桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第2章:アグド山道

第25話:男女比のおかしいパーティーとうごめく陰謀

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「はぁ、また女の人ですか。ナハト様の行先、女の人ばかりですね」



 日も暮れて、想獣王との激闘の後、アイネを連れてカウニカに戻ったナハトとイーニッドがアイネを一同に紹介すると、返ってきたのはイヴの呆れたような言葉だった。



「イーニッドさんにグレースさん、それにアイネアスさん。どうしてナハト様が行先には女の人が、それも美人の人ばかりがいるんでしょう」

「本当……ナハト……美人の人と縁があるんだね」



 イヴだけではなく、ドラセナまでそんなことを言う。イーニッドは俺に勝負を挑んできただけだし、グレースはドラセナを追ってきただけだ。アイネと出会ったのも偶然に過ぎない。だというのにそんなに好き好んで女ばかりに声をかけているように言われるのは心外だ。ナハトはその思いで「そうは言うけどなぁ」と答えた。



「別にお前はそんなこと思わないよな? グレース」

「………………」



 お前なら分かってくれるだろう。そう思って良識派の騎士に声をかけてみたナハトだったが、返ってきたのは辛辣な反応だった。



「あまり好んで女性に手を出しているような輩をドラセナ様の側に置いておくのはやはりまずいかもしれんな……」

「お、お前までそんなことを……だから、偶然、偶然なんだって。なぁ、イーニッド」



 こうなってしまっては最後の希望に望みを託すしかない。イーニッドに声をかけたナハトだったが、「ははは! ナハトはモテモテだな!」と返ってきた笑い声にうなだれる羽目になった。だが、イーニッドは続ける。



「けどな、イヴ。そう邪険にすることはないと思うぞ……あっ、そうか! 自分と同じくらいおっぱいの大きい人が来て嫉妬しているのか!」

「そんなことありません!」



 ケラケラ笑うイーニッドにイヴは怒声を浴びせる。しかし、全くきいているようには思えなかった。現にイーニッドの笑みは崩れない。



「けど、大丈夫だ! ナハトはイヴのことも好きだと思うぞ! イヴもナハトのことは好きだろう?」



 イヴの顔が真っ赤に染まった。



「そんな話はしていません! そりゃあ、ナハト様のことは憎からず思ってはおりますが……」

「なら好きってことじゃないか! わたしもナハトのことは好きだ! 一緒だな!」



 イーニッドは笑顔でそんなことを言う。何を言っても無駄と判断したのかイヴは根負けしたように黙り込む。

 この状況下において、紹介されたのに放置されたアイネはアイネで困惑していた。「ちょ、ちょっと、ナハト……」と遠慮がちに声を発する。



「何なのよ、この状況は?」

「俺に訊かれても困る」

「……っていうかアンタ、仲間と旅をしているって言ってたけど、どうしてそれが全員、女なのよ? 男女比おかしくない?」



 それを言われると何も言い返せないのだが、全ては偶然の結果と言うしかない。だが、アイネは眉をひそめて続けた。



「アンタ、まさかアタシを落とすつもりじゃないでしょうね? アタシはアンタのことを……まぁ、一人の人間としてはそれなりに認めているけど、男としてはなんとも思ってないんだからね?」

「そんなつもりはねえよ……」



 もはや、何も言い返す気にもならない。アイネにまでこんな軽蔑したような視線で見られてナハトはガックリとうなだれた。

 このまま四面楚歌の状況が続くのか、と思ったナハトだったが、意外にもその状況を打破してくれたのはアイネ本人だった。



「とにかく、アタシはナハトと一緒にいると面白そうだから旅への同行を希望したの。アンタたちの言う変な意味はないわよ」



 その言葉に一同は黙り込む。話題の当人にこう言われてしまっては何も言えなくなってしまったのだろう。グレースが「しかし……」と口にする。



「傭兵ともあろう者が無償で旅に同行するのだぞ? 何か裏があると思うのは当然だと思うが」

「何よアンタ。傭兵にどれだけマイナスイメージ抱いている訳? 傭兵だってタマには慈善活動もするわよ。それにアンタたちと一緒にいればラプラニウム鉱石もいっぱい手に入りそうだしね」

