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第4章
4.むなしい祈り
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「アラスター殿下。疲れのあまり、頭が混乱されたのでは?」
エリシアは顔をしかめた。頭の中は疑問だらけだ。
「殿下は本当に私を気遣ってくれました。優しくしてくれました。私はずっと人間とみなされてこなくて……ここまで親切にしてくれたのは、殿下だけだったんですよ?」
「これからもっと親切にしてくれる人に出会えるさ。客観性に何ら問題のない人物に。そうしたら遅かれ早かれ、誰が悪かったのか気づく」
ぞっとするような冷たい声でアラスターが言う。
「僕はいま、罪の意識に襲われている。先祖に腹を立てている。奴らの血を引いている自分が嫌いだ。君の魔力が開花して、はっきりわかった。僕がすべきことは罪の償いだ」
「もうわけがわかりません。処刑を目前に控えた死刑囚みたいな顔をしないでくださいよぅ……」
アラスターは心にぽっかり穴が開いたような顔をしている。青い瞳は苦し気だ。ここまで思い詰めている人を見たことがない。
そのときアラスターの背後でローリックが機敏に動いて、小さな光を彼の後頭部に押し当てた。
アラスターが膝からくずおれる。支えを失ったエリシアの体を、シャレドが両腕でキャッチした。
床に倒れたアラスターは、ぴくりとも動かない。エリシアが近づこうとすると、シャレドが駄目だというふうに首を振った。
「エリシアさん。殿下のことはあまり心配しないで。睡眠不足で何日も過ごせば、誰だっておかしくなります。それに、大きな目標を達成した後の虚脱感にも襲われているんですよ。ある意味、正常な反応です」
力なくだらりと横たわっているアラスターを見て、心配でないわけがない。エリシアにしてみれば、何もかも突然の出来事だった。
シャレドが床に膝をつき、両手でアラスターの体を抱き上げた。
ローリックががしがしと頭を掻く。
「えーっとさ。ここから先は、何でもしたいことができるぜ。もう『恥知らずなアージェント家』じゃないんだから」
シャレドが「そうですね」とうなずく。
「エリシアさんの魔力のことを知ったら、独身の息子を持つ上位貴族があなたのところへ殺到するでしょう。押し寄せてくる大群の中には、他国の人間も含まれる。アラスター殿下の言う通り、メンケレン帝国で暮らしたっていい」
「王立研究所に行って、自分の能力がどれほどのものか見極めるっつーのもありだな。どこに行っても、ちやほやされること間違いなしだ」
「身の振り方は、アラスター殿下が目覚めてから決めたいです」
エリシアはきっぱりと言った。シャレドの腕の中のアラスターが、小さくうめくような声を漏らす。
「早く殿下を治療しなくては。エリシアさんには新しいお部屋をご用意します。殿下がお目覚めになり次第、ご連絡しますから」
こちらが返事をする前に、シャレドが足早に去っていく。
ローリックが「行こう」とエリシアに声をかけた。
案内されたのは、いわゆるスイートルームだった。寝室や居間、応接間など、複数の部屋で構成された最上位の客室だ。あまりに広すぎて、がらんとしている。
クローゼットにはドレスがぎっしり詰まっていた。でも何を着ればいいのかわからない。
出された食事は素晴らしい味だった。感動的に美味しかった。でも、アラスターのことが気にかかって、ゆっくり味わう気になれない。結局、ほとんど残してしまった。
(なんか……空虚だな。人生大逆転したはずなのに)
エリシアはため息をついた。極上の贅沢も、分かち合える人がいなければ空しいだけだ。
(アラスター殿下、明日は元気になるかな。なるよね。シャレドさんとローリックさんがついてるんだもの)
エリシアは豪華なソファに座って、クッションを力強く抱きしめた。アラスターの回復を全身全霊で祈る。
