文字の大きさ
大
中
小
288 / 706
連載
409、怒涛の一日はまだ終わってなかった
長光さんの工房に着くと、ユキヒラが盛大に溜め息を吐いた。
「何がどうなってこんなことになってんのか、くわしーく説明してくれねえか、そこの三人」
「さっき大まかなことは説明しただろ」
「ああ、聞いたな。『聖剣ないと倒せないキークエの魔物がいるからちょっと手伝ってくれ』ってな。大まかどころじゃねえじゃん。全然意味わかんねえ。何でいつの間にか街間の転移装置実装になってんの? 宰相からそんなこと全然聞いてねえぞ」
眉毛の間に深い皺を作りながら、ユキヒラが長光さんに詰め寄る。
長光さん、そんな説明しかしなかったんだ。確かに正しいけど、言葉足りな過ぎだよ。
「急いでたから説明は省かせてもらったんだよ。負けてたらこの国の汚染が始まるみたいなクエスト内容だったじゃねえか」
「そうだけど! だからって急展開過ぎだっての! 何でライオンの石像があそこにいるんだよおい! 俺のせいで手がなくなっちまったじゃねえか!」
オランさんの手の状態を思い出してしまったユキヒラの目に涙が溜まっている。
あの一瞬だけでそこまでオランさんのことを気にかけててくれたのかな、ユキヒラは。
「ユキヒラ、お前はオランのことをどこまで聞いている?」
ヴィデロさんに声を掛けられて、ユキヒラが長光さんの胸倉をつかんでいた手を放す。真っすぐヴィデロさんの方を向いて、溜め息と共に言葉を零した。
「前教皇が教皇になる前に、そいつによってバラバラにされて教会の道具にされてたって言うのを訊いてよ。俺もちゃんと確認して来たよ、酒を掛けると動く石像。俺が見てきたのは虎の奴だったけど、ちゃんと話すし動くし意志があるし、何より、石像になっていても世界はしっかりと見れるし感じられるって。それを聞いてほんと俺、どうしようかと思ったよ」
教会がやってきたことを全て半分になった身体で見ていたってことだろ、とユキヒラは項垂れた。
しかも、宰相さんは虎の石像さんとかなり懇意になって、オランさんの過去の話もしたらしく、ユキヒラはそのことを宰相さんから聞かされたらしい。
人族である自分のせいでまた手がなくなったということが、ユキヒラにはすごく重くのしかかってるようだった。
「っつうかそうだよ、転移魔法陣だよ。あれのこと宰相に言っとかねえと変な誤解生みそうだ。獣人のやつがこっちに出てきたことも」
ハッと顔を上げて、ユキヒラがきらっとこっちを見た。
「マック、長光でもいい。宰相の所に送ってくれねえか? これ、最優先事項だろ」
「反対されねえならな。王宮の前までなら送ってやるよ」
「んじゃマック。宰相の部屋でよろしく」
「いきなり現れて不審者にならない?」
頼む! と顔の前で手を合わせたユキヒラにそう返すと、ユキヒラは大丈夫、とサムズアップした。
「だってマックは宰相の手形持ってるだろ。あれなら王宮の許された場所ならどこにいても大丈夫だから、全然問題ない! それに宰相だってゆくゆくは獣人の差別化をなくそうと獣人アバターを許可したらしいから。それが早まっただけだから反対なんかしねえ! でもそれに沿って動くにはやっぱ情報が命だろ。ちょっと宰相の所に送ってくれ。ついでに運営の方にも言わねえとプレイヤーの方でももめるだろうし。マックお前ちゃんとヴィルさんに報告したか?」
「してないよ」
「じゃあマックは詳細をヴィルさんに報告な。そこから運営に色々と便宜を図ってもらって、取り決めしねえと揉めるぞ絶対。そこらへんを宰相と運営に丸投げするからやっぱりまず情報!」
ユキヒラの言葉に、思わずおおーと声を上げてしまった。
そこまで深く考えなかったよ。でも確かに揉めるよね。色々と。
神殿の時みたいに、『実装しました』的な告知と使うためのマニュアルを運営の方でも出してもらった方がスムーズにいくよね。アリッサさんと宰相さんが顔を合わせて話さないといけないだろうし。
「っつうかユキヒラ、そこまで考えちまうってことは、そろそろ運営に名を連ねるのも時間の問題ってことか?」
「それは俺よりマックの方が近いっつの」
長光さんの突っ込みに、ユキヒラが予想外の答えを返したことで、長光さんが目をまん丸にしてこっちを見た。
