これは報われない恋だ。

朝陽天満

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482、『ミスマッチ』の連携

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「マック、ヴィデロ、お前ら一体どうしたんだ?」



 マルクスさんが近くに寄ってきて、顔を覗き込みながらそんなことを訊いてくる。



「さっきから様子がおかしいぞ。なんかあったのか。さっき言ってた厄介なやつらがいたのか?」



 俺、そんなに顔に出てたのかな。

 いつの間にやらスノウグラスさんもマルクスさんの隣に立って、心配そうな顔をしていた。



「絡まれたわけじゃないんだ。ただ……」



 言い淀む俺に、スノウグラスさんが「何かあったんだね」と溜め息を吐く。



「ジャル・ガーさんを、面白ずくで壊すプレイヤーがいて……」



 ギュっとヴィデロさんの手を握りながらポツリと零すと、タタンさんが息を呑んだ。



「ジャル・ガーって、石像の?」

「ジャル様は無事だったのか!?」



 タタンさんが身を乗り出すように訊いてくる。その声は半分咆えているような感じだった。



「落ち着けタタン、マックがすぐに治したから」

「そ……か。マック、恩に着る」



 ホッとした顔をしたタタンさんは、でもすぐにまた険しい顔をしてグルグルと威嚇の音を発した。



「それにしてもひでえことをしやがるやつもいたもんだ。そいつら、もう二度と石室に入れねえぜ」

「それならいいけど……ジャル・ガーさんに攻撃されて死に戻ったみたいだから、報復とかしにいったらどうしようって。それに、そのせいで詰所に皆が無事だったこと伝えに行くの忘れちゃって」



 入れないならいいんだけど、だけど。それでも。

 と俯きそうになると、けんたろさんが「任せろ!」と声をあげた。

 そして宙に向かって指を動かし始めた。



「そいつら晒しとくわ。特徴を教えてくれ。それと、誰か運営に通報」

「わかった」



 スノウグラスさんもすぐに指を動かし始め、俺は聞かれるままにあの時の5人の特徴を教えた。



「よっしゃ。獣人スレとレッドカードスレに晒しといたぜ。そいつらのせいで俺らまで獣人の所に行けなくなったらほんと最悪だし。ほんとごめんな。ジャル・ガーってあの狼の石像だろ。俺らも何度か見に行ったよ。本も買ってる。その石像を壊した奴らはきっと本とか見ねえタイプなんだろうな。何にしろ、ギルドにもあとで伝えねえとな」

「運営に通報しておいた。石像とは言っても、生きているんだろう。それならきっと、アウトだから」



 けんたろさんとスノウグラスさんの連携で、すぐに5人は通報された。

 運営からもメッセージが返って来たらしく、スノウグラスさんはすぐに読み上げてくれた。



「運営の話だと、ブラックリスト入りするって。ただ、IDとかは把握できないから、まずは調査をして精査するって。その間にまた何かあったらすぐに知らせて欲しいそうだよ」

「わかりました……ありがとうございます」

「スレの方もなかなか盛況だぜ。トレにそれっぽい5人組がいるって」



 その言葉に、マルクスさんが他の門番さんたちと「あいつらじゃねえか?」「そうかもな」と頷き合っている。

 もしかして、門番さんって結構皆の顔を把握してるのかな。



「俺らの方でも様子見てみるよ。そういうやつって大抵は街の奴を人と思わねえから、何かしでかすんだ。お決まりのパターンだよな、ヴィデロ」

「ああ」



 頷き合う二人に、そういえば俺が初めてヴィデロさんとちゃんとした会話をしたのも、プレイヤーに怪我させられたヴィデロさんを治した時だったなと思い出す。

 その時の怪我した場所をそっと見ると、繋がれた手を持ち上げられて、指先にキスされた。

 途端にスノウグラスさんの仲間たちから歓声が上がる。



「このまま狩をしたらすっげえレアアイテム貰えるんじゃね?」

「だな」



 頷き合っているヨロズさんとけんたろさんに、スノウグラスさんが苦笑する。



「なあなあノワール。ノワールも戦いたいか?」

『眷属となった我は強いぞ。主の魔力をいただくからな』

「え、俺の魔力貰われちゃう系? ってことはすぐ魔力なくなるってことか?」

『主はたまに我に回復魔法を掛けてくれたらそれでいい』

「怪我してなくても?」

『ああ』



 小さなノワールが尻尾を思いっきり振りながら円らな瞳を霧吹さんに向ける。

 ノワールの言葉に、霧吹さんがじゃあ、とすぐに回復魔法を掛ける。途端にノワールが嬉しそうに鳴いた。





 スノウグラスさんたちは今、砂漠都市から先でレベル上げをしていたらしい。

 何でトレの近くまで戻って来たかというと、神殿を探していたんだそうだ。

 ここらへんじゃないか、とヨロズさんが当たりを付けて、山の麓を探していたんだそうだ。その時にノワールを見つけて、助けに入って、でも相手の魔物がユニークボスだったらしく、苦戦していたところでヴィデロさんたちが加勢したということだった。神殿。すぐ近くじゃないか。いいところ突いてるよ。

