379 / 744
連載
462、旦那さんが愛妻の飯を食ってる裏で
しおりを挟む何とか大量のご飯を用意して、ホッとする。でももしかしてこの後片付けもミンスさんがやってるんだろうか。
エプロンを外しながらキッチンから出ると、丁度交代で中に入ってきたヴィデロさんと目が合う。
ヴィデロさんとマルクスさんは事のあらましを伝えられていたらしく、俺が近付くと「お疲れさん」と労ってくれた。それはこっちのセリフなんだけどね。
団長とブロッサムさんは奥からまだ出てこないので、三人分のスープとパンを用意して、持って行くことにする。
ヴィデロさんが自分のご飯を後回しにして付き合ってくれるというので、一緒にミンスさんの部屋に行くと、ミンスさんはベッドに転がってはいたけれど、しっかり起きていた。
「ありがとう。マック君がいてくれて助かったよ」
「いいえ、あまり無理しないでください。パン屋さんも皆もすごく心配してましたから」
スープとパンを渡しつつもう一度鑑定眼を使うと、まだ『疲労度限界値突破』状態だった。これはもしかして休まないと取れないのかな。スタミナとはまた違うのかも。蓄積されてく状態なのかも。要するに過労だもんね。
「とりあえず数日は休んでください。また倒れたら大変ですから」
「……そうだな。でも、皆が食事を待ってるから。ここにいる騎士の奴らが崩れたらそれこそ大変だから」
「それでもです。休まないと治らないですから。俺は過労に効くポーションの作り方を知らないですから」
「ミンス、俺たちの飯はなんとかするから、本当に休んでろ」
ヴィデロさんの一言で、ミンスさんは諦めたように溜め息を吐いた。それほど状態が酷いことになるのかな。
全く元気がないミンスさんは、スプーンを手に取って、一口俺の作ったスープを飲んだ。
そして、カッと目を見開く。
「ゼロが使われてる……? それと、ここにないハーブも数点。もしかしてマック君の手持ちの素材かい?」
「はい。沢山在庫があって、そろそろ食べないとヤバかったんですけど、一人だと食事に入れるのもそうそうないですし調薬にもあまり使わないので」
本当は調薬にも使ったりするんだけどね。そう言ってごまかすと、ミンスさんは仄かに笑って、「美味いな……」とスープを完食してくれた。
空の皿を受け取って、ゆっくり寝てくださいと言い置いて部屋を後にする。残り二つの夕食を手に、俺はヴィデロさんと廊下を進んだ。
空の皿はヴィデロさんが持ってくれて、さらに先に行く。前にも行ったことがある会議室の近くの扉をヴィデロさんがノックすると、中からソルブさんの返事の声が聞こえた。
零れないように気を付けながらヴィデロさんに扉を押さえてもらって中に入ると、2人とも難しい顔をしていた。
「おう、食事持ってきてくれたのか、サンキュ」
「すまない。部外者のマック殿にこんなことをさせてしまって」
「いいですよ。でも、ミンスさんはしばらく休ませないとまたすぐ倒れます」
「わかっている……」
ふう……と重い溜め息をソルブさんが吐き出す。前に見た時はここまで重い雰囲気ではなかったんだけど、やっぱりミンスさんが倒れたことに結構思うところがあるってことかな。ブロッサムさんも同様。
二人とも纏った暗い雰囲気を払しょくするためにご飯に手を伸ばした。
そして、一瞬にして完食してしまった。
「……なあ団長、やっぱり言いなりってのはよくねえな」
「そうだな。後のことはお前に任せる」
「はいよ、任された」
それだけ会話をすると、ソルブさんは食器を手に立ち上がった。受け取ろうとすると、団長は自分で片付けると俺の申し出を断った。
「マック殿、いきなりの頼みだったのに快くミンスの代理を務めてくれたこと、とても嬉しく思う。借りを作ったままなのはよくないので、今回のことの報酬をブロッサムと話し合ってくれ。美味かった。ごちそうさま」
それだけ言うと、ソルブさんは部屋を出ていった。
ドアが閉められたところで、ブロッサムさんが俺に席に座るよう促す。
「ヴィデロはもう愛妻の飯は食って来たのか? まだ交代したばっかりだろ。ちょいと今日のことでマックを借りるから、その間に飯でも食ってこいよ」
