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第4章:交易都市ペルトーセ
第53話:戦い、終えて
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治癒杖キュアのあわい光がアイネの体を包んでいく。アイネの体中に刻まれた切り傷はふさがり、流れる血も止まる。光線が命中したことによる火傷の跡も治癒し、荒い息遣いだったアイネの呼吸も安定し、アイネは「ふぅ……」と安堵の吐息をもらす。
「ありがと、イヴ。助かったわ」
キュアによる治癒は生身の傷はふさがっても服の損傷は直らない。
トレードマークの赤いコートをボロボロにして、アイネは立ち上がった。
「いえいえ、大したことはありませんよ」
イヴは笑う。あれからしばらく経ち、想獣をおおむね撃退したということで他にみんなも屋敷に帰ってきたのだ。
想獣たちと戦っているナハトたちの元にベネディクトゥス家が襲われているという伝令が来て、ナハト一人が先行して戻ってきたが、他のみんなも想獣たちとの戦いに一区切りついたら帰ってくるつもりだった。
他の面子が帰ってくると、まず真っ先にイヴに声をかけ、傷つき、倒れているエイブラム卿とアイネの治療をお願いしたところだ。
イヴがいない状態でも傷を負っているエイブラム卿とアイネを放置する訳にはいかず生き残っている使用人の人に声をかけて包帯を巻く等して出来る限りの応急処置を施していたのだが、やはり治癒杖キュアでの治療は格別のものがあった。
まずエイブラム卿を治療し、その後、アイネを治療した。ほとんど一瞬の出来事だったのにエイブラム卿とアイネはもう包帯もいらない程度には回復していた。
「いやはや、イヴ殿は凄いな」とエイブラム卿が笑みを見せる。「いえ、大したことはありませんよ」とイヴは謙遜して笑う。何はともあれ二人に命に別状がなくてよかった。
そんな思いでナハトがエイブラム卿とアイネの親子を眺めているとアイネの視線がナハトの方を向いた。そして、申し訳無さげに瞳が伏せられる。「ごめん、ナハト」と声がしたのはそのすぐ後だった。「えっ?」とナハトがアイネを見る。
「アタシ、あのゴスロリ女に勝てなかった……ドラセナを守るよう言われていたのに、守れなかった……」
そう言ってうつむいてしまう。ああ、そのことか、とナハトは思い、「そんなことはない」と口に出していた。ハッとしてアイネの顔が上がる。
「アイネは十分、ドラセナを守ってくれたよ。アイネとエイブラム卿があの女……メリクリウスと戦って、時間を稼いでくれたから俺がここに来るのも間に合ったんだし」
ナハトはアイネに対して、笑みを浮かべてみせる。アイネは気まずげに視線をそらし、ドラセナの方を見た。ドラセナも笑みを浮かべて「そうだよ、アイネ」と口にする。
「アイネはわたしを守ろうとしてくれた。全力であの女に立ち向かってくれた。それだけで十分。アイネの思いは伝わってきたから……」
「ドラセナ……」
感極まった、というようにアイネは声をもらし、そして、顔をそらした。
その直前、エメラルドの瞳からこぼれたのは涙、だろうか……? そんなことをナハトが思っていると「泣いてなんかいないんだからね!」とアイネがナハトを睨み付けてくる。
その目はやはり涙目になっていたが、本人がこう主張する以上、それを指摘するのもはばかられた。「お、おう……」と思わず声を出して応じる。
「だいたいナハト! アンタが悪いのよ! 肝心のドラセナのことを放って想獣退治になんて行っちゃって!」
「うぐ……それに関しては本当に反省している」
痛いところを突かれた。それを言われるとナハトは何も言えなくなってしまう。ドラセナに対しても、アイネに対しても、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。「ううん、ナハト」とドラセナの声。
「ナハトはこの町を襲う想獣から町を守ろうとしたんだから、気にすることはないよ。それは決して、悪いことなんかじゃない」
