文字の大きさ
大
中
小
330 / 706
連載
451、師匠何やってるんですか
「これを見てくれ」
ヒイロさんが取り出したのは、リルの実。
え、まだ残ってたんだ。
ヒイロさんは口元に布を巻きつけると、器用に爪でリルの実を真っ二つに割いた。
そして中から大粒の種を取り出して、それを近くに置いてあったカップに入った緑色の液体に浸した。
液体に浸された種は、まるで動画を早送りしたかのように発芽して、シュルシュルと伸びていく。テーブルを這った蔦は、みるみる花を咲かせて、その後実になって落ち着いた。
その実は見た目はリルの実だったけれど、鑑定眼で見ると、全く違うものになっていた。
『ホーリーリラの果実:甘みの強い果実 状態異常解除確率75% 中毒成分15%含有 聖水の成分により中毒性が緩和されている』
説明を読んで、思わず声が出る。
「師匠、何これ……リルの実じゃ……」
「リルの種から出来てるのは確かだ。こっちの実の方はリルの実だからな。でも違うんだよ。面白いな。モント、これ、どう思う?」
「これは薬草茶か? いや、キラキラしてるから聖水茶か。何でそんなもんで種を育てようなんて思ったんだよヒイロ」
緑色の液体の匂いを嗅いで、モントさんが眉をしかめる。
確かに、何でこんなもので育てようとか思ったんだろう。チャレンジャーにもほどがあるよ。
「育てようなんて思ってねえよ。ただちょっと聖水茶を飲みながら作業してたら、種がな」
ヒイロさんはその種を掴んだ仕草を再現しながら、「ぽろっと聖水茶に落ちちまってな」と告白した。
今、すっごくなんてことないように言ってたけど、ヒイロさん何恐ろしいことしてるんだよ。
でも「聖水の成分により」とか書かれてたから、聖水であればリルの実にはならないってことかな。
ムムムと唸りながら考えていると、ヒイロさんが更なる爆弾発言をした。
「これな、食ってみたんだけど、普通に美味いんだ」
「はぁ!? 師匠何やってんですか!?」
「ヒイロ、お前……!」
俺とモントさんに詰め寄られて、ヒイロさんはたじたじと身をそらした。
だって食えそうなら普通食うだろ? とか言ってるけど、普通は危ない物は食べないから。
「んで、器もこの大きさならこれくらいにしか広がらねえことがわかったんだけど、普通の水で育てるとやっぱヤバいのが出来るから、実の扱いはモントに任そうと思って呼んだんだけどな。これ、育てねえ? 食ってみろよ。美味いんだよ」
ヒイロさんは今育ったばかりの実をもぐと、爪で割いて、半分ずつ俺たちに渡した。
甘い香りが鼻をくすぐる。
リルの実とはまた違った香りだったんだけど、あの魔物の状態を見たあとじゃまったく食べる気にならないよ。怖いもん。
モントさんも同じようなことを思ったのか、渡された果実を手に、固まっていた。
「種はたんまりあるんだよ。そんでな、一度改変すると、それからは種も『ホーリーリラの種』になるから、多分普通に育てられるはずなんだよ。まだそっちは試してねえんだけどな。これ、育て方は極秘で農園で育てねえ? 簡単に育つってわかっちまったら商品価値ってのがなくなるんだろ?」
な、とヒイロさんに言われて、モントさんは顔を顰めたまま、一口だけ実を齧ってみた。
「確かに美味いな。今までにない味だ。でもな、ヒイロ、考えてみろ。例えば農園からホーリーリラの実を買ったやつがいたとするだろ。食い終わった後の種を捨てる。捨てた種に偶然水がかかる。そうするとそこから育つぞ。下手すると他の植物を押しのけて育つほどの生育力だ。すぐに国中に蔓延しちまう。しかもそれが器内じゃなくて、地面になんて落ちてみろよ。さっきようやく全部消してきたリルの実みたいに一瞬で周りを脅かすほどに育つから、種を俺らの所には持っていけねえ。お前さんもあんまりにも簡単に育つからって他のやつに見せられねえと思ったんだろ」
「……まあ、そうなんだけどもな。はぁ、やっぱりここで一人でそっと育てることにするか」
「育てるのかよ」
「ああ。だってなんか食いたくなるだろ」
だって美味いから、なんて簡単に言ってるヒイロさんに違和感を覚えて、俺はもう一度手のひらにあるホーリーリラの実を鑑定眼で見てみた。
