これは報われない恋だ。

朝陽天満

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452、プレイヤーたち元気すぎか

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『麻薬果実の中和剤作成と殲滅をせよ



 緊急に麻薬果実の中和剤を作成せよ

 麻薬果実の蔦を殲滅する薬剤を作れ

 作った物を使って麻薬果実を獣人の領域から殲滅せよ



 タイムリミット:38時間12分



 クリア報酬:獣人の村解放 新果実入手 獣人好感度上昇

 クエスト失敗:時間内に殲滅できなかった 獣人の村内果実蔓延 獣人の村半消滅



 モッ村100%  ナム村100%  ハイ村100%  サウ村100%

 バー村100%  バイ村100%  ボン村100%



【クエストクリア!】



 村の脅威である麻薬果実の蔦は消し去られた

 中毒症状のある魔物の殲滅に成功した

 麻薬果実の種の改変に成功した



 クリアランク:A



 クリア報酬:獣人の村解放 新果実ホーリーリラ生育方法入手 獣人好感度上昇』







 雄太は湿布を片手に、知り合いの獣人さんとヴィデロさんと話をしていた。

 そしてヒイロさんの家から出てきた俺を見つけると、よ、と手をあげた。



「湿布もらったよ。これってどんな効能なんだ?」

「痛覚減少効果(小)ステータス回復速度上昇(小)。傷が治るわけじゃないから、気休めみたいなものなのかな。実は使ったことないんだ」

「おお、じゃあせっかくだから今使ってみるか。丁度HP少し減ってるし、さっき腕を攻撃された所じわじわ痛いし。ほんの少しだったから治さないで終わってたんだ」



 雄太がそう言った瞬間、ユイの頬がぷくっと膨らんだ。そういう時は治すから言ってよ、って膨れてるけど、雄太は笑いながら「だってユイもMP切れそうだったろ」とその膨れた頬を突いていた。ラブラブか。

 鎧装備を解除してインナー姿になった雄太は、腕を捲ってそこに湿布を貼った。

 周りの人みんな湿布がどんなものなのか興味深々だったみたいで、いつの間にやら雄太が囲まれている。俺もワクワクしながら見ていると、雄太が「おお!」と声を上げた。



「すげえよ。これ貼ってるとスタミナとHPMPの自然回復具合が倍速になる。ってかHPこんだけ早く回復するとかありえねえ。すげえいいもんもらった!」



 雄太の言葉に、周りからどよめきが起こった。皆すげえさすが獣人の湿布だとか喜んでるけど、それの製作多分俺だから。獣人作じゃなくてごめん。居たたまれない。多分ヒイロさんが作った物だと回復が(中)とか(大)とかになるはずなんだけど。報酬も手抜きってどういうことだ。

 半眼になりながら訊かれるままに泥酔解除薬ドランクポーションの説明もすると、雄太はじっと俺の顔を見た。

 もしかして、と口が動いてるけど、声には出ていない。すると、雄太は宙を弄り始めた。そしてその後、チャットメッセージ欄にピロンと通知が来た。

 ちらりと雄太を見てから開くと、そこには案の定雄太からのメッセージが。



『これを作ったのはお前か』



 バレた。一発でバレた。どうしてそんなに目ざといんだ雄太。

 溜め息を吐くと、またも『当たりか』とメッセージが来た。



『これ、売りに出せるか?』

『止められてはいないし、素材は獣人の村にわさわさ自生してるから大丈夫だとは思うけど』

『少し融通してくれないか。辺境の騎士団に魔物に手を千切られて、今もまだそこが痛むってやつがいるんだ』



 チャットを読んで、俺は思わず声に出して「ちょっとだけ待っててくれ」と声に出していた。

 ユイたちが「なにチャットでやり取りしてるのよ。内緒話?」なんて突っ込んでるのも構わずに、俺はエミリさんのもとに走った。



「エミリさん!」

「どうしたのマック。そんなに慌てて」



 エミリさんはすぐに俺の方を向いて、話を聴く姿勢を取ってくれた。



「他の人と話中にすいません。あの、エルフの秘薬って、辺境の騎士に使っても大丈夫ですか?」

「へ? エルフの秘薬って、『アレ』?」

「そう、『アレ』です。高橋が辺境騎士団の人で魔物に手を食いちぎられて、未だに痛がってる人がいるって言ってたから。そんな人たくさんいるのはわかるんですけど、でも」



 そこで言葉を濁すと、エミリさんは腕を組んで、溜め息を吐いてから、徐に指を上げた。

 そして、その指で俺の鼻の頭を突く。



「何サラと同じこと言ってんのよ。目の前にサラがいるような錯覚に陥っちゃったじゃない。でもね、あの子はこう言うのよ。『ねえ、私が治したいから、使うわね。あとはフォローよろしく。エミリ』ってね」

「うわあ……豪快」

「辺境騎士団ならアルの所でしょ。なんとでもなるわ。もちろんギルド経由でも大丈夫。ギルドはあなたたちみたいな子たちの味方なのよ。好きにやりなさい。ただし、ちゃんと何かやろうとしたら、今みたいに一言言ってもらえると助かるわ。特にサラの後継者関係のことはね」

