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第3章:鉱山都市ラグリア
第30話:罠
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案内された客間は傍目にも豪華なものだった。
窮屈しない程度の広さに高級そうな机と椅子、さらにはアイネも満足であろうフカフカのベッド。
壁にかけられた松明も豪勢なインテリアとして一味出している。
声をかけてくれれば使用人が紅茶を淹れてくれるという。
こんな部屋が基本、一人一室。ドラセナは本人の希望でグレースと同室なので、五部屋もナハトたちに用意された。
流石はラグリアという大都市の領主の屋敷であると言えるであろう。
ナハトはベッドに座り込んだ。腰掛けた体が沈む。高級なベッドの感覚にこれまでの旅で泊まってきた安宿のベッドとは根本からして違うのだと感じる。
ここでならみんな旅の疲れを癒やすことができるであろうと好意的に考える一方、少しの胡散臭さも感じていた。
ラング・フロップス。喜色満面の笑みで自分たちを迎えてくれたこの館の主の顔を思い浮かべる。
桜の勇者である自分に出会えたことを光栄だと言い、歓迎する、と述べた彼の言葉通り、たしかに今の自分たちは豪勢な歓待を受けている。夜には豪華な晩餐も用意すると語っており、イーニッドやアイネなどはどんな豪勢な料理が出てくるのか今から楽しみでたまらない様子だ。
しかし、ナハトはどことなくラングという男を信用し切れないでいた。こちらに対し嫌悪感などマイナスの感情を見せたことはない。全面的に好意的に接してくれている。
だが、それのどこかが胡散臭いのだ。これはもはや論理的思考など超越した本能による直感と言えるだろう。
そんなことを考えていると扉がノックされた。「はい」と答えると「ナハト、入るわよ」とアイネの声。間をおかず、アイネが扉を開けて入ってきた。
「どう、くつろいでる?」
アイネは満足そうな笑顔でニヤニヤしながら訊いてくる。アイネ自身、今の自分の待遇に満足していることの現れだった。「まぁな」とナハトは答えた。
「こんな豪勢な部屋を用意してくれるとは思わなかったよ。流石はラグリアの領主だ」
「そうよね~。アタシも大・満・足! ラング伯爵ってなんて素敵な方なのかしら!」
素敵な方。その言葉にラングに対して胡散臭さを抱いているナハトは思わず眉をしかめる。「あら、どうしたの?」とアイネはそんなナハトの様子を敏感に察したようだった。
「いや……ラング伯爵のことを今ひとつ信用し切れなくてさ」
ナハトの言葉にアイネは不思議そうな顔になる。
「あら、なんでよ? アタシたちをこれだけの歓待してくれているのに? そりゃあ、小太りの中年のおじさまだからアタシの恋愛的な意味での対象ではないけど……」
たしかに、とナハトは思う。恋愛的云々は置いておいて今の状態のラングを怪しむ要素はない。それは分かっているのだが……。
「勘だよ、勘。なんとなくあの手の輩は信用できないんだ」
「勘で人のことを信用しないなんてよくないと思うけど……」
アイネは訝しむ。元々、他人に理解を求めようとは思っていなかったのでナハトもそれ以上は言わなかった。「それより」とアイネが話題を切り出す。彼女にとって、ラングがどうこうは大したことではないのだろう。
「寝所も確保できたことだし、一緒に買い物に行かない? ここならいいお店が揃っているわよ? あ、勘違いしないでよね。別にアタシがアンタと一緒に買い物に行きたいとかそういうことじゃなくて、あくまでアタシの買い物に荷物持ちとして付き合わせてあげようって思っているだけなんだから」
買い物か。さっきも似たようなことを言っていたな。
アイネの相変わらずの様子にナハトは「う~ん」と考え込む。たしかに腰を落ち着けることはできた。だからといってすぐにそんなに積極的に動くのはいかがなものか。「いや、今はやめとくよ」と答えると「なんでよ!?」とアイネが声を荒げた。
「ようやく腰を落ち着けられたばかりでまだ旅の疲れも癒えてないんだ。少しゆっくりしたい気分なんだよ」
「何よ、ジジ臭いわねぇ……」
アイネは眉をしかめてそう言う。見るからに不満そうであった。
「何も明日明後日、この町を立つって訳でもないんだ。俺も少しゆっくりするさ。買い物なら明日でもできるだろ? その時にはみんな、疲れも取れてるだろうし、みんなで一緒に買い物に行こう」
当然のことをナハトは言ったつもりだったのだが、アイネはさらに不機嫌そうに表情をしかめる。「みんな、一緒、ね……」と呟くと、不機嫌さを隠そうともせず、「まぁ、いいわ」と呟く。