「……やはり裏があるではないか」



 口角を釣り上げ、笑うアイネにグレースがため息をつく。



「とにかく、アタシはナハトについていくって決めたの。だからって別にナハトが好きとかそういうことじゃないけどね。一緒にいると面白そうだし。もう文句なんて言わせないわよ」

「……仕方がないですねえ」



 自信満々に言い切るアイネにイヴが諦めたような声を出す。



「ナハト様がアイネアスさんを旅の同行者として認めた以上、今更追い返すのも不躾な話でしょう。……大いに不満はありますが、アイネアスさん。貴方を旅の仲間として認めます。……はぁ、なんだか、こんなことばかりですねぇ」



 最初にイーニッドを旅の同行者として認めた時のことでも思い出しているのだろう。イヴはため息を吐いた。



「……まぁ、傭兵とはいえ、悪意のある人間ではないようだしな。ドラセナ様の護衛は一人でも多いほうがいいか」



 グレースもそんな感じで渋々納得した様子を見せる。



「わたしは最初から文句はないぞ!」



 イーニッドは清々しい笑顔でそう言い切る。それはナハトにとっては救いだった。最後に、ドラセナを見る。

 ドラセナは人見知りする性格なのか、アイネに対して、よそよそしい態度を取っていたが、「わたしも……異論はない……」とか細い声でアイネの同行を認めた。



「でも、ナハト。女の人がいるからって誰彼かまわず手を出すのはやめて欲しい……ナハトはあくまで、わたしを守るのが一番の役目なんだから……」

「誰も手を出されてなんかないわよ!」



 ドラセナの小さな声にアイネは怒声に近い声で反論する。それにドラセナがビクリと震え、グレースはアイネを睨んだ。「べ、別に恐がらせようと思って言った訳じゃないわよ……」とアイネが呟く。恐がらせてしまった自覚はあるようだ。



「俺も誰彼かまわず手を出しているとかそんなつもりはないんだけどな……」

「そう?」



 ナハトの弁明にドラセナはアメジストの瞳で見上げてくる。「そうだよ」と答える。ドラセナにそんな風に思われるのはナハトとしても心外だった。



「それよりアンタ、ドラセナって言ったっけ? そこの白騎士に様付けで呼ばれたり、ナハトに守られるとか、アンタ、貴族かなんか?」

「ドラセナは貴族って訳じゃないよ。まぁ、それに近い存在だけど」



 ナハトが答えるが、あまり答えになっていない答えだったためか、アイネをさらに困惑させただけのようだった。まぁ、このあたりの事情はおいおい説明していけばいいか、とナハトは思う。



「まぁ、何はともあれそろそろ夕食の時間です。新しい仲間の歓迎会も兼ねて祝杯と行きましょう」

「俺たちみんな酒飲めないけどな」



 場を取りまとめようとしたイヴの言葉にナハトが突っ込みを入れるとイヴは「こういうのはノリです、ノリ」と不服そうに呟く。



「ともかく! アタシの名前はアイネアス・ハミルトン! これからよろしくね、みんな!」



 アイネが笑顔で言う。何はともあれ、こうしてアイネは旅の仲間に認められたのであった。









 松明が灯されたそう広くない部屋。部屋の壁には鹿の頭部の剥製や、高価そうな絵画が並び、床一面にはやはり高価そうな絨毯が敷かれた一室。その奥に置かれた大きなソファにもたれ掛かりながら一人の強面の男が声を発する。子供ならばその声を聞いただけで泣き出しそうなドスのきいた声だった。ソファにもたれ掛かり、側に控えさせた美女にウイスキーを手元のグラスに注がせている。



