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第39話:新たなこすぷれ
しおりを挟むこすぷれしょっぷイスルギの前にリリアと共に鎧姿で立ち、客寄せをする。
以前撮影したてれびが放送されたらしくそれで俺たちを見に来る人も出るようになっていた。
鎧触ってもいいですか? と訊かれることも増えた。
大概は許可した。触った者は、うわ、ほんとに鋼で出来てる、と驚きを露わにしていたが。
それでも宣伝にはなっているのだろう。
俺とリリアが鎧姿でいるだけで店の宣伝になるのなら喜んでやるというものだ。
鎧姿で立っているだけでいいなんて楽にもほどがある。
寝床と食事を提供してもらっている以上、これくらいはこなさないといけないだろう。
そう思っていると一台のりむじんが店の前に止まった。
確認するまでもないナギサだ。この店にりむじんで乗り付ける来訪者などナギサしかいない。案の定、りむじんからナギサが降りてきて、俺たちを見た。
「ごきげんよう。相変わらず、お二方とも見事なコスプレですわね。本物みたいですわ」
俺たちはコスプレではなく、本物なのだが。
そう思いつつもそれを指摘しても無駄だということはこれまでで分かっている。
何もそのことには言わずに「サナに用か?」と訊ねる。ナギサは頷いた。
「また新しいコスプレの披露会がありまして。皆さまにも参加していただこうと思いましてね」
「俺やリリアもか」
「当然でありましょう」
俺やリリアの鎧姿は相当出来がいいこすぷれとして映るようだ。今回も参加は既に決定済み、か。
「我らの鎧は見世物ではないのだがな」
リリアがそう言うが、ナギサはどこ吹く風だ。
店の中に入り、サナと打ち合わせをするのだろう。
サナやルリ、フェイフーにナギサ、ヒカルは新しいこすぷれ衣装を纏って出るのかもしれない。
あいにく、俺とリリアにはこの鎧しかないが。そうしているとサナがナギサと共に出てきた。
「アドニス、リリアさん。今度またコスプレの披露会があるらしいんだけど、二人共参加してくれる?」
「これまでお前に受けた恩を考えると断る訳にもいかないだろう」
「我らはこすぷれではないがな」
俺とリリアはそう言って答える。それに満足げにサナは頷き、ナギサも頷く。
とりあえず、またこすぷれの披露会か。もう慣れたものであるが、ルリやフェイフー、ヒカルも参加するのだろう。見知った仲間たちと一緒にいれるのは悪い気はしない。
「今回はどんなこすぷれで出るんだ?」
俺はサナにそう訊いていた。サナは笑みを浮かべて答える。
「私はとある電磁の超化学砲のミナトを、ルリはとある魔術の禁断目録のインテックスのコスプレで出るわ」
「そうなのか」
説明されてもその作品を知らないのでよく分からないのであるが、モチーフのあるこすぷれのようであった。
「それなら作るのが大変だな」
「ええ。今からミシンで作らないとね。完璧な物を仕上げてみせるわ」
意欲を燃やすサナ。このこすぷれにかける情熱は大したものだと思う。こすぷれという行為自体にあまり理解が及ばなくても。
「サナやルリ、それにアドニスやリリアが出てくれるなら盛り上がるというものですわ」
「また世話になるな、ナギサ」
「いえ、お気になさらず」
今回もナギサには世話をかけてしまうだろう。それでもナギサは気にしないと言い切った。ありがたいお嬢様と友達になれたものだと思う。
そうしてナギサは去って行き、日が暮れるまで俺とリリアは店の前に立った後、店の中に入り、私服に着替える。
サナは、というと部屋に籠りきりだ。
こすぷれの制作か仕上げをしているのだろう。
それでも晩餐を作りに出てきて、作ってくれる。
本当に世話になりっぱなしだな、と情けなく思ってしまう。
俺もリリアも料理などできないから仕方がないのだが。夕食を食べながら、俺はサナに訊ねる。
「新しいこすぷれ、間に合いそうか?」
その言葉にサナは返事に詰まったが、「間に合わせるわよ」と言った。
「学校の勉強を後回しにしてでもコスプレは完成させるわ」
「それは聞き捨てならないな」
学問所の勉強を放棄すると言った娘にヨーイチ殿が苦笑いを向ける。本気で勉学を捨てるつもりはないだろう。こうは言っているが。多分。
「今度も伊集院家主催のコスプレ披露会ならレベルの高いコスプレイヤーがいるはずよ。私もそういった人たちやアドニスやリリアさんに負けないようにしなくちゃ」
「だから俺たちはこすぷれじゃないっての」
「そうだぞ、サナ」
俺とリリアが異議申し立てをするが、サナは聞いていない。
この世界、この国だとあの鋼の鎧がこすぷれとやらにしか映らないのは分かるが、納得いかないものを覚える。
とりあえずこすぷれ作りには俺もリリアも協力できない。サナやルリが披露会までに間に合わせることを祈るしかない立場であった。
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