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連載
461、マルクスさんに取られました
ログインしてすぐに街に飛び出すと、俺は門まで走った。
ヴィデロさんはまだ門に立っていたので、その勢いで「ヴィデロさーん!」と飛びつくと、ヴィデロさんは笑顔でぐらつくことなく俺を受け止めてくれた。力強い。好き。
「ヴィデロさんお疲れ様! 出演してたんでしょ」
「出演? そういえばマックの世界に映像を流しているとかどうとかあいつが説明していたな。ゲームフェスタ? という物に映るとか。マックも出ていたんだろ? もう終わったのか?」
「うん。ヴィルさんからバイト代も貰って、高橋たちと打ち上げもしてきたよ。ユイルがね頑張ってくれてすっごく可愛かったよ」
「そっか。俺も見たかったな。そういえば鳥に向かって手を振ればマックが向こうできっと手を振ってるよとあいつが教えてくれたんだけど……そうなのか」
「めっちゃ振った。手がちぎれるかと思うくらい振っちゃった。だってヴィデロさんが俺に手を振ってくれるんだよ!? なんか滅茶苦茶嬉しくて思わずヴィデロさんが見てないのわかってるのにぶんぶん振っちゃったよ」
「それこそ見たかったな」
「いつでも振るよ。ヴィデロさんが満足するまで」
くっついたままヴィデロさんを見上げて、俺を見下ろしてくる綺麗な緑色の瞳をじっと見つめる。
すると、ヴィデロさんはフッと目を細めた。
「でも、手を振るのはいやだな。なんとなく別れを連想するから。それだったら今みたいに抱き着いてきてくれる方がいい」
「そうだね。うん。俺も」
そして出来れば、鎧なしがいいな。ヴィデロさんの素晴らしい体付きを堪能したいから。
ニコニコしていると、横から「ケッ」という声が聞こえた。
「俺も横に立ってるのに完全無視かよマック」
「あ、マルクスさんお疲れ様」
「取ってつけたように」
悪態をつくマルクスさんは、いつもよりも非常にめんどくさい男と化していた。
どうしたんだろう、と首を捻ると、ヴィデロさんが「マルクス、一昨日またフラれたんだよ。クワットロの子に」と耳打ちした。
それで俺たちに絡んできたのか。
「マルクスさん……」
俺は無言でマルクスさんの手にある物を握らせた。
マルクスさんは手の中の物を覗き込んで、それがなんだかわかった瞬間それを握りしめて叩きつけるそぶりで腕を上げ、く、と考えた末にそっと邪魔にならないところにあるカバンにしまった。
渡したのは、『疑似恋愛成就薬』。吊り橋効果を薬で作り出すという成人指定の代物。使い方は、マンネリした夫婦で使用すると、結婚した当初の初々しい恋心を思い出して、倦怠期を抜けられるという物。ただ少しだけ体温を上げて心拍数を上げるだけの薬なので、常用性はないし危ないこともない、筈。特定の誰かに好意を向けてもらえるように服用させたとしても、薬効果は結構すぐ切れるのですぐに我に返るから、惚れ薬っていうほどの効果もない物なんだけど。
「……使う気はないからな!」
「俺が作ったランクSだよ」
「俺が欲しいのは、こんな薬で騙されないその子の本当の気持ちと絆と安らぎなんだあああ!」
マルクスさんは泣きまねをしながら顔を手で覆った。
ごめんマルクスさん。俺はすごく幸せだから、どう言葉を掛けていいかわからないんだ。
「マック、声に出てる」
笑いながらヴィデロさんに窘められて、ハッとする。マルクスさんも泣きまねを止めて、俺のおでこをツンと突いた。
「同情はいいよ。ま、俺にもなんか悪いところはあったんだろ。また次頑張るさ」
「お前は惚れっぽいのが欠点なんだよ。また当たって砕けたら骨は拾ってやる」
ヴィデロさんの軽口に、マルクスさんの拳が飛ぶ。笑いながら取っ組み合いを始めた二人に、通りかかるプレイヤーたちの視線が集中していた。楽しそう。
でも俺がヴィデロさんを独り占めしようと思ってたのにマルクスさんに取られちゃった。
まだヴィデロさんの仕事終わりまでは時間があったので、どうしようか悩んでいたら、中から門番さんの一人が慌てた様子で顔を出した。そして、俺と目が合うと、ぱあっと表情を明るくする。
