これは報われない恋だ。

朝陽天満

文字の大きさ
627 / 744
連載

710、祝詞合唱

しおりを挟む

「魔法陣が描けないってどういうことだ?」



 ユイの呟きに、雄太が反応する。ユイは「そのまんまだよ。魔法陣にならないの」と泣きそうな顔になった。

 何度か挑戦していたけれど、どれもすぐに文字が消えていく。俺も描いてみたけれど、転移だけじゃなくて魔法陣自体がすぐに消えていくような状態になった。

 ブレイブはすぐさま何かスキルを使っていて、しばらく部屋の中を隅々まで見回してから、嘆息した。



「ここの聖域、無属性魔法は使えない状態になってる」

「無属性魔法?」



 ブレイブが発した聞き慣れない言葉に、皆が首を傾げる。



「無属性魔法って……ピンポイントで魔法陣魔法だね」

「そうだな。となると、帰れないかもしれない」



 ユイとブレイブの会話に、皆が息を呑んだ。このシークレットダンジョンって、転移魔法じゃないと出れない場所だよね。それはきっと俺なんかよりセイジさんと行動を共にする機会の多い皆の方が詳しいと思うけど。

 相変わらず女神は嬉しそうに祈りを捧げていて、空気は澄んでいる。

 この状態で無属性魔法が使えないとか。どうすればいいんだろ。

 皆が部屋の中を見回して考えている。俺も同じように周りを見回しながら、何かないか探した。

 素材を採取する場所すらないし、俺たちが入って来た扉はしっかりと締まっている。開くのかな。そう思ったのは俺だけじゃなくて、すでにユキヒラが入り口に向かって走っていた。

 扉に手を掛けて開けようとするも、やっぱりというかなんというか、開かない。ユキヒラは引いてだめなら押してみろとばかりに体当たりをしてみたり、引き戸の様に横に引いてみようとしたり、蹴りを入れたりしているけれど、扉はびくともしない。さっき外開き状態で入って来たんだから引き戸はないと思うんだけど。俺もじっくりと壁を調べてみようと思って、足を動かした。



「ちょっと壁に仕掛けがないか調べてみるね」

「あ、じゃあ俺は上の方から全体を見て調べてみる」



 俺の言葉に、ブレイブも頼もしい言葉を返してくれて、飛翔で跳んでいくブレイブを見送ると、ヴィデロさんと共に壁に向かって歩き始めた。



「ヴィデロさんは羽根出せる?」



 あの羽根に属性はないよね、と思って訊いてみると、ヴィデロさんはすぐにバサッと羽根を出して見せてくれた。



「これはスキルに分類されるようだから、魔法とは違うんじゃないか?」

「なんか、そこら辺の見極めが曖昧で難しいね」

「片っ端からやってみればいいんじゃないか?」

「そっか。そうだね」



 スキルは使えるのか。と頷いて、頭の中で整理する。魔法陣魔法は使えないけど、飛翔は風魔法だから使える。ってことは、魔法に分類されるもの自体は魔法陣魔法以外は使えるってことか。無属性魔法なんて言葉自体が初めての響きだし。

 広い部屋の中、壁自体には仕掛けの様な物は全くない。鑑定眼を使って調べているから多分見逃してるってこともないと思う。素材みたいな物すらなければ、素材採取箇所もない。雄太たちは各自空を飛んで、上の方を調べているし、ユキヒラは女神の辺りで何かをしている。



「それにしても、帰れないとはな……」

「手っ取り早いのは皆が死に戻って外に出ることなんだけど。魔物は出ないし入り口から外には出れなそうだし、相打ちは絶対に嫌だしってことだよね」

「ああ。マックをこの手で、なんて考えたくもないな」



 考えただけでゾッとする。相打ちだけは本当の最終手段にしよう。

 本気で何か見つけないと。どこかにヒントになるような何かがあればいいんだけど。

 そんな風に二人で壁沿いを歩いて、何も見つからないまま半周してしまった。

 丁度女神の真後ろに俺たちはいる。

 特に祭壇があるわけじゃなく、一段高い場所で、女神が白い羽根を広げて祈っている。

 っていうかこの女神、ずっとこのままなのかな。

 さっき会話の様な物が成立してなかったっけ。ああ、意思疎通は出来なかったけど、会話の様な物は出来た様な。



「女神様」



 なんとなく声をかけてみると、女神の祈りがスッと止まった。

 そして、大きな白い羽根を翻して、後ろ、っていうか俺の方に振り返った。あ、ユキヒラが羽根に埋もれて「ぶわっ」とか変な声を出してる。

 女神は、祈りの形だった手をおろして、俺をガン見してきた。どう見てもその目は宝石以外の何物でもないような感じで、しかも独自に光っている。綺麗なんだけど白い彫刻が動いているみたいでまじまじ見るとちょっと怖い。



『諧調士』



 俺と視線を合わせながら、女神はそう呟いた。

 ビクッと俺の肩が揺れる。そんな風に声をかけられると思わなかったからビビったんだよ。

 でも今なんて言った? 『カイチョウシ』? 俺の事?



