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◇ 二章七話 懐かしの川 * 慶応元年 四月
真面目な与太話
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「ま、さすが東は元来の将軍様お膝元ってこともあるしな、今んとこ西ほどキナ臭くもねぇが。中島にゃ、使えそうな奴がいたら新選組に勧誘しろってぇことも頼んである。今回の隊士募集も、あいつの見立てで集まってきた中には割かし使えそうな奴もいやがったよ」
「なるほど。……本日に限っては、少々不作だったようですが」
「そりゃ、まぁピンキリだな。だがいくら人手がいるっつったって、使えねぇ奴なんざ抱え込んだところで結局は邪魔なだけだ」
土方は大真面目でもなければふざけているわけでもない、ただただ然もありなんとした様子で言った。
伊東も、厳しいだ何だと言いながら、この土方の採用基準を否定はしていないような口ぶりであったため、そういうところは互いに気が合っているのかもしれないなと思う。思うだけで、決して口に出すことはないが。
それでも実際、伊東の芯の持ち方は、本当に土方に似ているのかもしれないと思うところがある。柔和で波風を立てることを好まなかった山南に対し、土方はいつでも毅然として物申したいことを物申す姿勢を崩さない性質であったし、今もそうだ。それを思えば、伊東の、新選組の中にいつつも、その中心にある佐幕思想について堂々と物申す様などは、どちらかと言わず土方のようなブレのなさだと感じられる。
伊東の入隊前、藤堂は伊東について「山南のように頭が使える人を」と言っていたが、斎藤の頭の隅には、相性が悪いのは同族嫌悪もあるのでは、という思量がかすめていった。
「ところで、どうした」
ただ頷いただけの斎藤に対し、土方が改めて表情を引き締め問うてきた。
「下番した後にわざわざ訪ねてくるなんざ、何かあったのか?」
「ああ……いえ」
土方が何を想定したのかは今は触れず、斎藤はゆるりと首を振って、それからわずかな間、言い淀んだ。
それが余計に意味ありげに見えたのか、土方の表情がじわりと険しくなる。
斎藤は軽く手を上げて、「いえ、それほど真面目な話では……ない、ですね」と先に断りを入れた。曖昧な物言いになったのは、組にとって真面目な話ではないのだが、斎藤にとってはそれなりに真面目な話だから、というだけの理由に他ならない。
「あ……? どういう話だよ」
「……土方さんは」
言いながら、考えてみれば土方に直接切り込むのは初めてだったな、ということに今さら気付く。柄にもなく少々落ち着かない思いを持て余し、斎藤はひと呼吸挟んでから、改めて口を開いた。
「土方さんは……葛という方を、ご存知ですよね」
「なるほど。……本日に限っては、少々不作だったようですが」
「そりゃ、まぁピンキリだな。だがいくら人手がいるっつったって、使えねぇ奴なんざ抱え込んだところで結局は邪魔なだけだ」
土方は大真面目でもなければふざけているわけでもない、ただただ然もありなんとした様子で言った。
伊東も、厳しいだ何だと言いながら、この土方の採用基準を否定はしていないような口ぶりであったため、そういうところは互いに気が合っているのかもしれないなと思う。思うだけで、決して口に出すことはないが。
それでも実際、伊東の芯の持ち方は、本当に土方に似ているのかもしれないと思うところがある。柔和で波風を立てることを好まなかった山南に対し、土方はいつでも毅然として物申したいことを物申す姿勢を崩さない性質であったし、今もそうだ。それを思えば、伊東の、新選組の中にいつつも、その中心にある佐幕思想について堂々と物申す様などは、どちらかと言わず土方のようなブレのなさだと感じられる。
伊東の入隊前、藤堂は伊東について「山南のように頭が使える人を」と言っていたが、斎藤の頭の隅には、相性が悪いのは同族嫌悪もあるのでは、という思量がかすめていった。
「ところで、どうした」
ただ頷いただけの斎藤に対し、土方が改めて表情を引き締め問うてきた。
「下番した後にわざわざ訪ねてくるなんざ、何かあったのか?」
「ああ……いえ」
土方が何を想定したのかは今は触れず、斎藤はゆるりと首を振って、それからわずかな間、言い淀んだ。
それが余計に意味ありげに見えたのか、土方の表情がじわりと険しくなる。
斎藤は軽く手を上げて、「いえ、それほど真面目な話では……ない、ですね」と先に断りを入れた。曖昧な物言いになったのは、組にとって真面目な話ではないのだが、斎藤にとってはそれなりに真面目な話だから、というだけの理由に他ならない。
「あ……? どういう話だよ」
「……土方さんは」
言いながら、考えてみれば土方に直接切り込むのは初めてだったな、ということに今さら気付く。柄にもなく少々落ち着かない思いを持て余し、斎藤はひと呼吸挟んでから、改めて口を開いた。
「土方さんは……葛という方を、ご存知ですよね」
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