転生したら、かつて殺した男に執着されていた。

しおむすび

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お前を忘れることなんて、できるはずがないだろう?

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夜会が終わった翌朝、私はいつものように紅茶を飲みながらも、心ここにあらずだった。

「……リリア、お顔が優れませんわね。昨夜、何かありました?」

向かいに座る妹のクラリッサが、怪訝な顔で尋ねてくる。
彼女はまだ10歳の少女だが、観察眼は鋭い。

「何でもないわ。少し、疲れが出ただけ」
嘘をつくのは慣れている。前世の戦場でも、平静を装って幾度となく兵を導いた。
けれど今、この世界で相手にするのは“剣では斬れない存在”――それが、怖かった。

エリオ・ルジェール。
侯爵家の次期当主にして、貴族学校でも常にトップの成績を誇る才子。
“彼”がこの世界で生きているのは偶然ではない。
――私を追って、転生してきた。そうとしか思えなかった。

その証拠に、その日の午後、私は再び彼と“二人きり”で再会することになる。



「おや、リリア嬢。まさかこんな静かな中庭で会えるとは、光栄です」

私が一人で本を読んでいたベンチに、彼は当然のように腰を下ろした。
しかも、誰も気づかぬよう気配すら殺して。

「……またお会いしましたね、エリオ様」

「そんな他人行儀に呼ばないでくれ。僕は“君のことを知ってる”。誰よりもね」

灰色の瞳が、じっと私を見据える。
逃げられない。目を逸らせば、それすら見透かされる。

「本当に……前世の記憶を持っているのね」
私はついに、認めた。
彼はわずかに目を細めた。――安堵と、狂気を滲ませて。

「……ああ。君に斬られた痛みも、あの瞬間の冷たさも、全部覚えてる。
でも、それ以上に――君に触れられた、最初で最後の温かさが、焼き付いて離れないんだ」

私は息を呑んだ。
あの戦場で、私は彼に剣を突き立てながら、その頬を撫でていた。
敵とはいえ、彼の死を惜しむように。せめて苦しまずにと願って。

――あれすらも、覚えているの?

「どうして……私を、追ってまで」

「当たり前だろう? 君は僕を殺した。なのに、君だけが“綺麗なまま生き直す”なんて、許せるはずがない」

一瞬、鋭い殺気が走った。
けれどその目は、私に向ける“復讐”よりも――
“渇いた愛”を訴えるようだった。

「僕は、君を憎んでいる。だけど、それ以上に――愛してるんだ」

「そんなの、狂ってる……!」

「そうだよ。君が僕を殺した時点で、僕の“人生”は君のものになった。
だったら今度は、君のすべてを“僕だけのもの”にする番だ」

彼は静かに、私の手に触れた。
その指先は優しく、しかし逃がさないように絡みつく。
まるで、死者の鎖のように。
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