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連載
710、祝詞合唱
しおりを挟む「魔法陣が描けないってどういうことだ?」
ユイの呟きに、雄太が反応する。ユイは「そのまんまだよ。魔法陣にならないの」と泣きそうな顔になった。
何度か挑戦していたけれど、どれもすぐに文字が消えていく。俺も描いてみたけれど、転移だけじゃなくて魔法陣自体がすぐに消えていくような状態になった。
ブレイブはすぐさま何かスキルを使っていて、しばらく部屋の中を隅々まで見回してから、嘆息した。
「ここの聖域、無属性魔法は使えない状態になってる」
「無属性魔法?」
ブレイブが発した聞き慣れない言葉に、皆が首を傾げる。
「無属性魔法って……ピンポイントで魔法陣魔法だね」
「そうだな。となると、帰れないかもしれない」
ユイとブレイブの会話に、皆が息を呑んだ。このシークレットダンジョンって、転移魔法じゃないと出れない場所だよね。それはきっと俺なんかよりセイジさんと行動を共にする機会の多い皆の方が詳しいと思うけど。
相変わらず女神は嬉しそうに祈りを捧げていて、空気は澄んでいる。
この状態で無属性魔法が使えないとか。どうすればいいんだろ。
皆が部屋の中を見回して考えている。俺も同じように周りを見回しながら、何かないか探した。
素材を採取する場所すらないし、俺たちが入って来た扉はしっかりと締まっている。開くのかな。そう思ったのは俺だけじゃなくて、すでにユキヒラが入り口に向かって走っていた。
扉に手を掛けて開けようとするも、やっぱりというかなんというか、開かない。ユキヒラは引いてだめなら押してみろとばかりに体当たりをしてみたり、引き戸の様に横に引いてみようとしたり、蹴りを入れたりしているけれど、扉はびくともしない。さっき外開き状態で入って来たんだから引き戸はないと思うんだけど。俺もじっくりと壁を調べてみようと思って、足を動かした。
「ちょっと壁に仕掛けがないか調べてみるね」
「あ、じゃあ俺は上の方から全体を見て調べてみる」
俺の言葉に、ブレイブも頼もしい言葉を返してくれて、飛翔で跳んでいくブレイブを見送ると、ヴィデロさんと共に壁に向かって歩き始めた。
「ヴィデロさんは羽根出せる?」
あの羽根に属性はないよね、と思って訊いてみると、ヴィデロさんはすぐにバサッと羽根を出して見せてくれた。
「これはスキルに分類されるようだから、魔法とは違うんじゃないか?」
「なんか、そこら辺の見極めが曖昧で難しいね」
「片っ端からやってみればいいんじゃないか?」
「そっか。そうだね」
スキルは使えるのか。と頷いて、頭の中で整理する。魔法陣魔法は使えないけど、飛翔は風魔法だから使える。ってことは、魔法に分類されるもの自体は魔法陣魔法以外は使えるってことか。無属性魔法なんて言葉自体が初めての響きだし。
広い部屋の中、壁自体には仕掛けの様な物は全くない。鑑定眼を使って調べているから多分見逃してるってこともないと思う。素材みたいな物すらなければ、素材採取箇所もない。雄太たちは各自空を飛んで、上の方を調べているし、ユキヒラは女神の辺りで何かをしている。
「それにしても、帰れないとはな……」
「手っ取り早いのは皆が死に戻って外に出ることなんだけど。魔物は出ないし入り口から外には出れなそうだし、相打ちは絶対に嫌だしってことだよね」
「ああ。マックをこの手で、なんて考えたくもないな」
考えただけでゾッとする。相打ちだけは本当の最終手段にしよう。
本気で何か見つけないと。どこかにヒントになるような何かがあればいいんだけど。
そんな風に二人で壁沿いを歩いて、何も見つからないまま半周してしまった。
丁度女神の真後ろに俺たちはいる。
特に祭壇があるわけじゃなく、一段高い場所で、女神が白い羽根を広げて祈っている。
っていうかこの女神、ずっとこのままなのかな。
さっき会話の様な物が成立してなかったっけ。ああ、意思疎通は出来なかったけど、会話の様な物は出来た様な。
「女神様」
なんとなく声をかけてみると、女神の祈りがスッと止まった。
そして、大きな白い羽根を翻して、後ろ、っていうか俺の方に振り返った。あ、ユキヒラが羽根に埋もれて「ぶわっ」とか変な声を出してる。
女神は、祈りの形だった手をおろして、俺をガン見してきた。どう見てもその目は宝石以外の何物でもないような感じで、しかも独自に光っている。綺麗なんだけど白い彫刻が動いているみたいでまじまじ見るとちょっと怖い。
『諧調士』
俺と視線を合わせながら、女神はそう呟いた。
ビクッと俺の肩が揺れる。そんな風に声をかけられると思わなかったからビビったんだよ。
でも今なんて言った? 『カイチョウシ』? 俺の事?
