これは報われない恋だ。

朝陽天満

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736、山の天気は変わりやすいっていうけど

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「ヴィデロさん……?」



 すぐ後ろから出てくると思ったヴィデロさんは、本堂から出てこなかった。

 何か中で見つけたのかな、ともう一度足を踏み入れて見回すと、銅像と葉っぱのコップしかなかった。肝心のヴィデロさんの姿だけが、忽然と消えていた。隠れられそうな場所すらない。



「え……?」



 すぐ後ろで、俺の足元を注意していてくれたはず。距離は一メートルも離れてなかったと思う。それなのに。

 外に飛び出して、周りを見回す。実は同時に外に出てたとか。

 ありえない希望を口に出しながら見回しても、どこにもヴィデロさんの姿がなかった。



「なんで、待って、ヴィデロさん、どこ……?」



 プチパニックに陥りながら、神社の敷地内を探し回る。

 でもいない。もしかして周りの森の中に入ったとか。あの一瞬で? 何で、理由は。

 そんなわけない。だって、本堂から出てないんだもん。

 心臓が煩いくらいバクバクと鳴っている。

 はぐれた時は、どうすればいいんだっけ。そうだ。ヴィルさんが言ってた。携帯端末で連絡取ればいいんだ。

 震える手で携帯端末を出して、ヴィデロさんの端末番号を探す。

 ヴィデロさん、ヴィデロさん、と呟いていたせいか、携帯端末が俺のその声を感知して、ヴィデロさんの持つ携帯端末の番号が表示された。

 つながるかもしれない。すぐそこから、着信の音が聞こえてくるかもしれない。

 森ではぐれたならわかる。でも、何でこんな入り口が一つしかない建物ではぐれるんだろう。おかしすぎる。



「俺が、どんくさいのかな……」



 呟く声が震えてるのが、自分でもわかった。だって、今、ヴィデロさんにちょっとありえないことが起こってるのがわかってるから。でもありえないことを成し遂げたヴィデロさんだから、もしかしたらここの神様に気に入られちゃったのかもしれない。だって、かっこいいし、優しいし、イケボだし、どこもかしこも最高だし。

 ヴィデロさんの端末番号が現れている画面をタップする。

 願わくば、そこら辺から端末の着信音と共に出て来て欲しい。

 微かにつながる音が『ルルル』と聞こえる。

 ってことは、携帯端末はちゃんと機能してるってことだ。

 でも、だったら、何ですぐ近くで着信音が聞こえるはずなのに何も聞こえてこないんだろう。

 通話が繋がった音がした。

 ヴィデロさんと繋がったことを示す表示が現れる。



「ヴィデロさん! 今どこ? ヴィデロさん!」



 端末に向かって必死で話しかけるけれど、聞こえてくるのは雑音のような音のみだった。ヴィデロさんの声は聞こえない。

 バクバク心臓が鳴って、考えがまとまらない。つながったままの携帯端末を握りしめて、どうしようどうしようってばかりが頭の中を回っていく。



「ヴィデロさん、聞こえる?」



 端末で話しかけながら、もう一度神社の敷地内を探し回る。

 端末は相変わらず砂嵐の様なザーという音のみを響かせている。

 でも繋がってるんだ、とちょっと安心した瞬間、無情にも端末は通話終了の画面を表示した。



「待って、切れないで!」



 端末に向かってそう叫んで、もう一度掛けようと通話履歴を表示させようと操作していると、今度は端末にショートメッセージが届いた。

 ヴィデロさんからだった。



『けんご ぶじか』



 ひらがなだけのメールに、とりあえずヴィデロさんが無事だってことがわかって、ほんの少しだけホッとして、安堵の声が口からこぼれる。でも、何が起きたのかはやっぱり全く分からなくて、相変わらずパニックなまま、端末を握りしめる。

