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episode.12 海の駅へ
しおりを挟むそれからの道すがら、お互いの事についていろいろと話した。
私は学校やカヤック、家等を紹介した。どの話題もミベロは興味津々で聞いていた。
一方、ミベロからは魚人の事をいろいろ教えてもらえた。
魚人は基本的に定住はせず旅をして暮らしているらしい。
数世帯が集まってグループを作るのが一般的らしいが、ミベロは母親と二人で生活していたようだ。
狩りや泳ぎ方等の海で生きていく術は勿論、人間の言葉や計算といった勉学も母親から教わったそうだ。
そして驚いたのは魚人は十五歳で一人前、つまり成人した事になるらしい。
「私、十五、歳。ダカラ、私、大人!」
と鼻高々に自慢していた同年代のミベロが子供っぽく見えたのは黙っておいた。
同じ歳の友達がもう成人しているという事実はなんだか変な感じだった。
そうして多くを語り合いながら私達は広い海を進んでいった。
太陽が西に傾き始め、カンカン照りだった陽光が落ち着いてきた頃。
私はパドルを漕ぐ手を止め、ポシェットからスマホを取り出し、現在位置と時間を確認する。
思ったより目的地までの距離は縮んでいないし、その割には時間は経っていた。
どう頑張っても今日中には着けそうにない。となると宿泊場所を探す必要が出てくる。
そういえば、『海の駅』という所で無料で泊まれると前に聞いた事がある。
私はマップアプリ上の検索バーに『海の駅』と打ち込み虫眼鏡のマークをタップする。
画面上にいくつかピンが並んだので、現在地から一番近いものに触れ、そこを目的地に設定した。
方向を確認し私はゆっくり漕ぎ始める。お母さんには何て連絡しよう、と言い訳を考えていると、後ろから声がかかった。
「ナオ、方向、違ウ」
「あ、ごめん。目的地変えたんだ。今日中には着かなさそうだから、今日は海の駅に泊まるでもいいい?」
「ウミ、ノ、エキ?」
「うん、そこだとタダで寝泊まりできるんだよ」
そうは言ったが、実際に海の駅に泊まった事はない。
でも聞いた話によると警察も常駐していると言うし、交通の要でもあるので危ない所ではないと思う。
ミベロに泊まる了承を得て、私達は今度こそ一緒に海の駅へ向けて出発した。
ぼんやりと点いた灯りを見つけた頃には、太陽は水平線の下に隠れてしまっていた。見上げた空は美しい夕暮れのグラデーションに染まっている。
赤と群青を混ぜた夕闇に浮かぶ背の低い建物を私は意気揚々と指差した。
「見て! あれが海の駅!」
振り返る私にミベロはわぁ、と感嘆を返す。
こじんまりと佇む四角い建造物を、好奇心を輝かせた瞳で観察する彼女の顔はやはり成人と言うには些か幼く見える。
自分と一つしか歳が違わない魚人の少女がもう大人という事実を未だ疑問に思いつつ、私はカヤックを停める場所を探した。
ミベロは海の駅に余所見をしつつ、ちゃんと私の後についてきていた。
海の駅から長く伸びた桟橋に沿って船やヨットが並ぶ脇を通り過ぎ、桟橋入口まで辿り着く。
入口横に申し訳程度に作られたカヤック用の係船柱を見つけた。
カヤックの頭を桟橋にぶつけると、カヤックは小さな振動を伴い止まった。
そのままカヤックを横付けし上手くバランスを取りながら私は漸く桟橋に足を着けた。
すぐさま係船柱にチェーンの鍵を取り付けカヤックを固定する。
カヤックを停められた事を確認してから私は海面から覗く白い羊のフードに声をかけた。
「ミベロ、ちょっと中見てくるから待っててもらってもいい?」
小さく頷いた彼女に手を振って、私は『海の駅』と大きく書かれた看板に向かって一人歩いていった。
初めての場所で一人になってしまい、急に心細さが襲ってくる。
心無しか鈍る歩調に、肩を竦めてきょろきょろと辺りを見回す私の姿は傍から見れば挙動不審だっただろう。
私は硝子張りの自動扉をくぐり一度足を止めた。
目の前には薄汚れ年季を感じさせる施設の案内図が立ちはだかる。それを見る限りではあまり広くはなさそうだ。
トイレにシャワー室、給湯室といった宿泊する為の必要最低限の設備と、受付を兼ねた警備員室、お気持ち程度の小さな売店があるだけだ。
私は中を一通り見て回ろうと、小さくなりながらも廊下を進み始めた。
建物を巡る中で数人のおじさんには出会ったが同年代の人は見当たらなかった。
それがまた自分の知らない大人の世界に入り込んでしまったようで、自分の場違い感に不安が募る。
粗方見回った私はそわそわした足取りのまま最初に見た案内図のあるロビーに戻ってきた。
とりあえず一度ミベロの所へ戻ろう、そう思い私は自動扉へ回れ右したその時だった。
「君、ちょっと」
背後から知らない男の声に呼び止められた。
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