桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

文字の大きさ
16 / 87
第1章:辺境の村、カウニカ

第15話:想獣の襲来

しおりを挟む
 走り回ると危ないと言いながらもイヴも走ってこちらまで出て来た。無論、その体に纏うものは何もない。

 聖職者のような青と白の服の上からでは分からなかった官能的なイヴの肉体に思わず視線を引き寄せられる。が、それもすぐに「きゃああああああああああああ!」というイヴの悲鳴で視線を外さざるを得なかった。

 慌てて視線をそらす。イヴは両手を使って、胸と股間を覆い隠す。イーニッドの方はこの期に及んでも未だ羞恥心など感じていないのか、その裸体を堂々とさらけ出している。



「ナ、ナ、ナハト様……! どうしてこちらに!?」

「い、いや、風呂に入ろうかと……」



 そう言って、ナハトは今は自分も全裸であることに遅れて気付いた。慌てて股間を隠す。



「ナハトも一緒に風呂に入るのか? それなら大歓迎だ!」

「大歓迎じゃありません!」



 ケラケラ笑うイーニッドに怒り心頭といった様子のイヴが釘を刺す。



「まだ私もイーニッドさんもグレースさんもお風呂に入っている最中なのですよ! それなのにどうして!?」



 イヴの言葉に「え、でも……」とイヴの方に視線を向けかけ、キッと睨まれ、慌てて再び視線をそらす。



「先に出たドラセナのヤツは言っていたぞ。もうみんな上がって、宿屋に帰っているって」

「ドラセナさんが……ですか……?」

「ああ」



 たしかにドラセナはそう言った。だからナハトは無警戒にこうして風呂に入りに来たのだ。

 気まずい沈黙がその場に降り、その果てに、「はめられました……ね」とイヴの苦虫を噛み潰したような声がした。



「おそらく以前の仕返しでしょう。ナハト様に私たちの裸を覗かせるという……」

「以前の……あ、あーっ!」



 そう言われて思い出したことがある。

 そうだ。以前、イヴの家にいた時にイヴの悪戯でドラセナが水浴びしているところをナハトは覗いてしまったのだ。

 これはその仕返しで今度はイヴの裸を見させてやろうというドラセナの悪戯だろう。

 ナハトが納得して、ドラセナにも案外悪戯っぽいところがあるんだな、などと思いながら、イーニッドもイヴもいない空間に視線を向けると、「おい、お前たち何を騒いでいるんだ……?」という声と共にそこにも人影が現れた。

 グレースだ。当然、グレースもまた一糸まとわぬ姿である。その姿を再びナハトはバッチリ見てしまった。

 グレースは最初、何事か分からず呆然としていたが、そこにナハトがいて、自分の裸身を見られていることを把握すると「き、貴様!」と声を上げながら、両腕で胸と股間を隠す。



「ナハト殿! こんなところで何をしている!」

「ご、ごめん! ホントごめん! すぐ出ていくから!」



 ナハトは必死で平謝りし、脱兎の如くその場から逃走するのであった。









 その後、ナハトの入浴などは当然の如く中止となり、ナハトたちの泊まっている宿屋の一室で弁護人不在の裁判が行われていた。

 検事兼裁判官は怒り心頭のイヴとグレースと一人だけ状況をあまり理解していない様子のイーニッド。

 被告人はナハトとナハトに覗きを行わせたドラセナである。ナハトとドラセナは正座で、他三人は立ったまま二人を見下ろしている。 ちなみにこの世界に正座という文化はなかったらしいが、ナハトが俺の世界では反省を表す時はこうする、と言いドラセナと二人で自主的に正座の姿勢を取っている次第だった。