「そうかもしれないが……ドラセナを守ることを放棄していたのはたしかだ。守る、って約束してたのに、危うく自分のいない間にさらわれるところだった」
「……でも、ナハトは間に合った」
ドラセナが微笑を浮かべる。ナハトは呆気にとられてドラセナのアメジストの瞳を覗き込む。
「今回もわたしを助けに来てくれた。ナハトはわたしを守ってくれている。それはたしかなことだよ」
真正面からこんなことを言われるとつい照れ臭くなってしまう。ナハトはなんとか「そ、そうか……」の声をしぼり出すと、「それならいいんだけどな」と続ける。
「約束したからな、俺はドラセナを守るって。それだけは何があっても揺るがない」
「うん。ありがとう、ナハト」
そうして二人して見つめ合う。穏やかな雰囲気が二人の間に漂い、ナハトは居心地の良さを覚えた。……のだが。
「あのー、ナハト様、みんながいる中でドラセナさんとイチャつくの、自重してもらえませんか?」
イヴがそんなことを言って、ハッと我に返る。
そういえば、そうだった。ここにはみんなが――エイブラム卿まで――いるのだ。
気まずい思いでコホン、と咳払いしたナハトは「それにしても想獣の襲撃に乗じてゴルドニアースの連中が襲ってくるとはな」と話題を切り替える言葉を出していた。
「まるで想獣が来ると分かっていたかのような手際の良さだったな」
「そうですね……」
イーニッドとイヴもその話題に乗っかり、呟く。
イーニッドの言う通り、本当にまるで想獣が来ることを始めから分かっていたかのような手際だ。
不思議なものだ、と思っていると「実際、分かっていたのかもしれん」とエイブラム卿が口を挟んだ。エッとなって一同の視線がエイブラム卿に集まる。
「ヴァルチザン帝国には想獣を自由に操る女がいると聞く。もしかしたら今回の想獣の襲撃はその女が手引きしたものかもしれん」
「あ、私も聞いたことがあります。たしか四獅の一人でリリアーヌ・ブラーヌ。想獣使いの異名を持つ幻想具使いですね」
エイブラム卿の言葉にイヴも頷く。「四獅?」とナハトが訊ねると、「ヴァルチザンの中でも特に強力な四人の幻想具使いのことを指した称号よ」とアイネが答えてくれた。
「ゴルドニアース傭兵団だけではなく、ヴァルチザン帝国本国までもが協力してドラセナ様を拉致しようとしたということですか……?」
グレースの問いにエイブラム卿は「おそらくな」と答える。「で、ですが……」とイヴが信じられないという面持ちで言葉を発する。
「ゴルドニアース傭兵団だけならともかく、ヴァルチザン帝国軍に所属している人間がそんなことをすれば国際問題になるはずです。想獣の群れをアインクラフトの町の一つにけしかけるなんて……そんなことすぐに戦争の引き金になってもおかしくない!」
「だが、証拠はない」
エイブラム卿は言い切った。たしかに。今回の想獣の群れの襲来が、想獣たちの意志によるものかその帝国内の想獣を操る女の手引きかは分からないのだ。
「想獣を自由に操る女、か。そんなヤツがドラセナを狙っているとなると……面倒だな……」
ナハトの言葉にみんなして頷く。どうやらヴァルチザンは本気でドラセナの身柄を狙っているようだった。暗くなってしまった場の雰囲気を変えるように「ともかく」とエイブラム卿が言葉を発する。
「今日のところは皆、疲れているだろう。存分にこの屋敷で休んでくれ。この屋敷も襲われたので後始末やらがあるが……皆が体を休める分には支障はないはずだ」
そう言い、笑うエイブラム卿に「ありがとうございます」とナハトは一同を代表して礼を言う。
そんなエイブラム卿のところに使用人の一人がやって来て、何事かを耳打ちした。「そうだな」とエイブラム卿は頷く。
「それでは私は今回の件の後始末があるので少し失礼するよ。皆は気にせず、休んでくれたまえ」
そう言ってエイブラム卿は去って行く。その姿を見送ったナハトは「さて、どうする?」と皆に声をかけた。
「アタシは少し疲れたから素直に部屋で休んでいるわ……」
