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408、転移魔法陣解放
しおりを挟む「こいつらの力だったらここらへんでやってみるのが丁度いいみてえだし、ここにはあの教会ってやつはないんだろ? 高橋とか長光もいるんならまずはここからだろってことで連れてきた。ちょっと悪いんだけど、色々教えてやってくれねえか?」
「うわあ、行動が早いっていうか大胆っていうか……」
感嘆半分呆れ半分で虎の獣人さんと犬の獣人さんを見上げると、二人は俺とヴィデロさんを見下ろして、ニヤッと笑った。
「ようヴィデロ。今度はこっちで手合わせ頼むな」
「残念ながら俺が普段いるのはこの街じゃないんだ」
「なん、だと……」
二人ともいつでもヴィデロさんと手合わせできるかも、と突っ走ったらしい。ヴィデロさんの言葉でものすごいショックを受けた顔をしていた。
なんてこった、なんて膝をついている姿は何とも面白くて、思わず笑いがこみ上げてくる。
「ケイン、俺、ヴィデロのいるところがいいんだが」
「我が儘言わないの。ヴィデロがいるところはジャル様の所の近くだから、タタンには温すぎてすぐつまらなくなるよ」
「ヴィデロ、お前の所はここからどれくらい離れているんだ」
「馬で3日、馬車で4日の距離だ」
「遠い」
ムッと顔を顰めた虎の獣人さんは、ケインさんを見下ろして、そうだ、と呟いた。
「ケイン、ヴィデロの所とここ、繋げちまってくれよ。いつでも行けるように」
「転移で? さすがにそこまで勝手には出来ないよ」
「じゃあどこかにそれが出来る場所はねえかな」
考え込む獣人さんたちに、ずっと話を聞いていた長光さんが提案した。
「まずは冒険者ギルドに相談してみたらいいんじゃねえの? 街と街を魔法陣で繋ぐってことだろ? だったら、ギルドに相談してみろよ」
「ギルド?」
こっちだ、と長光さんに手をとられて、虎の獣人さんが引っ張られるように歩き始める。
なんとなく俺たちもぞろぞろと二人の後をついていった。
辺境の冒険者ギルドのドアを潜ると、かなりプレイヤーでにぎわっていた。中には獣人アバターのプレイヤーも結構いて、その人たちを見る本物の獣人さんの目が何か不審な物を見るような感じになっていた。
「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」
カウンターに向かうと、ギルド職員さんがにこやかに声をかけてくれた。
戸惑う獣人さんの代わりに、長光さんが身を乗り出す。
「長光様。いらっしゃいませ」
「よ。今日はちょっと相談なんだけどよ、この二人を登録して欲しいんだよ。あと、できればギルドのトップに話があるから、何とかならねえ?」
「統括ですか? 本日は砂漠都市におりますが、どのようなお話でしょう。重大なこと、ですよね」
「ああ」
長光さんが真顔で頷くと、職員さんがごくり、と生唾を飲み込む真似をした。
そして、ほかならぬ長光様の頼みですから、と手元にある魔道具を取り上げた。
何個かボタンを押して、それを口元に持って行く。
あ、あれ、ヴィデロさんの部屋にも置いてある通信の魔道具だ。
じっと見ていると、魔道具から『こちらチンクエ支部』という声が聞こえてきた。
「失礼します。そちらに統括はおられませんか?」
『統括なら上におります。お待ちください』
「はい」
職員さんは魔道具を置くと、2人の獣人さんににこっと笑いかけた。
「初めまして。登録は初めてですか? ここディエテ支部で登録とは珍しいですね」
「まあな。色々教えて貰えると助かる」
「もちろん。わからないことは何でもお聞きください」
職員さんが笑顔でそう言ったところで、魔道具からエミリさんの声が聞こえた。
職員さんは「すみませんが少々お待ちください」と断ると、また魔道具に手を伸ばした。