『祈りを』
「え? 祈り?」
『諧調士』
単語すぎて意味が解らない。けど、もしかして俺にも一緒に祈れって言ってるのかな。
じっと俺を見ながら、女神はまた手を祈りの形に組んだ。俺の知ってる形とまったく同じその手の組み方は、それだけは教会がしっかりと後世に伝えてきたんだなって言うのがわかってなんとなく感慨深い。ふんわりと微笑むその顔は慈愛に満ちている気がして、どこかニコロさんを思い出させた。やっぱりニコロさんは教皇になるべくしてなった人なんだよなと改めて思う。
女神が紡ぐ祈りと、俺が知ってる祈りはちょっと違うんだけど、いいのかな。
じっと見てくるキラキラの瞳が、早くやれと急かしてる気がする。祝詞合唱しろと、眼力が告げる。
諧調士って、やっぱり俺の事なんだよな。称号『諧調薬師』持ちだし。
その眼圧に負けて手を組むと、女神の眼が満足げに細められた。この女神押しが強いんだけど。
「天より私たちを見守ってくださる方々よ……」
俺が口を開くと、女神も合わせるように祝詞を口ずさみ始めた。
俺と女神の祈りが、まるで楽器の調和の様に部屋中に広がっていく。
祈りを唱えていて、段々と滑らかになる口は、きっと女神に引き摺られてるからだと思う。
重なる声が、とても心地よくて。
紡ぐハーモニーが辺りに広がるのが心地いい。
声から成る波紋がまるで目に見えるようにさざめいていて、いつしか俺は、祝詞に夢中になっていた。
女神が手を解いたことで、俺は我に返った。
たまにあるんだよね。祈りをしているとこうしてトリップすることが。だからこそレベルがガンガン上がったんだけど。
ホッと息を吐きながら視線を上げると、いつの間にやら雄太たちが俺が錬金釜を作った場所に集まっていた。っていうかあんなところに扉はなかったはずなのに、すごく豪華な装飾の扉が雄太たちの後ろに見える。いつの間に!
ユキヒラは腕を組んでじっと女神の近くに立っていて、ヴィデロさんは俺の後ろにいるのが気配でわかる。ここでずっと守っててくれたんだっていうのも。
『諧調士よ……』
「はい」
『道は、開かれました』
「はい」
『武運を……祈りましょう』
「ありがとうございます」
『行きなさい』
女神はそう言うと、手の平に光の球を発生させた。その光が女神のすべてを包み込んでいく。女神の身体が光の中に消えると、パアっと光はまるで花火のように花開き、宙に散った。
散った光は俺たちにその片鱗を降りそそぎながら、さっきまではなかった雄太たちの後ろにある扉に飛んでいった。
綺麗だな、と見惚れる俺の耳に、ピロン、という通知音が届く。
「あそこに行くか」
ヴィデロさんに声をかけられて、俺は頷いた。
ヴィデロさんは俺を片腕でまるで子供の様に抱きかかえて、もう片方の腕でユキヒラの腰を抱いて片腕を肩に回させて、羽根を広げて雄太たちの所まで飛んだ。っていうかなんでユキヒラの場合そんなかっこいい運び方で俺が子供抱っこなんだ。解せぬ。
不満顔のまま上に着き、ユキヒラを離したヴィデロさんは、俺を下ろそうとして俺の顔に気付いたらしい。
肩を震わせながら、尖った口の横にチュッとキスをくれた。
「もしかしてユキヒラを抱き上げたことに嫉妬してるのか?」
「違うから」
「じゃあ」
スッともう片方の腕が膝の裏を掬い取り、子供抱っこが姫抱っこに瞬時に変わった。
「こうして欲しかったか?」
「嬉しいけど違う!」
俺もかっこよく運ばれたかった! っていうか俺も自分で魔法陣魔法で飛べるじゃん! あ、魔法陣魔法使えないじゃん! でもヴィデロさんに運んでもらうのは嬉しいんだけど!
違うんだよおおお、と俺は心の中で混乱とプチ嵐を巻き起こしていたことを、ヴィデロさんは知らない。
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