これは報われない恋だ。

朝陽天満

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501、俺の初めてと新しいお得意さん

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「……それにしてもおっそろしいもんがわんさかあるな……炎属性付与? 水属性減、でもって、物理防御増……と。まあ、どうやって作ったか訊くのは反則だけどな、これ一ついくらくらいするのかわかってんのか?」

「もとは魔物の核から作られたから、ただのような物ですし……」

「俺だったらこれ全部に8桁は出す」

「はちけた……いっせんまん」

「そうだ。こういう属性を付けられるような石はな、鉱山のその奥にごく稀に出て来るか、腕に自信のある死にたがり野郎が死に物狂いで倒した魔物がごく稀にくれるような石だ。それがゴロゴロと」



 そうか。そうだった。雷のやつも、辺境の近くで滅茶苦茶大変な思いをして手に入れたやつだった。

 錬金術師ジョブをセットしてユニークまではいかないレア魔物を倒すと手に入る魔物の核とか内臓系を錬金すると結構簡単に出来上がるから失念していた。

 でも、でもさ、最初に俺が作ったっていうアクセサリには、どうしても効果がある物を着けてヴィデロさんにあげたかったんだ。見た目がどうであれ。

 シンプル過ぎてどこをどう自分で手掛けたかもわからないようなデザインだけど、これだけは。

 じっとエアインさんを見つめると、エアインさんはふん、と鼻を鳴らして「ま、詮索はしねえのがルールだな」と胸を張った。



「んで、どれを着けたいんだ?」

「雷吸収と闇無効はもうあるから……防御と力と器用さも上がってるはずで……あと上げときたいのは……」



 魔力、という言葉が頭に浮かんで、ちょっとだけ口を噤む。

 これで補助するくらいじゃ魔大陸に行くには全然足りないけど。

 でももし、底上げに底上げを重ねてしまって、限界値がもし、魔大陸に届くくらいに。

 そこまで思って頭を振った。俺何考えてるんだ。ヴィデロさんの魔力が上がったらいいことしかないじゃん。そんなエミリさんとか勇者みたいな魔力になんてそうそうなるはずないし。ヴィデロさんの魔力が増えたら必殺技とかガンガン出せるようになって滅茶苦茶強くなるってことだよ。

 俺が深呼吸をしていると、エアインさんが一つの黒い石を手に取った。



「そこまで底上げしてるんだったら、次は魔力一択だな」

 

 一番魔力がプラスされる石を、俺に差し出した。





 エアインさん指導の元、数点の道具を使って綺麗にアクセサリに石をくっつけることに成功した。

 接着剤みたいなものはエアインさんお手製の秘蔵の糊だそうで、作り方は極秘なんだそうだ。死にそうになるくらいの衝撃を受けない限り外れないっていい笑顔で言われた。

 そして、俺の初のアクセサリが出来上がった。効果は【魔力+5】というちょっと可愛い物だったけれど、初のアクセサリ。



「親方! 出来ました!」



 思わずエアインさんを親方呼びして喜んでしまった。

 その声に、工房の中から盛大な歓声と拍手が飛び交った。皆が「やったな!」「上出来だ!」「なかなかだ!」と次々褒めてくれる。

 

「お前さんなかなか器用だな。今度来た時はデザインからやってみるか? それか、薬師やめて彫金師になるって手もあるぞ」

「ごめんなさい」

「やーい親方フラれてやんの」

「つうか引き抜きいいのかよ」

「すでに工房持ってる薬師だぜ」



 俺が頭を下げた瞬間、職人さんたちがエアインさんを滅多打ちにしている。エアインさんは顔を赤くしながら「お前ら冗談も通じねえのかよ!」と怒鳴り返していて、すごく楽しい工房なんだなと初めてのペンダントヘッドを握りしめながら周りを見回した。



「ところでお前さんよ」

「はい」



 エアインさんがじっと俺を真っすぐに見た。なんか目を逸らしたらダメな感じの見方だった。

 俺が返事すると、エアインさんは顎をしゃくった。



「それに通す鎖は持ってんのか? うちで見繕ってけ」

「いいんですか?」

「いいもんを見せてもらった礼だ。そんな石ころ、なかなかお目に掛かれねえからな。俺らも気合い入れてたまには石ころを手に入れてこねえとなあ!」

「おお!」



 エアインさんの言葉に、またも職人さんたちが奮い立った。え、もしかして。



「あの石とか魔石とか、皆さんで手に入れてるんですか……?」

「もちろん。安上がりだろ? 商品に出来ねえようなやつは練習用になるしよ。な」

「ああ、すげえの持ち帰ったやつには特別ボーナス出るし。やる気も出るってもんだ!」



 ほのぼの系工房だと思ったらバリバリ戦闘系工房だった。

 気合いの入った迫力が違う。

 ビリビリするくらいの圧を感じながら、俺はエアインさんに勧められた精巧な鎖を何とか選んだのだった。



 講習も一通り終了ということで、エアインさん自らが工房の入り口まで俺を見送りに来てくれた。



「講座が終わったら、確かこの終了印の入った半券をギルドに持ってくんだっけか。ほら。忘れるなよ」

「はい。ありがとうございました」

「それとな、マックだったか。あの石な、かなり高価なもんだから、あんまり出すもんじゃねえよ。たとえ魔物を倒して手に入れたただに近いもんだったとしてもだ。売るときはそんな値段じゃねえってことは覚えとけよ」

