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第4章:交易都市ペルトーセ
第44話:楽しい買い物と迫り来る脅威
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「さあ! 色々見て回るわよ~!」
日も登り切り、昼食も食べた後、ナハトたちは予定通り買い物に繰り出した。ペルトーセの中でも商店が集まっているエリアに辿り着くと共にアイネが声を上げる。
「やっぱり服屋から見て回るのが一番ね。買い物といったら服が定番だしね」
そう言ってアイネは服屋の類を中心に物色しようとする。それに異を唱えたのはグレースだった。
「アイネアス殿、我々は旅をしている身だぞ? 服を二着も三着も買っても持ち歩く余裕はないと思うが……」
これは正論だった。アイネもムッと黙り込む。しかし、すぐに「見て回るくらいならいいでしょ?」と声を返した。
「試着するだけならタダなんだし。ドラセナとか色んな服が似合うと思うわよ」
「え? わたし?」
いきなり水を向けられドラセナが目をパチクリさせる。「たしかに」とイヴも同意の声を出した。
「ドラセナさんには色んな衣装が似合うと思いますね」
「そうだな! ドラセナは色白美人だからな!」
イーニッドにまで同意の言葉をかけられ、ドラセナは照れて真っ赤になってしまう。
その末に「ナハトは……どう、思う……?」と上目遣いでナハトに意見を求めてきた。「あ、ああ……」とナハトは返しつつ、どう言ったらいいものか迷った。
たしかにドラセナには色んな服が似合うと思う。いつもの見慣れたワンピース調の白い服もいいが、他の服も見てみたい。
もっとも、色んな服が似合うというのはこの面々の中でドラセナに限った話ではないと思うが。
「そう、だな……たしかにドラセナには色んな服が似合うと思う。試着してみるのも悪くないんじゃないか?」
その言葉にドラセナは「分かった……」と頷く。
それを聞きアイネは目を輝かせ「それじゃあ、まずはあの服屋に行くわよ」と先陣を切り、歩き出した。
みんなが慌てて続く。服屋の中に入る。大都市だけあって、服の種類は充実しているようだった。
アイネは楽しげに服を片っ端から手に取り、あれでもない、これでもないと選んでいく。アイネ程ではないが、イヴやグレースも色んな服を見て回っていた。
「こう素敵な服装が並んでいると、心が踊りますね」
イヴはそう言って笑った。やはり女性は服屋というものが好きなものなのだろう、とナハトは思った。
それは元の世界もこの世界も変わりない、ということか。一方でイーニッドはあまり楽しげではなかった。「あんまり気乗りしてないみたいだな?」とナハトが訊ねると、「ふむ」とイーニッドは頷く。
「服など着れればどれでもいいだろう。何故、皆がはしゃいでいるのか、分からん」
それは実用一辺倒の答えだった。イシュプリンガーの戦士の彼女にとってはそういうものなのだろう、と思った。
「さあ、ドラセナ。色々、着てみなさい。アタシが着せてあげるわ」
そう言ってアイネはドラセナを連れて試着室に入っていく。
しばらくして試着室から出て来たドラセナはナハトの世界で言うチューブトップの服を身に纏って恥ずかしそうにしていた。
「こ、こんなの恥ずかしいよ」と述べるドラセナに「何言っているのよ、よく似合っているわよ」とアイネが声をかける。
ドラセナにしては多少露出が高すぎな感はあるがたしかによく似合ってはいる、とナハトも思った。服に関してアイネの目はたしからしい。そのあたり、流石はお嬢様といったところか。
「ナハト、ドラセナ、どう? よく似合っているでしょ?」
アイネに声をかけられ、ナハトはビクリとしつつ、ドラセナを見る。ドラセナは羞恥で赤い顔をしている。どう言ったらいいものか、迷ったが、ありのままを言う事にした。
「ああ。アイネの肩を持つ訳じゃないが、よく似合っていると思うぞ、ドラセナ」
