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第3章:鉱山都市ラグリア
第28話:鉱山都市ラグリア
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ラグリアまでの道中は順調だった。
毎日、日が暮れるまでは道中に存在する村々に立ち寄ることができ、そこで宿を取ることで野宿というものを体験せずに済んだ。
途中、何度かドラセナ狙いの賞金稼ぎに襲われることはあったが、ナハト、イーニッド、グレース、アイネと戦闘向きの幻想具使いが四人も揃っている一行の敵ではなく、賞金稼ぎたちは尻尾を巻いて逃げ出す羽目になった。
そうして二週間近く歩き続けたナハトたち一行はついに鉱山都市ラグリアに到着した。
「ここが鉱山都市ラグリアか……」
入り口の門をくぐってラグリアの中に入り、一見して都市を見渡したナハトは感無量といったところだった。
ラグリア。最初にドラセナと出会い、イヴの家に行って一応の目的地と定めた場所。
そこに至るまでカウニカでの想獣の群れとの戦いやアグド山道での想獣王との戦い、そこからの二週間近くの徒歩での道程をくぐり抜けた先にようやく到着した目的地。
自然と感無量になるというものだった。
それはナハトだけではないらしくイヴも「ようやく到着できましたね」と感慨深そうに笑みを浮かべている。ドラセナも「ここまで長かった」としみじみと言う。
鉱山都市ラグリアはその名の通り、ラプラニウム鉱石を排出する鉱山と繋がっている大都市である。
鉱山に伸びるトロッコのレールが町の中央から山に向かって何本も走り、炭鉱夫たちはそこから鉱山におもむき、ラプラニウム鉱石を発掘して都市に持ち帰り売りさばく、都市には炭鉱夫たちを主な客とした酒場が何件も連なっており、発掘されるラプラニウム鉱石をその場で加工しようとする鍛冶屋たちの姿もあり鍛冶場も多い。
発掘された鉱石を購入して別の場所に運び転売しようとする商人たちの姿もあり、とにかく人で賑わっているのがラグリアという町だった。
立ち並ぶ民家も商店も酒場も宿も、これまでナハトが訪れたカウニカを始めとする村々よりも遥かに豪勢にできており、レベルの違い、というものを感じさせる。
ここがこの近辺でも一際、発展した場所だということを認識させてくれる。町を歩いてみれば、その賑わいは大したものだった。
人の群れで町の通路は溢れており、商店が並んだエリアには様々な物を売りつけようとする商人とそれらを購入しようとするお客たちで大いに賑わっている。
「こんな大きな町に来るのは初めてだ!」とはしゃぐイーニッドがまるっきりおのぼりさんといった態度であちこちをキョロキョロ見て回り、イーニッド程大げさではないものの、ナハトやイヴも物珍しげにあちこちを見て回り、ドラセナやグレースはこういった大きな町に来た経験があるのか、それとも性格ゆえかそこまではしゃぐことはなかった。
アイネに至ってはこういう大きな町に慣れているようで、イーニッドやナハトやイヴの態度に呆れた様子さえ見せていた。
そんなアイネの様子にグレースは何故か疑わしげな視線を向ける。
「アイネアス殿、貴女は本当に傭兵か? その割には大都市に慣れている様子だが……」
だが、そんな疑惑の視線もアイネにとってはどこ吹く風だ。何事もなかったかのように「あら」と呟く。
「傭兵が大都市に慣れていたら悪いかしら? アタシは仕事柄、こういうところを訪れることも多いってだけよ」
何故、グレースがそんなことを訊いたのかナハトにはいまいち分からなかったが、アイネは平気な顔をしてそう返すと人でごったがえしている商店の前を眺める。
「それにしても活気がある町っていうのはいいわね。カウニカなんて田舎にいたら干からびちゃうわよ」
「私はあまり人が多いのは少し……」
人混みを楽しんでいる様子のアイネに対して、イヴは逆に人混みに酔っているような様子を見せる。
ナハトはというと、元の世界の都心部ではこれくらいの人混みはよくあることだったので特にそこに何か思うことはない。だが、ドラセナもこの人混みを苦手としているようだった。
「わたしも少し、人が多い場所は苦手……。早く宿に入って、ゆっくりしようよ」
そんなことまで言い出す始末だった。だが、アイネは「何言っているのよ」と笑う。