「……それでドラセナさん。どうしてナハト様にあんな嘘を吹き込んだんですか?」



 ピリピリした様子のイヴがドラセナに問う。彼女のこんな態度は珍しい。ドラセナはシュンとした顔で「ごめん……」と呟いた。



「前にイヴがナハトにわたしを覗かせたこと思い出して……ちょっとした悪戯心で仕返ししてやろうと思って……」

「なっ! 貴様! ドラセナ様も覗いたのか!」



 ドラセナの言葉にグレースが食い付いた。明らかに敵愾心を秘めた目でナハトを見る。「そ、それはもう謝罪して終わったことだから……!」とナハトは必死に言い繕った。



「悪戯心じゃありませんよ……私たちがどれだけ恥ずかしい思いをしたか」

「わたしは別に恥ずかしくはなかったぞ?」

「イーニッドさんは少し黙っていて下さい」



 この状況に及んでも笑顔のイーニッドにイヴが険しい口調で言う。



「ナハト殿。こうなってはその首を差し出してもらわねば帳尻が合わないところだが……」

「い、いや! グレース、首は勘弁! まだ死にたくないよ!」



 わりと本気で言っている様子のグレースにナハトは必死で許しを請う。



「俺もドラセナも反省してるから、今回ばかりはお目こぼしを……!」

「…………」



 イヴとグレースに半眼で睨まれる。



「ドラセナ様、反省しておいでですか?」

「うん……ごめん、グレース。今回は全面的にわたしが悪かった」

「はぁ……仕方がないですねぇ」



 イヴが呆れ果てた様子で口にする。もはや怒るのもバカバカしいといったところか。



「まぁ、いいんじゃないか。別に許しても。ナハトもわざとやった訳じゃないんだろ?」

「当然だ。天地神妙に誓って」



 助け舟を出してくれたイーニッドに乗り、ナハトは答える。しかし、イヴは赤い顔をしてナハトを見た。



「その割には私の胸をやたらとジロジロ見ていたような気がしますが……」

「そ、それは……条件反射というか……魅了の力があったというか……」

「…………」



 イヴは納得していないようだった。



「イヴは胸が大きいから……」

「そうだな! イヴのおっぱいの大きさは反則だ!」



 ドラセナとイーニッドがそんなことを言ってさらにイヴは顔を赤くした。「と、とにかく!」と話題を断ち切るようにイヴは声を出す。



「ナハト様に悪意はなかったようですし、ドラセナさんも反省しているようですし、今回に限ってはこの件は不問にします! グレースさんも、それでいいですね?」

「……正直、納得はできてないが、今回に限ってはナハト殿を許そう。ドラセナ様も今後はもうこんな悪戯心など出さないように」



 検事兼裁判官二人から厳重注意で後は無罪放免というやったことを考えれば破格とも言える判決が下される。

 ナハトは頭を下げるしかなかった。ドラセナも感謝の言葉を口にする。



「ありがとう。イヴ、グレース」

「二人ともありがとう! それと、ホントにごめん! 二人の裸はさっさと記憶から抹消するから!」

「ええい! 話題に出すな!」



 裸という単語にグレースの目尻が釣り上がる。



「と、とにかく、この件は今後一切話題に出さないように。それで今回は良しとする」

「そうですね」

「あはは! 一件落着、だな!」



 渋々といった様子で納得の態度を示すグレースとイヴに、一人、全く気にしていない様子のイーニッドが笑う。

 お前はもう少し気にしろ、と思わないでもないナハトだった。

 とりあえず場は一段落し、さて、これからどうしようかという流れになる。

 当初の予定通り、この村を立ち鉱山都市ラグリアに向かおうかという話になったところで扉が開き「た、大変だーーーっ!」と血相を変えた男が飛び込んできた。

 男はこの宿の宿主でイヴの知り合いでもある。



「どうしたんですかクランクさん」



 落ち着いた様子で訊ねるイヴに切羽詰った様子で男――クランクは話す。



「狩人が報告してきたんだ! 想獣の大群がこの村を目指して進んできている!」



 想獣の大群がこの村を……? ナハトにはその事態を今ひとつ飲み込めずキョトンとした顔になってしまったが、ナハト以外の全員は事態の深刻さを飲み込んだようだった。「想獣が……!」「なんだって……!?」と深刻そうな声を出す。



