桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第3章:鉱山都市ラグリア

第29話:領主の招待

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「それでどの宿屋にするよ?」



 買い物の前にまずは宿を取って旅の疲れを癒やす。その方針で固まったものの、宿と一言で言ってもこの町には宿は山ほどあった。

 何分、商人や旅人も多く訪れる大都市である。宿の種類も多ければグレードもピンからキリまで違う。

 ボロボロの安宿もあれば、豪勢な高級宿もあり、どの宿にするかナハトには決めかねていた。

 往来を歩きながらそんな相談をみんなとする。「あまり安い宿はよした方がいいですね」と口にしたのはイヴだ。「なんで?」とナハトは訊ねる。



「安い宿があるところは治安も悪いエリアであることが大半です。安全を考えるのならそれなり以上の宿を取るのが一番でしょう」



 イヴのその説明は納得がいくものだった。「アタシも安い宿は勘弁ね」と同意を示したのはアイネだ。



「安い宿のベッドで寝ても疲れは取れないわよ。最高級の宿を要求するわ」



 アイネらしい意見だったが、それに頷くのもどうかと思った。



「いや、そんなに贅沢はしてられないだろう」

「そうだな。ただでさえ大所帯なのだ。宿代だって馬鹿にならない」



 ナハトの言葉にグレースが頷く。何よ、とアイネは不満をあらわにした。



「ここに来るまでの旅の途中、泊まったのは安宿ばっかりじゃない。っていうか安宿しかなかったんだけど……アタシは腰が痛くてたまらないのよ。お金はあるんだからここは豪勢にいくべきでしょ?」

「お金があるからといってあまりに無計画に使うのはちょっと……」



 アイネの言葉にイヴが渋る。

 ナハトとしてはイヴの意見に賛成だった。

 たしかにお金は結構な額が手に入った。しかし、だからといって無駄に浪費する訳にもいかない。

 旅はこの町で終わりではないのだ。この町は一応の当面の目的地としていた場所ではあるが最終到達点ではない。

 あまり無駄にお金を使うのも考えものだろう。形勢不利と見たのかアイネはドラセナとイーニッドの方を見た。



「あんたらも豪勢な宿屋の方がいいでしょ?」



 イーニッドはともかくドラセナの意見を味方につければ大いに有利になれると判断してのことだったのだろう。しかし、ドラセナはそれに頷くことはなかった。



「わたしはどっちでも……あんまり極端な安宿じゃなければ、そこまで豪華じゃなくてもいい……」

「わたしは雨露さえしのげればなんでもいいぞ!」



 ドラセナとイーニッドにも否定されついにアイネは進退窮まった。「うぐう……」と口にする。とりあえずみんなの意見はまとまったようだ。一同を代表するようにナハトは口にする。



「それじゃあ、普通の宿屋に泊まるってことで決まりでいいか」

「うん。わたしはそれでいい」

「はい。ナハト様」

「オッケーだぞ!」

「ナハト殿の意見で問題ない」



 一同は同意を示しナハトの言葉に頷く、ただ一人渋っていたアイネも、「あー、アタシのフカフカのベッドで寝て、豪華な夕食を食べる計画が~」などと唸っていたが、「仕方がないわねぇ」となんとか納得してくれた。

 そうしてみんなして歩き出そうとする。そこに二人組の男がやって来た。質の良さそうなコートを着ているが腰には帯剣している。

 思わず警戒したナハトたち一行に、「失礼いたします!」と男たちの内、一人が口にした。



「貴方様は桜の勇者様でしょうか?」



 男たちはナハトを見て、そう言う。ドラセナたちの視線もナハトに集まる。多少、気恥ずかしさを感じながら、「一応、そうだけど……」とナハトは答えた。男たちはかしこまった表情のまま続けた。



「やはりそうでしたか。カウニカの村を想獣の襲撃から救ったという桜の勇者様、お会い出来て光栄です」



 光栄、とまで言われて照れ臭くなってしまう。照れ隠しに頭を掻いたナハトだったが、目の前の男たちが何者なのかはまだ分かっていない。

 見たところ敵意はなさそうだが……。見ればグレースが鋭い視線で男たちを一瞥していた。露骨に警戒心を示している。イヴも困惑している様子で、ドラセナは怯えるようにナハトに影に隠れる。