「せっかくラグリアにまで来たんだから楽しまないと損じゃない? ナハト、ラグリアでは一緒に買い物をするって約束、アタシは忘れた訳じゃないわよ。さあ、あちこち見て回りましょう」
アイネは本当にこういった大都市に慣れているようだった。元気ハツラツとそんなことを言ってのける。
しかし、アイネ以外の面々は大なり小なりこの大都市に少し戸惑いを覚えている。その言葉に頷く者はいなかった。「アイネアス殿」とグレースが声をかける。
「申し訳ないが、ドラセナ様もこの都市に疲弊しているようだ。まずは宿を取ってそこでゆっくりしてから観光をしよう」
グレースの言葉にアイネは露骨に不満そうな顔を見せると「あら、何よ。ノリの悪いわね」とぼやく。
ドラセナとグレースだけではなく、ナハトやイヴのグレースの意見に賛成な様子を見て取ると仕方がないといった様子で「分かったわよ」と頷いた。
「宿でもなんでも取ればいいじゃない。アタシはその後、ナハトと二人で買い物に行かせてもらうわ」
「なんで俺と二人なんだ?」
アイネの言葉に疑問を感じ、ナハトが訊ねると「何言っているの」と人を小馬鹿にしたような言葉が返ってきた。
「一緒に買い物に行くって約束だったでしょう? ま、別にアタシはナハトとなんか一緒に買い物に行きたくはないんだけど、プレゼントとか買ってくれるなら欲しいし」
嬉しそうに笑みを浮かべるアイネに対してナハトは突っ込みを入れる。
「それはみんなと一緒に買い物に行くって約束だろう? お前と二人っきりって訳じゃないと思うが……」
その言葉にアイネは露骨に不機嫌顔になった。「そうですね」とイヴもナハトの言葉に頷く。
「私たちみんなで行くという話のはずです。アイネアスさん、抜け駆けはダメですよ? ね、グレースさん?」
「だから何故、私に振るのだ。……まぁ、ナハト殿とアイネアス殿が二人きりで買い物に行くというのはいかがなものかと私も思うが……」
「アイネ! 何事も独り占めはよくないぞ!」
「わたしも、ナハトと一緒にこの町で買い物に行きたい……」
総掛かりで否定され、アイネは明らかに不機嫌そうに「何よ」と呟く。「せっかくこのアタシがナハトとの買い物に付き合ってやろうっていうのに、ナハトはアタシと一緒よりみんな一緒の方がいいんだ」と言う。
「まぁ、せっかくだしな。宿に荷物を置いた後、みんなで一緒に行こう」
当然のことを言っただけのつもりなのだが、アイネはますます不機嫌そうになるとプイ、とそっぽを向いてしまう。
「あーっもう。ナハトの馬鹿! アンタと一緒の買い物なんて行ってやるもんですか!」
かと思えばいきなりブチ切れた。つかつかと先に進んで行ってしまう。
一体なんなのか、さっぱり訳が分からずナハトは困惑顔でドラセナやイヴの顔を見る。「何なんだ?」と訊ねると、「乙女心は複雑ということですよ」とイヴが苦笑いをして答える。グレースも「ナハト殿は少しにぶすぎるな」と困ったように呟き、ますますナハトは困惑した。
「ナハトがアイネと一緒に買い物に行くのは反対。でも、ナハトはにぶすぎ。アイネに少し同情する……」
ドラセナまでそんなことを言い出す。
「アイネもわたしと同じでナハトのことが好きなんだな! ま、仕方がない!」
イーニッドが元気よくそんなことを言いナハトは困惑した。「はぁ? アイネが俺のことを好きぃ?」と素っ頓狂な声が出る。
「そんなことある訳ないだろ。あいつが俺に対する態度、知っているだろ?」
「ああ、よく知っているとも! 好きで好きでたまらないという態度だな!」
イーニッドはニカッと笑う。なんだ……? 自分とイーニッドでは見ているものが違うのか? そんなことをナハトは思う。
「……まぁ、嫌よ嫌よは好きの裏返しと言いますしね」
イヴがフォローするようにそんなことを述べる。イヴまで何を言うのか。アイネが自分のことを好きなどとある訳がないというのに。そう思いつつもナハトは「とりあえずアイネを追いかけようぜ」と先に進むことを促した。
「こんな大都市ではぐれたら手間だ。さっさと宿を取ってそこで一服つこう」
「そうだな。ここまで歩いてきて、私もドラセナ様も疲れている。一休みといきたいのはたしかだ」
「ですね」
ナハトの言葉にグレースとイヴも頷く。とりあえずは宿を取る。それで合意のようだった。そうして、何故か怒り、先に進んで行ってしまったアイネを追いかけナハトたちは歩き出すのだった。
