これは報われない恋だ。

朝陽天満

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番外編4

第三の神の御使いの欠片を求めて 6

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 ノヴェの街も不発に終わり、セッテの街に跳ぶ。

 セッテは輪廻が生身で生活しているところだ。念のため呼ぼうと冒険者ギルドから農園に跳ぶ。

 農園ではトレアムさんと輪廻が仲睦まじく作業をしていた。果物の選り分け作業らしい。

 トレアムさんが次々入れていく籠を、一杯になったら素早く輪廻が交換していく。ここに来た時はひょろっとした大学生風だった輪廻は、今は大分逞しくなった。農作業、侮れない。



「お、マック。どうしたんだ。なんか足りない物あったか?」

「マック。よく来た。丁度アランネの実を収穫していたところだ。買っていくか」

「ひと箱ください! ってそうじゃなかった。今日は輪廻に用事があったんだ」

「俺?」



 ちゃっかりひと箱分のアランネをゲットしてから、俺は輪廻に事の顛末を説明した。ぜひ転職チャレンジを受けて欲しいと。



「でも俺、もう草花薬師だぞ?」

「俺も草花薬師だけど、副業『錬金術師』なんだよ。あ、それと表立って『錬金術師』だっていうのは言わないまま皆にチャレンジしてもらってるんだ。切羽詰まってて。一人でも多くの人に試してもらいたい」

「お安い御用」



 輪廻が軽く同意してくれた。トレアムさんも「俺も行くか」と言ってくれたけれど、トレアムさんはこの世界の人だから無理だと説明すると、そうか、と輪廻の頭を優しく撫でた。



「頑張ってこい」

「まずはそのマックの釜に気に入られるかどうかもわからねえだろって」

「輪廻は気に入られるんじゃないか。性根は真っすぐだし、とても気持ちのいい男だから」

「トレアムさんほめ過ぎ。俺は普通の結構ずるいモブだよ」

「モブ……」



 俺とトレアムさんは声をそろえて「モブ……」と呟いてしまった。トレアムさんは意味が分からず、俺は、モブが身一つで異世界に転居なんてしないってという気持ちで。

 





 輪廻と共に冒険者ギルドに帰ってくると、先ほどと同じようなやり取りの後、有無を言わさず外に放り出されていた。

 どうやらとてもごねたプレイヤーがいたらしく、ヒイロ師匠たちだけでは納得しないと啖呵を切ったので、勇者がお出ましになったようだ。ついでにヴィルさんたちと回っていたエミリさんをルーチェさんが迎えに行ったので、二人掛かりでごねた人たちを外に放り出したらしい。転移で帰ってきてよかった。外から入っていたらきっとここまでたどり着けなかったよ、その騒ぎのせいで。

 ついでに魔王討伐御一行が同室することになって、手狭になったので、サリュとヨシュー師匠は控室に戻って来た。早速ヨシュー師匠は疲れたとテーブルに突っ伏して寝息を立てている。

 苦笑しながら見ていた輪廻は、じゃあ俺も並んでくる、と言って部屋を出ようとして、サリュに止められた。



「今はまだ、列の後ろの方がごたごたしているようなので、行かない方がいいです。何かあったら危ないので」

 

 どうやらサリュも生身かアバターかがわかるみたいだった。

 輪廻が生身だと気付いて、止めてくれたらしい。いい子。

 

「人がいなくなったら行くか、もしくは皆がこちらに帰って来てから触れてみる方がいいです。あの人混みで力の強い異邦人たちがもし暴れたら、あなたはひとたまりもなさそうですから」

「そっか。ありがとな。俺戦闘職じゃねえからそんなんなったら一発で潰れるわ。今潰れても死に戻りも出来ねえからお言葉に甘えさせてもらうかな」

「ぜひ」



 輪廻もサリュのいい子さに一発でやられたらしく、少しだけ硬い毛を優しく撫でた。

 

「ああ、こんなことならジャムでも持ってくりゃよかったな。獣人がいるんだったら需要あるだろ」

「ジャム……?」



 輪廻の呟きにサリュの耳がピクッと動く。



「ああ。うちのジャムは最高だぞ。そこにいるヨシューも向こうにいるヒイロもうちのお得意さんだ」

「も、もしかして……」



 サリュは、目を輝かせて口もとを手で覆った。



「グランデの果樹農園の方ですか……!」

「おう。そこの、一応、嫁? 婿? マック、どっちだ?」

「嫁でいいよ嫁で」

「でも飯作るのはメインがトレアムさんだから」

「どっちでもいいって」

「あの農園のお嫁さんでしたか……! 僕、果樹農園のメイレの実がとても、とても大好物でして……! 初めて食べた時、こんなに甘いメイレがあったのかと、物凄く感動したんです……! あの、いつも美味しい果物をありがとうございます! 僕たち獣人の村に差し入れをしてくれているとか……!」



サリュは感動したように輪廻に詰め寄った。コロコロの熊の獣人がぐいぐい来るのはとても可愛い。円らな目が光り輝いている。ちょっとだけたじたじになった輪廻は、サっと俺を指さした。



「差し入れはあいつ。俺らは依頼を受けてるだけ。あいつが、ジャルさんの本で稼いでるから、その売り上げの一部で獣人の村に定期的に果物が届くよう依頼してくれてんの」



輪廻の言葉に、サリュは今度はキラッキラの目を俺に向けた。だってあれはフォリスさんが書いた手記で、それで俺がお金を貰うのはとてもおかしいからと。ジャル・ガーさんは売り上げを受け取ってくれないし、獣人の村からはそんなにお金も要らないって断られちゃったし。だったらって始めた苦肉の策なんだよ。

そう説明すると、サリュは俺たちの手を取って、ブンブン上下に振りながらお礼を連発していた。

 じゃあ待っている間暇だから、ともう一度輪廻は俺に農園に送るよう頼んできて、農園から沢山のメイレの実を取ってきて、サリュにあげていた。褒められて嬉しかったらしい。

 テーブルに木箱ごと乗せられたメイレを皆で食べていると、隣の部屋から詰めていた人たちが帰って来た。

 早速輪廻に錬金釜を触れさせる。

 生身の輪廻はMP注入なんて見えないからか、かなり難しかった。



「おっかしいな。この間、水を出すのに成功したのに」



 どうやって出したんだっけ? と首を傾げながら必死で釜を撫でる輪廻は、すでにその身に魔力が宿っているみたいだった。

 地面にも空気中にも魔素があるから、魔力が宿るのは全然不思議なことじゃないんだって。俺もこっちに生身で来たら普通に錬金出来るってことなのかな。それはちょっと嬉しい。

 どうかな、とドキドキしながら見守っていると、輪廻がやけくそのように「水の精霊よこの綺麗な釜の中をその綺麗な水で満たせ。ウォーター!」と魔法の詠唱を始めた。

 すると、釜の中に、水が満たされて。



「それ、謎液体じゃないよね……」



 釜にはたんまりと綺麗な水が入っていた。

 水を満たした本人も、あれ? と首を捻っている。



「こんなはずじゃ……」

 

 捨てて来る、と釜を輪廻が持ち上げた瞬間、そのたんまりの水がじわじわと色を変えた。



「あ、謎液体になった」



 透明だった水は、時間をかけて、あの薄い紫色の謎液体へと変わっていった。

 

「適合者!」



 俺たちに捕獲され、輪廻は釜を手にしたまま、「え、何、これ、合格……?」とビビり散らしていた。

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