「マック! いいところに来てくれた! ちょっと来てくれ!」
腕を引かれてそのまま詰所の中に連れていかれると、食堂の所で門番さんたちが固まっていた。
「マック連れて来た!」
「よっしゃナイス!」
「マック頼む、ちょっとミンスを見てくれ! いきなり倒れたんだ!」
ぐいぐいと人だかりの中心に連れていかれると、いつも俺を構ってくれる食堂の人が青い顔をして床に寝かされていた。ミンスさんって言うんだ、知らなかったよ。
俺は隣にしゃがみ込むと、鑑定眼を使った。医術なんて何もわからないからこそ、鑑定眼を覚えててよかったと心から思う。
「倒れた理由は……『疲労度限界値突破』」
俺の言葉に、周りに漂っていた緊張感が少しだけ解れた気がした。誰かが「なんだ、疲労か」と呟いた人までいたけど、ちょっと待って。
「『疲労度限界値突破』で倒れるなんてよほどのことだよ。ミンスさん、無理してたのかも。だっていつここに顔を出してもこの人が食事を作ってくれてたよね。代わりの人なんて見た事なかったから。もしかして休みとか、なかったの……?」
スタミナポーションを取り出しながら周りを見ると、周りの人たちは一斉に視線を逸らした。
「いやあ……規定では休みはちゃんとあるんだぜ? でも、ミンスが他の奴には任せられないからって。好きで料理をしてるんだからって……」
「前はいたんだぜ、もう一人。でもそいつ、なんか誰か貴族の息がかかってたやつだったとかって団長が首切ってさ。なかなか後釜がいなかったとかどうのとか」
「休みの日は持ち回りで飯作ってたんだけど、次の日仕事が倍になるからってミンスが俺らが調理場に入るのを禁止して」
そうだよね、数回一緒に料理を作っただけだったけどわかる。この人すごく真面目な人だもん。そうなるよね。
そういえば前にヴィデロさんから聞いたことがあったっけ。門番さんたちは王宮の騎士団とか衛兵と違って身元がはっきりしてないと入るのはすごく難しいって。それは調理場を預かる料理人にしても同じような感じなのかな。
顔を顰めながら、少しずつ少しずつミンスさんの口にスタミナポーションを流し込んでいくと、ミンスさんが薄っすら目を開けた。
「あれ……? マック君? どうして……ああ、さっき目の前が真っ暗になって……」
「倒れたんですよ。無茶しすぎです。お休みは絶対に取ってください」
俺がそういうと、ミンスさんはすっと青い顔をさらに青くして首を振った。
「そんなことをしたら、調理場が荒らされるから、休めないよ。休んだ後は二倍以上の手間がかかるんだ。無理。まだずっとここにいた方がましだ……」
ミンスさんの言葉に、皆がもう一度一斉に視線を逸らした。
ああ、うん。料理できる人、全然いないんだね。わかります。
「今日は俺が作ります。俺の腕なら知ってるでしょ。今日はゆっくり休んで、今度は倒れないようにどうするかちゃんと騎士団長に相談してください」
「すまないね……今日は、任せる」
フラフラしながら立ち上がったミンスさんを支えるように、一人の門番さんが肩を貸して、居住区の方に消えていく。
それを見送った俺は、ドアが閉まると同時に溜め息を吐いて立ち上がった。
無言で調理場に入ると、早速材料をチェックする。隅の棚にまとめられた紙には、今までのメニューとこれからのメニューがしっかりとメモされていた。
俺一人くらいすっぽり入るような大きな鍋に魔法陣を描いて水を並々と入れる。
魔法陣魔法で出した火をかまどに投げつけ、火を起こし、水を温める。
その間に大量の野菜を取り出して、大きな籠に種類ごとに入れた。
ただじっと俺の行動を見ていた門番さんの一人を指さして、俺はニンジンの入った籠を一つ渡した。
「これの皮をむいてください。ナイフ、使えますよね」
同じことを数度繰り返して、じっとしている門番さんに仕事を振っていく。
今日の分の魔物の肉を取り出して切りながら、チラチラと慣れない手つきで野菜の皮を剥く門番さんたちを見守り、調味料棚を確認する。
少ない調味料の種類に、街門騎士団の予算が見て取れる気がした。だってメインの調味料が岩塩しかない。あとは乾燥ハーブ類が数種類のみ。