鉱山都市ラグリアでも一際、大きく豪勢な建物。
ラグリアの領主、ラング・フロップスの屋敷である。
その執務室、豪華なカーペットが敷かれ、壁には高価な絵画が飾られたその部屋で小太りの中年の男が机の前に座り何事かの雑務をこなしていた。
その長机も椅子も見るからに豪華な調度品であることが分かる。
この男こそ、鉱山都市ラグリアの領主、ラング・フロップスその人である。
ラングは何事かを書かれた書文を読んでいる。数日前、自分に届けられた密書だった。そこには懇意にしている仲の彼らからの情報が事細かに記されている。
それをもう一度読み返している途中、ノックがし、扉が開いた。外からラングの部下の一人が入ってくる。「失礼いたします!」と声を発し、ラングの前に来た部下は姿勢を正すと、「先程、報告がありました」とラングへの報告を始める。
「例の少女と桜の勇者らしき人物がラグリアに入ったとのことです」
その言葉にラングは脂肪で肥えた頬をにやりと歪める。「それは吉報だな」と返した。部下は「はっ」と頷く。
「例の少女……ドラセナといったか。彼女と桜の勇者御一行はこちらの屋敷に招待して差し上げなさい」
「承知しております!」
「うむ。では、任せるぞ」
最後に一礼して部下は執務室から去って行く。それを見届け、ラングはさらに笑みを深くした。
目当ての少女がついにこの町にやって来た。この町は自分の庭も同然だ。いかようにもできる。
彼女をこの家に招いてしまえばそれこそ袋のネズミですらある。そして、懇意にしている彼らに引き渡すのだ。そうすることで自分と彼らの関係をさらに深め、自分は大量の謝礼を受け取る。
全くもって自分に都合がいいように世の中は動いているものだ、と思う。
ラングはひとしきり頭の中で計画を練ると「それにしても、桜の勇者、か」とひとりごちた。
「伝説の勇者がまさか本当にあらわれるとはな。小娘を捕える上で厄介な障害にならなければよいが……まぁ、問題はあるまい」
伝説の聖桜剣を引き抜いたという桜の勇者。聞く限り、カウニカを襲った想獣の群れを撃退し、想獣王すら倒したと聞く。
厄介な障害には違いないが、いくらでもやりようはある。そう判断するとラングは執務に戻った。
小娘はやって来た。ならば後は彼女を捕らえてしまい、彼らに……ゴルドニアース傭兵団に引き渡すだけだ。ラングは深々と笑みを浮かべるのだった。
毎日、日が暮れるまでは道中に存在する村々に立ち寄ることができ、そこで宿を取ることで野宿というものを体験せずに済んだ。
途中、何度かドラセナ狙いの賞金稼ぎに襲われることはあったが、ナハト、イーニッド、グレース、アイネと戦闘向きの幻想具使いが四人も揃っている一行の敵ではなく、賞金稼ぎたちは尻尾を巻いて逃げ出す羽目になった。
そうして二週間近く歩き続けたナハトたち一行はついに鉱山都市ラグリアに到着した。
「ここが鉱山都市ラグリアか……」
入り口の門をくぐってラグリアの中に入り、一見して都市を見渡したナハトは感無量といったところだった。
ラグリア。最初にドラセナと出会い、イヴの家に行って一応の目的地と定めた場所。
そこに至るまでカウニカでの想獣の群れとの戦いやアグド山道での想獣王との戦い、そこからの二週間近くの徒歩での道程をくぐり抜けた先にようやく到着した目的地。
自然と感無量になるというものだった。
それはナハトだけではないらしくイヴも「ようやく到着できましたね」と感慨深そうに笑みを浮かべている。ドラセナも「ここまで長かった」としみじみと言う。
鉱山都市ラグリアはその名の通り、ラプラニウム鉱石を排出する鉱山と繋がっている大都市である。
鉱山に伸びるトロッコのレールが町の中央から山に向かって何本も走り、炭鉱夫たちはそこから鉱山におもむき、ラプラニウム鉱石を発掘して都市に持ち帰り売りさばく、都市には炭鉱夫たちを主な客とした酒場が何件も連なっており、発掘されるラプラニウム鉱石をその場で加工しようとする鍛冶屋たちの姿もあり鍛冶場も多い。
発掘された鉱石を購入して別の場所に運び転売しようとする商人たちの姿もあり、とにかく人で賑わっているのがラグリアという町だった。
立ち並ぶ民家も商店も酒場も宿も、これまでナハトが訪れたカウニカを始めとする村々よりも遥かに豪勢にできており、レベルの違い、というものを感じさせる。
