新米魔王、冷徹貴族閣下に躾けられます

寅次郎

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人間と魔族

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 カァカァカァ、と、窓の外の向こうには無数の烏に似た目玉がみっつある鳥たちが、鳴いている。そんな姿を見るとここが異世界だということを改めて実感させてくれる。
 ここの世界に来てから知ったことだが、こちらの世界ではどうやら、烏は朝を告げてくれる鳥だということ。
 だが、いかんせんどうにも朝に烏の鳴き声が聞こえて来ることが、新鮮で仕方がない。朝は鶏のイメージしかない。
 まあ、そのうち慣れて来るとは思うけれど……。


**

「改めて紹介しよう。こちらはレオンハルト・フォン・ルーヴェンシュタイン卿。建国の折より王家を支えてきた旧家の出だ。……以上だ」

 昨夜も家同士の婚約者に過ぎないとハインから説明はあったところだが、翌朝、食事の席に姿を見せたお人形様ことレオンハルトを紹介された。
 昨日の今日ということもありあからさまに顔に出てしまっていたおれだったが、公に紹介されればこちらとて、無礼な態度は取れない。
 向こうもハインには礼儀正しい態度を守っているようで、昨日みたいに顔を合わせて早々に失礼なことは言って来ない。昨日だってそうしてくれれば良かったのに。
 色々とまだ気持ちの整理は出来てはいないのだが王家つまりは魔王に、代々支えていた家系なのだから、〝敵〟というわけではない、のだろう。次顔を合わせたらまた同じことになるとばかり思っていたものだから、正直拍子抜けでもある。

「こうして一緒に朝食を共にするのは久しいですね」

 すると、有意義な朝食の時間だと主張するようにレオンハルトは、ハインの向かいで完璧に整えられた笑みを浮かべた。

「ああ、そうだな」

 ハインもまた、当たり前のようにそうやって返事を返しているわけだが、レオンハルトがおれに一切話しかけてこないところを見ると、敵ではないにしても、親密になる気は早々ないようだ。

(まあ、おれもこんな気の強い奴はごめんだしな)

 向こうが仲良くする気がないのなら、こっちだってそのつもりはないと、決意すら心で固めては手元の潰れたじゃがいもを食していく。まるでドイツにでも居るような気分だ。昔、ドイツ人の留学生が実家に、ホームステイしに来たことがありその際に、ドイツでの食事風景を教えてもらったことがある。

(でも、思えばここってゲームや漫画に出てくるようなゴーレムとか、そういうのがうようよしているような異世界って感じゃねぇよなぁ。やっぱドイツ感が凄いっていうか。まあ、話を詳しく聞いただけで、実際にドイツに行ったことはないんだけどな)

「ーー王、魔王、魔王陛下」
「へ?」
「何をぼうっとしている」
「あ、ちょっと昔のこと思い出してたとこ。で、何?」

 どうやら、自分の世界に入ってしまっていたことから、ハインの声がすぐには入って来なかったらことで、ハインが何やらいつもの溜息を吐きそうな顔をしていた。
 だが、今日はこの場にレオンハルトも居るからか溜息はない代わりに、じとりと一瞬ハインのいつもの鋭い眼光が向けられてしまう。
 はいはいはい、しっかり聞いておきますよ!っと言葉にせずとも、反省してますっていう表情を見せると、すぐに気持ちを切り替えたらしいハインが、こんなことを言い始めた。

「そろそろ、人間たちとの義の時期が来たのだが説明しておかないと、いけないことがある」
「え?今?飯食ってんのにーー……聞きます。ちゃんと聞きますから」

 そういう話は飯が済んでからでもーーと訴えようとするも、そろそろ本当に大きな雷がハインから落ちそうだということを、この張り詰めた空気感から伝わってくれば、とりあえず自分のこの口をチャックすることにした。それによりハインからの怒りは回避出来たわけだが、何やら真面目そうな話に、おれは最後まで聞いていられるか不安になった。それもその筈、こういうシーンは昔から得意ではなかったからだ。

「単刀直入に言おう、毎夜魔力コントロールに励んでいたのはこのことが、関係している」
「え?そうだったのかよ」

 てっきり、魔力のコントロールというのは魔王としての威厳を守る為というのが、大前提だと思っていた分、こんなにも真剣に話されていることに関係があったことを思うと、ついつい身構えてしまう。
 するとだ、そんな予感が的中したようにここで割って入って来たレオンハルトに、ビシッと指さされる。