農園から入ってくる野菜類は豊富だし、魔物の肉は森を巡回する人たちが持って帰って来るらしいから大丈夫だけど、調味料が少ないのはちょっと厳しいよなあ。
溜め息を吐きながら切った肉を鍋に投入する。出汁になる様にと皮を剥かれてごつごつになった野菜を大きめに切って鍋に投入する。
まだ鍋も綺麗だったから、今から夜ご飯を仕込むところだったのかな。
浮いてくる灰汁を掬いながら薪を減らして火を弱めると、投入したら美味しくなるはずの薬味がないことに気付いた。カイルさんの所でも作ってるけど、値段お高めだから常備は出来ないのかな。こんな大鍋に作るくらいだし、毎日の食費は眩暈がするくらいだろうしなあ。栄養バランスを考えないといけないってのも大変そう。きっと一人でやりくりしてたんだろうな、キッチン関係。
ローブは汚れそうだからと脱いでいて、胸当ても外していた俺は、インナーの上にエプロンを付けて調理場を忙しく動いていた。
そこに、外から団長のソルブさんとブロッサムさんが入って来た。
調理場内の俺を視界に収めて、二人が驚いたように動きを止めた。
「……どうしてマックが?」
「ミンスさんが疲労で倒れたので今日の所は代わりに」
「ミンスが?」
二人は顔色を変えて、周りの人に詳しい内容を求めた。
話を聞いた二人は、項垂れるように深い溜め息を吐いて、ミンスの所に行ってくる、と奥に消えていった。
それを見送ってから、俺は一人の門番さんを調理場に呼んだ。
「火加減を見ていて下さい。吹きこぼれそうになったら火を弱めて。俺、ちょっと取ってきたい物があるので」
「へ!? 俺!?」
俺に指さされて慌てる門番さんによろしくと言い置くと、俺はその場で魔法陣を描いて工房に跳んだ。
買い溜めていた薬味系の物を取り出すと、インベントリにしまい込んで、ついでに調理場にあったものとは違う乾燥ハーブの瓶を手にすると、もう一度調理場に戻った。
いきなり現れた俺に目を見開く人もいたけれど、そのことについては何も説明せず、俺は火を見ていてくれた人にお礼を言って、持ってきた物をみじん切りし始めた。
生姜っぽい味のピリリと辛い「ゼロ」という名の野菜があると、一味も二味も違うんだ。
いきなりとはいえ、これからヴィデロさんも食べるんだと思うと気合入るよ。
みじん切りにしたゼロを投入した途端調理場にえもいわれぬいい香りが漂う。あとは塩だけでもかなり美味しくなるんだ。でも値段的には普通に売ってる野菜を丸々10個くらいは買える値段で一つしか買えないっていう高価さ。
香りが食堂にも漂ったのか、ミンスさんが倒れたことで意気消沈していた皆の鼻と腹を刺激していく。
「後は煮込むだけで終了。次作ろう。そういえばパンとか主食はどうなってるんだろう」
俺の呟きが聞こえたかのように、調理場の裏手にあるドアがノックされた。外に繋がる道があるらしい。仕入れはここから入れるとか。確かに門の方から食料を運ぶのを見た事はないけど。
「今日の配達分です」
声が聞こえたのでドアを開けると、大量のパンの入った箱を抱えた男性が立っていた。
そして、俺を見て目を丸くした。
「あれ、ミンスは」
「さっきちょっと倒れちゃったので俺がピンチヒッターです」
「倒れた!? あいつ、また無理しやがったのか。調子はどうなんですか?」
「スタミナポーションを飲んで奥で休んでます。まだ本調子ではないですね。休まないと」
「そっか……でも、あんたあれだろ。ヴィデロのいい子だろ。ここから俺の店すぐだから、よくヴィデロに体当たりしていくのが見えてさ。料理とか出来たんだ」
パン屋さんは大量のパンを近くの台に慣れた手つきで下ろすと、「ゆっくり休ませてやってくれよ」と俺を振り返った。
