする。
「ドラセナさんがこんなに感情を表に出すなんて、初めてじゃないですか」
あ……、と思った。そういえばそうだ。
ドラセナと出会ってからというものの、短い期間だが、彼女はこんな風に我を見せることはなかった。それを見られることができたということは彼女との距離は少し縮まった、ということなのだろうか? それは、たしかに良いことだと言える。
「やり方は強引すぎると思うけどな」
とはいえ、このやり方を完全に許す訳にもいかず、ナハトはイヴを軽く睨んだ。それでも、イヴは微笑んでいた。
それから、イヴが用意してくれた朝食を食べながら、これから先のことについて話を進める。
これからこの三人でこの国の首都を目指すのはいい。だが、ナハトには気になることがあった。「ところでさ」と話を切り出す。
「首都を目指すのはいいが、金はどうするんだ? 旅をするってくらいだから結構かかるだろ?」
そのことだ。ナハトは異世界から召喚されて来た身、この世界の通貨など持っていないし、逃げ出してきたばかりのドラセナも持っていないだろう。
イヴは一人で暮らしているくらいだから全くの無一文ということはないだろうが、こんな辺境の地で慎ましやかに暮らしている身、そこまで大金を持っているとは思えない。
ナハトの言葉にイヴは少し考え込んだ様子を見せてから答えた。
「そうですね。私は普段は山菜採りをしてそれを売りさばいて日々の生計を立てているのですが……ここから首都まで旅をするとなると心許ないのもたしかです」
「だろ? どうするんだ?」
「多少、危険な手段ですが、想獣狩りをしましょう」
想獣狩り? 初めて聞く単語だった。
その言葉も想獣という存在も。想獣ってなんだ、とナハトが聞くと、「ラプラニウム鉱石を体内に含み変異した動物のことです」とイヴは答える。
「ラプラニウム鉱石はそれ自体が大きな想力を持ちます。ですからそれを取り込んだ獣は強力な力を持ち、凶暴化しているものも少なくありません」
「RPGで言う魔物みたいなものか?」
「あーるぴーじー?」
ドラセナとイヴに怪訝そうな目で見られる。いや、なんでもない、とナハトは首を横に振った。
「ですが体内にラプラニウム鉱石を取り込んでいるということは倒せばその死骸から鉱石を入手できるということです。ラプラニウム鉱石は幻想具の材料になるくらいですからどこでも高価で取り引きをされています。他にも想力機という想力で動くカラクリなどの原動力にも用いられていますしね」
そこまで聞けばナハトにも合点が行った。
「なるほど。その想獣ってヤツを狩ってラプラニウム鉱石を手に入れて、それを売りさばいて旅の資金に当てようって訳か」
「そういうことになりますね」
ナハトの言葉にイヴは頷く。
「想獣は強力ですが聖桜剣を持つナハト様の敵ではないでしょう」
「そうだな……。よし、その案で行こう」
他に有力な手も思い当たらない以上、悩むまでもないことだった。「ドラセナもそれでいいよな?」とナハトがドラセナの方を向くとドラセナもコクリ、と頷く。
「それでしたらまずは鉱山都市ラグリアを目指して行くのが一番でしょうね。方向的にも首都に向かう方向ですし、あそこはラプラニウム鉱石の取り引きが活発な地域ですから」
大体、旅の方針が見えてきた。他に異論が出る訳もなくそのまま朝食は終了し、みんなして旅の準備に入る。
聖桜剣が収まった鞘を手にどうしたものか、と悩んだナハトだったが、イヴが鞘を腰に巻きつけるのに使えそうなベルトを用意してくれたので、ありがたくそれを利用することにした。現代日本の現代衣装に腰にベルトでかけられた剣。ミスマッチなものを感じつつも、悪くない感触だった。
イヴも僅かながらの資金と数日分の食料をバックに詰めて背負う。勿論、治癒杖キュアも手にする。ドラセナは何も準備をする必要はなかった。
