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711、隠し扉の先は
皆でさっき現れたばかりの扉を開けて、潜る。
空気はやっぱり正常で、あの圧迫感は全くないまま、目の前に長い回廊が現れた。
魔物の気配も一切ない。なんだろここ。
皆も警戒しながら歩く。
ある程度進むと、回廊の壁にいきなり3個の扉が出現した。
「お、扉。開けてみようぜ。ブレイブ、罠は?」
「ない。しかも中は小部屋で行き止まりっぽい」
「よし! 入るぜ皆の衆!」
「おう!」
何で開ける前からわかるんだろう、どんなスキルなんだろう、と首を捻りながら、率先して小部屋に飛び込んでいく雄太たちを見送る。
遅れるように俺とヴィデロさんとユキヒラも部屋に入ると、奥の方に立派な宝箱が鎮座していた。
「お! 宝箱! 誰かお持ち帰りするか?」
ワクワクしながら雄太が視線を巡らす。まずは持ち帰り前提なんだ、と思わず笑う。雄太の所にはもう宝箱ってなかったっけ。俺の所にも一つ放置されたままのやつが。開けてもいないよ。そっと部屋の隅に置いて、忘れてた。あれ、でも宝箱って普通の場所に置いていても微妙な物しか出てこなかったはずじゃなかったっけ。あの装飾だったら箱自体を高く買い取って貰えそうだけど。クラッシュ辺りに。
「持ち帰る前に開けてみるのが先だろ」
ブレイブに頭をぺしっとされて、雄太はキリッと顔を上げた。
「これを開けるのは『LUCK』値が一番高いやつがいいと思うんだ」
「まあ、幸運値が高い方がレアものは出やすいけど」
「だろ。でも俺49なんだよ。全然上がらなくて」
「俺はちょい盗賊系のスキルで底上げされてて72ってところ」
「私は62だよ」
「私はアクセサリーで大分上げてるから86ね」
「海里の幸運値高いな。俺は58だな。聖騎士はそこまで幸運値が上がらねえんだよ」
「えー聖騎士なのに? 高そうなイメージがあるんだけど」
「ねえよ。逆だって。運に身を委ねちゃ一番駄目な職業なんだとかニコロ導師が教えてくれた」
雄太から始まり、ユキヒラまでLUCK値のお披露目を始めてしまう。
俺はヴィデロさんとの伴侶補正が入るから皆より大分高いんだけど。
っていうか皆二桁だったのか。そんなに幸運値って上がりにくいんだ……。
「マックは?」
「……259」
「たっか!」
「何その数値。幸運値が一番上がりにくいはずなのに」
そっと申告すると、皆が目を剥いた。でもね、俺よりヴィデロさんの方が高いんだよ。
「あ、私フレに聞いたことあるよ。薬師って調薬成功させるのに幸運値も関係してくるから、比較的ステータスが上がりやすいんだって」
「マジかー」
ユイの言葉に、目を剥いた一同が納得する。へーそうなんだ、知らなかった。でも俺の場合伴侶補正が大部分だから、どれだけ薬師で幸運値が上がったのかはわからないんだよね。
ちらりとヴィデロさんを見上げると、ヴィデロさんはそっと頷いて口を開いた。
「幸運値が高いやつが開ければいいのか。じゃあ、俺が開けよう。ブレイブ、罠は」
ヴィデロさんがぐい、と前に出ると、皆が「え、アレより高いの!?」ともう一度目を剥いた。
我に返ったブレイブが宝箱を検証する。
「罠はある。待っててくれ。今解除する」
ブレイブが宝箱の前にしゃがみ込んで、手を掛ける。
ヴィデロさんは俺の前に陣取ってブレイブの行動を見ていた。
「リリース。……よし、成功。幸運値がもっと高ければリリース率ももっと上がるんだけど」
苦笑しながらブレイブが宝箱の前から下がると、ヴィデロさんは前に進んだ。
ヴィデロさんが開けた宝箱にはしっかりとレアアイテムが人数分入っていた。
中に入ってたのは、各自が持つ武器専用のアクセサリー。武器を補助する飾りなんだけど、その精巧な造りは見ているだけで満足できるものだった。っていうか武器に補正のつくアクセサリー自体がほぼお目見えしたことがないから、レア中のレアだよ。見た目的にも楽しめるし。流石ヴィデロさん。中に入っていたアクセサリーは、ヴィデロさんとユキヒラ以外は皆武器が被らないから揉めることもなくすんなり渡った。
俺が手に入れたのは、短剣用の飾り紐。白い糸が聖域にある植物から紡がれた糸らしくて、短剣の能力を5%向上させるというとんでもない物だった。補正値高すぎだろ。
雄太は早速背中に背負っていた大剣の鞘に取り付けて大喜びしていた。