 声は届かなくても、文字は届くなら、連絡は取れるってことかな。

 でもこれからどうしよう。

 もう一回本堂に入ったら、俺もヴィデロさんのところに行けたりするのかな。

 鐘突き堂前で立ち尽くしていた俺は、意を決してもう一度本堂に足を踏み入れた。

 でも、何も起こらず、ただ銅像が俺を見下ろしているだけ。葉っぱのコップがちょこんと置かれている。



「お願いします。ヴィデロさんを返して」



 銅像に手を合わせてお願いしても、ヴィデロさんは現れない。

 本堂の中から外を見ると、さっきまですごくいい天気だったのに、黒い雲が一気に空を覆ってくるのが見えた。

 山の天気は変わりやすいっていうけど、こんなに早い雲の動きを見ると、ちょっとした恐怖すら感じる。

 瞬きする間に空を雲が覆い、眉をひそめて息を飲んでいる間に、ぽつり、と大粒の雫が空から落ちてきた。



「本当に一瞬で天気が変わっちゃった」



 俺の呟きが終わる間に、外はいきなりの大雨となった。



 本堂の屋根に大量の雨が当たっている音が煩いくらいで、外は見えていたはずの森も見えないくらい雨が降っている。

 もし実はヴィデロさんが森にいたら、降り始めてまだ数分なのにもうびしょぬれになっちゃってるんじゃないかな。

 そう思ってメッセージで『ぬれてない?』と送ると、すぐに『だいじようぶ ぬれない』と返って来た。

 ってことは、やっぱりヴィデロさんは森にはいないんだ。どこに行ったんだろ。一瞬でいなくなるなんて、まるで転移の魔法でも使ったみたいだ。

 本堂で雨宿りをしながら、これからどうしたらいいのかまとまらない考えをまとめようとしていると、携帯端末が震えて、着信音が鳴り始めた。

 ヴィデロさん!? と画面を見ると、ヴィルさんの名前が出ていて、ハッとする。

 そういえばヴィルさんに助けを求めようと思ってて忘れてたんだった。

 通話ボタンを押して、端末を耳に当てる。



『健吾、どうだ、旅は楽しんでるか? 携帯端末の反応が一つ消失したんだが、壊れたのか? 充電は、してあるよな。バッテリーの予備も持ってるはずだから、それで充電しろとヴィデロに教えてくれないか』



 ちゃんとヴィルさんの声が聞こえて、音声通話の機能が壊れたわけじゃないんだということがわかる。

 ってことは、ヴィデロさんは文字は届くけど声が届かない場所にいるってことだ。

 ってことがわかっても、俺にはどうにもできないのが辛い。



「ヴィルさん、端末が壊れたんじゃなくて、ヴィデロさんごといなくなっちゃったんです……! 通話は繋がるのに、声が届かなくて、メッセージのやり取りは出来るんですけどどうしたらいいですか!」

『え……どういうことだ? 今、東北北部の神社にいるんだろ? 健吾からの画像がしっかりこっちに届いてるぞ。順を追って説明してくれ』

「ええと、本堂に入って、出て振り返ったら、ヴィデロさんが消えてました」

『消えていた……』

「転移魔法で跳んだ時みたいに、すぐ後ろにいたはずなのに振り返ったらいなかったんです。ヴィデロさんが。敷地内を探したんですけど、いなくて。今はすごく大雨が降ってるので、本堂にいます」

『ああ、音でわかる。が……ヴィデロが消えた……そうか。わかった。俺もそこに向かう。健吾は雨が上がるまでそこを動くなよ。ヴィデロを探しに森になんて入るなよ』

「ヴィデロさんは濡れてないらしいので、森にはいないんじゃないかなって。ヴィデロさんが出てくるまで、ここで待ちます」

『じゃあ、夜までにはそこに行く』



 ヴィルさんの頼もしい声に頷いて、通話を切った。

 頼もしいヴィルさんの言葉に少しだけ希望を見出しながら、俺はその場にへたり込んだ。

 端末を持った手が、未だに震えてる。

 しゃがみ込んだ足は、なんていうか、立てる気がしなかった。

 でも、文字で言葉を交わすことは出来る。通話は砂嵐だけど通じる。じゃあ、本当に消えただけよりは、希望があるはず。

 俺は一人、薄暗い本堂の中でしゃがみ込みながら、そう自分に言い聞かせ続けた。





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