アイネが言う。治癒杖の効力で傷は塞がっても、失った体力が戻る訳ではないのだ。「そうだな」とナハトも応じる。
「わたしはまだ余裕があるが……あまりうろちょろしても邪魔だろうし、部屋に戻っていることにするぞ」
「私も部屋に戻ります」
イーニッドとイヴもそう言う。グレースもドラセナも部屋で休むということで同意のようだった。となればナハトが異論を唱えるはずもない。
「そうだな。今回は俺も少し疲れた。部屋で休んでいることにするよ」
みんなの意見に合わせた、という訳ではない。実際、ナハトは凄まじく疲弊していた。
メリクリウスと正面から対決したこともそうだが、聖桜剣のさらなる力を引き出し、それを振るった。
そのことがナハトの体を疲弊させている。今更になって疲れが重くのしかかって来ることをナハトは感じた。
「やれやれ、ドラセナ・エリアスの拉致は失敗に終わりましたか……」
ペルトーセから少し離れた地にて一人の女がペルトーセの方面を見つめている。ヴァルチザン四獅の一人にして、想獣使いの女、リリアーヌ・ブラーヌだった。
約束通りなら、この時間にはドラセナ・エリアスを連れたゴルドニアース傭兵団の面々がこの場所にやって来るはずだ。それが来ないとなれば失敗したと見ていいだろう。
「ゴルドニアース傭兵団、使えませんね」
失望をあらわにリリアーヌは呟く。ドラセナ・エリアス拉致のためのお膳立てはしっかりやってやったというのにそれをいかせないとは……全くもってヴァルチザン最大の傭兵団の名が泣くというものだった。
だが、だからといって、このまま帝国本国に帰る訳にはいかない。ドラセナ・エリアスの身柄の確保は自分が独力でもやり遂げる必要がある。
さて、どうしたものか、とリリアーヌは考え込み、一つの結論に達する。
「仕方がありません。あまり使いたくはない手ですが、強硬策で行くとしましょう」
想獣使いの自分にできることは多い。その中で最も有効であろうという手段を選択する。
「想獣に桜の勇者御一行を襲ってもらうとしましょう。最強の想獣……竜に……」
この世界における最強の生物をぶつける。竜が相手となれば、流石の桜の勇者もひとたまりもないだろう。そして、その隙に自分がドラセナ・エリアスをさらう。その方針を決めるとリリアーヌはその場を後にした。
「ありがと、イヴ。助かったわ」
キュアによる治癒は生身の傷はふさがっても服の損傷は直らない。
トレードマークの赤いコートをボロボロにして、アイネは立ち上がった。
「いえいえ、大したことはありませんよ」
イヴは笑う。あれからしばらく経ち、想獣をおおむね撃退したということで他にみんなも屋敷に帰ってきたのだ。
想獣たちと戦っているナハトたちの元にベネディクトゥス家が襲われているという伝令が来て、ナハト一人が先行して戻ってきたが、他のみんなも想獣たちとの戦いに一区切りついたら帰ってくるつもりだった。
他の面子が帰ってくると、まず真っ先にイヴに声をかけ、傷つき、倒れているエイブラム卿とアイネの治療をお願いしたところだ。
イヴがいない状態でも傷を負っているエイブラム卿とアイネを放置する訳にはいかず生き残っている使用人の人に声をかけて包帯を巻く等して出来る限りの応急処置を施していたのだが、やはり治癒杖キュアでの治療は格別のものがあった。
まずエイブラム卿を治療し、その後、アイネを治療した。ほとんど一瞬の出来事だったのにエイブラム卿とアイネはもう包帯もいらない程度には回復していた。
「いやはや、イヴ殿は凄いな」とエイブラム卿が笑みを見せる。「いえ、大したことはありませんよ」とイヴは謙遜して笑う。何はともあれ二人に命に別状がなくてよかった。
そんな思いでナハトがエイブラム卿とアイネの親子を眺めているとアイネの視線がナハトの方を向いた。そして、申し訳無さげに瞳が伏せられる。「ごめん、ナハト」と声がしたのはそのすぐ後だった。「えっ?」とナハトがアイネを見る。
「アタシ、あのゴスロリ女に勝てなかった……ドラセナを守るよう言われていたのに、守れなかった……」