そうして全員の旅の準備が完了し、出立の時を迎える。「よし、そんじゃ、その鉱山都市ラグリアってところ目指して、出発だ」とナハトが声をかける。
無意識にこの旅のリーダーを務めるのは自分だと言う思いがあった。
「うん、ナハト」
「行きましょう、ナハト様」
ドラセナとイヴも頷く。それがナハトたちの長い旅の始まりだった。
イヴの家からそう遠く離れた場所ではない平地。
一人の少女が立っている。
それだけなら何もおかしい話ではない。
だが、問題はその少女の周りに二十人近くの人間が地に伏していることだ。
全員、武器と革鎧で武装した傭兵――ゴルドニアース傭兵団のメンバーである。そして、つい先日、逃げ出したドラセナの追撃に駆り出され、ナハトに叩き伏せられた面々でもあった。
ナハトから逃げ出した面々であったが素直にゴルドニアースの本隊に帰る訳にも行かなかった。何分、ヴァルチザンまで連れて行く予定の少女には逃げられ、追いかけた自分たちも一人のガキに叩き伏せられた。
こんなことゴルドニアース本隊に報告する訳にはいかない。かといってもう一度、あの少女を狙っても聖桜剣を手にした桜の勇者がいる限り勝ち目はない。
にっちもさっちも行かず、平地をうろついていた傭兵たちは一人の少女が無防備に歩いているのを見つけたのだ。
進退窮まり、追い詰められた傭兵たちがその少女を襲い、身ぐるみはぎ、犯してやろうと考えるのも無理なき話であった。
傭兵たちは少女に襲いかかった。そして、返り討ちにあった。それが今、この地に倒れ伏している人間たちの事情である。
「なんだなんだ? お前ら弱いなー」
少女が呆れたように呟く。
褐色の肌があらわになる露出度の高い格好をした幼い少女であった。
乱雑に伸びる短めの白い髪、輝く黄色い瞳、マフラーを首に纏い、薄い胸甲を付けてはいるもののへそはあらわになっており、下半身はベルトの下にビキニパンツでそれを覆う薄くて短い布、足を纏う銀色の具足しかなく健康的な褐色の太ももが見て取れる。両手には銀色のガントレットを装備していた。
少女は倒れている傭兵の一人に声をかける。
「お前ら、なんでわたしを襲ったりしたんだ?」
「ひ、ひぃっ……!」
しかし、すっかり少女を恐怖の対象としている傭兵とは会話が通じない。
「な、なんだ、お前も桜の勇者なのかっ!?」
傭兵はそんな素っ頓狂なことを口にする。二十人の人間で一人に襲いかかり、敗れた。それが二度も続いた。そして、その一回目の相手は桜の勇者だった。
そんな連想から口に出た的外れな言葉だった。しかし、その言葉は少女の注意を惹いたようだった。「ん……?」と興味深そうに口にする。
「桜の勇者? 聖桜剣を抜いたヤツが現れたのか!?」
少女は恐慌状態に陥っている傭兵からなんとか桜の勇者について、いつかの情報を得ることに成功すると、後は興味はないとばかりに倒れ伏す傭兵たちを放置して歩き出した。その頬は笑みに歪んでいた。
「そっか、そっか、桜の勇者がついに現れたのか~。戦ってみたいな~。どれくらい強いのかな~?」
歩きながら、上機嫌に呟く。聞いた話によると桜の勇者が現れたのはつい先日。ならば聖域からそう離れた位置には移動していまい。相見えることもできるはずだ。
少女は、イーニッド・アディンセルはニヤリと笑い、まだ見ぬ桜の勇者に思いを馳せた。
一人は泉から少し離れたところで呆然と泉の中にいる一人を見つめ、もう一人は泉の中で呆然と自分を見つめる相手を見つめている。泉の中にいる少女は全裸だった。
朝日と水しぶきを受けて煌めく肢体が見つめる少年の視線を捉えて離さない。
二人はしばし呆然と見つめ合ったが、ややあって少女――ドラセナがハッと我を取り戻し「きゃああああああああ!」と叫んだ。