 というわけで、トレの街じゃなくて、外に置き去りにされたブロッサムさんとブロスさんと合流すべく、洞窟のすぐ外に転移することになった俺。

 10人と1匹にくっつかれて魔法陣を描くと、すぐ近くが目標地点なのに面白いくらいMPが減った。





 森の中に出た俺たちの目の前には、マルクスさんの乗っていた馬がいた。

 俺たちを見た瞬間ヒヒーンと甲高く嘶く。



『この者は賢い。我らの居所を友に伝えている』



 ノワールが目の前の馬を見ながら感心したように目を細める。その顔、眠そうにしか見えないけど。

 馬の声に導かれるように、すぐに遠くから蹄の音が聞こえてくる。



「マルクス! マック!」



 すぐに姿を現したブロッサムさんとブロスさんは、俺たちの姿を見て、破顔した。



 ヴィデロさん、タタンさん、名前を知らない門番さん二人、そしてマルクスさんを次々「無事でよかった」とハグしたブロッサムさんは、怪我がないか調べたみたいだった。



「スノウグラス、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」

「はい。その節はお世話になりました」

「俺が世話をしたんじゃねえ。マルクスが休暇中に好きで世話したことだから、俺にはそんなこと言わなくていいぜ」

「はい」



 スノウグラスさんが顔を綻ばせているのを見て、霧吹さんが訝しがる目でスノウグラスさんを見つめた。そして、隣にいたけんたろさんに、「あいつ何者だ?」と声をかけていた。



「あれだ、薬師マックと同類だ。俺ら奇跡とパーティーを組んでるんじゃねえか?」

「門番さんズとあんなに仲いいなんて知らなかったぜ」

「薬師マックじゃなくても仲良くできるってことは、俺らも街の奴と友達になれるってことじゃねえ?」



 やってみる価値あり! と皆の心が一つになったところで、スノウグラスさんの手刀の突っ込みが入った。

 「俺は奇跡じゃないし、普通のプレイヤー」と言ったところで、全員が生暖かい目でスノウグラスさんを見ている。連携バッチリ。



「スノウグラスはいい仲間に巡り合えたんだな」



 マルクスさんがその様子を見ていて、苦笑しながらスノウグラスさんの肩に腕を置く。



「はい。最高の仲間で、毎日楽しいです」

「よかったぜ。お前の笑った顔を見るのもなかなかいいもんだな」



 スノウグラスさんを覗き込むようにしてそんなことを囁くマルクスさんには、普段のふざけた態度からは想像がつかないような大人の色気というものが醸し出されているように見えた。



「マルクスさんって、スノウグラスさんを落とそうとしてる?」



 俺の呟きに、ヴィデロさんが首を横に振る。



「あの距離がマルクスの標準なんだ。その距離に惑わされてマルクスに告白して付き合いを始めても、他の奴にもアレをやるもんだから、浮気者とか私一人じゃないのねとかフラれるんだ、あいつは。でも、本人は決して落とそうとしているわけじゃなく、あれが自然体なんだ」

「うわあ」

「別れてもすぐに次が出来るのは、そのせいだ。マルクスから告白したことは、確か一度もないはずだ」

「それはそれで、難儀だね……不憫というかなんというか」



 でも、わかるなあ。自分の彼氏だと思った人が、あんなに近い距離で他の人と話をするのは、確かに嫌だもん。

 もしヴィデロさんが他の人とああやって話すところを想像したら、絶対俺もやもやしそうだ。



「またトレに来いよ。いつでも歓迎するぜ、仲間共々な」

「はい。ぜひ。マック君のハイポーションもまた買いたいですし」



 マルクスさんの言葉に頷くスノウグラスさんは、マルクスさんの色気なんて全く気付いてないように笑顔で答えていた。

 皆はここから俺たちと反対方向に向かうんだ。

 俺はヴィデロさんにちょっと待ってて、と声をかけて、スノウグラスさんたちに近付いた。



「出張薬師です。最高級の回復薬はいりませんか。フレンド価格で提供します」



 そう言って、霧吹さんたちにフレンド申請を飛ばす。

 驚いた顔をしながら、皆すぐに承認してくれた。



「これは最近ようやく作れるようになったハイパーポーションランクA。回復量はだいたい700~800くらい。マジックハイパーポーションは残念ながらまだランクBなんですけど、MP回復は600くらい」



 俺が次々並べていくと、皆が息を呑んでアイテムを見下ろした。

 蘇生薬ももう解禁かな、と並べていく。そういえば新しいアイテム、ヴィデロさんのカバンに詰め込まないと。

 皆が大騒ぎしながらアイテムを買ってくれたので、満足していると、スノウグラスさんが腕を伸ばしてきた。



「マック君、何度もありがとう。俺も、もし君に何かあったら必ず力になるから、すぐに声をかけてくれ」



 そう言いながら、スノウグラスさんがハグをしてくれたので、俺も背中に腕を回す。

 きっとさっきずっと変な顔をしていたから元気づけてくれているんだな、と心が少しだけ浮上する。

 ヴィデロさんは苦笑しながら俺を見ていた。

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