桜の勇者~異世界召喚されたら聖剣に選ばれ、可憐な少女が自分を頼ってくるので守ることにした~

和美 一

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第7章:リアライド王国・冒険編

第80話:決意のマーク

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 ルゼとメリクリウスが向かってくる。紅蓮の太刀と虹の短剣を手に。

 ルゼは巨大ゴーレムとの戦いで消耗した様子のナハトたちを見るとつまらなさそうに鼻を鳴らした。



「フン。こういうせこい真似は信条に合わないんだがな……これも任務だ、悪く思うなよ」



 そう言い、紅蓮の太刀を振りかぶる。来るか、とナハトが覚悟を決めた時、意外な人物が前に出た。



「そうは……させない……!」

「マークさん!?」



 ゴーレム研究所の所員、マークだ。彼に何か戦う力があるとは到底思えない。

 にも関わらず彼はナハトたちをかばうように前に出る。ルゼが凍り付くような視線をそんなマークに注ぐ。



「貴様、何のつもりだ?」

「何のつもりもなにも……これ以上、この町で貴方がたに好き勝手はさせない」

「ほう……」



 静かな、しかし、確かな怒りをたたえた瞳でルゼはマークを見る。

 よせ、とナハトは思った。この男は剣鬼ルゼなんだぞ? 貴方ごときで相手になる存在ではない。

 そんなマークを見てメリクリウスがクスクスクス、といつもの不快な笑いをもらす。



「わたしたちを、いや、ベルード伯爵を裏切るつもり? 戦闘用ゴーレムと試作型の巨大ゴーレムを桜の勇者たちにぶつけてその隙にドラセナ・エリアスをわたしたちが手に入れる算段だったはずだけど?」



 その言葉にナハトたちはギョッとなってマークを見る。マークは表情を硬くした。

 戦闘用ゴーレムたちの暴走も、先程の巨大ゴーレムの襲撃も全てはこの人が、否、この人たちが手引きしたこと!? 



「マークさん……」



 ナハトの声がもれる。マークは辛苦を噛みしめるような表情の後、「もう、そんなことはやめだ」と信念の声を絞り出す。



「たしかに私たちはお前たちに協力した。だが、そんなことはやはりやってはいけないことだったんだ」

「へぇ……今更、正義感に目覚めたって訳?」

「そんなことをしても貴様の罪が消える訳ではない」



 メリクリウスは面白がるように、ルゼは怒りを示して、マークを言葉で串刺しにする。

 マークはそんな二人に気圧されそうになりながらもすんでのところで踏み止まり、ナハトたちを守るようにナハトたちの前に立つ。



「お前たちヴァルチザンの連中にはもう協力はしない……これが私の答えだ!」



 そのマークの言葉と共に後方から大量の戦闘用ゴーレムたちが前に出る。

 当初はナハトたちを襲うのかと思われたそれらは目標をルゼとメリクリウスに定めているようだった。メリクリウスの表情から笑みが消える。



「行け! ゴーレムたち! 悪を蹴散らせ!」



 マークの言葉に応えるようにゴーレムたちはルゼとメリクリウスに襲い掛かった。

 ルゼとメリクリウスが紅蓮の太刀と虹の短剣を手に応戦する。だが、さしものルゼとメリクリウスであっても戦闘用ゴーレムの大群が相手となると流石に苦戦を強いられているようだった。その戦いの様子を遠目に見ながら、ナハトはマークに声をかける。



「マークさん……貴方がたは……」

「申し訳ありません、桜の勇者様。彼らの言う通りです。私たちは、ベルード伯爵に命じられるまま、ヴァルチザンの連中に協力するという罪をおかした。こんなことをしても罪滅ぼしにならないのは分かっています。ですが、ここは私たちに任せてください」

「ベルード伯爵……だと……」



 グレースが絶句する。ナハトは知らないが、それなりに有名な人物なのだろう。

 事態がだいたいナハトにも飲み込めて来た。このゴーレムの暴走騒ぎや先ほどの巨大ゴーレムの襲来はマークたちゴーレム研究所の所員たちが仕組んだもの。

 そして、マークはそのことに罪を感じているからさっき巨大ゴーレムの弱点を伝えに来て、今も戦闘用ゴーレムたちをルゼやメリクリウスに差し向けているのだ。

 その間にも戦闘用ゴーレムと戦うルゼとメリクリウスは戦闘用ゴーレムの一体二体を倒している。

 戦闘用ゴーレムはたしかに強力な戦力だが、ルゼとメリクリウスはそれよりも強いのだ。



「ちっ、土人形風情が! 生意気な!」

「わたしたちは貴方たちなんかと遊んでいる暇はないのよ!」



 それでも戦闘用ゴーレムたちはルゼとメリクリウスをたしかに苦戦はさせていた。

 二人は苛立つように声を発する。やがて倒しても倒してもキリがないゴーレムたちにルゼは決断を下したようだった。



「引くぞ、メリクリウス。こうなってしまった以上、ここでドラセナ・エリアスをさらうのは難しい」

「……不本意だけど、仕方がありませんね」



 ルゼは冷静にそう言い、メリクリウスも頷く。ゴーレムの一体に紅蓮の太刀を突き立てて押し倒すとルゼはナハトたちを一瞥して言った。



「桜の勇者ども、命拾いをしたな。だが、オレたちがドラセナ・エリアスを諦めた訳ではないぞ。それを覚えておけ!」

「じゃあね、お兄ちゃん。ゴーレムなんかじゃなくて、お兄ちゃんたちと遊びたかったな」



 ルゼとメリクリウスはそう捨て台詞を残すとその場から立ち去っていく。

 マークがゴーレムたちに追撃を命じようとしたようだったが、それはナハトが止めた。あいつらは普通の戦闘用ゴーレムだけで相手になるような存在ではない。今は撤退を選択してくれたようだが、下手に刺激しない方がいい。そう伝える。

