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第3章:鉱山都市ラグリア
第27話:ラグリアに向けて
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ようやく鉱山都市ラグリアからカウニカにラプラニウム鉱石を買い取りに来た商人や鍛冶屋の集団が到着した。
商人たちは大量の真っ赤な鉱石を前に目を輝かせ、我先にと値段を提示し、ラプラニウム鉱石を買い取っていく。
その売上総額といったらこの村が一年で稼ぐ資金に匹敵する程の大規模な収入となった。
大量のラプラニウム鉱石を入手した商人たちは満足顔で自分たちの馬車に鉱石を載せてカウニカを去って行く。
後に残ったのは膨大な量の金額だけだった。カウニカの村長は約束通り、そのお金の内、半分近くをナハトたち一行に謝礼金として譲り渡してくれた。
この世界の金銭感覚には疎いナハトでもそれが破格の額であることは分かったので最初は遠慮をしたが、村を想獣の群れから救ってくれた救世主である桜の勇者様にはこれくらい払わないと申し訳が立たないと言われ、また、旅を続ける上で資金は多いに越したことはないというのも事実だったので受け取ることにした。
アイネはアイネでアグド山道で得たラプラニウム鉱石を個人的に売りさばき、資金を得たようだ。
こうしてナハトたち一行には不相応なくらい大量の資金が手に入ることになった。これだけあればこれから先の旅も安心というものである。むしろ、金目当ての強盗に襲われる危険が生まれるくらいかもしれない。
さて、こうなればこれ以上、この辺境の村にとどまっている理由はない。早速、ラグリア目指して旅立つことにした。
最後にナハトたちは公衆浴場を利用し、汗を流し(今回は覗くようなことはなかった)、最後の一晩をラグリアの宿屋で過ごすと出立の準備を整える。
村を救ってくれた桜の勇者たちの旅立ちに村は総出をあげて応援してくれて、小さな村なりに盛大な見送りを受けてナハトたちは村から旅立った。
カウニカからラグリアまでの道のりはイヴの家からカウニカまでの道のりと違い、それなりに整備された道路があった。
ラプラニウム鉱石を買い取りに来た商人たちは馬車でこの道を通ってきたとのことなのでそれなりに整備されていて、当然か、とナハトは思った。
ナハトは道路を歩きながら、ドラセナが浮かない顔をしているのが気になった。
なんだか何かに悩んでいるような顔をしている。そっとしておいて置くのもいいかもとは思ったが、気になってしまっては仕方がない。彼女には笑顔でいて欲しいという思いもある。
それらが「どうしたんだ、ドラセナ?」と言葉になって現れていた。「えっ!?」とドラセナは驚いたような顔で反応する。
他の面々も立ち止まり、ドラセナに視線が集中した。
ドラセナは自分に集まった視線に少し照れ臭そうにしながら「えっとね……」と語りだす。
「カウニカでナハトと買い物に行った時があったでしょ?」
「ああ、あのナハトとドラセナのデートね」
ドラセナの言葉にアイネがいやみったらしくデート、と強調して言う。その単語にナハトとドラセナは頬を紅潮させた。
「別にデートなんかじゃない。ただの買い物だ」
「ただの買い物でお手々繋いで村中をゆっくり見て回ったりするの? へ~、そういう買い物もあるんだ」
「……お前、見てたのか?」
アイネの言葉に、ナハトはつい反応してしまう。アイネは「あら」と声を上げた。
「本当に手を繋いでいたんだ。帰ってきた時の様子からそうじゃないかとは思ってはいたけど」
どうやらアイネはナハトとドラセナの様子を見ていた訳ではなく、カマをかけたようだった。見事に引っかかってしまった我が身を自覚し、しまった、とナハトは思う。
「なるほどね~、へ~、へ~。手を繋いで村を散策していたんだ。それはそれは、お熱いことで~」
「ははは! ナハトとドラセナは仲が良いな! わたしもナハトと手を繋いでみたいぞ!」
アイネの皮肉るような言葉に乗っかってイーニッドまでそんなことを言い出す。さらにそこにイヴまで乗っかってきた。
「ドラセナさん、ナハト様に買ってもらった首飾り大事にしておられますからね。羨ましいですね~、私もナハト様に何かプレゼントを買って欲しかったです。ねえ、グレースさん?」
「な、何故、私に振る!?」
イヴに視線を向けられ、グレースは狼狽する。イーニッドまで「わたしもナハトからのプレゼントが欲しかったぞ!」と言い出す。
「……っていうかなんでドラセナにだけプレゼントを買っているのよ、ナハト。普通、アタシたち全員の分を用意するもんでしょう?」
ジロリ、とアイネに睨まれ、ナハトはしどろもどろになる。
そうか? そういうものだったか? ドラセナにだけ買ったのはまずかったのか?