何度か言葉をやり取りした職員さんが、魔道具をしまって顔を上げた。
「少しお時間をいただければありがたいのですが、大丈夫でしょうか。トレ支部でしたらすぐに来ることも可能だったのですが」
「え、ダメなのか? そこ教えてくれ。俺たちが移動すりゃいいんだ」
ケインさんがずいっと前に出た。
そして、その統括とかいうやつがいるとこを教えてくれと懐から地図を出して、職員さんの前に開いた。
職員さんはここです、と砂漠都市を指さす。
「わかった。ところで砂漠に行くのは何人だ?」
振り返ったケインさんに、俺とヴィデロさん、雄太たち全員が無言で手を上げる。あとからそっと長光さんもユキヒラも苦笑しながら手を上げた。
「ひいふうみい……って全員かい。よし。んじゃ、どうもな」
ケインさんは俺たちを寄せると、職員さんにぺこりと頭を下げて魔法陣を描いた。
そして一瞬後には砂漠都市の門の前。
長光さんはまたも獣人さんを冒険者ギルドに案内した。
そして入ると、そこではエミリさんが待っていてくれた。
「長光、久しぶりね。元気そうで何よりよ。マックも。あら、今日はクラッシュ一緒じゃなかったの?」
「辺境で遊んで帰るんだって言ってたぜ、エミリさん。ごめんな、いきなり電話して。でもこの獣人がとんでもなく面白い提案をしてくれたから場所提供と協力を取り付けようと思ってよ」
「あら、いいわよ。奥にいらっしゃい」
長光さんはエミリさんとも懇意にしていたらしい。さすがタラシ。
ついでに俺たちも一緒にお邪魔した会議室。議題は「各街に転移魔法陣を置いてもいいか」ということ。転移魔法陣解放ってこれのことか! と俺は思わず雄太と顔を見合わせてしまった。
流石に獣人さんだから走れば馬よりも早く隣の街には行けるみたいだけど、それじゃまだるっこしいみたい。確かに、獣人の村には転移魔法陣が充実していて、行きたい場合はすぐに違う村に跳べるしなあ。その状況に慣れていたら、徒歩とか馬とか馬車とかの移動は時間の無駄かも。
っていうかこの大きな身体で馬に乗れるのかな。クイックホースくらいじゃないかな。
「転移魔法陣……そうね。条件次第ね。次々来る異邦人は大抵ウノの街から進むのよ。でもウノの街は辺境とは比べ物にならないくらいに弱い魔物しか出ないのよ。それを倒して腕を磨いて先に進んでいく子がほとんどなんだけど、間違ってその子たちがいきなり強い辺境みたいなところに跳べないようにしないといけないの。それをどうするかよね」
「なんだそれだけか? だったら、魔法陣を刻んだところに一度触れないとそこに跳べないように文字を組み込めばいいだけだろ。だから、ウノだっけ? そこにいるやつは次の街の魔法陣に触れないと跳べない状態にするとか。そういうのなら簡単にできるから」
「……そうね。それなら、この冒険者ギルド内の空き室一室を使うといいわ。外に設置しようとすると何かしらの干渉が入るから。でもギルド内はよほどのことがない限り干渉されないのよ」
エミリさんは口元をくっと上げて、ケインさんに笑いかけた。
実は独立した権力を持ってるのって、結構強いのかもしれない。と改めて思う。モントさんもこんな感じだったし。
「使用するにあたって、使用料はどうする?」
「そんなもん取らねえよ。だってこいつらがヴィデロに会いに行くために設置するようなもんだし」
「そんなこと言わずに。それに、ここを使ってもらう代わりに全街のギルドに転移魔法陣を設置してもらおうと思ってるのに」
「だって金って俺たちあんまり使わねえし」
「その子たちの生活費だってあるじゃない。全力でサポートはするけれど、ギルドランクが低いと低い賃金の依頼しか受けれないのよ」
「金なら、マックがわんさか送ってきたからあんまり問題ないんだ」
何気ないケインさんの言葉に、雄太が俺を肘で突く。
