653 / 744
連載
736、山の天気は変わりやすいっていうけど
しおりを挟む「ヴィデロさん……?」
すぐ後ろから出てくると思ったヴィデロさんは、本堂から出てこなかった。
何か中で見つけたのかな、ともう一度足を踏み入れて見回すと、銅像と葉っぱのコップしかなかった。肝心のヴィデロさんの姿だけが、忽然と消えていた。隠れられそうな場所すらない。
「え……?」
すぐ後ろで、俺の足元を注意していてくれたはず。距離は一メートルも離れてなかったと思う。それなのに。
外に飛び出して、周りを見回す。実は同時に外に出てたとか。
ありえない希望を口に出しながら見回しても、どこにもヴィデロさんの姿がなかった。
「なんで、待って、ヴィデロさん、どこ……?」
プチパニックに陥りながら、神社の敷地内を探し回る。
でもいない。もしかして周りの森の中に入ったとか。あの一瞬で? 何で、理由は。
そんなわけない。だって、本堂から出てないんだもん。
心臓が煩いくらいバクバクと鳴っている。
はぐれた時は、どうすればいいんだっけ。そうだ。ヴィルさんが言ってた。携帯端末で連絡取ればいいんだ。
震える手で携帯端末を出して、ヴィデロさんの端末番号を探す。
ヴィデロさん、ヴィデロさん、と呟いていたせいか、携帯端末が俺のその声を感知して、ヴィデロさんの持つ携帯端末の番号が表示された。
つながるかもしれない。すぐそこから、着信の音が聞こえてくるかもしれない。
森ではぐれたならわかる。でも、何でこんな入り口が一つしかない建物ではぐれるんだろう。おかしすぎる。
「俺が、どんくさいのかな……」
呟く声が震えてるのが、自分でもわかった。だって、今、ヴィデロさんにちょっとありえないことが起こってるのがわかってるから。でもありえないことを成し遂げたヴィデロさんだから、もしかしたらここの神様に気に入られちゃったのかもしれない。だって、かっこいいし、優しいし、イケボだし、どこもかしこも最高だし。
ヴィデロさんの端末番号が現れている画面をタップする。
願わくば、そこら辺から端末の着信音と共に出て来て欲しい。
微かにつながる音が『ルルル』と聞こえる。
ってことは、携帯端末はちゃんと機能してるってことだ。
でも、だったら、何ですぐ近くで着信音が聞こえるはずなのに何も聞こえてこないんだろう。
通話が繋がった音がした。
ヴィデロさんと繋がったことを示す表示が現れる。
「ヴィデロさん! 今どこ? ヴィデロさん!」
端末に向かって必死で話しかけるけれど、聞こえてくるのは雑音のような音のみだった。ヴィデロさんの声は聞こえない。
バクバク心臓が鳴って、考えがまとまらない。つながったままの携帯端末を握りしめて、どうしようどうしようってばかりが頭の中を回っていく。
「ヴィデロさん、聞こえる?」
端末で話しかけながら、もう一度神社の敷地内を探し回る。
端末は相変わらず砂嵐の様なザーという音のみを響かせている。
でも繋がってるんだ、とちょっと安心した瞬間、無情にも端末は通話終了の画面を表示した。
「待って、切れないで!」
端末に向かってそう叫んで、もう一度掛けようと通話履歴を表示させようと操作していると、今度は端末にショートメッセージが届いた。
ヴィデロさんからだった。
『けんご ぶじか』
ひらがなだけのメールに、とりあえずヴィデロさんが無事だってことがわかって、ほんの少しだけホッとして、安堵の声が口からこぼれる。でも、何が起きたのかはやっぱり全く分からなくて、相変わらずパニックなまま、端末を握りしめる。
声は届かなくても、文字は届くなら、連絡は取れるってことかな。
でもこれからどうしよう。
もう一回本堂に入ったら、俺もヴィデロさんのところに行けたりするのかな。
鐘突き堂前で立ち尽くしていた俺は、意を決してもう一度本堂に足を踏み入れた。
でも、何も起こらず、ただ銅像が俺を見下ろしているだけ。葉っぱのコップがちょこんと置かれている。
「お願いします。ヴィデロさんを返して」
銅像に手を合わせてお願いしても、ヴィデロさんは現れない。
本堂の中から外を見ると、さっきまですごくいい天気だったのに、黒い雲が一気に空を覆ってくるのが見えた。
山の天気は変わりやすいっていうけど、こんなに早い雲の動きを見ると、ちょっとした恐怖すら感じる。
瞬きする間に空を雲が覆い、眉をひそめて息を飲んでいる間に、ぽつり、と大粒の雫が空から落ちてきた。
「本当に一瞬で天気が変わっちゃった」
俺の呟きが終わる間に、外はいきなりの大雨となった。
本堂の屋根に大量の雨が当たっている音が煩いくらいで、外は見えていたはずの森も見えないくらい雨が降っている。
もし実はヴィデロさんが森にいたら、降り始めてまだ数分なのにもうびしょぬれになっちゃってるんじゃないかな。
そう思ってメッセージで『ぬれてない?』と送ると、すぐに『だいじようぶ ぬれない』と返って来た。
ってことは、やっぱりヴィデロさんは森にはいないんだ。どこに行ったんだろ。一瞬でいなくなるなんて、まるで転移の魔法でも使ったみたいだ。
本堂で雨宿りをしながら、これからどうしたらいいのかまとまらない考えをまとめようとしていると、携帯端末が震えて、着信音が鳴り始めた。
ヴィデロさん!? と画面を見ると、ヴィルさんの名前が出ていて、ハッとする。
そういえばヴィルさんに助けを求めようと思ってて忘れてたんだった。
通話ボタンを押して、端末を耳に当てる。
『健吾、どうだ、旅は楽しんでるか? 携帯端末の反応が一つ消失したんだが、壊れたのか? 充電は、してあるよな。バッテリーの予備も持ってるはずだから、それで充電しろとヴィデロに教えてくれないか』
ちゃんとヴィルさんの声が聞こえて、音声通話の機能が壊れたわけじゃないんだということがわかる。
ってことは、ヴィデロさんは文字は届くけど声が届かない場所にいるってことだ。
ってことがわかっても、俺にはどうにもできないのが辛い。
「ヴィルさん、端末が壊れたんじゃなくて、ヴィデロさんごといなくなっちゃったんです……! 通話は繋がるのに、声が届かなくて、メッセージのやり取りは出来るんですけどどうしたらいいですか!」
『え……どういうことだ? 今、東北北部の神社にいるんだろ? 健吾からの画像がしっかりこっちに届いてるぞ。順を追って説明してくれ』
「ええと、本堂に入って、出て振り返ったら、ヴィデロさんが消えてました」
『消えていた……』
「転移魔法で跳んだ時みたいに、すぐ後ろにいたはずなのに振り返ったらいなかったんです。ヴィデロさんが。敷地内を探したんですけど、いなくて。今はすごく大雨が降ってるので、本堂にいます」
『ああ、音でわかる。が……ヴィデロが消えた……そうか。わかった。俺もそこに向かう。健吾は雨が上がるまでそこを動くなよ。ヴィデロを探しに森になんて入るなよ』
「ヴィデロさんは濡れてないらしいので、森にはいないんじゃないかなって。ヴィデロさんが出てくるまで、ここで待ちます」
