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短めな話
食事中
しおりを挟む吸血鬼の食事の時間は、誰も邪魔してはいけない。
「シルフ、そろそろ補給だよね?」
「!......うん、欲しい」
シルフは相変わらず照れながら、ごくりと唾を飲んだ。あれで結構むっつりに違いないとオレは思う。
「いいよ、はい」
向かい合って座る。ぷち、ぷちと3つめまでボタンを外して、シルフが噛みつきやすいように肩口を出した。とはいってもこいつはこれっぽちも吸血鬼らしい噛みつき方をしないのだ。
よく切れる鋭い牙で肌をつーっとなぞると、紙で指を切った時のように赤い線が細く浮き上がる。こんな切れ味の歯を収納してるシルフの口の中は、さぞ丈夫なのだろう。線状の傷から生まれてくる赤い雫が1滴ずつ舐め取られていく。傷は浅く見えても意外とたくさんの血があふれ出し、シルフの口の中、喉の奥に収まっていく。
オレはそこで舐められているところがちょっとくすぐったくなってしまった。一旦口を離してくれないかな...声を出そうとして、やめた。
オレから見えはしないが、一定の間隔で血を飲み下すごく...ごく...という音が聞こえた。めちゃくちゃ真剣に飲んでいる。オレの血、美味しいのかな......邪魔をしてはいけないと思った。
そのとき、開いていた窓から1匹の子猫が入ってきた。
(......!)
窓枠から床へ、軽い体重が着地する。オレたちの存在に気づくと、ほとんど抱き合ってるみたいなポーズなのに全然気にせず、こっちへひたひたと近づいてくる。今にもにゃあと鳴きそうだ。
(今はダメ、静かにね)
猫に向かって、立てた人差し指を口元に当てて、しぃーっと合図をした。ここにはね、食事中の吸血鬼がいるんだ。
子猫は理解したのかしてないのか、あくびをして、そのまま丸くなって眠ってしまった。
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