ユイと海里も手持ちの武器に着けて嬉しそうにしている。ブレイブはとりあえずブレスレットに取り付けていた。そっか。武器は腕の刺青から出てくる弓だから。便利なのか不便なのかわからないね。ユキヒラにも聖剣用のものが、ヴィデロさんには片手剣用のものが入っていた。見分けるコツは、属性だった。ユキヒラ用は聖属性で、ヴィデロさんのは闇属性だったんだ。なんていうか、宝箱、わかってるよね。
「こんなのが出るヴィデロさんの幸運値めっちゃ気になる」
「マックよりも高いことは確かだな」
ヴィデロさんはぐいぐい来る奴らの好奇の眼差しを、笑って躱していた。
この幸運夫婦め! という海里の野次を聞きながら、俺たちは次に進むことにした。
こうなったら各部屋全部見て回らないと勿体ないよね、ということで、少し先の小部屋も探索する。
ここには宝箱はなかったけれど、部屋の隅に湧き水が沸いていて、それがHPとMPを回復する水だった。森の中にある湧き水をさらに強力にしたような水だったので、俺は例にもれず空き瓶に水を沢山貰うことにした。ありがたい。
皆で回復して次の扉に向かう。
現れた扉はここで最後だね、とか言いながら部屋に入ると、そこには祭壇があった。
「なんだろう、この祭壇」
「扉を開け放てって書いてあるわ。開けていいのかしら」
「嫌な感じはないんだけど」
「じゃあ開けてみようぜ。魔物が出てきたって俺らなら何とかなるだろ」
こういう時にぐいぐい進んでくれる人たちがいるのは、とても楽だと思う。
そんなことを思いながら、俺は雄太たちが祭壇の扉を開けるのを見ていた。神社の中にある神様の家とか言われる小さな社みたいな祭壇は、俺が感知を使っても危険なものは特に感じなかった。
扉が音もなく開けられる。
中を覗き込むと、透明なガラスで出来た様な歯車が入っていた。
カタリ、と音を立てて、歯車が一人でに立ち上がる。
表面が波打ち、七色に光ると、それは浮き上がって、祭壇の中で消えていった。
「どっか行ったな」
「消えちゃったね」
「重要な物だったのかなあ」
「まあ、なるようにしかならねえだろ」
とてもお気楽極楽に、雄太たちは祭壇から離れた。
その歯車を見て、俺はクエストのクリア報酬の一つである『時の調べへの道』という文字をフッと思い浮かべていた。
時の調べへの道って、単純にこの道だと思ってたけど。もしかして違ったりして。
すべての小部屋を調べた俺たちは、更に先へ進んだ。ユイは何度か魔法陣魔法を描こうとしていたけれど、どれも失敗に終わっている。ってことはここを進まないといけないってことだ。
まっすぐの道だから迷うことはないし、魔物も全然出てこないから問題はないんだけど。
単調な回廊を雑談をしながら進んでいくこと10分ほど。
ようやく回廊は終わりを告げた。
目の前には白い壁。そして、そこに薄っすらと、本当に存在しているのかどうかも疑わしい扉が見えた。
「行き止まり? マジかー。途中の道なんて探しようがないくらい一本道だったよな」
「罠とか抜け道とかも全くなかったけど、引き返すか?」
「戻れってこと? もしかしてあの宝箱がこの通路の醍醐味とか」
「それにしてはその後が長かったわよ」
雄太たちの会話に、俺は思わず「は?」という声を上げてしまう。
だって、行き止まりじゃないよ。扉あるじゃん。
ってもしかして、見えてないの?
「お前ら何言ってんだよ。そこどけ。扉開けるから」
「扉?」
「そんなもんねえじゃん」
ユキヒラにも扉は見えているみたいで、扉の真正面で足を止めて話をしていた雄太たちに怪訝な顔をしていた。
「ヴィデロさんは扉見える?」
「いや、白い壁にしか見えない。マックは見えてるのか?」
「うん。薄っすらとだけど」
俺が頷くと、ヴィデロさんは目を細めた。
雄太たちがユキヒラに道を譲ると、ユキヒラは手を伸ばして扉に触れた。
「これ、MP入れると開くやつだ」
と言った瞬間、目の前にしっかりと扉が現れた。さっきまでの薄っすらじゃなくて、はっきりと見える。ユキヒラがMPを注入したからかな。
壁にしか見えなかった人たちも今度は見えたみたいで、感嘆の声を上げていた。
「ほら、行くぞ」
拍手を送ってる雄太と愉快な面々に呆れた様な視線を向けると、ユキヒラは先頭になって扉を潜っていった。
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。