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709、上級錬金釜と錬金釜
「ヴィデロさん?」
振り返ると、すぐちかくにヴィデロさんのかっこいい顔があった。
見惚れそうになりながらもヴィデロさんの言葉を確認しようとすると、かたちを変えた錬金釜がパッと消えた。
そして、もう一度それは現れた。
「マックの物のはずなのにどうして」
それはまるで釜に問いかけるように、ヴィデロさんが呆然と自分の手に現れた錬金釜を見下ろす。
ああ、今、インベントリにしまってみたのか。なるほど。
形を変えたのは、ヴィデロさん仕様になったっていうことなのかな。
「ヴィデロさん、副業で錬金術師追加された?」
「見てみる」
俺の横から手を伸ばして、指を宙に這わせる。俺にはヴィデロさんが見えているであろうステータスは見えてないけど、俺の後ろからそれを見つめるヴィデロさんの瞳には、全て英語で書かれたステータスが鏡文字となって映っていた。目の中が光っていて滅茶苦茶かっこいい。
「いや、『錬金術師』の職はない。でも、錬金というスキルは出てきた。ってことは、俺が錬金をするのか? 俺はこういう細かい作業は苦手なんだが」
困ったような響きの声に、思わず顔が綻ぶ。確かに、ヴィデロさんが料理を盛りつけたりするときは男の料理って感じで大雑把だったりするから。それはそれでワイルドですごくいいと思うけど。
「でもこれの場合、釜が持ち主を選ぶみたいだからね」
俺もインベントリを弄って腕の中にあった上級錬金釜を収納してみると、すんなりと中に入った。
取り出して手に取ると、MPを注入できる状態になる。うん。今度はこっちが俺の釜だ。
「俺は新しい釜があるから、その釜もヴィデロさんの所に行ったんじゃないかな。だってその釜、ヴィデロさんの魔力好きだし」
「魔力が好きとかそういうので錬金釜は選ぶのか?」
「よくわからないけど、ヴィデロさんのMPを注ぐと成功率上がるよ。っていうか一つ上のレアアイテムができやすいっていうか。今考えると、釜も張り切ってたんじゃないかなって」
思いつくまま言ってみると、ヴィデロさんが苦笑していた。
形を変えた釜は、ヴィデロさんに良く似合うスタイリッシュな釜になっていた。釜っていうよりインテリア小物っぽい。俺が持ってた時は物凄くデデンとしたいかにも釜! 飯も炊くよ釜! っていう見た目だったのに。ヴィデロさんがスタイリッシュだからそれに合わせたんじゃないだろうな。
二人で釜を弄っていると、下の方から「おーい」と声をかけられた。
「こっちは終わったみたいだぞ。クエストクリアついてた」
「降りといでよー。そしてその手にある物見せてー」
雄太と海里が手招きをしている。
そうだった忘れてた。
阻止成功したからクリアだったんだ。
そういえば俺のはまだ通知来てないな、と思いながら、釜をしまったヴィデロさんに抱っこされて下に降りる。やっぱりヴィデロさんの腕の中だと高くても怖くないのがいい。
ふわりと降り立つと、皆は各自クエスト内容を確認していた。
俺もクリアしてるのかな。通知音気付かなかったけど。
「マック君が持ってるの、綺麗ね」
ユイが覗き込むように俺に抱えられた上級錬金釜を見る。確かに。まるでどこかのガラス工芸品みたいな釜は、見てるだけでも目に楽しい。
「クエストクリア報酬の上級錬金釜、かな。まだクエスト確認してないけど」
「そうなんだあ。綺麗だけど、錬金釜じゃ私が触っちゃだめだよね」
「どうなんだろ。人を選ぶみたいだけど」
「触って魔王になっちゃったらやだから触るのはやめとくね」
「ユイが魔王になったら誰も倒せなそうだからその方がいいわね。ユイの魔法最強なんだもの」
からかう様に海里がそう言うと、雄太が真顔で頷いていた。ユイは首を傾げて、嬉しそうに笑った。誉め言葉と受け取ったらしい。素直過ぎる。
目の前にはまだあの女神が降臨しているんだけど、なんかもう頭の上にHPバーはないし、敵対する意思もないみたいだし、何より、ずっと腕を組んで紡がれる祈りが、ここを浄化しているみたいだったから、皆リラックスしていた。魔大陸の聖域って感じだから。大部分はユキヒラの魔法なんだけど。
「それにしてもマック。あの聖水、ランクなんだよ。ランクSの聖水目じゃねえくらいの効果だったんだけど」
「え、ランクってSより上あるの?」
「ねえよ。ねえからこそ驚いてるんだよ。ランクSSって言ってもいいくらい最高級聖水の雨だったぜ」
苦い顔でユキヒラがそんなことを言った。もしかしてここ、魔素が濃いから、かなあ。
なんだよとか言われても、俺も普通通りの動きしかしてないから答えられないよ。
首を傾げていると、ブレイブが軽く「いったん作ってみればいいんじゃねえの?」と呟いた。
「それもいいとは思うんだけど」
俺はいったんそこで言葉を切ると、ずっと嬉しそうに祈ってる女神を指さした。
「今魔力で出した水を置くと多分どんなものでも聖水になると思うから、俺が今聖水作ってもどっち効果かわからないよ」
祈り続ける女神を振り返り、皆は一斉に納得した。
俺もヴィデロさんもユキヒラもクエストをクリアしたことを確認すると、そろそろ外に出ようか、ということになった。勇者たちの事だからそこまで苦戦することはないだろうけど、もしかしたらまだ外は戦闘中かもしれないし、ということで皆がユイに寄り添う。
皆が引っ付いたことを確認すると、ユイが魔法陣を描こうと指を上げた。
でも、そこで予期せぬことが起こった。
魔法陣を宙に描くと、普通はそこに魔力の文字が光って残るはずなのに、すぐに光が霧散していく。
「魔法陣が描けない」
何度か挑戦した後、ユイはとんでもない発言をして、皆を焦らせた。
『魔王誕生を阻止しよう
魔王が倒れた今 根源の『神の御使いの欠片』が新たなる力を求めようとしている
『神の御使いの欠片』の力を削ぎ 新たなる魔王誕生を阻止せよ
タイムリミット:293日
クリア報酬:上級錬金術師 世界の恒久的魔王消失 『時の調べ』への道
【クエストクリア!】
『神の御使いの欠片』の力を削ぎ、新たなる魔王の復活要因を消し去ることが出来た
集められた新たなる力によって、『神の御使いの欠片』の力の本質を解放することが出来た
クリアランク:S
クリア報酬:上級錬金釜 上級職『女神錬金術師』 世界の恒久的魔王消失 『時の調べ』への道』
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※本作にはボーイズラブ要素およびオメガバース設定(α、β、Ωの概念やフェロモンに関する描写)が含まれています。苦手な方は閲覧にご注意ください。