「なんだよわんさか金を送ったって。どこの金持ちだよ」
「アレだよ。フォリスさんの本が売れた分だけ取り分あったから、最初のうちはその売り上げを全部獣人の村に持ってってたんだよ。途中でもういらねえって受け取ってもらえなくなったけど」
「……ああ。そっか」
真実を話したら雄太は納得したらしい。突っ込まれることはなかった。
話はすぐにまとまって、各ギルドに転移魔法陣が置かれることになった。
使える条件は、各街の転移魔法陣に触れない限り、その街に転移できないってこと。パーティーを組んでいてもそれが優先されるから、一人が先に進んだことがあるからと転移魔法陣を使おうとしても、先の魔法陣に触れたことない人は跳べないことになる。あと、使用料は街一つ跳ぶごとに200ガル。辺境からトレに跳んだ場合は、1400ガルらしい。やっすい。
魔法陣が設置された部屋にカウンターを置いて、そこに職員さんを配置すると、その日のうちに決まった。
エミリさんさすが。
早速各街に魔法陣を設置しに行くことになったケインさんは、俺たちを辺境に置いてから、エミリさんと共に消えていった。
一瞬でいなくなった二人を見送って、怒涛の展開に思わずぼんやりとする。
「ってか、俺たち各街に跳ぶとしたら、まず足で戻って魔法陣にタッチしないとどこにもいけねえってことだよな」
雄太の呟きに確かに、と頷く。
どっちにしろ一度は街から街を歩かないといけないってことだもんね。
でもレベルとか上がりにくくならないかな。レベル上げはまた別なのかな。
「それはそれでたまには新鮮でいいんじゃない?」
海里が雄太の背中を力任せにバン! と叩き、雄太をよろめかせる。何とか態勢を立て直した雄太の肩にスッとブレイブの腕が乗り、「早速行くか?」と唆す。ユイはニコニコと「いいね」と頷いている。
獣人の二人はエミリさんとの話し合いの間に登録を済ませたらしく、珍しそうにギルドカードを覗き込んでいた。
「とりあえず、腕試ししてみるか」
「だな」
肩から掛けれたカバンにギルドカードをしまうと、獣人二人が頷き合った。ワクワクが表情に浮かんでいて、やんちゃ坊主って感じになっている。
ヴィデロさんはそんな二人に苦笑しながら、ちょっと待て、と早速走って行こうとした二人を止めている。
「しばらくは誰かについて、こっちの常識を学んだ方がいい。獣人の村は色々と飛びぬけているから、こっちでは出せないヤバいものとかもあるし、お前たちじゃその基準が判断できないだろ」
「それもそうだな。じゃあヴィデロ、しばらく一緒に行動しねえ?」
「それもいいけど、今日しか行動できないぞ。明日はもうトレに戻らないといけないから」
二人が腕を組んでどうするか、と頭を捻ったところで、雄太が「それなら」と二人に声を掛けた。
「俺らとしばらく行動するか? 学校があるから夕方からがメインだし、勇者もたまに一緒にいるけど、それでもいいなら俺らと組まねえ?」
「いいのか? ええと、なんだっけ名前。前にモロウ様の所から村に来たよな」
「高橋。一度行ったけど、村の横の森を通らせてもらっただけだぜ」
「人族が入るのがまず珍しいから忘れねえよ」
苦笑する獣人さんたちの言葉を聞いて、雄太がちらりとこっちを見た。
ごめん、俺は常連。だってあそここっちにはない素材があるんだもん。それにハイパーポーションに使う素材、一つこっちにはないものがあるから。
雄太たちは早速獣人さんを連れて離脱していった。
残った俺含めた4人は、長光さんの工房に移動することにした。
それにしても、今日一日ほんとに濃い一日だったよ。まだ終わってないけど。
街と街を転移で移動って、他のゲームじゃ当たり前にあったけど、ADOでそれが実装されるとは思ってもみなかったよ。
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