叫び声と共に両腕で胸と股間を覆い隠す。同じ時期に我を取り戻した少年――ナハトも慌てて顔を横に向けて視線をそらす。
「ナ、ナ、ナ、ナハト……! どうして……?」
羞恥に顔を真っ赤に染めたドラセナが訊ねる。
ナハトは顔をそらしたまま、「い、いや……ちょっと散歩に……」と答える。
覗きの言い訳の一つでもしようと、チラ、と再び視線をドラセナの方に向けかけ、「こっち見ないで!」との叫び声に慌てて顔をそらす。ドラセナは裸身を縮こめて、身を隠そうとしているようだった。
「な、な、なんでナハトがここにいるの……っ!?」
「い、いや、だから、散歩だって……イヴから散歩ならここに綺麗な泉があるからそこで顔でも洗ったらどうかって……」
「え……?」
ドラセナの声に驚愕と困惑の色が混ざる。
「そんな……わたし、イヴに水浴びしたい、って言ってこの泉を教えられたのに……」
「なんだって……?」
その言葉にナハトも困惑する。
イヴはドラセナはまだ部屋で寝ていると言った。
そのイヴがドラセナに水浴びのためにこの泉を勧めて、ナハトにもまた同じ泉に行くように勧めた、ということか。
「ひょっとして俺たちイヴにはめられた……?」
ナハトは呟く。
そうとしか考えられなかった。
ドラセナに水浴びの場所を勧めつつ、ナハトがその場を覗いてしまうように仕向ける。 真面目そうな彼女に意外と悪戯好きな一面があるのだな、と意外に思いつつもなんてことをさせてくれたんだ、という怒りが込み上げてくる。
「と、とにかく、わざとじゃない。俺は覗こうと思ってドラセナの裸を見た訳じゃ……」
「ッ! その話題はもう出さないで!」
「は……はい……」
裸、という単語についさっきのことを思い出したのだろう。ドラセナは彼女らしからぬ強い口調でナハトの言葉を遮る。
「と、とにかく……服を着るからナハトはあっち、行ってて。イヴには後で文句を言う」
出会って間もないとはいえ、あまり自分の意見を口に出すことが少ないと思う彼女にしては珍しく有無を言わせぬ口調だった。
その言葉に逆らえるはずもなく、ナハトはドラセナの方を見ないように注意しながらその場を離れた。
「あはは……ナハト様、ドラセナさん。すみません。ちょっとした悪戯心だったんです」
そして、服を着たドラセナと二人で気まずい思いをしながら泉からイヴの家に戻り、彼女を問い詰めると、イヴは笑みを浮かべながらそんなことを言った。
「お二人が仲良くなれるお力添えができればいいかな~、と思いまして」
「あれで仲が悪くなることはあっても、仲良くなることは絶対ないと思うぞ」
必死で取り繕っている様子のイヴの言葉をナハトが一刀両断するとイヴの笑顔が凍り付く。その果てに「すみません」と言った。今度は心からの謝罪のようだった。
「ナハト様、ドラセナさん。本当にすみませんでした……」
シュンと小さくなって謝罪するイヴに「もういい」とドラセナは声をかけた。
「もう気にしていない。イヴも悪いけど、もっと悪いのは覗いたナハトの方だから」
「俺の方が悪いの!?」
それは少し納得しかねる。ナハトが声を上げるとドラセナはジト目でナハトを見上げた。
「ナハト。ジロジロ見てた。すぐ目をそらせばいいのに、チラチラ見てた。……エッチ」
「そ、そんなにジロジロ見てたか……」
頬を膨らませて不機嫌アピールをするドラセナを前に何も言えなくなってしまう。気まずい沈黙が続き、「……悪かったよ」とナハトは呟いた。
「ホントに悪いと思ってる?」
「ああ、心から」
「ん……分かった」
ドラセナは不機嫌そうな表情を崩し、無表情に戻る。
「それじゃあ今回は特別に許してあげる。でも、次に同じことしたら、もう許さない」
「流石に次はないと思うが……まぁ、許してくれてありがとう……」