「小娘にまんまと出し抜かれた挙句、ガキ一人に手も足もでず、小娘を取り逃がした……だと?」



 男の言葉に男の前で直立不動になって報告していた男が震え上がる。ナハトに倒された二十人の傭兵たちのリーダー格の男であった。

 ソファにもたれ掛かり、ウイスキーをあおりながら、苛立ち混じりでその報告を聞いていた男の名はグラン・ゴルドニアース。

 ヴァルチザン帝国の中でも指折りの強豪傭兵団ゴルドニアース傭兵団の団長に他ならなかった。

 かねてより懇意にしていた帝国の要人よりとある少女の誘拐を依頼され、二十人の部隊を派遣、首尾よく少女の拉致に成功したとの報告を聞き、上機嫌に少女の身柄の到着を待っていたグランの元にやって来たのはほうほうの体で帰って来て少女を奪い返されてしまったなどというふざけたことを言う、目の前の男だった。



「てめえ、ふざけてやがんのか!」



 ガシャン、という音と共にウイスキーの注がれたグラスが砕け散る。中から血のような赤いウイスキーがこぼれ落ち、絨毯を濡らした。傭兵団団長の怒りを前に配下の男は必死で弁明を重ねる。



「も、申し訳ありません、団長! ですが、小娘を助けたガキは例の……桜の勇者でして……」

「桜の勇者だあ!?」



 しかし、その弁明はさらにグランの怒りに油を注ぐだけだった。侍女もこれには流石に怯えた様子を見せる。



「桜の勇者だかなんだか知らねえがガキ一匹に違いはねえんだろうが!」

「そ、それは……そうなんですが……」

「もういい」



 グランは目の前の男に対して見放すように冷たい声を発する。先程までのような激情はなかったが、怒りが発した氷のような冷たい声だった。



「てめえの始末は後で伝える。ゴルドニアース傭兵団の名に泥を塗ったんだ。タダで済むと思うんじゃねえぞ?」



 それだけを言い、後はさっさと消えろ、と威圧感で伝える。「は、はいぃぃぃぃ」と恐怖の声をもらし、部下の男は団長の部屋を後にした。



「…………」



 侍女に持ってこさせた新しいグラスに注がれたウイスキーを飲みながらグランは考え込む。

 桜の勇者。その伝説はグランとて知っている。

 それが本当に現れたというのか。その勇者が目当ての小娘の護衛に付いている。これは奪い返すのも少し手間かと、どうしたものかと考え込んだところだった。



「わたしが行こうか?」



 声が、した。

 それは幼い少女の声だった。

 グランの発するいかにもな雰囲気には全く馴染まない幼い少女がいつの間にか側に来ていた。

 ゴスロリ調のフリフリの服を着て、幼気な顔に黒髪を伸ばし、血のような赤い目をした少女。

 天下のゴルドニアース傭兵団の団長の部屋にいるなど全く似合わないミスマッチな姿だった。

 だが、グランは少女の言葉を無下にすることなく「いいのか?」と答える。



「連中はもうイシュマール地方を後にしている。王都にたどり着かれる前に追いつくのは手間だぞ?」

「想力機の戦車で行くわ。部下を借りるわよ? 幻想具持ちも連れて行っていい?」

「それは構わんが……」



 少女は幼気な見かけに似合わず、強面のグランと対等な立場で会話をしている。それは全く持って不可思議な光景だった。

 グランはウイスキーのグラスを下げさせると代わりに侍女に持ってこさせた葉巻をシガーカッターで切り、口をつけるとマッチで火を灯す。煙を肺の中に送り込み、フーっと豪快に吐き出す。



「あまり派手なことはやるなよ。『まだ』ヴァルチザンとアインクラフトは戦争状態じゃねえんだ」

「『まだ』ね」



 クスクスクス、と少女は笑う。



「まぁいい。メリクリウス、この件はお前に任せる。何としても小娘を引っ捕らえて、ここまで引っ張って来い」

「了解、了解、まぁ、任せておいてよ」



 メリクリウスと呼ばれた少女は笑う。それは幼気な容貌に全く似合わない極悪な微笑みだった。

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