「それじゃあ、アタシも今日は部屋でゆっくりくつろがせてもらうことにするわ。アタシみたいな美人と一緒に買い物に行かなかったこと後悔しても遅いんだからね」
そんなことを言い残すとアイネは部屋から出て行った。
そうしてしばらく部屋でボーッとしていて旅の疲れを癒やしていると再び扉がノックされた。「ナハト、いる?」とドラセナの声がして「いるぞ」と答えた。
扉が開き、ドラセナが姿を見せる。珍しい、と思った。ドラセナの性格上、屋敷を歩き回ったりすることはせず、部屋でジッとしているものだと思っていたからだ。
何の用だろうと思ってドラセナに視線をそそいでいると「あのね」とドラセナは切り出す。
「聞いて欲しいことがあるの」
ドラセナの言葉に「ああ、なんだ」と答える。ドラセナは少し躊躇した様子を見せ、しかし、口を開いた。
「ラング伯爵のこと……わたし、あんまり信用できないの」
その言葉にナハトは少し驚いた。まさにナハトの考えていたことと同じことだったからだ。だが、それは口に出さず「なんでさ」と訊ねる。ドラセナは自信なさげにポツポツと語り続ける。
「根拠はないんだけどね……なんとなくあの人は信用できないの」
「根拠もなく人を疑うのはどうかと思うぞ」
自分もまた根拠もなくラングのことを疑っているのだが、それは脇に置いておいて正論を言う。「それは、そうなんだけど……」とドラセナはうつむく勢いで呟く。「まぁ、たしかに」とナハトはそんなドラセナに声をかけた。
「俺もあの人のことはあまり信用できないな。なんとなく胡散臭い感じで」
「ナハトも?」
「ああ」
ドラセナが見上げてくる。自分の意見に同意してもらえて嬉しいのだろう。「とはいえ」とナハトは続ける。
「根拠のない勘だ。あんまり色眼鏡で見るのもどうかと思う。少なくとも今は好意的に俺たちを扱ってくれている」
「うん……それはそうなんだけどね……」
ドラセナが何かを言いたげな様子を見せる。ドラセナの言いたいことは大体察せれた。ラングもまた自分のことを狙っているのではないかと言うことだろう。
「今のところラング伯爵は俺のことを桜の勇者って特別視してもドラセナのことを特別視している様子はない。ドラセナのことは知らないんじゃないのか?」
各人を客間に通すに当たってラングはドラセナだけを離れた部屋にする、などといったことはしなかった。
ドラセナだけグレースとの二人部屋にして欲しいと希望したことでナハトたちがドラセナを特別視していることは読み取ったかもしれないが、会話の節々からもドラセナのことをただの桜の勇者の仲間の少女と認識している様子が伺える。
ナハトの言葉にドラセナは「うん……」と答えた。
「まぁ、もしラング伯爵がドラセナのことを狙っていたとしても部屋は近いんだ。ドラセナに何かしようとしたら俺が駆け付けてやる。グレースとも同じ部屋なんだろう? なら、そうそうドラセナに手は出せないさ」
仮に睡眠中にドラセナをさらおうとしたところで訓練された騎士のグレースなら睡眠時でも異常があれば飛び起きる。
ドラセナの護衛として信頼できると思えた。ナハトの言葉にドラセナは自分を納得させるように「そうだよね」と頷く。
そこでナハトは自分はベッドに座っているが、ドラセナを立たせっぱなしなことに気付いた。「隣、座るか?」と声をかける。「いいの?」とドラセナは言い、「勿論」と答えた。ドラセナがナハトの隣に腰をかける。
「晩飯まで暇だし適当に何かの話でもするか」
「それじゃあ、わたし、ナハトの元いた世界の話を聞きたい」
「俺の世界のこと?」
意外な申し出だったので少し困惑する。「うん」とドラセナは頷く。
「この世界とは全然、違う世界なんでしょ? 興味があるの」
彼女がこんな風に好奇心を示すのは珍しい。そう思いながらも拒む理由はなかったので「分かった」とナハトは頷く。
「それじゃあ、何から話そうかな……俺の世界は……」
そうして、短くない時間、ナハトは自分の世界の話をドラセナにするのだった。
それから日が暮れて、大きな食堂に案内されたナハトたちはそこで豪華な歓待を受けた。
テーブルには豪勢な料理の数々が並び、イーニッドやアイネは目を輝かせる。
その二人程露骨ではなかったが、ナハトやドラセナ、イヴやグレースも目の前に並ぶ料理の数々には凄い、という感想を抱かざるを得なかった。
ラングも食事の席には同席し、ナハトたちがまだ未成年でワインの類を飲めないことを残念そうに思いながらも会食は進んだ。
見かけに違わず料理の類はどれも美味としか言いようがなくそれに舌鼓を打ちながら、ラング相手にこれまでの旅のことやカウニカでの想獣との戦いのことなどを話す。
ラングは心底感心した様子で「流石は桜の勇者様ですな」などと述べていた。用意された食事を食べ終わり、各自、部屋に戻る。異変があったのはそれからだった。
(なんだ……?)