全員分のプレゼントを買っておいた方が公平だったのだろうか? そんなことを思っていると「そうですね~」とイヴが意地悪そうに笑う。
「ナハト様には皆に行き渡る分だけのプレゼントを買う義務があったはずですね~。ドラセナさんだけというのは少し贔屓が過ぎます」
アイネ、イヴ、イーニッドにそう言われ視線を集中され、ナハトは何も言えなくなってしまう。そこに救いの手を差し伸べてくれたのはグレースだった。
「皆、ナハト殿をいじめるのはよさないか。ナハト殿はドラセナ様と買い物に行ったのだ。ならばドラセナ様の分だけ買っても仕方があるまい」
この擁護に乗らない手はない。ナハトは「そ、そうだ」と声を重ねた。
「みんなと買い物に行く機会があればみんなにもプレゼントを渡すさ。前回はドラセナとだけ一緒に行ったからドラセナにだけ買っただけで……」
「あら? それじゃあラグリアに着いたらアタシたちと一緒に買い物してくれるの?」
ナハトの言葉尻を捉えて、アイネがニヤリ、と笑う。
「そもそもドラセナさんとだけ買い物に行くのが贔屓だったというものですしね。ナハト様には私たち全員を買い物に連れて行ってもらうくらいしないと」
イヴまで楽しげな笑みをたたえてそんなことを言う。っていうかお前、俺とドラセナが買い物に行く時邪魔をしては失礼です、とか言ってただろ。なんで今になってそんな不満を言うんだ、とナハトは思う。
「ははは! じゃあ、ラグリアに着いたらみんなで買い物に行くか! 楽しみにしているぞ、ナハト!」
イーニッドがはしゃぎ、そんなことを言う。どうやら、ラグリアで皆を買い物に連れて行くことはいつの間にか決定してしまっているようだ。
「アタシへのプレゼントにセンスのないものを選んだら承知しないわよ、ナハト」
「なんでお前はそんなに上から目線なんだ……」
「ナハト殿、私も……その、楽しみにしている……買い物と、プレゼント……」
「グ、グレースまでそんなことを……」
なんでこんな話になっているんだ。ナハトは困惑しながらも当初の目的をようやく思い出した。
そうだ。そもそも、元気がない様子のドラセナにその理由を訊ねたところから始まったんじゃないか。
完全に会話の流れに置いていかれているドラセナの方をナハトは見ると「それよりドラセナ」と話題を戻す言葉を発する。
「買い物に行った時、の続きを聞かせてくれ。なんでそんなに落ち込んでるんだ?」
その言葉にドラセナは沈痛そうな表情を浮かべる。「あの時ね……」と喋りだした。今度は誰も茶々を入れる真似はしなった。
「賞金稼ぎの人がわたしたちを襲って来たでしょ?」
「ああ……そういえば」
そうだ。ドラセナとの買い物の途中、ドラセナ目当ての賞金稼ぎが襲って来たことがあった。
その賞金稼ぎは幻想具すら持っていない雑魚でナハトが聖桜剣で一蹴して追い払ったのだが。それを聞いて「何!?」とグレースが顔色を変えた。
「そんなことがあったのか、ナハト殿! 何故、私に言わない!?」
「い、いや、すぐに追い払えた雑魚だったし、言う程のことでもないかな、と思って……」
グレースの詰問に答えるナハトをよそにドラセナは続ける。
「やっぱりわたしは狙われる存在なんだって……ナハトたちに迷惑をかけているんじゃないかな、って思って……」
なるほど。それが落ち込んでいる原因か。ナハトはドラセナの苦悩を理解する。その上で「そんなの気にするなよ」と笑った。
「あの時みたいに誰が襲って来ても、俺がドラセナを守ってやる」
「でも、それも迷惑でしょ?」
「迷惑なんて思ったことはないな。俺がドラセナを守りたいんだから」
その言葉に何故か、ドラセナの頬が紅潮する。周りの面々もあら~、という様子でナハトを見る。なんだ? 何か変なことを言ったか?