そう言ってうつむいてしまう。ああ、そのことか、とナハトは思い、「そんなことはない」と口に出していた。ハッとしてアイネの顔が上がる。
「アイネは十分、ドラセナを守ってくれたよ。アイネとエイブラム卿があの女……メリクリウスと戦って、時間を稼いでくれたから俺がここに来るのも間に合ったんだし」
ナハトはアイネに対して、笑みを浮かべてみせる。アイネは気まずげに視線をそらし、ドラセナの方を見た。ドラセナも笑みを浮かべて「そうだよ、アイネ」と口にする。
「アイネはわたしを守ろうとしてくれた。全力であの女に立ち向かってくれた。それだけで十分。アイネの思いは伝わってきたから……」
「ドラセナ……」
感極まった、というようにアイネは声をもらし、そして、顔をそらした。
その直前、エメラルドの瞳からこぼれたのは涙、だろうか……? そんなことをナハトが思っていると「泣いてなんかいないんだからね!」とアイネがナハトを睨み付けてくる。
その目はやはり涙目になっていたが、本人がこう主張する以上、それを指摘するのもはばかられた。「お、おう……」と思わず声を出して応じる。
「だいたいナハト! アンタが悪いのよ! 肝心のドラセナのことを放って想獣退治になんて行っちゃって!」
「うぐ……それに関しては本当に反省している」
痛いところを突かれた。それを言われるとナハトは何も言えなくなってしまう。ドラセナに対しても、アイネに対しても、申し訳無い気持ちでいっぱいになる。「ううん、ナハト」とドラセナの声。
「ナハトはこの町を襲う想獣から町を守ろうとしたんだから、気にすることはないよ。それは決して、悪いことなんかじゃない」
「そうかもしれないが……ドラセナを守ることを放棄していたのはたしかだ。守る、って約束してたのに、危うく自分のいない間にさらわれるところだった」
「……でも、ナハトは間に合った」
ドラセナが微笑を浮かべる。ナハトは呆気にとられてドラセナのアメジストの瞳を覗き込む。
「今回もわたしを助けに来てくれた。ナハトはわたしを守ってくれている。それはたしかなことだよ」
真正面からこんなことを言われるとつい照れ臭くなってしまう。ナハトはなんとか「そ、そうか……」の声をしぼり出すと、「それならいいんだけどな」と続ける。
「約束したからな、俺はドラセナを守るって。それだけは何があっても揺るがない」
「うん。ありがとう、ナハト」
そうして二人して見つめ合う。穏やかな雰囲気が二人の間に漂い、ナハトは居心地の良さを覚えた。……のだが。
「あのー、ナハト様、みんながいる中でドラセナさんとイチャつくの、自重してもらえませんか?」
イヴがそんなことを言って、ハッと我に返る。
そういえば、そうだった。ここにはみんなが――エイブラム卿まで――いるのだ。
気まずい思いでコホン、と咳払いしたナハトは「それにしても想獣の襲撃に乗じてゴルドニアースの連中が襲ってくるとはな」と話題を切り替える言葉を出していた。
「まるで想獣が来ると分かっていたかのような手際の良さだったな」
「そうですね……」
イーニッドとイヴもその話題に乗っかり、呟く。
イーニッドの言う通り、本当にまるで想獣が来ることを始めから分かっていたかのような手際だ。
不思議なものだ、と思っていると「実際、分かっていたのかもしれん」とエイブラム卿が口を挟んだ。エッとなって一同の視線がエイブラム卿に集まる。
「ヴァルチザン帝国には想獣を自由に操る女がいると聞く。もしかしたら今回の想獣の襲撃はその女が手引きしたものかもしれん」
「あ、私も聞いたことがあります。たしか四獅の一人でリリアーヌ・ブラーヌ。想獣使いの異名を持つ幻想具使いですね」
エイブラム卿の言葉にイヴも頷く。「四獅?」とナハトが訊ねると、「ヴァルチザンの中でも特に強力な四人の幻想具使いのことを指した称号よ」とアイネが答えてくれた。
「ゴルドニアース傭兵団だけではなく、ヴァルチザン帝国本国までもが協力してドラセナ様を拉致しようとしたということですか……?」