ここがこの近辺でも一際、発展した場所だということを認識させてくれる。町を歩いてみれば、その賑わいは大したものだった。
人の群れで町の通路は溢れており、商店が並んだエリアには様々な物を売りつけようとする商人とそれらを購入しようとするお客たちで大いに賑わっている。
「こんな大きな町に来るのは初めてだ!」とはしゃぐイーニッドがまるっきりおのぼりさんといった態度であちこちをキョロキョロ見て回り、イーニッド程大げさではないものの、ナハトやイヴも物珍しげにあちこちを見て回り、ドラセナやグレースはこういった大きな町に来た経験があるのか、それとも性格ゆえかそこまではしゃぐことはなかった。
アイネに至ってはこういう大きな町に慣れているようで、イーニッドやナハトやイヴの態度に呆れた様子さえ見せていた。
そんなアイネの様子にグレースは何故か疑わしげな視線を向ける。
「アイネアス殿、貴女は本当に傭兵か? その割には大都市に慣れている様子だが……」
だが、そんな疑惑の視線もアイネにとってはどこ吹く風だ。何事もなかったかのように「あら」と呟く。
「傭兵が大都市に慣れていたら悪いかしら? アタシは仕事柄、こういうところを訪れることも多いってだけよ」
何故、グレースがそんなことを訊いたのかナハトにはいまいち分からなかったが、アイネは平気な顔をしてそう返すと人でごったがえしている商店の前を眺める。
「それにしても活気がある町っていうのはいいわね。カウニカなんて田舎にいたら干からびちゃうわよ」
「私はあまり人が多いのは少し……」
人混みを楽しんでいる様子のアイネに対して、イヴは逆に人混みに酔っているような様子を見せる。
ナハトはというと、元の世界の都心部ではこれくらいの人混みはよくあることだったので特にそこに何か思うことはない。だが、ドラセナもこの人混みを苦手としているようだった。
「わたしも少し、人が多い場所は苦手……。早く宿に入って、ゆっくりしようよ」
そんなことまで言い出す始末だった。だが、アイネは「何言っているのよ」と笑う。
「せっかくラグリアにまで来たんだから楽しまないと損じゃない? ナハト、ラグリアでは一緒に買い物をするって約束、アタシは忘れた訳じゃないわよ。さあ、あちこち見て回りましょう」
アイネは本当にこういった大都市に慣れているようだった。元気ハツラツとそんなことを言ってのける。
しかし、アイネ以外の面々は大なり小なりこの大都市に少し戸惑いを覚えている。その言葉に頷く者はいなかった。「アイネアス殿」とグレースが声をかける。
「申し訳ないが、ドラセナ様もこの都市に疲弊しているようだ。まずは宿を取ってそこでゆっくりしてから観光をしよう」
グレースの言葉にアイネは露骨に不満そうな顔を見せると「あら、何よ。ノリの悪いわね」とぼやく。
ドラセナとグレースだけではなく、ナハトやイヴのグレースの意見に賛成な様子を見て取ると仕方がないといった様子で「分かったわよ」と頷いた。
「宿でもなんでも取ればいいじゃない。アタシはその後、ナハトと二人で買い物に行かせてもらうわ」
「なんで俺と二人なんだ?」
アイネの言葉に疑問を感じ、ナハトが訊ねると「何言っているの」と人を小馬鹿にしたような言葉が返ってきた。
「一緒に買い物に行くって約束だったでしょう? ま、別にアタシはナハトとなんか一緒に買い物に行きたくはないんだけど、プレゼントとか買ってくれるなら欲しいし」
嬉しそうに笑みを浮かべるアイネに対してナハトは突っ込みを入れる。
「それはみんなと一緒に買い物に行くって約束だろう? お前と二人っきりって訳じゃないと思うが……」
その言葉にアイネは露骨に不機嫌顔になった。「そうですね」とイヴもナハトの言葉に頷く。
「私たちみんなで行くという話のはずです。アイネアスさん、抜け駆けはダメですよ? ね、グレースさん?」
「だから何故、私に振るのだ。……まぁ、ナハト殿とアイネアス殿が二人きりで買い物に行くというのはいかがなものかと私も思うが……」
「アイネ! 何事も独り占めはよくないぞ!」
「わたしも、ナハトと一緒にこの町で買い物に行きたい……」
総掛かりで否定され、アイネは明らかに不機嫌そうに「何よ」と呟く。「せっかくこのアタシがナハトとの買い物に付き合ってやろうっていうのに、ナハトはアタシと一緒よりみんな一緒の方がいいんだ」と言う。
「まぁ、せっかくだしな。宿に荷物を置いた後、みんなで一緒に行こう」
