これは報われない恋だ。

朝陽天満

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483、掲示板って凄い

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 最後にノワールを一度抱っこさせてもらって、俺たちはスノウグラスさんパーティーと別れることになった。

 ヴィデロさんが別れ際に「お前たちならきっとギルドの統括が神殿の情報を教えてくれるからその時になったら声を掛けろよ」と言っていたのが印象的だった。

 それを言われた瞬間、けんたろさんが「そうだった!」と声を上げて、カバンから何かを取り出した。



「これ、砂漠都市付近の移動オアシスで遭遇した『幸運獏ラックテイパー』って魔物からドロップしたアイテムなんだけど、ぜひ二人の新居に使ってくれないか。ご祝儀ってことで」

「ゴシュウギ?」



 けんたろさんの言葉にヴィデロさんが首を傾げる。こっちでは聞き慣れない言葉なんだろうなあ。って、何言ってんのけんたろさん。



「あ、俺もご祝儀出そうと思ってたんだった。俺からもこれ。その移動オアシスで手に入れた素材。移動オアシス以外で見たことないから、きっとレアアイテムだよ。二人の結婚祝いに」

「待って俺あんまりまともな物持ってない……ってあったよ。氷系魔物からのドロップ品なんだけど、綺麗な石だろ。ほんとは溜めてからマックのすっごーい薬貰おうと思ってたんだけど、ご祝儀で受け取ってくれ」



 ヨロズさんと霧吹さんも次々俺たちに品物を差しだしてきた。

 ヴィデロさんは怪訝な顔をしていて手を出さず、俺は二人の言葉に固まってしまって手を出せず、ほんの少しの間だけカオス空間と化した俺たちの間に助け舟を出してくれたのはスノウグラスさん。



「こいつら、君たちが婚姻の儀を受けたって聞いて、どうしてもお祝いをしたかったらしいんだよ。よければ受け取ってくれないか? 二人とも、おめでとう。なかなか大変だとは思うけど、二人を見ているとどんな時でも大丈夫って思えるよ」



 俺からも、とスノウグラスさんも一抱えある麻の袋を取り出して、俺にはい、と渡した。



「あれから採取のレベルも上がって、『選抜』という上位スキルになったんだ。だからランクがとてもいい物とかも採取できるようになったから、その選りすぐりをチョイスしてみた。これならマック君も喜ぶかと思って」