「そ、そう……? そうなの、かな……?」
ドラセナは恥ずかしそうに言う。イヴやグレース、イーニッドも似合っていると言い、ドラセナは真っ赤になりながら再び試着室の中に消えていった。
次に出て来た時はドラセナはフリルがたくさんついたゴスロリ調の服を着ていて、これもよく似合っていた。
すっかりドラセナはアイネの着せ替え人形状態だった。色々な服を着させられている。そうしている間にもイヴやグレースも色んな服を物色して、楽しんでいる様子だった。
最後にアイネは気に入ったらしい服を一着買うとベネディクトゥス家の屋敷送りにしてしまった。いつか、帰った時に着るのだという。
服屋を一通り見て回った後は小物屋を中心に店を回る。
今度はイーニッドもはしゃぎ色々な小物を手に取っては「可愛いな」などと呟いていた。「ナハト」とアイネがナハトの名を呼び、なんだ? とナハトがアイネを振り向く。
「この小物類の中からアタシ、イヴ、イーニッド、グレースへのプレゼントを選びなさい。そういう約束でしょう? 別に小物でなくてもいいんだけど、あまり高い買い物をさせるのも悪いしね」
そう言われてそういえばプレゼントもするという約束だったな、とナハトは思い出した。
あまり高い買い物をさせるのは悪いとは言いつつも小物の中にも高価な物は沢山、あった。
そのあたり辺境の村だったカウニカとは根本からして違う。しかし、皆に選ぶというのなら……。
「ドラセナにもプレゼントを上げるよ」
そう言ってドラセナの方を見る。以前、ドラセナにはカウニカで首飾りを買ってプレゼントしているが安物の首飾りだ。この町で選んだ物の方がいいだろう。そう思っての言葉だったが、ドラセナは「わたしは……いい」と言う。
「前にナハトに買ってもらった首飾りがあるから……わたしはこれを気に入ってるし」
「そ、そうか……? でも、安物だぞ?」
ドラセナは今も自分の首にかけてある首飾りをいじりながらそんなことを言う。
「こういうのは値段の問題じゃないんですよ、ナハト様」
そんなドラセナを見ながらイヴが言った。そういうもの……なのだろうか?
「私たちも別段、高価な物が欲しいということはありません。ナハト様が選んでくれた物ならなんでもいいんです」
そう言って笑顔を見せる。「そうだな!」とイーニッドも頷き、「フ……」とグレースも微笑を浮かべる。「あんまりセンスのないものはごめんだけどね」とアイネだけは少し違ったことを言っていたが。
それから色んな店を見て回り、ナハトはイヴには手鏡をイーニッドにはブレスレットを、グレースには香水をアイネには髪留めをプレゼントした。
ナハトなりにみんなに似合うように選んだつもりだった。「ありがとうございます、ナハト様。大事にしますね」とイヴは喜びをあらわにし、「この腕輪、気に入ったぞ!」とイーニッドも笑い、「悪くない」とグレースも微笑を浮かべ、「ま、アンタにしては結構、センスがいいんじゃない?」とアイネも笑みを見せた。
とりあえず全員をガッカリさせることはなかったようでナハトはホッとする。あまり高価な物でなくていいとは言われていたが、それなりの値段の物を選んだ。
安物の首飾りを送ったドラセナには少し悪い気もしたが、本人が気にしてないようなので良しとした。
それからも一同は様々な店を物色して回る。積極的に買い物をするのはこの町に自分の屋敷があるアイネくらいだったが、色々な商品を見て回るだけでみんな、楽しそうにしていた。特にドラセナは様々な商品にアメジストの瞳を輝かせて、見入っていた。
こういうことをあまり経験したことがないというのは本当なんだな、と思った。
そこまで考えて、少し不思議に思う。ドラセナは王都で保護されていた、と話していた。
王都にも当然、商店はあるだろう。王都というくらいなのだからこの町に匹敵するくらいの商店はあるはずだ。それらに訪れることはなかったのだろうか……?