『じゃあ、夜までにはそこに行く』
ヴィルさんの頼もしい声に頷いて、通話を切った。
頼もしいヴィルさんの言葉に少しだけ希望を見出しながら、俺はその場にへたり込んだ。
端末を持った手が、未だに震えてる。
しゃがみ込んだ足は、なんていうか、立てる気がしなかった。
でも、文字で言葉を交わすことは出来る。通話は砂嵐だけど通じる。じゃあ、本当に消えただけよりは、希望があるはず。
俺は一人、薄暗い本堂の中でしゃがみ込みながら、そう自分に言い聞かせ続けた。
2,348
あなたにおすすめの小説
悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?
* ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。
悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう!
せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー?
ユィリと皆の動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新
プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。
毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。
そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。
彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。
「これでやっと安心して退場できる」
これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。
目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。
「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」
その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。
「あなた……Ωになっていますよ」
「へ?」
そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て――
オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
番に見つからない街で、子供を育てている
はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。
異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。
現世の記憶は失われているが、
この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。
街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、
ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。
だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。
再会は望まない。
今はただ、この子との生活を守りたい。
これは、番から逃げたオメガが、
選び直すまでの物語。
*本編完結しました
悪役令息ですが破滅回避で主人公を無視したら、高潔な態度だと勘違いされて聖人認定。なぜか溺愛ルートに入りました
水凪しおん
BL
BL小説『銀の瞳の聖者』の悪役令息ルシアンに転生してしまった俺。
原作通りなら、主人公ノエルをいじめ抜き、最後は断罪されて野垂れ死ぬ運命だ。
「そんなの絶対にお断りだ! 俺は平和に長生きしたい!」
破滅フラグを回避するため、俺は決意した。
主人公ノエルを徹底的に避け、関わらず、空気のように生きることを。
しかし、俺の「無視」や「無関心」は、なぜかノエルにポジティブに変換されていく。
「他の人のように欲望の目で見ないなんて、なんて高潔な方なんだ……!」
いじめっ子を視線だけで追い払えば「影から守ってくれた」、雨の日に「臭いから近寄るな」と上着を投げつければ「不器用な優しさ」!?
全力で嫌われようとすればするほど、主人公からの好感度が爆上がりして、聖人認定されてしまう勘違いラブコメディ!
小心者の悪役令息×健気なポジティブ主人公の、すれ違い溺愛ファンタジー、ここに開幕!
【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました
* ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。
BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)
本編完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
きーちゃんと皆の動画をつくりました!
もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます
プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら!
本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
僕の、しあわせ辺境暮らし
* ゆるゆ
BL
雪のなか3歳の僕を、ひろってくれたのは、やさしい16歳の男の子でした。
ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります!
ふたりの動画をつくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります。
YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。
プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
2026/02/14 累計30万P突破御礼バレンタインSS追加しました
2026/02/15 累計いいね♡7777突破御礼SS 19時に公開します。
様々な形での応援ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。