『祈りを』

「え? 祈り?」

『諧調士』



 単語すぎて意味が解らない。けど、もしかして俺にも一緒に祈れって言ってるのかな。

 じっと俺を見ながら、女神はまた手を祈りの形に組んだ。俺の知ってる形とまったく同じその手の組み方は、それだけは教会がしっかりと後世に伝えてきたんだなって言うのがわかってなんとなく感慨深い。ふんわりと微笑むその顔は慈愛に満ちている気がして、どこかニコロさんを思い出させた。やっぱりニコロさんは教皇になるべくしてなった人なんだよなと改めて思う。

 女神が紡ぐ祈りと、俺が知ってる祈りはちょっと違うんだけど、いいのかな。

 じっと見てくるキラキラの瞳が、早くやれと急かしてる気がする。祝詞合唱しろと、眼力が告げる。

 諧調士って、やっぱり俺の事なんだよな。称号『諧調薬師』持ちだし。

 その眼圧に負けて手を組むと、女神の眼が満足げに細められた。この女神押しが強いんだけど。



「天より私たちを見守ってくださる方々よ……」



 俺が口を開くと、女神も合わせるように祝詞を口ずさみ始めた。

 俺と女神の祈りが、まるで楽器の調和の様に部屋中に広がっていく。

 祈りを唱えていて、段々と滑らかになる口は、きっと女神に引き摺られてるからだと思う。

 重なる声が、とても心地よくて。

 紡ぐハーモニーが辺りに広がるのが心地いい。

 声から成る波紋がまるで目に見えるようにさざめいていて、いつしか俺は、祝詞に夢中になっていた。





 女神が手を解いたことで、俺は我に返った。

 たまにあるんだよね。祈りをしているとこうしてトリップすることが。だからこそレベルがガンガン上がったんだけど。

 ホッと息を吐きながら視線を上げると、いつの間にやら雄太たちが俺が錬金釜を作った場所に集まっていた。っていうかあんなところに扉はなかったはずなのに、すごく豪華な装飾の扉が雄太たちの後ろに見える。いつの間に!

 ユキヒラは腕を組んでじっと女神の近くに立っていて、ヴィデロさんは俺の後ろにいるのが気配でわかる。ここでずっと守っててくれたんだっていうのも。



『諧調士よ……』

「はい」

『道は、開かれました』

「はい」

『武運を……祈りましょう』

「ありがとうございます」

『行きなさい』



 女神はそう言うと、手の平に光の球を発生させた。その光が女神のすべてを包み込んでいく。女神の身体が光の中に消えると、パアっと光はまるで花火のように花開き、宙に散った。

 散った光は俺たちにその片鱗を降りそそぎながら、さっきまではなかった雄太たちの後ろにある扉に飛んでいった。

 綺麗だな、と見惚れる俺の耳に、ピロン、という通知音が届く。



「あそこに行くか」



 ヴィデロさんに声をかけられて、俺は頷いた。

 ヴィデロさんは俺を片腕でまるで子供の様に抱きかかえて、もう片方の腕でユキヒラの腰を抱いて片腕を肩に回させて、羽根を広げて雄太たちの所まで飛んだ。っていうかなんでユキヒラの場合そんなかっこいい運び方で俺が子供抱っこなんだ。解せぬ。

 不満顔のまま上に着き、ユキヒラを離したヴィデロさんは、俺を下ろそうとして俺の顔に気付いたらしい。

 肩を震わせながら、尖った口の横にチュッとキスをくれた。



「もしかしてユキヒラを抱き上げたことに嫉妬してるのか?」

「違うから」

「じゃあ」



 スッともう片方の腕が膝の裏を掬い取り、子供抱っこが姫抱っこに瞬時に変わった。



「こうして欲しかったか?」

「嬉しいけど違う!」



 俺もかっこよく運ばれたかった! っていうか俺も自分で魔法陣魔法で飛べるじゃん! あ、魔法陣魔法使えないじゃん! でもヴィデロさんに運んでもらうのは嬉しいんだけど!

 違うんだよおおお、と俺は心の中で混乱とプチ嵐を巻き起こしていたことを、ヴィデロさんは知らない。



しおりを挟む
感想 537

あなたにおすすめの小説

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *本編完結しました

悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました

水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。 原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。 「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」 破滅フラグを回避するため、俺は決意した。 主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。 しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。 「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」 いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!? 全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ! 小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります。 YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。 プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。