「ここは俺たち街人の生命線だ。ここで街門騎士に崩れられたら、もし魔物が大量発生した時に俺らの命はねえってことだ。それなのに王様はもう魔王はいねえからって縮小しようとしてやがる。街に住んでみると、全然危険は減ってねえ、それどころか年々魔物が強くなってるってのがわかるんだけどな、王様は周りを守られてるからわからねえんだろうなって思うよ。たまにミンスも他に騎士以外の人を雇うのは無理がある予算しかねえって愚痴零してたし。っと、ごめんなこんな変なこと愚痴って。あいつずっと働き詰めだったから無理してねえか心配だったんだ。早くよくなってくれって伝えてくれねえか。悪い、手を止めさせて。それにしてもいい匂いな。もしかしてゼロを入れたのか? ここにはゼロはなかったはずだけど」
俺が口を挟む間もなく喋りまくったパン屋さんは、「あいつを頼むぜ」とひたすら喋りまくって帰って行った。
呆然としながら大量のパンとパン屋さんのいなくなったドアを交互に見つめる。
それにしても、部外者の俺にあんなことを話してよかったんだろうか。しかもさりげなく王様をディスってたし。
俺は、とりあえず今の人の言葉を頭の片隅にしまい込んで、またも忙しく調理を開始した。
ヴィデロさんはまだ門に立っていたので、その勢いで「ヴィデロさーん!」と飛びつくと、ヴィデロさんは笑顔でぐらつくことなく俺を受け止めてくれた。力強い。好き。
「ヴィデロさんお疲れ様! 出演してたんでしょ」
「出演? そういえばマックの世界に映像を流しているとかどうとかあいつが説明していたな。ゲームフェスタ? という物に映るとか。マックも出ていたんだろ? もう終わったのか?」
「うん。ヴィルさんからバイト代も貰って、高橋たちと打ち上げもしてきたよ。ユイルがね頑張ってくれてすっごく可愛かったよ」
「そっか。俺も見たかったな。そういえば鳥に向かって手を振ればマックが向こうできっと手を振ってるよとあいつが教えてくれたんだけど……そうなのか」
「めっちゃ振った。手がちぎれるかと思うくらい振っちゃった。だってヴィデロさんが俺に手を振ってくれるんだよ!? なんか滅茶苦茶嬉しくて思わずヴィデロさんが見てないのわかってるのにぶんぶん振っちゃったよ」
「それこそ見たかったな」
「いつでも振るよ。ヴィデロさんが満足するまで」
くっついたままヴィデロさんを見上げて、俺を見下ろしてくる綺麗な緑色の瞳をじっと見つめる。
すると、ヴィデロさんはフッと目を細めた。
「でも、手を振るのはいやだな。なんとなく別れを連想するから。それだったら今みたいに抱き着いてきてくれる方がいい」
「そうだね。うん。俺も」
そして出来れば、鎧なしがいいな。ヴィデロさんの素晴らしい体付きを堪能したいから。
ニコニコしていると、横から「ケッ」という声が聞こえた。
「俺も横に立ってるのに完全無視かよマック」
「あ、マルクスさんお疲れ様」
「取ってつけたように」
悪態をつくマルクスさんは、いつもよりも非常にめんどくさい男と化していた。
どうしたんだろう、と首を捻ると、ヴィデロさんが「マルクス、一昨日またフラれたんだよ。クワットロの子に」と耳打ちした。
それで俺たちに絡んできたのか。
「マルクスさん……」
俺は無言でマルクスさんの手にある物を握らせた。
マルクスさんは手の中の物を覗き込んで、それがなんだかわかった瞬間それを握りしめて叩きつけるそぶりで腕を上げ、く、と考えた末にそっと邪魔にならないところにあるカバンにしまった。
渡したのは、『疑似恋愛成就薬』。吊り橋効果を薬で作り出すという成人指定の代物。使い方は、マンネリした夫婦で使用すると、結婚した当初の初々しい恋心を思い出して、倦怠期を抜けられるという物。ただ少しだけ体温を上げて心拍数を上げるだけの薬なので、常用性はないし危ないこともない、筈。特定の誰かに好意を向けてもらえるように服用させたとしても、薬効果は結構すぐ切れるのですぐに我に返るから、惚れ薬っていうほどの効果もない物なんだけど。
「……使う気はないからな!」
「俺が作ったランクSだよ」
「俺が欲しいのは、こんな薬で騙されないその子の本当の気持ちと絆と安らぎなんだあああ!」
マルクスさんは泣きまねをしながら顔を手で覆った。
ごめんマルクスさん。俺はすごく幸せだから、どう言葉を掛けていいかわからないんだ。
「マック、声に出てる」
笑いながらヴィデロさんに窘められて、ハッとする。マルクスさんも泣きまねを止めて、俺のおでこをツンと突いた。