ブロッサムさんに背中を押されて、ヴィデロさんが部屋を追い立てられる。ついでにとミンスさんとブロッサムさんのトレイも持たされているのは気のせいかな。
ヴィデロさんは少しだけ俺を見てから、「愛妻の飯を食ってくる」と部屋を出ていった。
ドアを閉めて戻ってきたブロッサムさんは、俺の前に腰を下ろすと、頭をガシガシと掻いた。
「マック悪かったな。ミンスの代わりに飯作らせちまって。報酬としてどれくらいが妥当か……」
「報酬は特にいらないけど。俺の趣味のような物だし、大きな鍋って一度使ってみたかったし。でも、ミンスさん、過労だよ。一昔前は、俺の所でも過労で亡くなる人が続出してたから、過労は馬鹿にできないんだよ。スタミナポーションも効かないし」
「あー、だな。そのことで、うちの団長も考えがまとまったらしいな」
「もしかして何かする気? 後のことってソルブさんがいないときだけじゃないよね。もしかして辞めることも辞さないつもりで奏上しに行くとか」
「まあな。もうそろそろ限界だからな色々と。せっかくマックに色々頑張ってもらってるがよ、やっぱこの国は堕ちてってるんだわ」
苦い顔でそんなことを言うブロッサムさんは、流石にこんな話をヴィデロさんにはしたくなかったらしい。俺は異邦人だから、言いやすいのかな。なんて思う。
「宰相さんは色々と頑張ってるんだけどね」
「宰相閣下が頑張ったところで、王様は堕ちてるぜ、確実に。昔とは明らかに国の方向性が違ってきている。実際魔物は前よりも強くなってきてる。魔王がまだ向こうの大陸にいたころの魔物に近くなってきてる、っていうのが正しいんだけどな。その魔物は、異邦人がすぐに狩っちまうだろ。だから、王様は気付いてねえのか楽観視してるか。だからこそ、ミンスが倒れようがもう一人の料理人を雇う資金的余裕が出てこねえ。支給されるポーションの質が落ちる。それを補うために他からの回復薬に予算が回っちまって、鎧の修復も武器の手入れもままならねえ。街の護りの要だってのにこれだ。予算が潤沢にあるのは、もう近衛騎士と貴族街の門番くらいだぜ」
辺境も同じだから、どこも似たような物なのか、宰相さんが明るい未来を目指している中先が見えなくなっているから自暴自棄になっているのか。だからと言ってあの王様に会いたいとは思わないけど。厄介なのが、宰相さん自体がこのことを案外把握してそうで何も手が回ってないんじゃないかと思うところ。宰相さんはすごい人だけど、そういうのがチラッと見えるから信頼できないというか。ただ手が回らないだけなら応援もできるけど、もし知っていて後回しにしてるんだったら……。
だからと言って俺は何も言えないし、何も出来ないんだけど。何より、この国の政治の仕組みを全く知らないから、何を言っても説得力がないんだよなあ。せっかく宰相さんの所のパスがあっても、王宮の図書館以外では使うような目的もないから、おいそれと宰相さんに会いに行くなんて非常識で出来ないんだよなあ。
「お前さんたちの所では今日お祭りだったんだろ。悪いなそんな日にこんな気分わりいこと聞かせちまって」
「全然。それよりもミンスさんと皆が心配だよ。明日から何も食べる物ないんでしょ。でもって、ミンスさんが食べるべき栄養たっぷりの物もないんでしょ。栄養取って休養しないと過労はダメだよ。また働き始めたら絶対に休めないもん」
「念のため見張りは付けとくよ。ミンスが働き始めねえように。でもって食事は……まあ、何とかする」
ブロッサムさんの最後の言葉で、俺は半眼になった。でも明日は学校があって朝からログインなんて出来ないから俺が作りに来るってことも無理だし。放課後はバイトがあるからそこでも飯炊きしないといけない。
「あれだ、演習みたいな状態にして外で飯でも作るさ。心配すんな」
「うっわ、一番心配なセリフになった」
俺が顔を顰めるようすに、ブロッサムさんは今日初めて声を出して笑った。
2,577
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。