ささやかな望みだ。だから叶うのは当然だと思っていた。
けれどそれから何日たっても、アラスターに会うことはできなかった。
エリシアは顔をしかめた。頭の中は疑問だらけだ。
「殿下は本当に私を気遣ってくれました。優しくしてくれました。私はずっと人間とみなされてこなくて……ここまで親切にしてくれたのは、殿下だけだったんですよ?」
「これからもっと親切にしてくれる人に出会えるさ。客観性に何ら問題のない人物に。そうしたら遅かれ早かれ、誰が悪かったのか気づく」
ぞっとするような冷たい声でアラスターが言う。
「僕はいま、罪の意識に襲われている。先祖に腹を立てている。奴らの血を引いている自分が嫌いだ。君の魔力が開花して、はっきりわかった。僕がすべきことは罪の償いだ」
「もうわけがわかりません。処刑を目前に控えた死刑囚みたいな顔をしないでくださいよぅ……」
アラスターは心にぽっかり穴が開いたような顔をしている。青い瞳は苦し気だ。ここまで思い詰めている人を見たことがない。
そのときアラスターの背後でローリックが機敏に動いて、小さな光を彼の後頭部に押し当てた。
アラスターが膝からくずおれる。支えを失ったエリシアの体を、シャレドが両腕でキャッチした。
床に倒れたアラスターは、ぴくりとも動かない。エリシアが近づこうとすると、シャレドが駄目だというふうに首を振った。
「エリシアさん。殿下のことはあまり心配しないで。睡眠不足で何日も過ごせば、誰だっておかしくなります。それに、大きな目標を達成した後の虚脱感にも襲われているんですよ。ある意味、正常な反応です」
力なくだらりと横たわっているアラスターを見て、心配でないわけがない。エリシアにしてみれば、何もかも突然の出来事だった。
シャレドが床に膝をつき、両手でアラスターの体を抱き上げた。
ローリックががしがしと頭を掻く。
「えーっとさ。ここから先は、何でもしたいことができるぜ。もう『恥知らずなアージェント家』じゃないんだから」
シャレドが「そうですね」とうなずく。
「エリシアさんの魔力のことを知ったら、独身の息子を持つ上位貴族があなたのところへ殺到するでしょう。押し寄せてくる大群の中には、他国の人間も含まれる。アラスター殿下の言う通り、メンケレン帝国で暮らしたっていい」
「王立研究所に行って、自分の能力がどれほどのものか見極めるっつーのもありだな。どこに行っても、ちやほやされること間違いなしだ」
「身の振り方は、アラスター殿下が目覚めてから決めたいです」
エリシアはきっぱりと言った。シャレドの腕の中のアラスターが、小さくうめくような声を漏らす。
「早く殿下を治療しなくては。エリシアさんには新しいお部屋をご用意します。殿下がお目覚めになり次第、ご連絡しますから」
こちらが返事をする前に、シャレドが足早に去っていく。
ローリックが「行こう」とエリシアに声をかけた。
案内されたのは、いわゆるスイートルームだった。寝室や居間、応接間など、複数の部屋で構成された最上位の客室だ。あまりに広すぎて、がらんとしている。
クローゼットにはドレスがぎっしり詰まっていた。でも何を着ればいいのかわからない。
出された食事は素晴らしい味だった。感動的に美味しかった。でも、アラスターのことが気にかかって、ゆっくり味わう気になれない。結局、ほとんど残してしまった。
(なんか……空虚だな。人生大逆転したはずなのに)
エリシアはため息をついた。極上の贅沢も、分かち合える人がいなければ空しいだけだ。
(アラスター殿下、明日は元気になるかな。なるよね。シャレドさんとローリックさんがついてるんだもの)
エリシアは豪華なソファに座って、クッションを力強く抱きしめた。アラスターの回復を全身全霊で祈る。
ささやかな望みだ。だから叶うのは当然だと思っていた。
けれどそれから何日たっても、アラスターに会うことはできなかった。
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