「大丈夫です。でも、どうしても初めての物を作るときだけはじっくり厳選したくて。……それに、ここならきっと安心だと思いましたから」

「そんな保証はねえけどな」

「そう言うことを言うエアインさんだからこそです。あの、もし余計なお世話だったらあれなんですけど。極秘で、もし魔石を手に入れたら、格安でワンランク上のさっきの石みたいに加工することができるので、もしよければ、発注してください。調薬の傍らに出来ますから。そして、またアクセサリを作りたいときはここの場所を貸してもらえたら……って初めて来た単なる受講者が言うことじゃないですね」



 彫金系のあまりの道具の多さに、きっと自分でそろえるのは難しいとは思っていたからこその図々しい申し出だったけど、初めての俺が言いだすのはちょっと傲慢だったかなと思って口を噤むと、エアインさんは太い腕を組んで考えるように口を結んだ。

 そして、ゆっくりと口を開いた。



「そいつぁありがてえが、一ついくらくらいで引き受けてもらえる? 冗談じゃなくあの石類は効果によっては一粒で何十万、何百万だってありうる代物だ。高すぎるとさすがに何個も頼めねえ」



 前向きに考えてくれたことに目を見開く。

 嬉しくなって、口元をほころばせながら、必死で考えた。

 取って来るのに結構大変だろうし、売るのはそれくらいとして、ええとええと。



「元がある前提だから、一つ……5万、ガル……?」



 ぼったくり過ぎたかな、と思いながら恐る恐る値段を言うと、親方は大きな溜め息を吐いた。



「安いな。ほんとにそれでマックは儲かるのか」

「儲かるどころかぼったくり状態です」

「ぼったくりか」

「はい。だって他の素材を考えても、多分1000ガルもあれば足りますから。ぼったくりです」



 俺が本当のことを言うと、とうとうエアインさんは大声で笑い始めた。

 何だ何だと工房から次々職人さんたちが顔を出す。



「わかった。ぼったくれ。それで手を打つ。次何か作りたいときもうちに来い。歓迎してやる。彫金師に転向してもいいぞ。連絡は……ギルド経由で大丈夫か」

「はい。これからよろしくお願いします」



 スッと目の前に太い腕が出されたので、がしっと握る。

 力強い握手を交わして、俺はアクセサリを作る場所を見つけた。

 この工房の外弟子、ということで、最後にエアインさんから彫金に使う道具を貰った。



「彫金ってのはかなりの道具を使うだろ。全部自分で揃えてたらそりゃ大変だ。でもな、こいつとこいつだけは、自分の物を必ず持って、手に馴染ませるんだ。『タガネ』『小金槌』だ。他にも色んな大きさがあるが、基本はこれだな。他のが使いたい場合はいつでも使いに来い。それだけじゃ作れるもんなんてほとんどねえからな。もちろん自分で簡単なもんを作れるくらいに揃えてもいい。そん時も相談しろ。いい鍛冶屋を紹介してやる」

「ありがとうございます」



 タガネと金づちの持ち手の所には、しっかりと『エアイン’ズ工房』と銘打たれていた。

 講習が終わった人に必ず渡すんだって。これで道を開いてもらうために。

 俺はそれをしっかりとインベントリにしまい込んだ。

 ついでに、試しとして工房にある魔石を上位の石にする仕事を5個分受けて、俺はエアイン’ズ工房を後にした。

 しっかりとギルドに寄って終了したことを報告して、そのまま転移魔法陣を使ってトレに跳んだ。



 トレのギルドを出ると、俺は門に向かった。

 明日は学校だからお泊りは出来ないから、今日は工房でおかえりということは出来ないから。

 門に立っているヴィデロさんを見つけて、俺は小走りで近付いた。



「マック」



 俺を見つけて手を振ってくれるヴィデロさんに急いで近付いていく。

 抱き着くと、ヴィデロさんが嬉しそうに面を上げた。



「ヴィデロさん、兜を取ることは出来る?」

「兜。もちろん」



 ヴィデロさんは俺のいきなりのお願いを笑顔で了承してくれた。

 兜をわきに抱えたヴィデロさんに、背伸びして作りたてほやほやのアクセサリを掛ける。



「マック、これは?」

「俺が初めて作ったやつ。効果は『魔力+5』っていうちょっと残念な感じだけど、どうしてもヴィデロさんに渡したくて。貰ってくれる?」



 ぶら下げられたシンプルなアクセサリを手に取って、ヴィデロさんはまじまじと見詰めた。

 そして、チラッと俺を見て、ふふ、と顔を緩めた。



「この石、マックの色だな」

「……偶然だけどね」



 あまりにも嬉しそうに、そして自然にペンダントヘッドにキスをするヴィデロさんに、思わず赤面しながら見惚れる。嬉しそうに細められた目が最高に好き。

 見た目本当に手を掛けてないような素人作品のような物なのに。嬉しい。好き。



「大事にする」

「ありがとう」

「礼をいうのは俺だろ」

「ううん、貰ってくれてありがとう。だって初めてのものなんだもん。見た目がね」

「いいなこのデザイン。すっきりしていて絶対に飽きの来ないデザインだ」

「……ほんとに?」



 ヴィデロさんの誉めっぷりに思わず怪訝な目を向けると、ヴィデロさんは満面の笑みで「もちろん」と答えて、もう一度そのペンダントヘッドにキスをした。



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