文字の大きさ
大
中
小
341 / 706
連載
462、旦那さんが愛妻の飯を食ってる裏で
何とか大量のご飯を用意して、ホッとする。でももしかしてこの後片付けもミンスさんがやってるんだろうか。
エプロンを外しながらキッチンから出ると、丁度交代で中に入ってきたヴィデロさんと目が合う。
ヴィデロさんとマルクスさんは事のあらましを伝えられていたらしく、俺が近付くと「お疲れさん」と労ってくれた。それはこっちのセリフなんだけどね。
団長とブロッサムさんは奥からまだ出てこないので、三人分のスープとパンを用意して、持って行くことにする。
ヴィデロさんが自分のご飯を後回しにして付き合ってくれるというので、一緒にミンスさんの部屋に行くと、ミンスさんはベッドに転がってはいたけれど、しっかり起きていた。
「ありがとう。マック君がいてくれて助かったよ」
「いいえ、あまり無理しないでください。パン屋さんも皆もすごく心配してましたから」
スープとパンを渡しつつもう一度鑑定眼を使うと、まだ『疲労度限界値突破』状態だった。これはもしかして休まないと取れないのかな。スタミナとはまた違うのかも。蓄積されてく状態なのかも。要するに過労だもんね。
「とりあえず数日は休んでください。また倒れたら大変ですから」
「……そうだな。でも、皆が食事を待ってるから。ここにいる騎士の奴らが崩れたらそれこそ大変だから」
「それでもです。休まないと治らないですから。俺は過労に効くポーションの作り方を知らないですから」
「ミンス、俺たちの飯はなんとかするから、本当に休んでろ」
ヴィデロさんの一言で、ミンスさんは諦めたように溜め息を吐いた。それほど状態が酷いことになるのかな。
全く元気がないミンスさんは、スプーンを手に取って、一口俺の作ったスープを飲んだ。
そして、カッと目を見開く。
「ゼロが使われてる……? それと、ここにないハーブも数点。もしかしてマック君の手持ちの素材かい?」
「はい。沢山在庫があって、そろそろ食べないとヤバかったんですけど、一人だと食事に入れるのもそうそうないですし調薬にもあまり使わないので」
本当は調薬にも使ったりするんだけどね。そう言ってごまかすと、ミンスさんは仄かに笑って、「美味いな……」とスープを完食してくれた。
空の皿を受け取って、ゆっくり寝てくださいと言い置いて部屋を後にする。残り二つの夕食を手に、俺はヴィデロさんと廊下を進んだ。
空の皿はヴィデロさんが持ってくれて、さらに先に行く。前にも行ったことがある会議室の近くの扉をヴィデロさんがノックすると、中からソルブさんの返事の声が聞こえた。
零れないように気を付けながらヴィデロさんに扉を押さえてもらって中に入ると、2人とも難しい顔をしていた。
「おう、食事持ってきてくれたのか、サンキュ」
「すまない。部外者のマック殿にこんなことをさせてしまって」
「いいですよ。でも、ミンスさんはしばらく休ませないとまたすぐ倒れます」
「わかっている……」
ふう……と重い溜め息をソルブさんが吐き出す。前に見た時はここまで重い雰囲気ではなかったんだけど、やっぱりミンスさんが倒れたことに結構思うところがあるってことかな。ブロッサムさんも同様。
二人とも纏った暗い雰囲気を払しょくするためにご飯に手を伸ばした。
そして、一瞬にして完食してしまった。
「……なあ団長、やっぱり言いなりってのはよくねえな」
「そうだな。後のことはお前に任せる」
「はいよ、任された」
それだけ会話をすると、ソルブさんは食器を手に立ち上がった。受け取ろうとすると、団長は自分で片付けると俺の申し出を断った。
「マック殿、いきなりの頼みだったのに快くミンスの代理を務めてくれたこと、とても嬉しく思う。借りを作ったままなのはよくないので、今回のことの報酬をブロッサムと話し合ってくれ。美味かった。ごちそうさま」
それだけ言うと、ソルブさんは部屋を出ていった。
ドアが閉められたところで、ブロッサムさんが俺に席に座るよう促す。
「ヴィデロはもう愛妻の飯は食って来たのか? まだ交代したばっかりだろ。ちょいと今日のことでマックを借りるから、その間に飯でも食ってこいよ」