 ルゼとメリクリウスが去り、彼ら二人を相手に戦っていた戦闘用ゴーレムたちも沈黙する。

 その多くは紅蓮の太刀と虹の短剣を受けて、少なからず損傷していた。マークがバツが悪そうに口を開く。



「申し訳……ありませんでした……」



 そう言ってナハトたちに頭を下げる。



「私たちは貴方がたをヴァルチザンの連中に売り渡す協力をしてしまった。謝って許されることではないのは百も承知ですが……」

「そんなことはないぞ!」



 イーニッドがそんなマークに言葉をかける。



「マークはわたしたちを助けてくれた! 巨大ゴーレムの弱点も教えてくれたし、今もあの二人を追い払うのに力を貸してくれた! マークはわたしたちの恩人だ!」

「イーニッド……さん……」



 マークが感極まったというように声を発する。イーニッド以外の面々も気持ちは同じだった。「そうですよ、マークさん」とナハトも声をかける。



「何はどうあれ、貴方は俺たちを助けてくれた。そのことには感謝してもしたりませんよ」

「桜の勇者様まで……そんな、私には勿体無いお言葉を……」



 ナハトたちは笑みをマークに向ける。



「でしたら、早めにこの町を離れた方がいいでしょう。この町を管轄しているベルード伯爵はドラセナさんがリアライドの王都に行かれることを心良く思ってはおりません」

「ベルード伯爵が……事実なのか?」



 グレースが信じられない、というように言葉を発する。ベルード伯爵って? とナハトが訊ねる。



「この国の貴族でも清廉潔白で知られる方だ。このお方がいなければ今のリアライドの発達はなかったとも言われてる。……そんな人物がヴァルチザンに協力を……」

「ベルード伯爵はドラセナさんの力を危険視しております」



 マークはそう言って、ドラセナを見た。ドラセナが居心地悪そうに視線をそらす。



「この国のためを思ってのことなのでしょうが、多少、過激な手段に訴えてでもドラセナさんを排除しようと目論んでいます。……気を付けて下さい」

「マーク殿がそう言うからには、そうなのだろう……しかし、あのベルード伯爵が……」



 グレースはやはり信じられない様子だった。国を思うがゆえにドラセナの力を危険視する。

 それはたしかに有り得ることに思えた。ドラセナの力は絶大にして、危険だ。

 そんな力を研究しようとすることに国内で反発があってもおかしくはない。だが、それ以上にナハトには気になることがあった。



「そう言うマークさんは大丈夫なんですか? そのベルード伯爵とか言う人にに逆らってまで俺たちを助けたりして……」

「私の身がどうなるかは分かりませんね」



 マークは苦笑した。



「ベルード伯爵に誅殺されるかもしれません。ですが、それも覚悟の上です」

「そこまでして、俺たちを助けてくれるなんて……」



 ナハトはもはや、目の前の恩人に向ける言葉もなかった。そんなナハトに声をかけてきたのは意外にもアイネだった。



「ナハト。こいつは自分の身に何が起ころうと覚悟の上でアタシたちを助けてくれたのよ。なら、そこにこれ以上アタシたちが何かを言うことはないわ。感謝の言葉だけ述べて、恩義を受け取り、進言に従い素直にこの町を離れましょう」

「それは……その通りなんだけど……」



 事実だが、冷淡ですらあるアイネの言葉にナハトは言葉を失う。

 その通りなのだろう。彼の思いを無駄にしないためにも一刻も早く、この町を離れるのが一番なんだろう。それは分かっているが……。



「行って下さい。桜の勇者様。私のことは、どうかお気になさらず」



 マークはそう言って笑顔を見せる。そう言われてしまってはその言葉に従うしか他なかった。



「マークさん……ありがとう」

「この恩義は忘れない、マーク殿。すまない」



 ドラセナとグレースがそう言い、「マーク! ありがとう!」とイーニッドも素直に感謝の言葉を述べる。



「本当にお世話になりました。どうか、マークさんに何事もないことを祈っております」

「アタシたちを助けてくれて感謝しているわ。ありがとう、マーク」



 イヴとアイネもそう言う。ナハトも感謝の言葉を口にした。



「マークさん。今回は本当にありがとうございます。マークさんの助けや助言は決して無駄にはしません」



 そう言い、笑みを浮かべるマークにナハトは一回、頭を下げると仲間たちと共にその場を後にする。

 彼の言う通りなら、この町に長くいることは危険だ。一刻も早くこの町を去るのが彼のためでもあるのだろう。

 ナハトたちは宿屋に戻り、荷物をまとめるとトレリカの町を去る。残されるマークのことを思うと後ろ髪引かれる思いを抱きながら。
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