そんなふと浮かんだナハトの疑問だが、口にすることはなく、みんなで買い物を続け、そろそろベネディクトゥス家の屋敷に戻るか、という話になった頃にはすっかり太陽も沈みかけの時間になっていた。
「いやぁ~、今日はよく買い物したわね~」
アイネが満足げな顔を浮かべて先頭を歩いて行く。この町に自分の屋敷があるからと彼女は本当に色々な物を購入していた。金遣いの荒らさであの厳格そうな親父さんに怒られたりしないんだろうか、と他人事ながらナハトは心配してしまう。
「ですが、一番嬉しいのはやはりナハト様からいただいたプレゼントですね」
「そうだな! ナハト! 大事にするぞ!」
イヴとイーニッドがそう言って笑みを浮かべてナハトの方を見る。
そう言われるとナハトも照れ臭くなってしまい「あ、ああ……それならプレゼントした甲斐もある」とだけ返すのが精一杯だった。グレースも満足そうな表情を浮かべている。
「楽しかったね、ナハト」
ドラセナがそう言い、無垢な笑みを浮かべている。どうやら心の底からこの買い物を楽しんだようだ。
ドラセナが嬉しそうなのを見ているとナハトも思わず笑みを浮かべてしまう。「そうだな、楽しかったな、ドラセナ」とナハトも声をかける。
正直、女性陣の買い物に付き合わされるというのはナハトにとって少なからず疲労を覚えるものだったのだが、ドラセナのこの笑顔を見ているとそんな疲れも吹っ飛ぶというものだった。
「また一緒に買い物しような」とドラセナに声をかけていた。「うん!」とドラセナは嬉しそうに頷く。「あらら~」とイヴが言葉を挟んだ。
「またドラセナさんだけ抜け駆けですか~?」
「ずるいぞドラセナ。ナハトと買い物に行く時はみんな一緒だ!」
「そうよ。アタシも連れて行きなさい。ま、アタシは別にナハトに興味なんてないんだけど、不公平は許せないわ」
イヴ、イーニッド、アイネにそう言われ、ナハトとドラセナは困惑の表情を浮かべる。グレースに助けを求める視線を送るも「私も、同行したいところだ」と言われてしまってはどうしようもない。
最後の最後にたじたじになりながらも、ナハトたちはベネディクトゥス家の屋敷に戻ったのだが、様子がおかしいことに気付いた。
「……? どうしたのかしら?」
アイネが眉根を寄せて疑問の声を発する。執事たちが慌ただしく走り回っている。
ペルトーセに駐留しているアインクラフト王国軍の人間たちも屋敷に訪れているようだ。
何事が起こったのか。困惑するナハトたちの前にディオンが現れ、「ああ、アイネアス様! ナハト様!」と声を掛けてきた。「どうしたんですか?」とナハトが一同を代表して訊ねる。
「それが……なんでも想獣の大群がこの町を目指して進んできているようでして……」
その言葉にみんなして絶句する。想獣の大群の襲来。カウニカであったあの事態がまた起こっているというのか。
「今、エイブラム様はアインクラフト軍の方と対策を協議中です。申し訳ありませんが、アイネアス様やナハト様がたも広間の方でしばらくお待ち下さい!」
そう言うとディオンはやるべきことがあるのか足早に去って行く。それを見送って、ナハトは呟いた。
「想獣の襲撃、だって……」
「カウニカの時と同じ……」
ドラセナも呟く。「ですが、おかしいですよ」とイヴが言う。
「想獣が人里を襲うことはありますが、こんなに短期間で何度も起きるなんてことはないはずです」
「だが、現に想獣はこの町を目指していると言っていた」
グレースが冷静に呟く。
「とりあえず広間の方に行って待ってよう。アイネの親父さんたちも何もせず手をこまねいている訳じゃないだろうし……」
「ナハト、どこに行くんだ? そっちは客間だぞ?」
広間に行こうと言いつつ客間に向かおうとするナハトを疑問に思ってかイーニッドが訊ねる。「聖桜剣を取ってくる」とナハトは答えた。
「想獣が来るっていうんなら多分、必要になると思うからさ」
それは自分たちも戦うという意思表示であった。「そうね」とアイネも呟く。
「アタシも着替えてくるわ。想獣が来るっていうのならアタシたちも戦わないと……」
そう言ってアイネも自分の部屋に向かう。想獣が、来る……。ナハトたちはこれから起こるであろう戦いの予感に身を震わせるのであった。
