桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第1章:辺境の村、カウニカ

第16話:カウニカ防衛戦

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 想獣の大群の襲来。それから逃げ出すことを選ばず想獣と戦うことを選んだ者たちはナハトたちだけではなかった。一部の村人たちが武器を引っ張り出し、想獣が向かってきているという方向の村の側面に立ち防衛網を張っていた。

 しかし、彼らの持つ武器――剣や槍、中にはボウガンもあった――は錆びついていたオンボロの代物であり、強力にして凶暴な想獣相手にどれだけ効果があるのかは疑問だった。そんな村人たちにナハト一行が加わる。



「俺たちも村を守ります」



 ナハトがそう宣言して村人たちの防衛網に加わる最初村人たちはナハトたちのことを懐疑心のある目で見ていた。しかし、村の人間ともある程度顔見知りのイヴが「大丈夫です。ナハト様は伝説の桜の勇者様ですから」と言うと村人たちの目も変わった。



「桜の勇者だって?」

「あの伝説の?」

「聖桜剣を引き抜いたっていうのか?」



 そんな村人たちに注目されることに気恥ずかしさを覚えながらもナハトは腰の鞘から聖桜剣を引き抜く。そして、聖桜剣を晴天にかざす。

 その刀身の薄紅色の輝きを見た村人たちは一様に感嘆の声をもらした。



「本物だ! 本物の桜の勇者だ!」

「桜の勇者様のご加護があれば、この戦もきっと勝てる!」

「想獣どもも追い返せるぞ!」



 村人たちの士気は一気に最高潮に達した。「単純なものだな」と少し呆れた様子でグレースが言う。



「これでは聖桜剣を見てもナハト殿を桜の勇者だと認めなかった私が馬鹿みたいではないか」

「仕方がないよ。あの時のグレースは俺をドラセナを誘拐した犯人だと思い込んでいたし」



 ふん、と鼻を鳴らし、グレースはハルバードを構え、ドラセナの側に控える。ドラセナを守るのは自分の役目、ということだろう。



「ふふん。想獣どもが相手か。腕が鳴るな」



 イーニッドが気楽そうに言うが、闘争心を滾らせているのは目に見えて分かった。一同を見渡し、ナハトはイヴに声をかける。



「周りの人たちに被害を出さないためにも俺たち幻想具持ちは突っ込んで戦った方が良さそうだな」

「そうですね。幻想具があれば想獣相手でも遅れを取ることはないでしょう。特に聖桜剣を持つナハト様は」



 治癒杖キュアを構えたイヴが言う。キュアは人の怪我を癒やすのが本業だが、打撲武器としても普通の杖以上の力はあるらしい。想獣の一匹や二匹相手ならなんとかしてみせます、と言うイヴには頼もしさを感じさせた。



「ナハト……くれぐれも気をつけて……」



 ドラセナがアメジストの瞳を不安そうに曇らせてナハトを見上げる。「大丈夫だ」とナハトは笑った。



「俺は桜の勇者だからな。獣なんかに負けやしない」



 ナハトの笑顔にドラセナも笑みを浮かべる。その時だった。「来たぞ!」と村人の誰かが声を発する。

 前を見る。そこには狼や猪、ライオンのような四足獣や二足歩行する狼男のような化け物が群れをなして村の方に進んできている。

 ナハトは地を蹴り、駆け出した。聖桜剣からあふれる想力で身体能力は格段に向上している。すぐに想獣たちの先鋒と接敵する。

 狼のような想獣が前足を上げ、そこに伸びる異様に鋭い刃のような爪を振り下ろさんとしてきたが、聖桜剣の想力で強化された動体視力と身体能力を持つナハトにそんなのを見切って躱すのは容易いことだった。

 爪は空を斬り、返しに聖桜剣を振りかぶる。これまで聖桜剣を手にしたナハトが戦ってきたのはいずれも同じ人間だった。ゴルドニアース傭兵団の傭兵たち、イーニッド、グレース。人間相手の戦いは相手を殺さないように大きな傷を負わせないように気を使って戦っていた。無意識に力をセーブして戦っていたが、今回の相手は想獣。獣である。獣相手に手加減は必要ない。

 渾身の力を込めて聖桜剣を振るい、狼のような想獣を一刀両断にする。想獣の肉体は真っ二つに別れ、体の中から輝く赤色の鉱石をこぼし、地面に倒れ伏した。

 それで終わりではない。両サイドからライオンのような想獣と狼のような想獣の二匹が同時に襲い来る。しかし、これも相手の攻撃は聖桜剣で受け止めるまでもなく躱し、返す刃で一刀両断に斬り捨てる。

 以前、戦ったイーニッドやグレースと比べると全く手応えの無い相手だった。

 ライオンの頭をした人型の想獣が襲い来る。「ウガア!」と吠えながら振り下ろされた豪腕には全く脅威は感じず、右に体をずらし回避する。聖桜剣を想獣の腹に突き刺す。想獣の悲鳴が響くがかまっていられない。そのまま引き抜きざまに想獣の体を一刀両断した。









 想獣の群れの中で褐色の肌の少女、イーニッド・アディンセルは跳ねる。

 幻想具である具足を装備した両足は普通の人間には不可能な軌跡での移動を可能とし、想獣と想獣の間々を飛び跳ねるようにして移動していく。

 勿論、隙を見せた想獣には幻想具であるガントレットで強化した拳の一撃を叩き込むことも忘れない。

 目の前に二足歩行の想獣が立ち塞がる。狼の頭に人間の体を持った化け物だった。想獣は両腕を振るい、イーニッドの体に爪を食い込ませようとする。しかし、それらは右へ左へ、軽快に動くイーニッドを捉えることはできず、振るわれた両腕は虚しく空を切る。