「同情はいいよ。ま、俺にもなんか悪いところはあったんだろ。また次頑張るさ」
「お前は惚れっぽいのが欠点なんだよ。また当たって砕けたら骨は拾ってやる」
ヴィデロさんの軽口に、マルクスさんの拳が飛ぶ。笑いながら取っ組み合いを始めた二人に、通りかかるプレイヤーたちの視線が集中していた。楽しそう。
でも俺がヴィデロさんを独り占めしようと思ってたのにマルクスさんに取られちゃった。
まだヴィデロさんの仕事終わりまでは時間があったので、どうしようか悩んでいたら、中から門番さんの一人が慌てた様子で顔を出した。そして、俺と目が合うと、ぱあっと表情を明るくする。
「マック! いいところに来てくれた! ちょっと来てくれ!」
腕を引かれてそのまま詰所の中に連れていかれると、食堂の所で門番さんたちが固まっていた。
「マック連れて来た!」
「よっしゃナイス!」
「マック頼む、ちょっとミンスを見てくれ! いきなり倒れたんだ!」
ぐいぐいと人だかりの中心に連れていかれると、いつも俺を構ってくれる食堂の人が青い顔をして床に寝かされていた。ミンスさんって言うんだ、知らなかったよ。
俺は隣にしゃがみ込むと、鑑定眼を使った。医術なんて何もわからないからこそ、鑑定眼を覚えててよかったと心から思う。
「倒れた理由は……『疲労度限界値突破』」
俺の言葉に、周りに漂っていた緊張感が少しだけ解れた気がした。誰かが「なんだ、疲労か」と呟いた人までいたけど、ちょっと待って。
「『疲労度限界値突破』で倒れるなんてよほどのことだよ。ミンスさん、無理してたのかも。だっていつここに顔を出してもこの人が食事を作ってくれてたよね。代わりの人なんて見た事なかったから。もしかして休みとか、なかったの……?」
スタミナポーションを取り出しながら周りを見ると、周りの人たちは一斉に視線を逸らした。
「いやあ……規定では休みはちゃんとあるんだぜ? でも、ミンスが他の奴には任せられないからって。好きで料理をしてるんだからって……」
「前はいたんだぜ、もう一人。でもそいつ、なんか誰か貴族の息がかかってたやつだったとかって団長が首切ってさ。なかなか後釜がいなかったとかどうのとか」
「休みの日は持ち回りで飯作ってたんだけど、次の日仕事が倍になるからってミンスが俺らが調理場に入るのを禁止して」
そうだよね、数回一緒に料理を作っただけだったけどわかる。この人すごく真面目な人だもん。そうなるよね。
そういえば前にヴィデロさんから聞いたことがあったっけ。門番さんたちは王宮の騎士団とか衛兵と違って身元がはっきりしてないと入るのはすごく難しいって。それは調理場を預かる料理人にしても同じような感じなのかな。
顔を顰めながら、少しずつ少しずつミンスさんの口にスタミナポーションを流し込んでいくと、ミンスさんが薄っすら目を開けた。
「あれ……? マック君? どうして……ああ、さっき目の前が真っ暗になって……」
「倒れたんですよ。無茶しすぎです。お休みは絶対に取ってください」
俺がそういうと、ミンスさんはすっと青い顔をさらに青くして首を振った。
「そんなことをしたら、調理場が荒らされるから、休めないよ。休んだ後は二倍以上の手間がかかるんだ。無理。まだずっとここにいた方がましだ……」
ミンスさんの言葉に、皆がもう一度一斉に視線を逸らした。
ああ、うん。料理できる人、全然いないんだね。わかります。
「今日は俺が作ります。俺の腕なら知ってるでしょ。今日はゆっくり休んで、今度は倒れないようにどうするかちゃんと騎士団長に相談してください」
「すまないね……今日は、任せる」
フラフラしながら立ち上がったミンスさんを支えるように、一人の門番さんが肩を貸して、居住区の方に消えていく。
それを見送った俺は、ドアが閉まると同時に溜め息を吐いて立ち上がった。
無言で調理場に入ると、早速材料をチェックする。隅の棚にまとめられた紙には、今までのメニューとこれからのメニューがしっかりとメモされていた。
俺一人くらいすっぽり入るような大きな鍋に魔法陣を描いて水を並々と入れる。