「大胆なことをおっしゃいますね、ナハト様」
「こうまでストレートだとむしろ呆れるわね」
イヴとアイネがそんなことを言う。しかし、アイネはドラセナの方を見て、「ま、アンタもアンタよ」と言った。
「そんなこと気にしなくていいの。アタシたちはアンタを守ることを迷惑だなんて思っていないし、それくらいこの天才傭兵剣士アイネアス様には朝飯前なんだから」
「そうですよ、ドラセナ様。我々はドラセナ様を守ることが使命なのですから」
「そうだ、そうだ。気にする必要はないぞ、ドラセナ」
アイネ、グレース、イーニッドがそう言う。アイネにはドラセナが特別な力を持っていることと狙われる存在であるということは話してある。
ドラセナはみんなに、こうまで言われて照れ臭くなったのか、恥ずかしそうに「そ、そうかな……?」と呟く。
「ドラセナはそんなこと気にする必要なんてないんだ。それより旅を楽しもうぜ。辛気臭い顔をしていたら楽しい旅も楽しくなくなっちまう」
ナハトはそう言ってドラセナに笑いかける。そこでようやくドラセナは笑顔を見せた。
「そうだね……うん、みんな、ありがとう」
そうして一同はラグリアへの歩みを再開する。今度はみんな晴れやかな笑顔でこれから先の旅の幸先も良さそうだと、ナハトには思えた。
「そう、桜の勇者と小娘たちはラグリアに向かったの」
カウニカ。そこではゴルドニアース傭兵団の本拠でゴルドニアース傭兵団の長、グランと対等に話していた少女、メリクリウスが部下からの報告を受けているところだった。
村人たちから話を聞いたところどうやら桜の勇者たちは想獣の襲撃からこの村を守った後、ラグリアに向かって旅立ったらしい。ラグリア、か、とメリクリウスは思う。
「あそこの領主とは懇意にしていたはずね。うまく利用すれば小娘を捕えることもできそうね」
メリクリウスの中ではドラセナ捕獲計画が着々と組み上がっていく。とりあえず、ラグリアの領主には協力を依頼しておこうと思う。 確実を期すためにも道中で襲うよりラグリアに先回りしてそこで万全の体制で手を出すのがいいだろう。
そうして、思考に明け暮れた果てに、メリクリウスは何がおかしいのか、クスリ、と笑う。
「小娘を守っているっていう桜の勇者、どんな人間なのか、楽しみね。魅力的な殿方だと嬉しいんだけど」
そう呟いたメリクリウスの笑みはやはり幼気な少女の風貌には不釣り合いな程、邪悪なものだった。
商人たちは大量の真っ赤な鉱石を前に目を輝かせ、我先にと値段を提示し、ラプラニウム鉱石を買い取っていく。
その売上総額といったらこの村が一年で稼ぐ資金に匹敵する程の大規模な収入となった。
大量のラプラニウム鉱石を入手した商人たちは満足顔で自分たちの馬車に鉱石を載せてカウニカを去って行く。
後に残ったのは膨大な量の金額だけだった。カウニカの村長は約束通り、そのお金の内、半分近くをナハトたち一行に謝礼金として譲り渡してくれた。
この世界の金銭感覚には疎いナハトでもそれが破格の額であることは分かったので最初は遠慮をしたが、村を想獣の群れから救ってくれた救世主である桜の勇者様にはこれくらい払わないと申し訳が立たないと言われ、また、旅を続ける上で資金は多いに越したことはないというのも事実だったので受け取ることにした。
アイネはアイネでアグド山道で得たラプラニウム鉱石を個人的に売りさばき、資金を得たようだ。
こうしてナハトたち一行には不相応なくらい大量の資金が手に入ることになった。これだけあればこれから先の旅も安心というものである。むしろ、金目当ての強盗に襲われる危険が生まれるくらいかもしれない。
さて、こうなればこれ以上、この辺境の村にとどまっている理由はない。早速、ラグリア目指して旅立つことにした。
最後にナハトたちは公衆浴場を利用し、汗を流し(今回は覗くようなことはなかった)、最後の一晩をラグリアの宿屋で過ごすと出立の準備を整える。
村を救ってくれた桜の勇者たちの旅立ちに村は総出をあげて応援してくれて、小さな村なりに盛大な見送りを受けてナハトたちは村から旅立った。
カウニカからラグリアまでの道のりはイヴの家からカウニカまでの道のりと違い、それなりに整備された道路があった。
ラプラニウム鉱石を買い取りに来た商人たちは馬車でこの道を通ってきたとのことなのでそれなりに整備されていて、当然か、とナハトは思った。