何でここで俺の名前が出てくるの? みたいな顔をしていた。
俺は運営には携わらないって。
そんなことないよ、と否定すると、長光さんは長い溜め息を吐いた。
「俺はすげえ奴らとフレンドになったらしい……」
「俺に言わせれば長光さんの方が凄いと思いますけど……」
「どっちもどっちだろ、現地人タラシどもめ」
ユキヒラを王宮に送っていく間に、長光さんがヴィデロさんの鎧を直してくれることになったので、ヴィデロさんは長光さん工房で留守番をすることになった。
名残惜しくヴィデロさんに手を振ってから、王宮に跳ぶ。
ユキヒラの言葉を信じて、宰相さんのいる執務室に現れた俺たちは、目をまん丸にしてこっちを見ている執務室の面々に出迎えられた。
「……あなた方は本当に、こちらを驚かせるのが上手い……」
呆れたような宰相さんの言葉に、俺は思わずユキヒラを指さして、「ユキヒラがどこに跳んでも大丈夫って太鼓判を押してくれたから」と言い訳をした。
ユキヒラは宰相さんにジト目で見られるのも構わずに、「それよりも大事件だからここに連れて来てもらったんだよ!」と宰相の前にぐいっと身を乗り出した。
「大事件、とは先ほど言っていた『魔王の残滓』で何かあったのですか?」
「そっちは大丈夫。消したから。そんなことよりもっと大事なことだよ!」
「話を聞きましょう。皆さん、引き続きお願いします」
部下の人たちの返事を聞きながら、宰相さんは奥へどうぞと俺たちを手招いた。
っていうか俺、ユキヒラを置いたらすぐに戻るつもりだったんだけど。
「俺帰っていい?」
「一連の流れを知ってんのはマックだろ。俺途中参加なんだからな」
そう言って引き留められてしまった。確かに。
俺とユキヒラの話を聞いているうちに、宰相さんは頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
そして唸り声を上げてから、諦めたようにゆっくりと顔を上げた。
「……何とか、理解出来ました……が、これは少しエミリ君とお話をしないといけなくなりましたね……。しかしここに呼ぶわけにもいかない……マック君。頼みがあるのですがぜひ頷いてください」
「ええと、何ですか?」
宰相さんは有無を言わせぬ迫力を全身で発しながら、ずいっと身を乗り出した。
「エミリ君をあの例の部屋まで連れてきては貰えないでしょうか。出来る限り早く」
宰相さんの言葉と共に、ピロンとクエスト欄にびっくりマークがつく。あ、クエストになっちゃった。これ、もしかして国際サミット的な物なんじゃなかろうか。
でも確かにこれは話し合ったほうが良さげだ。
「そして、これも勝手なお願いなのですが、獣人の代表者を一人、紹介してはくれないでしょうか」
お願いします、と頭を下げる宰相さんに、俺はどうしようかなと考えつつ視線を向けた。
獣人の代表って長だよな。俺の知ってる長は石像の人たちと、オランさんと、あのゴリラの獣人さんくらいしかいない。でもオランさんを王宮につれてくる気にはなれないし、ゴリラの獣人さんはあんまり人族に対して好意的じゃないんだよなあ。どうしよう。
「エミリさんに言うのはいいですけど……」
とそこで思い出した、エルフの里の事。
エルフの里で仲介してもらったんだから、詳細を教えないとだめだよな。あと、無事倒しましたってこと。
そう言えば、あの時ロウさんから何か薬を貰って、何も調べずにインベントリに突っ込んだはず……。
何気なくインベントリの薬を見てみると、そこには、『細胞補正剤』という、なんとなくなじみ深い名前の薬があった。
もしかしてこれ。
インベントリ内で詳細を調べてみると、そこには、『細胞補正剤:生物の壊死した細胞を増殖させることで補正する薬。ただし使いすぎは逆効果』という文字があった。
これ、おなじみの『細胞活性剤』と同じような物だ。ってことは、錬金で作られる物で、そして……。
「ユキヒラごめん、俺ちょっと行かないと。宰相閣下、エミリさんには伝えておきますし、もし了承を得られたら、ユキヒラ経由で連絡します。席を立ってすいません、俺、行かないと」
話半分で、俺はそのままの場所から、ヴィデロさんの所に転移した。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。