「村のみんなは逃げる準備をしているけど間に合うかどうか……アンタらも早く逃げるんだ!」



 それだけ告げるとクランクは踵を返しどこかへと行ってしまった。

 残された一同の中でナハトが「どういうことだ?」と訊ねる。イヴが答えてくれた。



「想獣は時として人里を襲うこともあります」

「なんだって……!? それじゃあ、この村は想獣のターゲットにされたってことか?」

「そういうことになります」



 ようやくナハトにも事態の深刻さが飲み込めてきた。

 想獣。いまだナハトは遭遇したことはないがラプラニウム鉱石を体内に含み強大な力を誇る魔物のような存在。

 そんな存在が大挙してこの村に押し寄せてくるというのか。



「ナハト様、こうなっては我々も早く避難しましょう。ここは危険です」



 イヴの言葉。だが、ナハトはそれに頷くことはできなかった。



「俺たちが逃げたらこの村はどうなる?」

「想獣たちの手でボロボロに荒らされるだろうな。逃げ遅れた者は殺されるだろう」



 ナハトの問いに冷静に答えてくれたのはグレースだ。

 それを聞いて、ナハトの決意は固まった。「俺は逃げない」と宣言する。傍らに置かれていた聖桜剣を手に取るとベルトで腰に固定した。



「俺は想獣と戦う。そして、この村を守る」

「そんな……危険です!」



 イヴが言うが、それに頷くことはできない。「俺は桜の勇者ってヤツなんだろ?」とナハトはイヴに言う。



「なら逃げる訳にはいかない。勇者は勇者の使命を果たす。この村を、守る」



 ナハトの言葉に我が意を得たりとばかりにイーニッドも頷く。



「うむ! それでこそ桜の勇者だ! わたしも残る! 想獣たちと戦うぞ!」



 そう言ってファイティングポーズを取るイーニッド。ドラセナも「わたしも残る」と言い出した。



「ナハトたちが残るのにわたしだけ逃げる訳にもいかない」

「ドラセナ様が残られるのでしたら当然、私も逃げる訳にはいきませんね」



 ドラセナの決意の表情にグレースもハルバードを手に取り、頷く。全員、逃げる気はない。村を守るつもりだ。それを知ったイヴは嘆息し、しかし、「仕方がありませんね」と笑った。



「では、私も残らせていただきます。負傷者の治療はお任せ下さい」



 こうして一同の腹は決まった。想獣の大群がどれくらいの規模なのかは分からないが、迎え撃つ。その決意を胸に一同は宿屋を出るのだった。



しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界に転移した僕、外れスキルだと思っていた【互換】と【HP100】の組み合わせで最強になる

名無し
ファンタジー
突如、異世界へと召喚された来栖海翔。自分以外にも転移してきた者たちが数百人おり、神父と召喚士から並ぶように指示されてスキルを付与されるが、それはいずれもパッとしなさそうな【互換】と【HP100】という二つのスキルだった。召喚士から外れ認定され、当たりスキル持ちの右列ではなく、外れスキル持ちの左列のほうに並ばされる来栖。だが、それらは組み合わせることによって最強のスキルとなるものであり、来栖は何もない状態から見る見る成り上がっていくことになる。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界では地味な俺が、なぜか神々に最愛されて無双してる件

fuwamofu
ファンタジー
平凡な高校生・桐生ユウは、女神の手違いで異世界に転生した。 チートもスキルも貰えず、冒険者登録すらままならない落ちこぼれ……のはずだった。 しかし周囲の異常な好感度、意味不明な強運、そして隠された神格スキルによって、ユウは「無自覚に全能」な存在へと覚醒していく。 気づけば女神も姫騎士も魔王娘も彼に夢中。誤解と崇拝が加速する中、ユウの“地味な日常”は世界を揺るがす伝説になっていく。 笑いあり、胸キュンあり、ざまぁありの最強(なのに本人だけ気づいてない)異世界ファンタジー開幕!

ペーパードライバーが車ごと異世界転移する話

ぐだな
ファンタジー
車を買ったその日に事故にあった島屋健斗(シマヤ)は、どういう訳か車ごと異世界へ転移してしまう。 異世界には剣と魔法があるけれど、信号機もガソリンも無い!危険な魔境のど真ん中に放り出された島屋は、とりあえずカーナビに頼るしかないのだった。 「目的地を設定しました。ルート案内に従って走行してください」 異世界仕様となった車(中古車)とペーパードライバーの運命はいかに…

最強すぎて無職になりましたが、隣国の姫が勝手に嫁入りしてきました

eringi
ファンタジー
平凡なサラリーマン・佐藤亮は、満員電車で謎の光に包まれ異世界へ転移する。神様から「世界最強の力」を授かったはずが、本人はただの無職ニートとしか思っていない。冒険者ギルドで雑用を請け負う日々。そんな亮の周囲に、冷徹な騎士姫、天才魔導士、元盗賊の少女、竜人族の戦士など個性豊かな美少女たちが自然と集まってくる。一方、彼を「ただの運のいい凡人」と侮る貴族や悪徳商人たちは次々と痛快なざまぁ展開に。亮は「俺なんて大したことないのに」と呟きながら、気づけば国を揺るがす陰謀を解決し、世界を救うことに――。無自覚最強主人公による、爽快ハーレムファンタジー開幕!

無自覚に世界最強だった俺、追放後にチートがバレて全員ざまぁされる件

fuwamofu
ファンタジー
冒険者団から「役立たず」と追放された青年リオ。 実は彼のスキル《創造》は、世界の理を作り替える最強の能力だった。 追放後、孤独な旅に出るリオは、自身の無自覚な力で人々を救い、国を救い、やがて世界の中心に立つ。 そんな彼の元には、かつて彼を見下していた美少女たちが次々と跪いていく──。 これは、無自覚に世界を変えてしまう青年の、ざまぁと覇道の物語。

勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました

まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。 その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。 理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。 ……笑えない。 人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。 だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!? 気づけば―― 記憶喪失の魔王の娘 迫害された獣人一家 古代魔法を使うエルフの美少女 天然ドジな女神 理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕! ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに…… 魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。 「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」 これは、追放された“地味なおっさん”が、 異種族たちとスローライフしながら、 世界を救ってしまう(予定)のお話である。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...