食事を終えて、部屋に戻ったナハトは自分が異様な眠気に襲われていることに気付いた。
旅の疲れからの眠気? いや、これは、そんなものじゃない? もっと別の何かだ。そうだ、と思った。元の世界にいた頃、ナハトは不眠症になったことがあり、その時に睡眠薬を処方された。
それを飲んだ時の感覚に近いのだ。だが、ナハトは睡眠薬など飲んでいない。なのに、まるで薬を飲まされたかのようなこの異様な眠気は何なのか……。
(まさか……!)
遠のく意識を感じながらナハトには思い至ったことがあった。先程の会食。あの時に……。
まさか、料理に一服盛られた? その直感は正しいものだと思えた。まずい、と思う。やはりラングには腹に秘めたものがあったのだ。
みんなに知らせないと。狙いはやはりドラセナか? そう思うが体が動かない。ナハトの体はベッドに倒れ込み、松明の明かりを消す暇もなく、自身を襲う異様な眠気に支配される。
(ドラ……セナ……!)
ナハトは脳裏にドラセナの姿を思い浮かべる。ドラセナと同じ部屋にはグレースがいる。
しかし、彼女といえど普通に眠っているのなら異変があれば飛び起きるだろうが、睡眠薬を盛られた状況ではどうか……? まずい。ドラセナが危ない。ドラセナを守らなければ。 そんなナハトの思いも虚しくナハトの意識は闇に落ちていくのであった。
窮屈しない程度の広さに高級そうな机と椅子、さらにはアイネも満足であろうフカフカのベッド。
壁にかけられた松明も豪勢なインテリアとして一味出している。
声をかけてくれれば使用人が紅茶を淹れてくれるという。
こんな部屋が基本、一人一室。ドラセナは本人の希望でグレースと同室なので、五部屋もナハトたちに用意された。
流石はラグリアという大都市の領主の屋敷であると言えるであろう。
ナハトはベッドに座り込んだ。腰掛けた体が沈む。高級なベッドの感覚にこれまでの旅で泊まってきた安宿のベッドとは根本からして違うのだと感じる。
ここでならみんな旅の疲れを癒やすことができるであろうと好意的に考える一方、少しの胡散臭さも感じていた。
ラング・フロップス。喜色満面の笑みで自分たちを迎えてくれたこの館の主の顔を思い浮かべる。
桜の勇者である自分に出会えたことを光栄だと言い、歓迎する、と述べた彼の言葉通り、たしかに今の自分たちは豪勢な歓待を受けている。夜には豪華な晩餐も用意すると語っており、イーニッドやアイネなどはどんな豪勢な料理が出てくるのか今から楽しみでたまらない様子だ。
しかし、ナハトはどことなくラングという男を信用し切れないでいた。こちらに対し嫌悪感などマイナスの感情を見せたことはない。全面的に好意的に接してくれている。
だが、それのどこかが胡散臭いのだ。これはもはや論理的思考など超越した本能による直感と言えるだろう。
そんなことを考えていると扉がノックされた。「はい」と答えると「ナハト、入るわよ」とアイネの声。間をおかず、アイネが扉を開けて入ってきた。
「どう、くつろいでる?」
アイネは満足そうな笑顔でニヤニヤしながら訊いてくる。アイネ自身、今の自分の待遇に満足していることの現れだった。「まぁな」とナハトは答えた。
「こんな豪勢な部屋を用意してくれるとは思わなかったよ。流石はラグリアの領主だ」
「そうよね~。アタシも大・満・足! ラング伯爵ってなんて素敵な方なのかしら!」
素敵な方。その言葉にラングに対して胡散臭さを抱いているナハトは思わず眉をしかめる。「あら、どうしたの?」とアイネはそんなナハトの様子を敏感に察したようだった。
「いや……ラング伯爵のことを今ひとつ信用し切れなくてさ」
ナハトの言葉にアイネは不思議そうな顔になる。
「あら、なんでよ? アタシたちをこれだけの歓待してくれているのに? そりゃあ、小太りの中年のおじさまだからアタシの恋愛的な意味での対象ではないけど……」
たしかに、とナハトは思う。恋愛的云々は置いておいて今の状態のラングを怪しむ要素はない。それは分かっているのだが……。