「何も知らないんですね、魔王陛下は」

 完全に棘のある言い方。まだ、昨日みたいに無礼な物言いではないだけマシなのかもしれないが。



「今でこそ数100年に一度の義があるこで、魔族と人間との和平が安定しているが、義が4代目魔王により確立される前は魔族と、人間は敵対していたんだ」

 どうやらレオンハルトの説明によると、大昔は魔族と人間が歪みあっていたみたいだが、今は人間との仲は良好とのこと。おれの中で魔王やら、勇者らが登場する世界は、大体敵対しているか人間が魔族を大きな恐れの対象として、扱っているイメージが強かった。だから現時点ではわりと、平和な世界が保っているらしく。この世界に来て魔王となってしまった今は、それは一種の安心材料とも言えるだろう。

「これからもその和平を保つ為にも、その義がもっとも重要になってくる。ーーそんなことを現魔王が知らないとは」

 たっぷりの皮肉混じりのその言葉に生憎言い返せない。
 しかし、ここでハインが横から割って入ってくる。

「と、言えどレオンハルト卿もご存知の通りこちらの魔王はまだ、魔王就任となり日も浅い。それを少しは考慮し、言動に慎んでもらいたい」

 所謂、フォローという奴か。ハインがきっぱりとした言葉で、そうやってレオンハルトに宣言してくれたものだから、こちらとしてはハインの有り難みを感じる。

(最初こそ、おれとは相容れない奴だと思ってたけど今のハインにはすげぇ感謝の言葉で、いっぱいでしかない)

「……ハインリヒ閣下がそういうのでしたら」

 ちらりと一瞬こちらを綺麗な紫色の瞳でこちらを見るレオンハルト。その一瞬で明らかに冷ややかな視線すら感じられたものだから、ゾワリと感じてしまう。

(別に、ハインを取り合う気はないのに……いや、どうなんだろ)

 自分のことなのにいまいち感情がはっきりしない。そんなおれの心すら読んでいるのかと思えるほどレオンハルトは、おれへのその態度は改めることはない模様。

「ーーで、先ほどの義の説明に戻るわけだが。義を前に陛下には、4代目魔王が統治していた国へこの度足を運んでもらい、魔力を現段階よりも高めてもらい」
「魔力を今よりも、高める?」

 てっきり自分の中であの魔力コントロールの一貫で諸々、解決とばかり思っていたものだから少し呆気に取られる。
 しかし、おれの心の中のことなどお見通しとばかりに「魔力の増幅と魔力を高めることはまた別件だ」と教えられる。

(なるほど、義を初めて条約した4代目魔王がそれでなんらかの力を与えてくれるって、ことか?)

 別にゲームヲタクではないものの、現代を生きて来たおれでも、ゲームのひとつやふたつくらいしたことが、あるものだからそれとなくゲーム目線でそんな想像が膨らむ。
 すると、予想通り大体の流れは同じだったらしく。その4代目魔王が治めていた地で修行を行えば魔力を高めることが出来るらしい。

「ってことは、ハインも一緒に来てくれるってことだよな?」
「ああ、勿論。私は貴方の王佐だからな」

 そうか、良かった、と、自然とそんな安堵が自分の中に生まれる。だが、それと一緒にこの時のおれは気づいていなかったが、この話の最中レオンハルトの並々ならぬ視線はどうやら、おれの方へずっと向いていたみたいだった。
 
 
 4代目魔王、ヴァルデマール4世。〝和平は慈悲ではない、種の存続のための合理だ〟と、宣言した冷酷主義とまで言われていた魔王。歴代の魔王の中でも、血筋も上位格であり、またその性格も論理的で冷徹な印象が、強かったらしい。
 義の正式名称はヴァルデマールの義。この魔王が統治していた国へ、赴く前に軽くハインからこの魔王の歴史を教えられた。
 魔族たちの誇りでもあるらしく、今も各地に崇拝者が居るとかなんとか。

(正直なところ、まだ魔王としての自覚とかないんだけどなぁ)

 義に向けて魔王が城を開けることで、城内がその準備に取り掛かっている雰囲気の中、この本音は口にはできない状況。もはや、ハインの前でぽろりと口にした日には、一生口を効いてもらえないかもしれない勢い。

(かたっ苦しいの苦手なんだよなぁ、本当)

 ここで思い出してしまうのはやはり自分の生い立ち。
 そこそこ威厳のある家系に生まれて来たことから幼少期は色々と、しんどいことが多く。この世界に来る直前で、身内同士の揉め事に巻き込まれたこともあり、今はまたこういうのを経験しないといけないのか、という気持ちが否めない。

「はあ……」

 無意識にこんなため息すら口から飛び出してしまう程の気分の中、自室の扉が開く。ノックも無しに開いたことから、誰がやって来たのかは一目瞭然だ。

「どうした、浮かない顔をして」
「ハイン……」
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