当然のことを言っただけのつもりなのだが、アイネはますます不機嫌そうになるとプイ、とそっぽを向いてしまう。
「あーっもう。ナハトの馬鹿! アンタと一緒の買い物なんて行ってやるもんですか!」
かと思えばいきなりブチ切れた。つかつかと先に進んで行ってしまう。
一体なんなのか、さっぱり訳が分からずナハトは困惑顔でドラセナやイヴの顔を見る。「何なんだ?」と訊ねると、「乙女心は複雑ということですよ」とイヴが苦笑いをして答える。グレースも「ナハト殿は少しにぶすぎるな」と困ったように呟き、ますますナハトは困惑した。
「ナハトがアイネと一緒に買い物に行くのは反対。でも、ナハトはにぶすぎ。アイネに少し同情する……」
ドラセナまでそんなことを言い出す。
「アイネもわたしと同じでナハトのことが好きなんだな! ま、仕方がない!」
イーニッドが元気よくそんなことを言いナハトは困惑した。「はぁ? アイネが俺のことを好きぃ?」と素っ頓狂な声が出る。
「そんなことある訳ないだろ。あいつが俺に対する態度、知っているだろ?」
「ああ、よく知っているとも! 好きで好きでたまらないという態度だな!」
イーニッドはニカッと笑う。なんだ……? 自分とイーニッドでは見ているものが違うのか? そんなことをナハトは思う。
「……まぁ、嫌よ嫌よは好きの裏返しと言いますしね」
イヴがフォローするようにそんなことを述べる。イヴまで何を言うのか。アイネが自分のことを好きなどとある訳がないというのに。そう思いつつもナハトは「とりあえずアイネを追いかけようぜ」と先に進むことを促した。
「こんな大都市ではぐれたら手間だ。さっさと宿を取ってそこで一服つこう」
「そうだな。ここまで歩いてきて、私もドラセナ様も疲れている。一休みといきたいのはたしかだ」
「ですね」
ナハトの言葉にグレースとイヴも頷く。とりあえずは宿を取る。それで合意のようだった。そうして、何故か怒り、先に進んで行ってしまったアイネを追いかけナハトたちは歩き出すのだった。
鉱山都市ラグリアでも一際、大きく豪勢な建物。
ラグリアの領主、ラング・フロップスの屋敷である。
その執務室、豪華なカーペットが敷かれ、壁には高価な絵画が飾られたその部屋で小太りの中年の男が机の前に座り何事かの雑務をこなしていた。
その長机も椅子も見るからに豪華な調度品であることが分かる。
この男こそ、鉱山都市ラグリアの領主、ラング・フロップスその人である。
ラングは何事かを書かれた書文を読んでいる。数日前、自分に届けられた密書だった。そこには懇意にしている仲の彼らからの情報が事細かに記されている。
それをもう一度読み返している途中、ノックがし、扉が開いた。外からラングの部下の一人が入ってくる。「失礼いたします!」と声を発し、ラングの前に来た部下は姿勢を正すと、「先程、報告がありました」とラングへの報告を始める。
「例の少女と桜の勇者らしき人物がラグリアに入ったとのことです」
その言葉にラングは脂肪で肥えた頬をにやりと歪める。「それは吉報だな」と返した。部下は「はっ」と頷く。
「例の少女……ドラセナといったか。彼女と桜の勇者御一行はこちらの屋敷に招待して差し上げなさい」
「承知しております!」
「うむ。では、任せるぞ」
最後に一礼して部下は執務室から去って行く。それを見届け、ラングはさらに笑みを深くした。
目当ての少女がついにこの町にやって来た。この町は自分の庭も同然だ。いかようにもできる。
彼女をこの家に招いてしまえばそれこそ袋のネズミですらある。そして、懇意にしている彼らに引き渡すのだ。そうすることで自分と彼らの関係をさらに深め、自分は大量の謝礼を受け取る。
全くもって自分に都合がいいように世の中は動いているものだ、と思う。
ラングはひとしきり頭の中で計画を練ると「それにしても、桜の勇者、か」とひとりごちた。
「伝説の勇者がまさか本当にあらわれるとはな。小娘を捕える上で厄介な障害にならなければよいが……まぁ、問題はあるまい」
伝説の聖桜剣を引き抜いたという桜の勇者。聞く限り、カウニカを襲った想獣の群れを撃退し、想獣王すら倒したと聞く。
厄介な障害には違いないが、いくらでもやりようはある。そう判断するとラングは執務に戻った。
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