「勘だよ、勘。なんとなくあの手の輩は信用できないんだ」
「勘で人のことを信用しないなんてよくないと思うけど……」
アイネは訝しむ。元々、他人に理解を求めようとは思っていなかったのでナハトもそれ以上は言わなかった。「それより」とアイネが話題を切り出す。彼女にとって、ラングがどうこうは大したことではないのだろう。
「寝所も確保できたことだし、一緒に買い物に行かない? ここならいいお店が揃っているわよ? あ、勘違いしないでよね。別にアタシがアンタと一緒に買い物に行きたいとかそういうことじゃなくて、あくまでアタシの買い物に荷物持ちとして付き合わせてあげようって思っているだけなんだから」
買い物か。さっきも似たようなことを言っていたな。
アイネの相変わらずの様子にナハトは「う~ん」と考え込む。たしかに腰を落ち着けることはできた。だからといってすぐにそんなに積極的に動くのはいかがなものか。「いや、今はやめとくよ」と答えると「なんでよ!?」とアイネが声を荒げた。
「ようやく腰を落ち着けられたばかりでまだ旅の疲れも癒えてないんだ。少しゆっくりしたい気分なんだよ」
「何よ、ジジ臭いわねぇ……」
アイネは眉をしかめてそう言う。見るからに不満そうであった。
「何も明日明後日、この町を立つって訳でもないんだ。俺も少しゆっくりするさ。買い物なら明日でもできるだろ? その時にはみんな、疲れも取れてるだろうし、みんなで一緒に買い物に行こう」
当然のことをナハトは言ったつもりだったのだが、アイネはさらに不機嫌そうに表情をしかめる。「みんな、一緒、ね……」と呟くと、不機嫌さを隠そうともせず、「まぁ、いいわ」と呟く。
「それじゃあ、アタシも今日は部屋でゆっくりくつろがせてもらうことにするわ。アタシみたいな美人と一緒に買い物に行かなかったこと後悔しても遅いんだからね」
そんなことを言い残すとアイネは部屋から出て行った。
そうしてしばらく部屋でボーッとしていて旅の疲れを癒やしていると再び扉がノックされた。「ナハト、いる?」とドラセナの声がして「いるぞ」と答えた。
扉が開き、ドラセナが姿を見せる。珍しい、と思った。ドラセナの性格上、屋敷を歩き回ったりすることはせず、部屋でジッとしているものだと思っていたからだ。
何の用だろうと思ってドラセナに視線をそそいでいると「あのね」とドラセナは切り出す。
「聞いて欲しいことがあるの」
ドラセナの言葉に「ああ、なんだ」と答える。ドラセナは少し躊躇した様子を見せ、しかし、口を開いた。
「ラング伯爵のこと……わたし、あんまり信用できないの」
その言葉にナハトは少し驚いた。まさにナハトの考えていたことと同じことだったからだ。だが、それは口に出さず「なんでさ」と訊ねる。ドラセナは自信なさげにポツポツと語り続ける。
「根拠はないんだけどね……なんとなくあの人は信用できないの」
「根拠もなく人を疑うのはどうかと思うぞ」
自分もまた根拠もなくラングのことを疑っているのだが、それは脇に置いておいて正論を言う。「それは、そうなんだけど……」とドラセナはうつむく勢いで呟く。「まぁ、たしかに」とナハトはそんなドラセナに声をかけた。
「俺もあの人のことはあまり信用できないな。なんとなく胡散臭い感じで」
「ナハトも?」
「ああ」
ドラセナが見上げてくる。自分の意見に同意してもらえて嬉しいのだろう。「とはいえ」とナハトは続ける。
「根拠のない勘だ。あんまり色眼鏡で見るのもどうかと思う。少なくとも今は好意的に俺たちを扱ってくれている」
「うん……それはそうなんだけどね……」
ドラセナが何かを言いたげな様子を見せる。ドラセナの言いたいことは大体察せれた。ラングもまた自分のことを狙っているのではないかと言うことだろう。
「今のところラング伯爵は俺のことを桜の勇者って特別視してもドラセナのことを特別視している様子はない。ドラセナのことは知らないんじゃないのか?」
各人を客間に通すに当たってラングはドラセナだけを離れた部屋にする、などといったことはしなかった。