しどろもどろのナハトとツンとしたドラセナ。そんな二人を見ながら、イヴはクスリ、と笑った。
「よかったですね、ナハト様」
「よかった、って……元はあんたのせいだろ?」
「いえ、そういうことじゃありませんよ」
何故かイヴは嬉しそうだ。ナハトの元に近付いてくるとドラセナに聞こえないように小声で耳打ちする。
「ドラセナさんがこんなに感情を表に出すなんて、初めてじゃないですか」
あ……、と思った。そういえばそうだ。
ドラセナと出会ってからというものの、短い期間だが、彼女はこんな風に我を見せることはなかった。それを見られることができたということは彼女との距離は少し縮まった、ということなのだろうか? それは、たしかに良いことだと言える。
「やり方は強引すぎると思うけどな」
とはいえ、このやり方を完全に許す訳にもいかず、ナハトはイヴを軽く睨んだ。それでも、イヴは微笑んでいた。
それから、イヴが用意してくれた朝食を食べながら、これから先のことについて話を進める。
これからこの三人でこの国の首都を目指すのはいい。だが、ナハトには気になることがあった。「ところでさ」と話を切り出す。
「首都を目指すのはいいが、金はどうするんだ? 旅をするってくらいだから結構かかるだろ?」
そのことだ。ナハトは異世界から召喚されて来た身、この世界の通貨など持っていないし、逃げ出してきたばかりのドラセナも持っていないだろう。
イヴは一人で暮らしているくらいだから全くの無一文ということはないだろうが、こんな辺境の地で慎ましやかに暮らしている身、そこまで大金を持っているとは思えない。
ナハトの言葉にイヴは少し考え込んだ様子を見せてから答えた。
「そうですね。私は普段は山菜採りをしてそれを売りさばいて日々の生計を立てているのですが……ここから首都まで旅をするとなると心許ないのもたしかです」
「だろ? どうするんだ?」
「多少、危険な手段ですが、想獣狩りをしましょう」
想獣狩り? 初めて聞く単語だった。
その言葉も想獣という存在も。想獣ってなんだ、とナハトが聞くと、「ラプラニウム鉱石を体内に含み変異した動物のことです」とイヴは答える。
「ラプラニウム鉱石はそれ自体が大きな想力を持ちます。ですからそれを取り込んだ獣は強力な力を持ち、凶暴化しているものも少なくありません」
「RPGで言う魔物みたいなものか?」
「あーるぴーじー?」
ドラセナとイヴに怪訝そうな目で見られる。いや、なんでもない、とナハトは首を横に振った。
「ですが体内にラプラニウム鉱石を取り込んでいるということは倒せばその死骸から鉱石を入手できるということです。ラプラニウム鉱石は幻想具の材料になるくらいですからどこでも高価で取り引きをされています。他にも想力機という想力で動くカラクリなどの原動力にも用いられていますしね」
そこまで聞けばナハトにも合点が行った。
「なるほど。その想獣ってヤツを狩ってラプラニウム鉱石を手に入れて、それを売りさばいて旅の資金に当てようって訳か」
「そういうことになりますね」
ナハトの言葉にイヴは頷く。
「想獣は強力ですが聖桜剣を持つナハト様の敵ではないでしょう」
「そうだな……。よし、その案で行こう」
他に有力な手も思い当たらない以上、悩むまでもないことだった。「ドラセナもそれでいいよな?」とナハトがドラセナの方を向くとドラセナもコクリ、と頷く。
「それでしたらまずは鉱山都市ラグリアを目指して行くのが一番でしょうね。方向的にも首都に向かう方向ですし、あそこはラプラニウム鉱石の取り引きが活発な地域ですから」
大体、旅の方針が見えてきた。他に異論が出る訳もなくそのまま朝食は終了し、みんなして旅の準備に入る。