「お前も大したことないな。こんなもんか?」



 イーニッドはそう言い、隙を見せた想獣の土手っ腹目掛けて渾身の右ストレートを繰り出す。

 想獣の悲鳴が響き渡り、その体が後ろに吹っ飛ぶ。逃がす訳がない。イーニッドも地を蹴り、吹っ飛んだ想獣を追いかけ、その頭部に拳を振り下ろした。

 幻想具の想力で強化された拳をまともに受けた狼の形をした頭はグシャリと潰れ、想獣は活動を停止する。

 やった……! そう思った瞬間、イーニッドに微かな慢心が生まれた。動きを一瞬止めたイーニッド目掛けて猪のような想獣が突っ込んでくる。

 対応は、遅れた。想獣の突撃を受けて、体が吹っ飛ばされる。地面に打ち付けられ、ゴロゴロと転がる。

 すぐに跳ね起きて、自分を吹き飛ばした想獣と相対する。体がズキズキと痛むが構ってはいられない。「お前! よくも!」と叫び。地を蹴り、もう一度、突撃をかまそうとしてくる想獣と真っ向からぶつかり合う。

 幻想具のガントレットで強化された拳の一撃と地を蹴り加速し、突進してくる想獣が真っ向からぶつかり合う。

 吹き飛んだのは想獣の方だった。頭部から血を撒き散らし、後ろにひるんだ想獣の脇にイーニッドは回り込む。

 この想獣の頭部は相当、強固であることがさっきので分かったからだ。防御の弱い側面に回り込み拳を叩き込む。

 臓物をえぐる嫌な感触と共に拳は想獣の体を貫き、猪のような想獣は地面に倒れ伏す。

 さて、次の相手は……。イーニッドは拳を振るい、すっかり戦場と化した村の付近を駆けた。









 予想外の戦力の参入による予想外の活躍により村の防衛網を構築している村人たちは活気だっていた。

 前線に突入している桜の勇者とイシュプリンガーの少女の活躍により想獣たちは村まで到達することなくほとんどが葬り去られており、ナハトとイーニッドの間を抜けてくる想獣がいないこともないものの、抜けてきた想獣たちは白き女騎士グレースが相手をしていた。

 風刃矛ヴェントハルバードを振るい、想獣を蹴散らす。本来ならば想力を解放するまでもない相手ではあるのだが、ここは村に最も近い場所。少しでも手を抜くことはできないのでグレースはハルバードの想力を解放し風の刃を武器として戦っていた。

 目の前に現れた狼のような想獣に向けてハルバードを突き出す。

 ハルバードの先端から放たれた風の刃が想獣の体を真っ向から串刺しにし、動きが止まった想獣の元に飛びかかり、ハルバードで一刀両断にする。勿論、グレースとてナハトとイーニッドの間を抜けてきた想獣全てを相手にすることはできない。だが、この三人を抜けて村に迫る想獣は僅かな数で一匹二匹ならば幻想具を持たない村人でも十分相手をすることが可能だった。









 ドラセナは村の防衛網の中でイヴを控えて戦局を見守っていた。

 本来ならば非戦闘員である自分はとっとと避難するべきなのだろうが、ナハトたちが危険の渦中にあるのに自分だけ逃げるなんて真似はできなかった。

 幸いにも戦局は人間側が優位に進んでいる。聖桜剣を持つナハトはおろか聖桜剣より格の劣る幻想具を持つイーニッドやグレースの相手になる想獣もいないようで大量にいた想獣たちは次々にその数を減らしている。

 この分なら、想獣の襲撃をしのぎ切ることもできるだろう。そう、安心した瞬間だった。



 ――――アオオオオオオオオオオオオオオオオオンン!!!!



 まさしく天を裂くような雄叫びが響き渡った。

 ドラセナもイヴも村人たちも、何事かと前を見る。そこにあったのは巨大は想獣の姿。ここからでは遠目でよく見えないが全長10メートルは超えているのではないだろうか。

 そのような想獣をなんというのか、ドラセナは知っていた。



「想獣王……! そんな……滅多に発生しないはずなのに……ナハト……!」



 想獣王が相手となれば、流石の聖桜剣でも、ナハトでも分が悪いのではないだろうか? いや、聖桜剣は伝説の聖剣だ。それを持つナハトがそう簡単にやられるはずはない。ドラセナは不安げな心を鼓舞し、遠くから見える想獣王の姿を見据えた。







 ナハトはゴリラのような想獣を真っ二つに斬り捨てた時、その咆吼を聞いた。

 耳をふさぎたくなる程の大きな雄叫び。天をも震わせるのではないかというその雄叫びを聞き、顔を上げると、成る程、雄叫びの主は分かった。

 全長10メートルは超えているであろう巨大な想獣がナハトに向かって迫り来る。四足獣型の想獣。しかし、その足の一本一本が普通の人型の想獣の全長より高い。

 こいつがボスか……とナハトは直感で判断する。そして、これまでの想獣とは明らかに格が違う相手だということも。

 巨大想獣のライオンのような顔に四つある血のように赤い瞳がジロリ、とナハトを見る。来るか、とナハトは思った。面白い。こいつを倒して、この村を襲う想獣は全て撃退、といこうじゃないか。ナハトは薄紅色に輝く聖桜剣を構えると巨大想獣に向かって地を蹴った。
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