グレースの問いにエイブラム卿は「おそらくな」と答える。「で、ですが……」とイヴが信じられないという面持ちで言葉を発する。
「ゴルドニアース傭兵団だけならともかく、ヴァルチザン帝国軍に所属している人間がそんなことをすれば国際問題になるはずです。想獣の群れをアインクラフトの町の一つにけしかけるなんて……そんなことすぐに戦争の引き金になってもおかしくない!」
「だが、証拠はない」
エイブラム卿は言い切った。たしかに。今回の想獣の群れの襲来が、想獣たちの意志によるものかその帝国内の想獣を操る女の手引きかは分からないのだ。
「想獣を自由に操る女、か。そんなヤツがドラセナを狙っているとなると……面倒だな……」
ナハトの言葉にみんなして頷く。どうやらヴァルチザンは本気でドラセナの身柄を狙っているようだった。暗くなってしまった場の雰囲気を変えるように「ともかく」とエイブラム卿が言葉を発する。
「今日のところは皆、疲れているだろう。存分にこの屋敷で休んでくれ。この屋敷も襲われたので後始末やらがあるが……皆が体を休める分には支障はないはずだ」
そう言い、笑うエイブラム卿に「ありがとうございます」とナハトは一同を代表して礼を言う。
そんなエイブラム卿のところに使用人の一人がやって来て、何事かを耳打ちした。「そうだな」とエイブラム卿は頷く。
「それでは私は今回の件の後始末があるので少し失礼するよ。皆は気にせず、休んでくれたまえ」
そう言ってエイブラム卿は去って行く。その姿を見送ったナハトは「さて、どうする?」と皆に声をかけた。
「アタシは少し疲れたから素直に部屋で休んでいるわ……」
アイネが言う。治癒杖の効力で傷は塞がっても、失った体力が戻る訳ではないのだ。「そうだな」とナハトも応じる。
「わたしはまだ余裕があるが……あまりうろちょろしても邪魔だろうし、部屋に戻っていることにするぞ」
「私も部屋に戻ります」
イーニッドとイヴもそう言う。グレースもドラセナも部屋で休むということで同意のようだった。となればナハトが異論を唱えるはずもない。
「そうだな。今回は俺も少し疲れた。部屋で休んでいることにするよ」
みんなの意見に合わせた、という訳ではない。実際、ナハトは凄まじく疲弊していた。
メリクリウスと正面から対決したこともそうだが、聖桜剣のさらなる力を引き出し、それを振るった。
そのことがナハトの体を疲弊させている。今更になって疲れが重くのしかかって来ることをナハトは感じた。
「やれやれ、ドラセナ・エリアスの拉致は失敗に終わりましたか……」
ペルトーセから少し離れた地にて一人の女がペルトーセの方面を見つめている。ヴァルチザン四獅の一人にして、想獣使いの女、リリアーヌ・ブラーヌだった。
約束通りなら、この時間にはドラセナ・エリアスを連れたゴルドニアース傭兵団の面々がこの場所にやって来るはずだ。それが来ないとなれば失敗したと見ていいだろう。
「ゴルドニアース傭兵団、使えませんね」
失望をあらわにリリアーヌは呟く。ドラセナ・エリアス拉致のためのお膳立てはしっかりやってやったというのにそれをいかせないとは……全くもってヴァルチザン最大の傭兵団の名が泣くというものだった。
だが、だからといって、このまま帝国本国に帰る訳にはいかない。ドラセナ・エリアスの身柄の確保は自分が独力でもやり遂げる必要がある。
さて、どうしたものか、とリリアーヌは考え込み、一つの結論に達する。
「仕方がありません。あまり使いたくはない手ですが、強硬策で行くとしましょう」
想獣使いの自分にできることは多い。その中で最も有効であろうという手段を選択する。
「想獣に桜の勇者御一行を襲ってもらうとしましょう。最強の想獣……竜に……」
この世界における最強の生物をぶつける。竜が相手となれば、流石の桜の勇者もひとたまりもないだろう。そして、その隙に自分がドラセナ・エリアスをさらう。その方針を決めるとリリアーヌはその場を後にした。
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