ナハトは道路を歩きながら、ドラセナが浮かない顔をしているのが気になった。
なんだか何かに悩んでいるような顔をしている。そっとしておいて置くのもいいかもとは思ったが、気になってしまっては仕方がない。彼女には笑顔でいて欲しいという思いもある。
それらが「どうしたんだ、ドラセナ?」と言葉になって現れていた。「えっ!?」とドラセナは驚いたような顔で反応する。
他の面々も立ち止まり、ドラセナに視線が集中した。
ドラセナは自分に集まった視線に少し照れ臭そうにしながら「えっとね……」と語りだす。
「カウニカでナハトと買い物に行った時があったでしょ?」
「ああ、あのナハトとドラセナのデートね」
ドラセナの言葉にアイネがいやみったらしくデート、と強調して言う。その単語にナハトとドラセナは頬を紅潮させた。
「別にデートなんかじゃない。ただの買い物だ」
「ただの買い物でお手々繋いで村中をゆっくり見て回ったりするの? へ~、そういう買い物もあるんだ」
「……お前、見てたのか?」
アイネの言葉に、ナハトはつい反応してしまう。アイネは「あら」と声を上げた。
「本当に手を繋いでいたんだ。帰ってきた時の様子からそうじゃないかとは思ってはいたけど」
どうやらアイネはナハトとドラセナの様子を見ていた訳ではなく、カマをかけたようだった。見事に引っかかってしまった我が身を自覚し、しまった、とナハトは思う。
「なるほどね~、へ~、へ~。手を繋いで村を散策していたんだ。それはそれは、お熱いことで~」
「ははは! ナハトとドラセナは仲が良いな! わたしもナハトと手を繋いでみたいぞ!」
アイネの皮肉るような言葉に乗っかってイーニッドまでそんなことを言い出す。さらにそこにイヴまで乗っかってきた。
「ドラセナさん、ナハト様に買ってもらった首飾り大事にしておられますからね。羨ましいですね~、私もナハト様に何かプレゼントを買って欲しかったです。ねえ、グレースさん?」
「な、何故、私に振る!?」
イヴに視線を向けられ、グレースは狼狽する。イーニッドまで「わたしもナハトからのプレゼントが欲しかったぞ!」と言い出す。
「……っていうかなんでドラセナにだけプレゼントを買っているのよ、ナハト。普通、アタシたち全員の分を用意するもんでしょう?」
ジロリ、とアイネに睨まれ、ナハトはしどろもどろになる。
そうか? そういうものだったか? ドラセナにだけ買ったのはまずかったのか?
全員分のプレゼントを買っておいた方が公平だったのだろうか? そんなことを思っていると「そうですね~」とイヴが意地悪そうに笑う。
「ナハト様には皆に行き渡る分だけのプレゼントを買う義務があったはずですね~。ドラセナさんだけというのは少し贔屓が過ぎます」
アイネ、イヴ、イーニッドにそう言われ視線を集中され、ナハトは何も言えなくなってしまう。そこに救いの手を差し伸べてくれたのはグレースだった。
「皆、ナハト殿をいじめるのはよさないか。ナハト殿はドラセナ様と買い物に行ったのだ。ならばドラセナ様の分だけ買っても仕方があるまい」
この擁護に乗らない手はない。ナハトは「そ、そうだ」と声を重ねた。
「みんなと買い物に行く機会があればみんなにもプレゼントを渡すさ。前回はドラセナとだけ一緒に行ったからドラセナにだけ買っただけで……」
「あら? それじゃあラグリアに着いたらアタシたちと一緒に買い物してくれるの?」
ナハトの言葉尻を捉えて、アイネがニヤリ、と笑う。
「そもそもドラセナさんとだけ買い物に行くのが贔屓だったというものですしね。ナハト様には私たち全員を買い物に連れて行ってもらうくらいしないと」
イヴまで楽しげな笑みをたたえてそんなことを言う。っていうかお前、俺とドラセナが買い物に行く時邪魔をしては失礼です、とか言ってただろ。なんで今になってそんな不満を言うんだ、とナハトは思う。
「ははは! じゃあ、ラグリアに着いたらみんなで買い物に行くか! 楽しみにしているぞ、ナハト!」
イーニッドがはしゃぎ、そんなことを言う。どうやら、ラグリアで皆を買い物に連れて行くことはいつの間にか決定してしまっているようだ。
「アタシへのプレゼントにセンスのないものを選んだら承知しないわよ、ナハト」
「なんでお前はそんなに上から目線なんだ……」