メリクリウスはペルトーセを目指して進む想獣の群れを見ながら、内心舌を巻いていた。
想獣使いのリリアーヌ。その名は聞き及んでいたが、まさかこれほどの数の想獣を操ることができるとは……。
たった一人の人間がこれだけの軍勢を操ることができるというのは驚異的だ。味方のことながら戦慄を覚える。
だが、これなら上手く行くという予感も抱く。これだけの想獣の襲撃となればペルトーセも、ベネディクトゥス家もドラセナ・エリアスの護衛どころではなくなるだろう。
想獣たちがペルトーセを襲うのに合わせて自分たちもペルトーセに潜り込み、ドラセナ・エリアスを狙う。メリクリウスはリリアーヌの立てた計画通りに事を運ぶべく、部下たちに指示を出すのだった。
日も登り切り、昼食も食べた後、ナハトたちは予定通り買い物に繰り出した。ペルトーセの中でも商店が集まっているエリアに辿り着くと共にアイネが声を上げる。
「やっぱり服屋から見て回るのが一番ね。買い物といったら服が定番だしね」
そう言ってアイネは服屋の類を中心に物色しようとする。それに異を唱えたのはグレースだった。
「アイネアス殿、我々は旅をしている身だぞ? 服を二着も三着も買っても持ち歩く余裕はないと思うが……」
これは正論だった。アイネもムッと黙り込む。しかし、すぐに「見て回るくらいならいいでしょ?」と声を返した。
「試着するだけならタダなんだし。ドラセナとか色んな服が似合うと思うわよ」
「え? わたし?」
いきなり水を向けられドラセナが目をパチクリさせる。「たしかに」とイヴも同意の声を出した。
「ドラセナさんには色んな衣装が似合うと思いますね」
「そうだな! ドラセナは色白美人だからな!」
イーニッドにまで同意の言葉をかけられ、ドラセナは照れて真っ赤になってしまう。
その末に「ナハトは……どう、思う……?」と上目遣いでナハトに意見を求めてきた。「あ、ああ……」とナハトは返しつつ、どう言ったらいいものか迷った。
たしかにドラセナには色んな服が似合うと思う。いつもの見慣れたワンピース調の白い服もいいが、他の服も見てみたい。
もっとも、色んな服が似合うというのはこの面々の中でドラセナに限った話ではないと思うが。
「そう、だな……たしかにドラセナには色んな服が似合うと思う。試着してみるのも悪くないんじゃないか?」
その言葉にドラセナは「分かった……」と頷く。
それを聞きアイネは目を輝かせ「それじゃあ、まずはあの服屋に行くわよ」と先陣を切り、歩き出した。
みんなが慌てて続く。服屋の中に入る。大都市だけあって、服の種類は充実しているようだった。
アイネは楽しげに服を片っ端から手に取り、あれでもない、これでもないと選んでいく。アイネ程ではないが、イヴやグレースも色んな服を見て回っていた。
「こう素敵な服装が並んでいると、心が踊りますね」
イヴはそう言って笑った。やはり女性は服屋というものが好きなものなのだろう、とナハトは思った。
それは元の世界もこの世界も変わりない、ということか。一方でイーニッドはあまり楽しげではなかった。「あんまり気乗りしてないみたいだな?」とナハトが訊ねると、「ふむ」とイーニッドは頷く。
「服など着れればどれでもいいだろう。何故、皆がはしゃいでいるのか、分からん」
それは実用一辺倒の答えだった。イシュプリンガーの戦士の彼女にとってはそういうものなのだろう、と思った。
「さあ、ドラセナ。色々、着てみなさい。アタシが着せてあげるわ」
そう言ってアイネはドラセナを連れて試着室に入っていく。
しばらくして試着室から出て来たドラセナはナハトの世界で言うチューブトップの服を身に纏って恥ずかしそうにしていた。
「こ、こんなの恥ずかしいよ」と述べるドラセナに「何言っているのよ、よく似合っているわよ」とアイネが声をかける。
ドラセナにしては多少露出が高すぎな感はあるがたしかによく似合ってはいる、とナハトも思った。服に関してアイネの目はたしからしい。そのあたり、流石はお嬢様といったところか。
「ナハト、ドラセナ、どう? よく似合っているでしょ?」