魔法陣魔法で出した火をかまどに投げつけ、火を起こし、水を温める。
その間に大量の野菜を取り出して、大きな籠に種類ごとに入れた。
ただじっと俺の行動を見ていた門番さんの一人を指さして、俺はニンジンの入った籠を一つ渡した。
「これの皮をむいてください。ナイフ、使えますよね」
同じことを数度繰り返して、じっとしている門番さんに仕事を振っていく。
今日の分の魔物の肉を取り出して切りながら、チラチラと慣れない手つきで野菜の皮を剥く門番さんたちを見守り、調味料棚を確認する。
少ない調味料の種類に、街門騎士団の予算が見て取れる気がした。だってメインの調味料が岩塩しかない。あとは乾燥ハーブ類が数種類のみ。
農園から入ってくる野菜類は豊富だし、魔物の肉は森を巡回する人たちが持って帰って来るらしいから大丈夫だけど、調味料が少ないのはちょっと厳しいよなあ。
溜め息を吐きながら切った肉を鍋に投入する。出汁になる様にと皮を剥かれてごつごつになった野菜を大きめに切って鍋に投入する。
まだ鍋も綺麗だったから、今から夜ご飯を仕込むところだったのかな。
浮いてくる灰汁を掬いながら薪を減らして火を弱めると、投入したら美味しくなるはずの薬味がないことに気付いた。カイルさんの所でも作ってるけど、値段お高めだから常備は出来ないのかな。こんな大鍋に作るくらいだし、毎日の食費は眩暈がするくらいだろうしなあ。栄養バランスを考えないといけないってのも大変そう。きっと一人でやりくりしてたんだろうな、キッチン関係。
ローブは汚れそうだからと脱いでいて、胸当ても外していた俺は、インナーの上にエプロンを付けて調理場を忙しく動いていた。
そこに、外から団長のソルブさんとブロッサムさんが入って来た。
調理場内の俺を視界に収めて、二人が驚いたように動きを止めた。
「……どうしてマックが?」
「ミンスさんが疲労で倒れたので今日の所は代わりに」
「ミンスが?」
二人は顔色を変えて、周りの人に詳しい内容を求めた。
話を聞いた二人は、項垂れるように深い溜め息を吐いて、ミンスの所に行ってくる、と奥に消えていった。
それを見送ってから、俺は一人の門番さんを調理場に呼んだ。
「火加減を見ていて下さい。吹きこぼれそうになったら火を弱めて。俺、ちょっと取ってきたい物があるので」
「へ!? 俺!?」
俺に指さされて慌てる門番さんによろしくと言い置くと、俺はその場で魔法陣を描いて工房に跳んだ。
買い溜めていた薬味系の物を取り出すと、インベントリにしまい込んで、ついでに調理場にあったものとは違う乾燥ハーブの瓶を手にすると、もう一度調理場に戻った。
いきなり現れた俺に目を見開く人もいたけれど、そのことについては何も説明せず、俺は火を見ていてくれた人にお礼を言って、持ってきた物をみじん切りし始めた。
生姜っぽい味のピリリと辛い「ゼロ」という名の野菜があると、一味も二味も違うんだ。
いきなりとはいえ、これからヴィデロさんも食べるんだと思うと気合入るよ。
みじん切りにしたゼロを投入した途端調理場にえもいわれぬいい香りが漂う。あとは塩だけでもかなり美味しくなるんだ。でも値段的には普通に売ってる野菜を丸々10個くらいは買える値段で一つしか買えないっていう高価さ。
香りが食堂にも漂ったのか、ミンスさんが倒れたことで意気消沈していた皆の鼻と腹を刺激していく。
「後は煮込むだけで終了。次作ろう。そういえばパンとか主食はどうなってるんだろう」
俺の呟きが聞こえたかのように、調理場の裏手にあるドアがノックされた。外に繋がる道があるらしい。仕入れはここから入れるとか。確かに門の方から食料を運ぶのを見た事はないけど。
「今日の配達分です」
声が聞こえたのでドアを開けると、大量のパンの入った箱を抱えた男性が立っていた。
そして、俺を見て目を丸くした。
「あれ、ミンスは」
「さっきちょっと倒れちゃったので俺がピンチヒッターです」
「倒れた!? あいつ、また無理しやがったのか。調子はどうなんですか?」
「スタミナポーションを飲んで奥で休んでます。まだ本調子ではないですね。休まないと」