中毒成分含有、15%。
中毒成分。
……これだよ。
「師匠それ中毒になってません? この実、中毒成分少しだけ含んでるんですよ」
そうなのか、なんて言ってるヒイロさんはまるっきり自覚がなかったので、俺はさっきリルの実の中和剤を作ったのと同じ方法でホーリーリラの中和剤を作ってみることにした。まだ素材も残ってたし、目の前に新鮮な実があるし、ひたすら作ってたせいか身体が動きを覚えていたので、ホーリーリラの中和剤は結構簡単に出来た。
出来上がったばかりのそれをヒイロさんに差し出すと、ヒイロさんは中毒になんてなってねえのに、なんてブツブツ言いながらもそれを飲み干してくれた。
「なんかスキッとした」
「まだこの実を食べたいですか?」
「んにゃ……そうでもねえな」
ヒイロさんの答えに、俺もモントさんもがっくりと項垂れた。やっぱり中毒症状出てたじゃないですか。
もしかして報酬の新果実ってこれか。こんな怖い物か。育て方を世に流しちゃダメなやつだよこれ。誰かが面白がって湖とかに種を捨てたらなんて考えたらぞっとする。湖が器になったら、どこまで蔦に絡まれるか。こんな小さなカップ一つでテーブル一面蔦に絡まれるのに。
「……師匠、ふと思ったんですが、蔦に付いてた種は全部枯れたんですけど、森の中で踏んだりして地面に落ちた種って、また育ったりしませんか……?」
「……育つんじゃねえか? ってことは」
また同じことが繰り返されるかも! と俺たちは慌てて立ち上がった。
火で消滅させたところは大丈夫だけど、そうじゃないところはなんかヤバいと思う。
リルの実を枯れさせたところは周りの雑草も大分枯れてるから種探しもそこまで難しくないとは思うんだけど。
外に出てみると、集まっていたプレイヤーたちはそれぞれ楽しそうに獣人さんたちと交流していた。
「でも師匠、拾った種をそのまま持ってかれたらヤバいですよ」
「じゃあ異邦人たちには頼めねえか?」
「ここに来たってことは信用できる人だとは思うんですけど」
「んじゃ頼む。ここで疑っちまうと信頼関係築けねえだろ」
ヒイロさんは皆の注意を引きつけるために、すうっと息を吸って、空に響くようにケーンと一声鳴いた。
皆がびっくりしてヒイロさんに視線を向けると、ヒイロさんは「聞いてくれ!」と声を出した。
「さっき蔦を消した場所に、こういう種が落ちてなかったか? 一つでも落ちてるとまた同じことが繰り返されるんだ。頼む、その種をひとつ残らず探してくれねえか? もう辺りも暗くなってきたし、さっきので疲れてるのはわかるんだけど、頼むよ」
この一言で、もう一度蔦のあった場所の探索をすることが決まった。
草がもさっと生えていた森は、ふたりの獣人さんの手腕により、雑草が一掃されたおかげで、種は探しやすかった。
雑草が一掃されたときは、とても圧巻だった。
獣人さんが何かの魔法を詠唱した瞬間、森の中の背の高い草が一斉に切られて、地面に落ちる前に炎に巻かれ、森が一斉に明るくなり、一瞬で炎が消えた。
風魔法と火魔法の連携らしい。
どんな魔法を使って今の連携になったのかは全くわからない。でも、木は燃えることなく、切られた雑草だけが綺麗になくなった。灰すらないから、それも何かをしたんじゃないかと思われる。魔法すげえ。ユイはワクワクした顔をして、私もやってみようなんて呟いてたから、どんな魔法を使ったのかわかったらしい。って言うかユイすげえ。
二時間ほどかけて、蔦のあった場所全てを皆が捜索し、集まった種は全部で21個。
全てを回収したヒイロさんは、皆にお礼にと、秘蔵の調薬アイテムを配っていた。
湿布とか泥酔解除薬とか。でもヒイロさん、それ、俺が作っておいてたものじゃないですよね。まさかね。でも俺には渡さなかったことを見ると、もしかしたらもしかするのかも。全く。
皆見たことないアイテムを貰って、疲れも吹き飛んだ顔をしていた。
これでようやく本当に獣人の村の問題は解決、ってことかな。よかった。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。