アイネに声をかけられ、ナハトはビクリとしつつ、ドラセナを見る。ドラセナは羞恥で赤い顔をしている。どう言ったらいいものか、迷ったが、ありのままを言う事にした。
「ああ。アイネの肩を持つ訳じゃないが、よく似合っていると思うぞ、ドラセナ」
「そ、そう……? そうなの、かな……?」
ドラセナは恥ずかしそうに言う。イヴやグレース、イーニッドも似合っていると言い、ドラセナは真っ赤になりながら再び試着室の中に消えていった。
次に出て来た時はドラセナはフリルがたくさんついたゴスロリ調の服を着ていて、これもよく似合っていた。
すっかりドラセナはアイネの着せ替え人形状態だった。色々な服を着させられている。そうしている間にもイヴやグレースも色んな服を物色して、楽しんでいる様子だった。
最後にアイネは気に入ったらしい服を一着買うとベネディクトゥス家の屋敷送りにしてしまった。いつか、帰った時に着るのだという。
服屋を一通り見て回った後は小物屋を中心に店を回る。
今度はイーニッドもはしゃぎ色々な小物を手に取っては「可愛いな」などと呟いていた。「ナハト」とアイネがナハトの名を呼び、なんだ? とナハトがアイネを振り向く。
「この小物類の中からアタシ、イヴ、イーニッド、グレースへのプレゼントを選びなさい。そういう約束でしょう? 別に小物でなくてもいいんだけど、あまり高い買い物をさせるのも悪いしね」
そう言われてそういえばプレゼントもするという約束だったな、とナハトは思い出した。
あまり高い買い物をさせるのは悪いとは言いつつも小物の中にも高価な物は沢山、あった。
そのあたり辺境の村だったカウニカとは根本からして違う。しかし、皆に選ぶというのなら……。
「ドラセナにもプレゼントを上げるよ」
そう言ってドラセナの方を見る。以前、ドラセナにはカウニカで首飾りを買ってプレゼントしているが安物の首飾りだ。この町で選んだ物の方がいいだろう。そう思っての言葉だったが、ドラセナは「わたしは……いい」と言う。
「前にナハトに買ってもらった首飾りがあるから……わたしはこれを気に入ってるし」
「そ、そうか……? でも、安物だぞ?」
ドラセナは今も自分の首にかけてある首飾りをいじりながらそんなことを言う。
「こういうのは値段の問題じゃないんですよ、ナハト様」
そんなドラセナを見ながらイヴが言った。そういうもの……なのだろうか?
「私たちも別段、高価な物が欲しいということはありません。ナハト様が選んでくれた物ならなんでもいいんです」
そう言って笑顔を見せる。「そうだな!」とイーニッドも頷き、「フ……」とグレースも微笑を浮かべる。「あんまりセンスのないものはごめんだけどね」とアイネだけは少し違ったことを言っていたが。
それから色んな店を見て回り、ナハトはイヴには手鏡をイーニッドにはブレスレットを、グレースには香水をアイネには髪留めをプレゼントした。
ナハトなりにみんなに似合うように選んだつもりだった。「ありがとうございます、ナハト様。大事にしますね」とイヴは喜びをあらわにし、「この腕輪、気に入ったぞ!」とイーニッドも笑い、「悪くない」とグレースも微笑を浮かべ、「ま、アンタにしては結構、センスがいいんじゃない?」とアイネも笑みを見せた。
とりあえず全員をガッカリさせることはなかったようでナハトはホッとする。あまり高価な物でなくていいとは言われていたが、それなりの値段の物を選んだ。
安物の首飾りを送ったドラセナには少し悪い気もしたが、本人が気にしてないようなので良しとした。
それからも一同は様々な店を物色して回る。積極的に買い物をするのはこの町に自分の屋敷があるアイネくらいだったが、色々な商品を見て回るだけでみんな、楽しそうにしていた。特にドラセナは様々な商品にアメジストの瞳を輝かせて、見入っていた。
こういうことをあまり経験したことがないというのは本当なんだな、と思った。
そこまで考えて、少し不思議に思う。ドラセナは王都で保護されていた、と話していた。
王都にも当然、商店はあるだろう。王都というくらいなのだからこの町に匹敵するくらいの商店はあるはずだ。それらに訪れることはなかったのだろうか……?