「ナハト殿、私も……その、楽しみにしている……買い物と、プレゼント……」
「グ、グレースまでそんなことを……」
なんでこんな話になっているんだ。ナハトは困惑しながらも当初の目的をようやく思い出した。
そうだ。そもそも、元気がない様子のドラセナにその理由を訊ねたところから始まったんじゃないか。
完全に会話の流れに置いていかれているドラセナの方をナハトは見ると「それよりドラセナ」と話題を戻す言葉を発する。
「買い物に行った時、の続きを聞かせてくれ。なんでそんなに落ち込んでるんだ?」
その言葉にドラセナは沈痛そうな表情を浮かべる。「あの時ね……」と喋りだした。今度は誰も茶々を入れる真似はしなった。
「賞金稼ぎの人がわたしたちを襲って来たでしょ?」
「ああ……そういえば」
そうだ。ドラセナとの買い物の途中、ドラセナ目当ての賞金稼ぎが襲って来たことがあった。
その賞金稼ぎは幻想具すら持っていない雑魚でナハトが聖桜剣で一蹴して追い払ったのだが。それを聞いて「何!?」とグレースが顔色を変えた。
「そんなことがあったのか、ナハト殿! 何故、私に言わない!?」
「い、いや、すぐに追い払えた雑魚だったし、言う程のことでもないかな、と思って……」
グレースの詰問に答えるナハトをよそにドラセナは続ける。
「やっぱりわたしは狙われる存在なんだって……ナハトたちに迷惑をかけているんじゃないかな、って思って……」
なるほど。それが落ち込んでいる原因か。ナハトはドラセナの苦悩を理解する。その上で「そんなの気にするなよ」と笑った。
「あの時みたいに誰が襲って来ても、俺がドラセナを守ってやる」
「でも、それも迷惑でしょ?」
「迷惑なんて思ったことはないな。俺がドラセナを守りたいんだから」
その言葉に何故か、ドラセナの頬が紅潮する。周りの面々もあら~、という様子でナハトを見る。なんだ? 何か変なことを言ったか?
「大胆なことをおっしゃいますね、ナハト様」
「こうまでストレートだとむしろ呆れるわね」
イヴとアイネがそんなことを言う。しかし、アイネはドラセナの方を見て、「ま、アンタもアンタよ」と言った。
「そんなこと気にしなくていいの。アタシたちはアンタを守ることを迷惑だなんて思っていないし、それくらいこの天才傭兵剣士アイネアス様には朝飯前なんだから」
「そうですよ、ドラセナ様。我々はドラセナ様を守ることが使命なのですから」
「そうだ、そうだ。気にする必要はないぞ、ドラセナ」
アイネ、グレース、イーニッドがそう言う。アイネにはドラセナが特別な力を持っていることと狙われる存在であるということは話してある。
ドラセナはみんなに、こうまで言われて照れ臭くなったのか、恥ずかしそうに「そ、そうかな……?」と呟く。
「ドラセナはそんなこと気にする必要なんてないんだ。それより旅を楽しもうぜ。辛気臭い顔をしていたら楽しい旅も楽しくなくなっちまう」
ナハトはそう言ってドラセナに笑いかける。そこでようやくドラセナは笑顔を見せた。
「そうだね……うん、みんな、ありがとう」
そうして一同はラグリアへの歩みを再開する。今度はみんな晴れやかな笑顔でこれから先の旅の幸先も良さそうだと、ナハトには思えた。
「そう、桜の勇者と小娘たちはラグリアに向かったの」
カウニカ。そこではゴルドニアース傭兵団の本拠でゴルドニアース傭兵団の長、グランと対等に話していた少女、メリクリウスが部下からの報告を受けているところだった。
村人たちから話を聞いたところどうやら桜の勇者たちは想獣の襲撃からこの村を守った後、ラグリアに向かって旅立ったらしい。ラグリア、か、とメリクリウスは思う。
「あそこの領主とは懇意にしていたはずね。うまく利用すれば小娘を捕えることもできそうね」
メリクリウスの中ではドラセナ捕獲計画が着々と組み上がっていく。とりあえず、ラグリアの領主には協力を依頼しておこうと思う。 確実を期すためにも道中で襲うよりラグリアに先回りしてそこで万全の体制で手を出すのがいいだろう。
そうして、思考に明け暮れた果てに、メリクリウスは何がおかしいのか、クスリ、と笑う。
「小娘を守っているっていう桜の勇者、どんな人間なのか、楽しみね。魅力的な殿方だと嬉しいんだけど」
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