聖桜剣が収まった鞘を手にどうしたものか、と悩んだナハトだったが、イヴが鞘を腰に巻きつけるのに使えそうなベルトを用意してくれたので、ありがたくそれを利用することにした。現代日本の現代衣装に腰にベルトでかけられた剣。ミスマッチなものを感じつつも、悪くない感触だった。
イヴも僅かながらの資金と数日分の食料をバックに詰めて背負う。勿論、治癒杖キュアも手にする。ドラセナは何も準備をする必要はなかった。
そうして全員の旅の準備が完了し、出立の時を迎える。「よし、そんじゃ、その鉱山都市ラグリアってところ目指して、出発だ」とナハトが声をかける。
無意識にこの旅のリーダーを務めるのは自分だと言う思いがあった。
「うん、ナハト」
「行きましょう、ナハト様」
ドラセナとイヴも頷く。それがナハトたちの長い旅の始まりだった。
イヴの家からそう遠く離れた場所ではない平地。
一人の少女が立っている。
それだけなら何もおかしい話ではない。
だが、問題はその少女の周りに二十人近くの人間が地に伏していることだ。
全員、武器と革鎧で武装した傭兵――ゴルドニアース傭兵団のメンバーである。そして、つい先日、逃げ出したドラセナの追撃に駆り出され、ナハトに叩き伏せられた面々でもあった。
ナハトから逃げ出した面々であったが素直にゴルドニアースの本隊に帰る訳にも行かなかった。何分、ヴァルチザンまで連れて行く予定の少女には逃げられ、追いかけた自分たちも一人のガキに叩き伏せられた。
こんなことゴルドニアース本隊に報告する訳にはいかない。かといってもう一度、あの少女を狙っても聖桜剣を手にした桜の勇者がいる限り勝ち目はない。
にっちもさっちも行かず、平地をうろついていた傭兵たちは一人の少女が無防備に歩いているのを見つけたのだ。
進退窮まり、追い詰められた傭兵たちがその少女を襲い、身ぐるみはぎ、犯してやろうと考えるのも無理なき話であった。
傭兵たちは少女に襲いかかった。そして、返り討ちにあった。それが今、この地に倒れ伏している人間たちの事情である。
「なんだなんだ? お前ら弱いなー」
少女が呆れたように呟く。
褐色の肌があらわになる露出度の高い格好をした幼い少女であった。
乱雑に伸びる短めの白い髪、輝く黄色い瞳、マフラーを首に纏い、薄い胸甲を付けてはいるもののへそはあらわになっており、下半身はベルトの下にビキニパンツでそれを覆う薄くて短い布、足を纏う銀色の具足しかなく健康的な褐色の太ももが見て取れる。両手には銀色のガントレットを装備していた。
少女は倒れている傭兵の一人に声をかける。
「お前ら、なんでわたしを襲ったりしたんだ?」
「ひ、ひぃっ……!」
しかし、すっかり少女を恐怖の対象としている傭兵とは会話が通じない。
「な、なんだ、お前も桜の勇者なのかっ!?」
傭兵はそんな素っ頓狂なことを口にする。二十人の人間で一人に襲いかかり、敗れた。それが二度も続いた。そして、その一回目の相手は桜の勇者だった。
そんな連想から口に出た的外れな言葉だった。しかし、その言葉は少女の注意を惹いたようだった。「ん……?」と興味深そうに口にする。
「桜の勇者? 聖桜剣を抜いたヤツが現れたのか!?」
少女は恐慌状態に陥っている傭兵からなんとか桜の勇者について、いつかの情報を得ることに成功すると、後は興味はないとばかりに倒れ伏す傭兵たちを放置して歩き出した。その頬は笑みに歪んでいた。
「そっか、そっか、桜の勇者がついに現れたのか~。戦ってみたいな~。どれくらい強いのかな~?」
歩きながら、上機嫌に呟く。聞いた話によると桜の勇者が現れたのはつい先日。ならば聖域からそう離れた位置には移動していまい。相見えることもできるはずだ。
少女は、イーニッド・アディンセルはニヤリと笑い、まだ見ぬ桜の勇者に思いを馳せた。
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