転生したら、かつて殺した男に執着されていた。

しおむすび

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記憶を抱く者たち。

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エリオの告白から数日が経った。

彼は相変わらず、静かに、しかし確実に私の周囲を囲い込むように現れる。
散歩道、図書室、家庭教師との授業の帰り道。まるで私の行動すべてを予測しているかのように。

だがその一方で、私は感じ始めていた。
この世界に前世の記憶を持って転生しているのは、エリオと私だけではない――と。

それは、何の前触れもなく訪れた。

「リリア様、本日はこちらの文法書を。あまり出回っていない古い本ですが……」

家庭教師のエメル先生が差し出してきたのは、分厚く、埃をかぶった一冊だった。
彼女は物静かで、いつも淡々と教えてくれる年上の女性。
だが、その手渡された本の表紙を見た瞬間、私は凍りついた。

“古代語の表記ミス”――それは、前世で私が個人的に見つけ、国の軍の辞書編纂にも関わったほどの細かい誤植だった。
にもかかわらず、彼女はこう言ったのだ。

「この箇所、前に“あなた”が間違いに気づいて直したと言ってましたよね?」

「……え?」

「ごめんなさい。今の、何でもありません」

その瞬間の“動揺”は、演技ではなかった。
目を伏せた彼女の手が、わずかに震えている。

私は直感した。

――彼女も、前世の記憶を持っている。

「先生、あなたは……かつて軍で辞書の修正に関わっていた?」

その問いに、彼女は沈黙したまま微笑んだ。
けれど、その瞳の奥に“戦火”の記憶がよぎったのを、私は見逃さなかった。

「この世界には、あなたと私以外にも“目覚めている者”がいます。リリア様。
ですが……関わり方を誤れば、あなたの命は再び狙われることになるかもしれません」

「……それはどういう意味?」

彼女ははっきりとは答えなかった。
ただ一言――

「“記憶を持つ者”は、皆、何かを“やり直す”ために生まれてきているのです」

とだけ言い残し、教本を閉じた。



その夜、私はエリオに再び呼び出された。
いつもの中庭ではない。無人の礼拝堂で、キャンドルの灯りが揺れている。

「君は……他にも“思い出している者”がいるって気づいただろう?」

彼は先回りしていた。まるで、私の行動のすべてを見透かしているかのように。

「どういうことなの? 転生したのは、私たち二人だけじゃないの?」

「違うよ。今この世界には、確認できているだけで――“七人”いる。
かつての世界で、同じ戦火をくぐり、何かを抱えた者たちが」

「七人……?」

「そして、その全員が君に関わっていた。敵として、味方として。愛して、裏切られて。
――だからこそ、皆が君を“思い出す”」

「……そんな、まさか……」

「リリア。君はまだ、知らない。
君がどれだけ多くの人間の運命を狂わせ、救い、そして終わらせてきたのかを」

彼はゆっくり近づき、私の額に指を当てた。
その瞬間、私の脳裏に“戦場の記憶”がぶわっと広がった。

泣いていた少年兵。
私に剣を向けた親友。
毒に倒れた部下。
そして――

「……やっと思い出してくれた」

私を見上げる、あの瞳。
あの時、命を落とした彼の、最後の言葉。

「“もう一度、生まれても君に会いたい”――そう言ったのは、君だけじゃない」

――そうだ。私は、気づいていなかっただけ。
私が殺したのは、彼だけじゃなかった。
私が愛されたのも、彼だけじゃなかった。

今、私の過去が――この世界で、再び動き出している。
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