ドラセナだけグレースとの二人部屋にして欲しいと希望したことでナハトたちがドラセナを特別視していることは読み取ったかもしれないが、会話の節々からもドラセナのことをただの桜の勇者の仲間の少女と認識している様子が伺える。
ナハトの言葉にドラセナは「うん……」と答えた。
「まぁ、もしラング伯爵がドラセナのことを狙っていたとしても部屋は近いんだ。ドラセナに何かしようとしたら俺が駆け付けてやる。グレースとも同じ部屋なんだろう? なら、そうそうドラセナに手は出せないさ」
仮に睡眠中にドラセナをさらおうとしたところで訓練された騎士のグレースなら睡眠時でも異常があれば飛び起きる。
ドラセナの護衛として信頼できると思えた。ナハトの言葉にドラセナは自分を納得させるように「そうだよね」と頷く。
そこでナハトは自分はベッドに座っているが、ドラセナを立たせっぱなしなことに気付いた。「隣、座るか?」と声をかける。「いいの?」とドラセナは言い、「勿論」と答えた。ドラセナがナハトの隣に腰をかける。
「晩飯まで暇だし適当に何かの話でもするか」
「それじゃあ、わたし、ナハトの元いた世界の話を聞きたい」
「俺の世界のこと?」
意外な申し出だったので少し困惑する。「うん」とドラセナは頷く。
「この世界とは全然、違う世界なんでしょ? 興味があるの」
彼女がこんな風に好奇心を示すのは珍しい。そう思いながらも拒む理由はなかったので「分かった」とナハトは頷く。
「それじゃあ、何から話そうかな……俺の世界は……」
そうして、短くない時間、ナハトは自分の世界の話をドラセナにするのだった。
それから日が暮れて、大きな食堂に案内されたナハトたちはそこで豪華な歓待を受けた。
テーブルには豪勢な料理の数々が並び、イーニッドやアイネは目を輝かせる。
その二人程露骨ではなかったが、ナハトやドラセナ、イヴやグレースも目の前に並ぶ料理の数々には凄い、という感想を抱かざるを得なかった。
ラングも食事の席には同席し、ナハトたちがまだ未成年でワインの類を飲めないことを残念そうに思いながらも会食は進んだ。
見かけに違わず料理の類はどれも美味としか言いようがなくそれに舌鼓を打ちながら、ラング相手にこれまでの旅のことやカウニカでの想獣との戦いのことなどを話す。
ラングは心底感心した様子で「流石は桜の勇者様ですな」などと述べていた。用意された食事を食べ終わり、各自、部屋に戻る。異変があったのはそれからだった。
(なんだ……?)
食事を終えて、部屋に戻ったナハトは自分が異様な眠気に襲われていることに気付いた。
旅の疲れからの眠気? いや、これは、そんなものじゃない? もっと別の何かだ。そうだ、と思った。元の世界にいた頃、ナハトは不眠症になったことがあり、その時に睡眠薬を処方された。
それを飲んだ時の感覚に近いのだ。だが、ナハトは睡眠薬など飲んでいない。なのに、まるで薬を飲まされたかのようなこの異様な眠気は何なのか……。
(まさか……!)
遠のく意識を感じながらナハトには思い至ったことがあった。先程の会食。あの時に……。
まさか、料理に一服盛られた? その直感は正しいものだと思えた。まずい、と思う。やはりラングには腹に秘めたものがあったのだ。
みんなに知らせないと。狙いはやはりドラセナか? そう思うが体が動かない。ナハトの体はベッドに倒れ込み、松明の明かりを消す暇もなく、自身を襲う異様な眠気に支配される。
(ドラ……セナ……!)
ナハトは脳裏にドラセナの姿を思い浮かべる。ドラセナと同じ部屋にはグレースがいる。
しかし、彼女といえど普通に眠っているのなら異変があれば飛び起きるだろうが、睡眠薬を盛られた状況ではどうか……? まずい。ドラセナが危ない。ドラセナを守らなければ。 そんなナハトの思いも虚しくナハトの意識は闇に落ちていくのであった。
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