「スノウグラスさん……」



 中を見てくれと言われて開けてみると、ランクS素材が所狭しと袋に詰め込まれていた。こ、これは凄い。ランクSなんて俺採取したことないよ。



「ありがとうございます。皆も……」



 レアアイテムを俺たちの手の上に積んで満足そうな顔をした『ミスマッチ』の皆は、最後まで陽気に森の中に消えていった。

 ブロッサムさんが俺の肩をトンと叩いて、「いい仲間じゃねえか」とニヤリと笑う。

 ほんとにね。

 今頃になってじわじわとお祝いされた嬉しさが沸いてくる。



「んで、タタンとそっちのはどうするんだ?」

「村に帰るが、タタンとガレンがいい仲間に巡り合えたということを知ることが出来たのは嬉しく思う。引き続き二人をよろしく頼む」



 オランさんが頭を下げると、タタンさんが恐縮し、ブロッサムさんが肩を竦めた。



「こっちこそ。タタンとガレンのおかげで怪我する奴も減ったし皆の腕も上がった。ありがてえ」

「もし何か問題があれば、俺が出来る限り手を貸そう」

「んじゃ、俺たちも同じことを言っておく。もし手が欲しい時はこいつらがいつでも力を貸すからよ。色々とな」



 何かを含んだ物言いをしたブロッサムさんは、門番さんたちから何かを聞いたのかもしれない。

 オランさんはブロッサムさんと硬い握手を交わすと、「すまないがワインズの所まで送ってくれないか」と俺の方を向いた。





 皆は足止めを食らっていた分見回っていないところを歩きながらトレの街に戻るということだったので、俺はオランさんと二人ワインズさんの元に跳んだ。

 ワインズさんの石化を解除すると、すぐさまワインズさんはオランさんの前に跪いた。



「御無事そうで何よりです」

「俺の代わりに苦労を掛ける」

「とんでもない。私にとってはこの上ない名誉です」



 オランさんはワインズさんの肩に手を置くと、労う様にポンポンと軽く叩いた。

 ワインズさんに見送られながら村に跳ぶ。

 森を歩きながら、オランさんが「マック」と静かに俺の名前を呼んだ。



「俺は、他人の痛みも我が痛みの様に感じるマックと出会えたこと、嬉しく思う」



 ぽつり、と呟いた言葉は、俺にとっては最上級の言葉で。



「お前のおかげで、渦巻いていた人族への様々な感情に蓋をすることが出来た」



 人族とエルフと、また手を組んで先を見据える時代が来たんだと思う、と独り言のように呟いたオランさんは、それでもどこか少しだけ苦しそうな表情をしていた。

 それに、蓋をした、ってことは、まだ根本的には全然忘れてなくて、ただそれを押さえつけただけなんだよね。

 忘れられないんだろうな、とオランさんをちらりと見ながら思う。

 番さんをズタボロにされて面白ずくで殺されて、石像になっても自身の身体をバラバラにされて悪用されて。

 忘れられるわけないと思う。



「いつか」

「ん?」



 つい声に出してしまった俺の方を向いたオランさんと、視線が合う。



「いえ、なんでもないです」



 首を振りながらも思う。俺も人族の一人だから、言葉に出すのははばかられるけど。



 いつか、オランさんも心から笑えるようになったらいいな、なんて考えは、甘いんだろうか。







 オランさんの家にはジャル・ガーさんが陣取って寛いでいた。

 俺たちの顔を見て「よ」なんて手を挙げる。



「美味そうな酒があったから貰ったぜ。代わりにヴィデロのにいちゃんが送ってくれた酒をやるから許せ」

「それはいいんだが」



 オランさんは溜め息を吐くと、足を進めて棚からグラスを取り出した。



「いい酒なんだから、せめてこれで味わえ」

「何言ってんだよ。めんどくせえだろ。どんな飲み方でも美味えもんは美味えんだよ」

「それでは俺が飲めないだろ」

「オランはこっちだ。絶対お前の口にあうって。日本酒」



 酒盛りを始めたので、俺は二人を置いて帰ることにした。  

 帰り際、背中に「マック、今日は助かった」というジャル・ガーさんの言葉が飛んできてちょっとだけぐっと来たけど、手を振ってオランさんの家を後にする。

 もうすっかり夜も更けたし、戻ろう。

 ヴィデロさんたちはまだ森を歩いてるのかな。

 俺は無意識にジャル・ガーさんの所に出る場所に向かって歩いていた。

 魔法陣を抜けると、誰もいない石室に出る。

 扉はしっかりと閉まっていて、ジャル・ガーさんは不在。

 そういえば扉開かないって言ってたっけ。仕方ないからここから転移魔法陣で跳ばせて貰うか、戻るか。

 考えていると、ドアがドンドンと叩かれた。



「くっそ開かねえ!」

「今度こそバラバラにしてやる!」

「ってかここまで来たけど止めたら? また瞬殺されるわよ」

「でもお、あの石像ムカつくもん」



 扉の向こうからそんな声が聞こえて来て、思わず顔を顰めた。

 ドアが壊されてここに入ってこられるのも嫌だからとじっと外を伺っていると、さらに人が来たみたいだった。



「お前ら何してんの? そんなことしてここに入れるわけねえじゃん」

「ってか石像をバラバラにするって何してんの」

「獣人の村に行けなくなったらどうしてくれるんだよ」

「ってか、こいつらじゃねえ? スレに晒されたの」



 そういえばけんたろさんが晒したって言ってたような。皆掲示板とか見てるんだな。俺も特定の物は覗くけど。でも公式非公式合わせて100以上の掲示板がある中、全部チェックしてる人なんているのかな。

 少しだけホッとしながらマップを見て人数を確認していると、さらに人が増えたみたいだった。

 ってか何でこんなにプレイヤーが集まるの?



「ここに戻ってきて報復するかもって書いてあったけど、ビンゴ。やめなよ。ADOで無意味に破壊行為とか犯罪とか殺人すると垢BAN食らって二度と出来なくなるよ」

「ほんとにさ」

「でも石像だろ!? それに俺たちは石像に死に戻りさせられたんだから、やり返してもいいだろ!」

「ダメダメ。この石像もだけど、獣人たちって人の悪意に聡いんだってさ。もし少しでも悪いことを考えてると獣人の村に行けないんだよ。そんなふざけて石像壊すような人たちが獣人の村に行けるわけないじゃん」

「ほんとにな。ちゃんと話聞けよ。公式からも言われてるからな。ってかお前らもうリーチ状態だろ。中学生? さすがにそろそろやっていいことと悪いことの分別つく歳だろ」

「マジかよ! 嘘だろ! たかがゲームで何でそんな!」

「たかがゲームなんて言ってたら、ADO楽しめねえんだってことは事前に知っとけよ」

「ゲームでまでそんなの、面倒じゃん」

「あのさあ。悪いことがしたいなら、このゲームじゃねえのやれよ。そういうのはここではご法度だろ」



 マップ上にはすでにプレイヤーマーカーが10数人分表されている。もしかして、けんたろさんが書き込んだ掲示板を見た人が次々来てるってことかな。

 なんとなく扉を壊されることはないってことがわかって、安心した俺は、あとは皆に任せることにして、そっと工房に跳んだ。

 それにしても掲示板の力ってすごいなと改めて思う。

 取り敢えず『ミスマッチ』の皆には伝えておこうとチャットを送ってから、俺は工房を出て門の詰所に向かった。

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