「そっか……でも、あんたあれだろ。ヴィデロのいい子だろ。ここから俺の店すぐだから、よくヴィデロに体当たりしていくのが見えてさ。料理とか出来たんだ」
パン屋さんは大量のパンを近くの台に慣れた手つきで下ろすと、「ゆっくり休ませてやってくれよ」と俺を振り返った。
「ここは俺たち街人の生命線だ。ここで街門騎士に崩れられたら、もし魔物が大量発生した時に俺らの命はねえってことだ。それなのに王様はもう魔王はいねえからって縮小しようとしてやがる。街に住んでみると、全然危険は減ってねえ、それどころか年々魔物が強くなってるってのがわかるんだけどな、王様は周りを守られてるからわからねえんだろうなって思うよ。たまにミンスも他に騎士以外の人を雇うのは無理がある予算しかねえって愚痴零してたし。っと、ごめんなこんな変なこと愚痴って。あいつずっと働き詰めだったから無理してねえか心配だったんだ。早くよくなってくれって伝えてくれねえか。悪い、手を止めさせて。それにしてもいい匂いな。もしかしてゼロを入れたのか? ここにはゼロはなかったはずだけど」
俺が口を挟む間もなく喋りまくったパン屋さんは、「あいつを頼むぜ」とひたすら喋りまくって帰って行った。
呆然としながら大量のパンとパン屋さんのいなくなったドアを交互に見つめる。
それにしても、部外者の俺にあんなことを話してよかったんだろうか。しかもさりげなく王様をディスってたし。
俺は、とりあえず今の人の言葉を頭の片隅にしまい込んで、またも忙しく調理を開始した。
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とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【完結】憧れの先輩アルファに告白されたんだがどうやら罰ゲームだったらしい
ある日の放課後、校舎裏で花壇の手入れをしていた上田凛斗に告白してきたのは、憧れの先輩であり校内の人気者でもある上條蘭世だった。
目付きの悪さと暗い性格のせいで恋人どころか友達もいない凛斗は、戸惑いながらもお試しで蘭世との交際をはじめたのだが……
美形溺愛アルファ×三白眼平凡オメガ
ベータだった俺が後天性オメガになったら、幼馴染アルファがもっと過保護になりました
ごく普通のベータとして生きてきた村井圭太(むらいけいた)は、ある日突然、希少な「後天性オメガ」に転化してしまう。
不安な日々が始まる……かと思いきや、幼馴染アルファの白河泰雅(しらかわたいが)とはまさかの両思い。
早々に『番(つがい)』となり、幸せな日々を送っていた。
「オメガになっても俺は俺」と持ち前のポジティブさで新しい生活に向き合っていく圭太。
だが、晴れて番となった泰雅は、今まで以上に過保護になっていく。
どんなトラブルも二人なら大丈夫!
過保護で執着強めなスパダリ幼馴染攻め(α) × ポジティブで男前な元ベータ受け(β→Ω)
明るくて幸せいっぱいオメガバース!
私の大好きなオメガバース。
愛をたくさん詰め込んだので、みなさまにも楽しんでいただけますように。
辺境食堂の隠れΩなのに、拾った皇帝陛下が嫁になれと迫ってくる
元宮廷料理人で隠れΩの青年レオは、帝国の辺境で小さな食堂兼農園を営みながら、誰にも縛られない平穏なスローライフを送っていた。
ある日、レオは裏庭の不思議な洞窟で、血まみれになって倒れていた大柄な青年アレクを拾う。
彼の正体は、お忍びで辺境を訪れていた帝国最強のα皇帝だった。
身分を隠してレオの家に居候することになったアレクは、レオの作る絶品の手料理と、彼から漂う穏やかな香りに冷え切った心を溶かされていく。
一緒に土を耕し、美味しいご飯を分け合ううちに、相反するはずの二人のフェロモンは心地よく調和していくが、やがて帝都からの追手が迫り……。
手料理が繋ぐ心と体。身分差を越えた、最強α皇帝と隠れΩ料理人の美味しくて甘い辺境スローライフが幕を開ける!
※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。