「はい!」



 エミリさんの笑顔と許可をもらった俺は、猛ダッシュで雄太の所に戻ってきた。そして、そっとインベントリから『アレ』を取り出して、雄太に渡した。



「なんだこれ。湿布じゃねえの?」



 雄太は受け取った瓶を見下ろして、首を傾げていたので、さっさとしまえと促す。

 そしてチャット欄を開いてアレの使用方法を伝えた。

 そう、『細胞補正剤』の使用方法を。



 そのチャットを読んだ雄太は、最初「はぁ!?」という声を出して、真顔で読み進めていき、無言のままチャット欄を閉じた。そして、じっと俺を見てから、腰にある袋に手を突っ込んだ。

 取り出したのは、謎素材。しかも7個。



「ギルドに持ってってすっごーい薬を貰おうと思ったけどやめた。さっきのやつの報酬はこれでいいか? 足りねえ?」

「え、あ、毎度アリ?」



 謎素材を受け取って、とりあえずインベントリにしまう。

 じゃあ、7個ってことは、と、俺はインベントリからハイパーポーションを7個取り出した。あいにく今はハイポーションを持ち歩いてなかったんだ。そう言って雄太に渡す。



「待て待て。これを俺が受け取ったら、報酬にならねえじゃねえかよ」

「でもこれの報酬金額発生してないじゃん。それでいいんじゃないかな。それに、高橋にはちょっとさっきのアレを勇者に説明して、フォローして欲しいし。エミリさんも大丈夫って言ってたけど、近くにいる高橋がそこらへんフォローしてくれるならこっちとしてもすごく助かるし」

「フォローくらいならいくらでもしてやるけどさ。いくら何でもただに近い値段って……」



 渋い顔をする雄太に、どういったら納得してもらえるのか考えた俺は、そうだ、と手を打った。



「さっきの『アレ』、勇者なら本当の価値がわかると思うんだ。だから、勇者が『アレ』の価値を決めるといいと思う。きっとサラさんと一緒に歩いた人だから」

「ああ……薬師じゃなくてあっちの方のやつか」

「うん」



 頷きながら、雄太に秘密を色々話してたのは僥倖だったと思わず顔をほころばせる。だってアレとかコレとか一言で通じるんだもん。さすが雄太。常に金欠じゃなければ結構いい男なのに。

 雄太が穏やかな顔で「サンキュ」と言ったのでそれに頷いて、俺はヴィデロさんの隣に向かった。

 ヴィデロさんの隣に立つと、ヴィデロさんは少しだけ屈んで俺の耳に口を近付けた。



「ヒイロに何かまた無茶でも言われたか?」



 俺にしか聞こえないくらいの小さな声で、ヴィデロさんが訊いてくる。

 俺は苦笑しながらヴィデロさんを見上げた。すごく距離が近い。

 俺が首を横に振って大丈夫の意を示すと、ヴィデロさんはちょっとだけ安心したように口を綻ばせて、その後尖らせた。その尖らせた口をチョンと俺の唇に触れさせると、顔を離した。やり返された。雄太たちの目の前だったのに。ちらりと『高橋と愉快な仲間たち』を見ると、ブレイブがよしと拳を固めて、海里とユイが微笑ましい物を見る目で見ていて、雄太が「またやってるよ」的な顔つきで見ていた。



「ほら高橋。ラッキーのおすそ分けもらえたところで、もう一回森探索行くぞ。絶対レアドロップ出るから」

「ほらほら、ラッキーが消える前に! マック、ありがと。そしてごちそう様」

「マック君門番さん、末永くお幸せにね」



 ブレイブに森の方へ引き摺られていく雄太を呆然と見送っていると、周りのプレイヤーもブレイブと海里の言葉で一斉に森に散っていった。

 一気に閑散とする広場。残った俺たちは、蜘蛛の子を散らすように消えていったプレイヤーたちをただただ見送る事しかできなかった。



「草花薬師の奴らも行っちまったぞ。さっきの奴らと共闘でもするのか?」



 モントさんの一言で、草花薬師のプレイヤーも戦闘職の人たちと一緒に消えていったことに気付いた。臨時パーティーでも組むのかな。



「まあ、元気があっていいこった。で、マックはどうするんだ?」



 ちらりとモントさんがこっちを見る。

 実はさっき、ヒイロさんからリルの種を三分の一だけ託されたんだ。モントさんもだし、ヒイロさんも同じ分だけ保存。何かあればこれを成長させて中和剤を作るため。逆に全部なくなるのは怖いんだって。実が出来ちゃったらまたそれから作ればいいとも思ったんだけど、それだと後手に回っちゃうから迅速に対応は出来なくなるんだってヒイロさんが言ってた。でもモントさんは最初頑として断っていたんだけど、ヒイロさんが特殊な袋を持ち出してきて、「これに入れときゃ成長阻害されるから水が掛かろうと育たねえ」とモントさんに渡したことで、保存だけ、という話になった。多分それ含めての「どうする」という言葉。ホントどうしよう。デートのつもりで来たのに、いつの間にやら大事に。

 
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