そんなふと浮かんだナハトの疑問だが、口にすることはなく、みんなで買い物を続け、そろそろベネディクトゥス家の屋敷に戻るか、という話になった頃にはすっかり太陽も沈みかけの時間になっていた。
「いやぁ~、今日はよく買い物したわね~」
アイネが満足げな顔を浮かべて先頭を歩いて行く。この町に自分の屋敷があるからと彼女は本当に色々な物を購入していた。金遣いの荒らさであの厳格そうな親父さんに怒られたりしないんだろうか、と他人事ながらナハトは心配してしまう。
「ですが、一番嬉しいのはやはりナハト様からいただいたプレゼントですね」
「そうだな! ナハト! 大事にするぞ!」
イヴとイーニッドがそう言って笑みを浮かべてナハトの方を見る。
そう言われるとナハトも照れ臭くなってしまい「あ、ああ……それならプレゼントした甲斐もある」とだけ返すのが精一杯だった。グレースも満足そうな表情を浮かべている。
「楽しかったね、ナハト」
ドラセナがそう言い、無垢な笑みを浮かべている。どうやら心の底からこの買い物を楽しんだようだ。
ドラセナが嬉しそうなのを見ているとナハトも思わず笑みを浮かべてしまう。「そうだな、楽しかったな、ドラセナ」とナハトも声をかける。
正直、女性陣の買い物に付き合わされるというのはナハトにとって少なからず疲労を覚えるものだったのだが、ドラセナのこの笑顔を見ているとそんな疲れも吹っ飛ぶというものだった。
「また一緒に買い物しような」とドラセナに声をかけていた。「うん!」とドラセナは嬉しそうに頷く。「あらら~」とイヴが言葉を挟んだ。
「またドラセナさんだけ抜け駆けですか~?」
「ずるいぞドラセナ。ナハトと買い物に行く時はみんな一緒だ!」
「そうよ。アタシも連れて行きなさい。ま、アタシは別にナハトに興味なんてないんだけど、不公平は許せないわ」
イヴ、イーニッド、アイネにそう言われ、ナハトとドラセナは困惑の表情を浮かべる。グレースに助けを求める視線を送るも「私も、同行したいところだ」と言われてしまってはどうしようもない。
最後の最後にたじたじになりながらも、ナハトたちはベネディクトゥス家の屋敷に戻ったのだが、様子がおかしいことに気付いた。
「……? どうしたのかしら?」
アイネが眉根を寄せて疑問の声を発する。執事たちが慌ただしく走り回っている。
ペルトーセに駐留しているアインクラフト王国軍の人間たちも屋敷に訪れているようだ。
何事が起こったのか。困惑するナハトたちの前にディオンが現れ、「ああ、アイネアス様! ナハト様!」と声を掛けてきた。「どうしたんですか?」とナハトが一同を代表して訊ねる。
「それが……なんでも想獣の大群がこの町を目指して進んできているようでして……」
その言葉にみんなして絶句する。想獣の大群の襲来。カウニカであったあの事態がまた起こっているというのか。
「今、エイブラム様はアインクラフト軍の方と対策を協議中です。申し訳ありませんが、アイネアス様やナハト様がたも広間の方でしばらくお待ち下さい!」
そう言うとディオンはやるべきことがあるのか足早に去って行く。それを見送って、ナハトは呟いた。
「想獣の襲撃、だって……」
「カウニカの時と同じ……」
ドラセナも呟く。「ですが、おかしいですよ」とイヴが言う。
「想獣が人里を襲うことはありますが、こんなに短期間で何度も起きるなんてことはないはずです」
「だが、現に想獣はこの町を目指していると言っていた」
グレースが冷静に呟く。
「とりあえず広間の方に行って待ってよう。アイネの親父さんたちも何もせず手をこまねいている訳じゃないだろうし……」
「ナハト、どこに行くんだ? そっちは客間だぞ?」
広間に行こうと言いつつ客間に向かおうとするナハトを疑問に思ってかイーニッドが訊ねる。「聖桜剣を取ってくる」とナハトは答えた。
「想獣が来るっていうんなら多分、必要になると思うからさ」
それは自分たちも戦うという意思表示であった。「そうね」とアイネも呟く。
「アタシも着替えてくるわ。想獣が来るっていうのならアタシたちも戦わないと……」
そう言ってアイネも自分の部屋に向かう。想獣が、来る……。ナハトたちはこれから起こるであろう戦いの予感に身を震わせるのであった。
メリクリウスはペルトーセを目指して進む想獣の群れを見ながら、内心舌を巻いていた。
想獣使いのリリアーヌ。その名は聞き及んでいたが、まさかこれほどの数の想獣を操ることができるとは……。
たった一人の人間がこれだけの軍勢を操ることができるというのは驚異的だ。味方のことながら戦慄を覚える。
だが、これなら上手く行くという予感も抱く。これだけの想獣の襲撃となればペルトーセも、ベネディクトゥス家もドラセナ・エリアスの護衛どころではなくなるだろう。
想獣たちがペルトーセを襲うのに合わせて自分たちもペルトーセに潜り込み、ドラセナ・エリアスを狙う。メリクリウスはリリアーヌの立てた計画通りに事を運ぶべく、部下たちに指示を出すのだった。
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