 イーニッドとアイネも多少の警戒心を見せていた。「それで」とナハトが呟く。



「あんたらは一体何者なんだ?」



 ナハトの問いに「申し遅れました」と男たちの一人が言う。



「我々はこの町、ラグリアの領主、ラング・フロップスの使いの者です」

「ラング・フロップス?」



 ナハトは初めて聞く名前だった。説明を求めるように仲間たちを見るとグレースが「ラング・フロップス伯爵」と答える。



「この鉱山都市ラグリアの領主を任されている貴族の方だ」



 グレースの言葉に「へぇ」とナハトは頷くと、そのラング伯爵の使いであるという男たちの方に視線を向けた。



「そのラング伯爵の使いの人が俺たちに一体何のようだ?」



 ナハトの問いに男たちは「はっ!」とかしこまって答える。



「ラング様はカウニカをお救いになった桜の勇者様のご活躍にいたく感銘を受けまして、この町に訪れているのなら是非、自分の屋敷に招待して歓待したいとの意向です。よろしければ、ラング様の屋敷までご足労願えないでしょうか。豪勢な料理を持ってお迎えいたしますし、この町に滞在されている間は宿代わりになります」



 その言葉に「やった!」とはしゃいだのはアイネだ。



「この町の領主様からの招待……豪勢な料理、それにきっとふかふかのベッドもあるわ! ナハト、行きましょうよ!」



 アイネは笑って、提案に乗ることを促す。ナハトは少し迷っていた。宿を探していたナハトたちにとって渡りに船なことに違いはないが、そのラング伯爵とやらは信用できるのか?



「どうする?」



 迷った末、ナハトは仲間たちの意見を募ることにした。

 イヴは思案顔で「少し胡散臭い話ですね」と呟く。グレースは「だが、一つの町の領主の招待だ。信用してもいいのではないか?」と言う。

 イーニッドは「わたしはどっちでもいいぞ!」とたいしたことのなさそうに笑い、肝心のドラセナは「わたしはナハトの決定に従う」とナハトを見た。



「う~ん」



 こうなるとますます悩んでしまう。ナハトが悩んでいるのを見越したのかラング伯爵の使いの男たちは「ラング様は是非とも桜の勇者様とお会いしたいとお考えです」と言葉をかける。



「それに桜の勇者様方は首都、クラフトシティを目指しているとお聞きします。ラング様の庇護下に入れば安全に首都までお送りすることもできます。いかがでしょう?」



 それは魅力的な提案だった。貴族で伯爵ともなればこの国の首都を目指す上で大いに助けになってくれることだろう。

 地位のある人間の庇護下に入るというのはそこまで悪い話ではない。何分、桜の勇者と言っても今のナハトたちは一介の旅人でしかないのだから。だが、まだ迷いはある。そんなナハトに対して「何を迷ってるのよ」とアイネが言う。



「豪華なご飯も食べれてフカフカのベッドで眠れて、その上、首都まで送ってくれるっていうんでしょ? いい事づくしじゃない。

迷う必要もないと思うけど?」

「そうだな……ここで貴族の方の庇護下に入れるのはドラセナ様を護衛する上でも大きい」



 アイネは私欲で言っているようだが、グレースは合理的に物事を見て判断しているようだった。ナハトはついに決断を下した。



「分かった。ラング伯爵とやらの世話になるよ。案内してくれ」



 その言葉に男たちは表情を輝かせ、「はっ、こちらであります」と先に向かって歩き出す。その後を追ってナハトたちも歩き出す。ナハトにイヴが耳打ちした。



「本当によかったんですか? ナハト様」

「これだけ大きな町の領主で貴族様だって言うんだから信用はできるだろう。グレースの言った通り、貴族の庇護下に入ればドラセナを守る上でも有益だしな」



 しかし、そう答えておきながらどこかに胡散臭さを感じざるを得ないナハトだった。

 町を歩くこと十数分、町の高台に建てられたラング伯爵の屋敷という建物は豪勢な屋敷が多く立ち並ぶこの町でも一際豪華なもので一同は思わず目を奪われた。

 綺麗に整えられた中庭を抜けて伯爵の屋敷の本宅まで案内されると男たちはとある部屋の前まで行き、ノックをし先に中に入る。「桜の勇者様御一行をお連れいたしました」と声が聞こえた。

 すると扉の中から小太りの中年男が喜色満面で出てきて「これはこれは、長い旅路、さぞ苦労されたことでしょう」と笑う。



「お初にお目にかかります、わたくし、ラング・フロップス。この町の領主を任されている者です。伝説の桜の勇者様と出会えて光栄の極みです」



 その挨拶を聞き、ナハトたちも自らの名前を名乗る。ラングと一言二言会話しながら、どことなく胡散臭い男だな、という印象をナハトは感じていた。

 そう、ナハトたちはまだ気付いていなかった。巧妙に張り巡らされた罠。その渦中に自ら飛び込んで行ってしまったということに。

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