ブロッサムさんに背中を押されて、ヴィデロさんが部屋を追い立てられる。ついでにとミンスさんとブロッサムさんのトレイも持たされているのは気のせいかな。
ヴィデロさんは少しだけ俺を見てから、「愛妻の飯を食ってくる」と部屋を出ていった。
ドアを閉めて戻ってきたブロッサムさんは、俺の前に腰を下ろすと、頭をガシガシと掻いた。
「マック悪かったな。ミンスの代わりに飯作らせちまって。報酬としてどれくらいが妥当か……」
「報酬は特にいらないけど。俺の趣味のような物だし、大きな鍋って一度使ってみたかったし。でも、ミンスさん、過労だよ。一昔前は、俺の所でも過労で亡くなる人が続出してたから、過労は馬鹿にできないんだよ。スタミナポーションも効かないし」
「あー、だな。そのことで、うちの団長も考えがまとまったらしいな」
「もしかして何かする気? 後のことってソルブさんがいないときだけじゃないよね。もしかして辞めることも辞さないつもりで奏上しに行くとか」
「まあな。もうそろそろ限界だからな色々と。せっかくマックに色々頑張ってもらってるがよ、やっぱこの国は堕ちてってるんだわ」
苦い顔でそんなことを言うブロッサムさんは、流石にこんな話をヴィデロさんにはしたくなかったらしい。俺は異邦人だから、言いやすいのかな。なんて思う。
「宰相さんは色々と頑張ってるんだけどね」
「宰相閣下が頑張ったところで、王様は堕ちてるぜ、確実に。昔とは明らかに国の方向性が違ってきている。実際魔物は前よりも強くなってきてる。魔王がまだ向こうの大陸にいたころの魔物に近くなってきてる、っていうのが正しいんだけどな。その魔物は、異邦人がすぐに狩っちまうだろ。だから、王様は気付いてねえのか楽観視してるか。だからこそ、ミンスが倒れようがもう一人の料理人を雇う資金的余裕が出てこねえ。支給されるポーションの質が落ちる。それを補うために他からの回復薬に予算が回っちまって、鎧の修復も武器の手入れもままならねえ。街の護りの要だってのにこれだ。予算が潤沢にあるのは、もう近衛騎士と貴族街の門番くらいだぜ」
辺境も同じだから、どこも似たような物なのか、宰相さんが明るい未来を目指している中先が見えなくなっているから自暴自棄になっているのか。だからと言ってあの王様に会いたいとは思わないけど。厄介なのが、宰相さん自体がこのことを案外把握してそうで何も手が回ってないんじゃないかと思うところ。宰相さんはすごい人だけど、そういうのがチラッと見えるから信頼できないというか。ただ手が回らないだけなら応援もできるけど、もし知っていて後回しにしてるんだったら……。
だからと言って俺は何も言えないし、何も出来ないんだけど。何より、この国の政治の仕組みを全く知らないから、何を言っても説得力がないんだよなあ。せっかく宰相さんの所のパスがあっても、王宮の図書館以外では使うような目的もないから、おいそれと宰相さんに会いに行くなんて非常識で出来ないんだよなあ。
「お前さんたちの所では今日お祭りだったんだろ。悪いなそんな日にこんな気分わりいこと聞かせちまって」
「全然。それよりもミンスさんと皆が心配だよ。明日から何も食べる物ないんでしょ。でもって、ミンスさんが食べるべき栄養たっぷりの物もないんでしょ。栄養取って休養しないと過労はダメだよ。また働き始めたら絶対に休めないもん」
「念のため見張りは付けとくよ。ミンスが働き始めねえように。でもって食事は……まあ、何とかする」
ブロッサムさんの最後の言葉で、俺は半眼になった。でも明日は学校があって朝からログインなんて出来ないから俺が作りに来るってことも無理だし。放課後はバイトがあるからそこでも飯炊きしないといけない。
「あれだ、演習みたいな状態にして外で飯でも作るさ。心配すんな」
「うっわ、一番心配なセリフになった」
俺が顔を顰めるようすに、ブロッサムさんは今日初めて声を出して笑った。
感想 555
あなたにおすすめの小説
【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!?
しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です!
めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので!
本編完結済。
おまけのお話を時々更新したりしています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
ふたりの動画をつくりました!
もしよかったら、プロフのwebサイトからどうぞです!
表紙や動画にはAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
【8月書籍化♡】キュートなモブ令息に転生したボク。可愛さと前世の知識で悪役令息なお義兄さまを守りますっ!
これは、あざと可愛い悪役令息の義弟VS.あざと主人公のおはなし。
ボクの名前は、クリストファー。
突然だけど、ボクには前世の記憶がある。
ジルベスターお義兄さまと初めて会ったとき、そのご尊顔を見て
「あああ!《《この人》》、知ってるう!悪役令息っ!」
と思い出したのだ。
あ、この人ゲームの悪役じゃん、って。
そう、俺が今いるこの世界は、ゲームの中の世界だったの!
そして、ボクは悪役令息ジルベスターの義弟に転生していたのだ!
しかも、モブ。
繰り返します。ボクはモブ!!「完全なるモブ」なのだ!
ゲームの中のボクには、モブすぎて名前もキャラデザもなかった。
どおりで今まで毎日自分の顔をみてもなんにも思い出さなかったわけだ!
ちなみに、ジルベスターお義兄さまは悪役ながら非常に人気があった。
その理由の第一は、ビジュアル!
夜空に輝く月みたいにキラキラした銀髪。夜の闇を思わせる深い紺碧の瞳。
涼やかに切れ上がった眦はサイコーにクール!!
イケメンではなく美形!ビューティフル!ワンダフォー!
ありとあらゆる美辞麗句を並び立てたくなるくらいに美しい姿かたちなのだ!
当然ながらボクもそのビジュアルにノックアウトされた。
ネップリももちろんコンプリートしたし、アクスタももちろん手に入れた!
そんなボクの推しジルベスターは、その無表情のせいで「人を馬鹿にしている」「心がない」「冷酷」といわれ、悪役令息と呼ばれていた。
でもボクにはわかっていた。全部誤解なんだって。
ジルベスターは優しい人なんだって。
あの無表情の下には確かに温かなものが隠れてるはずなの!
なのに誰もそれを理解しようとしなかった。
そして最後に断罪されてしまうのだ!あのピンク頭に惑わされたあんぽんたんたちのせいで!!
ジルベスターが断罪されたときには悔し涙にぬれた。
なんとかジルベスターを救おうとすべてのルートを試し、ゲームをやり込みまくった。
でも何をしてもジルベスターは断罪された。
ボクはこの世界で大声で叫ぶ。
ボクのお義兄様はカッコよくて優しい最高のお義兄様なんだからっ!
ゲームの世界ならいざしらず、このボクがついてるからには断罪なんてさせないっ!
最高に可愛いハイスぺモブ令息に転生したボクは、可愛さと前世の知識を武器にお義兄さまを守りますっ!
※表紙その他のイラストはAIにて作成致しております。(文字指定のみで作成しております)
⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
コメント、エール、いいねお待ちしております♡
「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
【完結】悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
本編完結済です。
もっちもっち感謝祭で、リクエストいただいたお話を更新しています。
皆さまの応援のおかげで『もふもふ獣人に転生したら、最愛の推しに溺愛されています』書籍化、心から、ありがとうございます!
皆の動画をつくりました!
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです!
表紙や動画にAIを使っていますが、小説にはAIを使っておりません
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。